【天国の檻】
その時、れいむは危機にあった。親とはぐれ、さ迷っていたところに一人の青年が通りかかった。危険が溢れる街のなかである。
子供の、未だ成体に成り切らない未熟なれいむは、青年に拾われなければ、近いうちに道路の染みと化していただろう。
「お母さんの代わり、と言ってはなんだけど……ぼくが面倒を見てあげても、いいかな」
人間はゆっくりできない、と聞かされていたれいむだったが、守ってくれるものがいない不安と寂しさには抗しきれない。
このまま自分だけで親を捜すよりも、優しそうな青年に拾われたほうが良い。れいむは、青年に頼って生きていくことを決めた。
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れいむの居場所は大きめの透明な箱だった。あちこちに小さなケースや道具が取り付けられている。
「食事はここ、トイレはここ、寝床はここ、遊び場はここ、勉強はここ、運動はここでしてね。ずっとずっと、ここでゆっくりしていってね」
れいむは箱のなかに入れられた。
「ここがれいみゅのおうちなの? とってもしゅてきなおうちだよ! おにいしゃんありがちょう!」
整えられた、居心地の良い空間がそこにあった。
「ゆゆっ、しーしーしちゃきゅなってきちゃよ! しーしーす……ゆぎゃっ!?」
その場で排尿をしようとしたが、突然れいむの体を電流が走った。
「トイレはここでしろ、って言ったよな?」
れいむは理解する。お兄さんの言うことをちゃんと聞かなければ痛い目に遭う、と。
「ゆっ、わかっちゃよ! おにいしゃんごめんなしゃい、しーしーはここでするよ!」
れいむは「トイレ」に移動し、用を足す。
それからも、食事をこぼしたり、勉強に真面目に取り組まなかったりするたびに、床を伝う電流に痛めつけられた。
痛いのは嫌だが、言い付けを守らない自分が悪いのだ。お兄さんはおいしいご飯をくれるし、遊んでもくれる。
れいむは、少し厳しいところもあるけど、優しいお兄さんのことを好きになっていった。
―――――
れいむは大きくなった。成体、と呼ばれるくらいの大きさにはなっている。
こうなると、もとは広かった家も窮屈に感じられる。れいむは言った。
「このおうちはもうゆっくりできないよ! れいむはおそとにいくよ!」
しかし、その要求は却下された。
「何を言っているんだい、れいむ。最初に言ったじゃないか、きみは『ずっとここでゆっくり』するんだ、って……」
確かに、青年はそう言っていた。が、現状はれいむの意にそぐわない。なにより窮屈でろくに動き回ることもできない上に、
「おそとでかわいいおよめさんをもらうよ!」
なんて欲求も出てきたのだ。命に危険が迫っておらず、体が生殖活動を行えるように発達しているとすれば、もはやここにいる必要はない。
外界に赴き、パートナーを見つけ、子を成せばならない。
「駄目だ」
が、青年は許さない。
「どぼぢでぞんなごどいう……ゆぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
青年の
ルールは絶対だ。箱を流れる電流が、奔流となって、れいむを貫き押し流す。
「ゆべべべべ……」
青年は愛情のこもった眼差しをれいむに向ける。
「そこにいれば、死ぬまでゆっくりできるんだよ? 暑くも寒くもなく、お腹が減ったら栄養豊富でおいしい食事が出てきて、外敵に襲われる心配もない。勉強をすることで知識を蓄えることもできる。……にもかかわらず、れいむ。きみは、あの危機渦巻く外の世界に行くだなんて。よく考えてみて、れいむ。運良くパートナーを見つけ子供をつくったとしても、自然災害や駆除作業、それに野獣の捕食行動で全滅するかもしれない。ならば、一生をこの素晴らしく平穏な箱のなかで過ごそうよ」
「ゆうう……おぞどがあぶなくでも……あがぢゃんぼじいよ……」
泣きながられいむは訴える。そんなれいむの姿に胸を打たれたのか、青年は態度を変えた。
「わかったよ、れいむ」
「ゆゆっ、それじゃあおそとに……」
「違う。子供だけはつくらせてあげるよ」
青年は注射器を取り出し、れいむに突き刺して中身を注入する。精子餡と大量の栄養剤の混合物だ。間もなく、れいむは植物型妊娠をする。
だが、箱はあまりにも狭い。成長する赤子は、壁にぶつかり、ひしゃげ……潰れて死んだ。
浸透しやすい栄養剤を使ったために、赤子が大きくなりすぎた。次の赤子はうまく着地できずに中身を飛び散らせた。
その次も、その次も同じように。
「なんでれいむのあがぢゃんみんなじんぢゃうのぉぉぉ!?」
「ほら、これが現実ってものだ。れいむ、きみはそこでいつまでもゆっくりしているべきなのさ……糞饅頭らしく、高望みなどはせずに、ね」
完
最終更新:2010年12月13日 20:14