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宇宙要塞ア・バオア・クー その6

Eフィールドに、信号弾を撃ちまくっている一隻の輸送艦がいた。
ヨーツンヘイム。
試験部隊であるにもかかわらず、ア・バオア・クー防衛軍に組み込まれた稀有な船である。
その艦橋で、ヘルベルト・フォン・カスペンが吠えていた。

「あの有様は、まるで敗走ではないか!」

彼の眼には、自らの戦地を放棄し、ア・バオア・クーより全力で脱出してゆく友軍の戦艦群が映っていた。
その中にはエギーユ・デラーズ大佐の戦艦グワデンの姿もあった。次から次へとEフィールドを横切っていく無数の戦艦。
その様はカスペンに不穏な想像を抱かせた。

「まさか…ありえぬ…」

その時、ア・バオア・クー防衛司令部から、緊急の無電が飛び込んできた。

「我、すでに指揮能力なし。作戦参加の全艦艇は速やかに戦闘を中止し、各個の判断にて行動せよ。」

それを聞いたカスペンは激怒した。

「これでは停戦命令ではないか!総帥はなにをお考えなのか。この戦いの終局を意味するというのか!?」

その通りだった。Eフィールドはヨーツンヘイム以下の活躍により、まだ持ちこたえていたのだ。
だからこそ撤退を開始したジオン軍は、このEフィールドに殺到していたのである。
ゆえに、それを追う連邦軍も続々とEフィールドに集まりつつあった。
友軍の脱出まで、Eフィールドを死守する。
カスペンの覚悟は決まった。

「艦長!緊急入電です!」

はちゅねのその声はいつもよりひときわ甲高く、ただならぬ様相を呈していた。あずにゃんもそれにつられて少し緊張した。

「読んでください。」
「『星一号作戦司令部発、ア・バオア・クー攻撃中の全部隊へ。ただちに攻撃を中止し、現状維持のまま待機せよ。』です!」
「停戦命令ですか?」
「そのようです。」
「ただちに第一連合艦隊司令部に確認を取ってください。同時に第二連合艦隊のすべての部隊に即時進撃を中止するよう打電してください!」
「了解!」
「アークさん、ブラックハウス隊の全MSにも至急その旨連絡してください!」
「了解しました!ナガモン中尉、こちらブラックハウス、応答願います!」
「こちらナガモン、戦いの光が減ったぞ。何があった?」

停戦の命令が両軍の部隊に次々と伝達されていった。だが、それを素直に実行しようとした部隊は少なかった。連邦もジオンもどちらもだ。

「停戦命令?馬鹿な。この状況で停戦などできるものか。」

戦艦ラピュタでふんぞり返っている男、ムスカ大佐もまた、その命令を黙殺しようとしていた。
彼の目の前ではまだ、敵味方のMSが入り乱れて飛び交っていた。双方ともすでに射撃をやめていたが、まだ武器は持ったままだった。

「お言葉ですが大佐、敵軍にもこの命令は行き届いているようです。実際に攻撃が止んでいる以上、命令は履行しなくては。」

厳粛な面持ちで京大尉が言った。彼女はついに戦争が終わったと思っていた。長い長い戦争だった。多くの仲間を失い、それでもどうにか生き延びたことにほっとしたかった。だからこれ以上戦闘を続けるなんて考えたくもなかったのだ。だいいち、命令は命令だ。
しかし、ムスカは嘲笑するような態度でこう言った。
「攻撃再開だ、大尉。敵はまだ武器を所持している。攻撃の意志ありとみなすのが妥当だ。」
「ッ!?大佐!しかしそれは…!」
「全火器射撃再開!母なる大地をけがしたスペースノイドどもを、一人残らず地獄へ墜とせぇ!」
ムスカが叫んだ瞬間、ラピュタの全砲門が一斉に火を噴いた。動きを止めていたジオンのザクが至近から直撃をくらって爆散した。その爆発を合図に、連邦軍の MS部隊が一斉に攻撃を再開した。はじめは目の前の出来事を理解できなかったジオン軍も、すぐさま戦う意志を取り戻した。

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11/25 07:26 URBANO BARON(e) [477]エルザス
476
「大佐!!なんてことを!!」
京の叫びもむなしく、戦いの火ぶたは再度切って落とされていた。オッゴが、ザクが、あるいはボールやジムが、意味のない戦いのなかで火球に包まれ、消えていった。
「なぜですか大佐!!戦いは、戦いは終わっていたのに!」
次々に起こる爆発の光がラピュタの艦橋に差し込み、怒りと恐ろしさのいりまじった京の姿を照らした。同じ光を浴びて、ムスカはさも満足そうだった。
「まだだ。まだ終わらんよ!」
ムスカの言葉通り、醜い殺し合いはまだ終わりはしなかった。ラピュタのすぐそばで片腕を失ったザクがマシンガンを乱射し、連続で被弾したボールが弾け飛ぶように爆発した。それを見たジムがザクに復讐の攻撃を開始し、ビームサーベルを突き出す。脇腹を貫かれたザクはジムを抱え込むような体勢になると、それを巻き込んで爆発した。
戦いは拡大していった。

同じような悲劇が、Eフィールドでも起こっていた。
「ノーサイドってか?レフェリーは、ここにはいねえよ!」

一機のジムがオッゴに向けたライフルを発射し、それがきっかけとなって戦闘が再開した。連邦軍の兵士たちにとって、戦いに疲れ果てた目の前の敵兵たちは、かつて自分たちの仲間をいとも簡単に死に至らしめた存在であった。その恐るべき敵が、いま横柄にも戦闘をやめろと言っている。受刑者や荒くれ者ばかりの連邦兵たちが、素直に停戦に応じるはずもなかった。かつてあれほど恐ろしかった敵が、今は情けない姿を晒している。彼らにはそれが腹立たしかったに違いない。許せなかったに違いない。

「何が停戦だ!俺たちの仲間を、さんざん焼き殺しておいて!!」
連邦軍の怒涛の攻撃が始まった。すでに崩壊していた戦線の中で殺戮が繰り返された。ジオン軍もついに応戦し始め、連邦軍はさらにそれに応戦した。泥沼だった。もはや戦いは誰にも止められない。
「小隊長機がやられた!だれか指揮を引き継げ!」
オッゴを操縦していた一人の学徒兵が叫んだ。そばにいたザクがそれに答える。
「指揮なんかとってる場合か!自力で生き残れ!うわっ!」
叫んだとたん、ザクは被弾して爆発してしまった。学徒兵はザクを撃ったジムを狙った。
だが、弾切れだった。ジムのマシンガンが彼のオッゴに狙いを定めた。万事休す―――!
「母さん…!」
彼が涙ながらに叫んだその瞬間、突如としてジムが爆発した。さらにその背後にいたボールが被弾し、火を噴いた。
学徒兵は背後を振り返った。こんな時に援軍など来るはずがないと思っていた。彼の視線の先に現れたのは、武骨なシルバーに塗り固められたゲルググであった。

「待たせたな!ヒヨッ子ども!!」

ゲルググのコックピットで、ヘルベルト・フォン・カスペンが叫んでいた。
ゲルググはビームライフルを連射し、そのたびに連邦軍のボールが撃墜された。
カスペンは血に飢えた鷹のごとく連邦軍に襲い掛かかり、その嘴にかかった敵機は次から次へと撃墜されていった。
「友軍の脱出まで、このEフィールドを維持する!」
断固とした口調でカスペンが宣言した。彼は覚悟を決めていた。たとえ命に代えても、友軍の脱出を支援すると。それが、ソロモンで散った戦士たちに捧げた彼の誓いであった。

「あのゲルググを狙え!敵のエースだ!」
一機のジムコマンドが威勢よく飛び出し、何機かのジムがそれに続いた。ジムはビームサーベルを振りかざして一斉にゲルググに襲い掛かったが、カスペンは微笑さえ見せていた。
「落ちろおおおおっ!」
ジムコマンドのパイロットが叫び、ビームサーベルが振り下ろされた。カスペンはそれをいとも簡単にかわすと、お返しとばかりにビームライフルを撃ちこんだ。ほぼゼロ距離からの射撃だった。
「ぎゃああああああああああっ!!!!!」
ジムコマンドはコックピットを射抜かれて爆発し、カスペンは新たにとびかかってきたジム二機と正対した。ジム二機は同時に襲い掛かってきたが、カスペンは無駄のない動きで即座に一機を撃ちぬいた。撃ちぬかれたジムは四散し、もう一機のジムはサーベルを突き出してきた。カスペンはひらりと身をかわし、ジムは勢い余ってゲルググを飛び越してしまった。がら空きの背後に一発、ビームライフルが着弾し、カスペンは機体を躍らせた。
今のでライフルのエネルギーが切れた。カスペンはライフルを投げ捨て、サーベルを抜いた。
カスペンの眼前に、わらわらとジムが集まってきた。そして背後には、戦いに疲れ切った学徒兵が寄り添ってきた。あたかも親鳥の保護を求める雛のように。
背後のオッゴを見やって、カスペンは何を思ったのだろう。
彼の左腕は義手であった。今までは格闘戦ではなかったから、それでもどうにかMSを操縦できた。だが、複数の連邦軍機を相手に格闘戦をすることは、義手であるカスペンには不可能に思われた。
それでも。
カスペンは戦うことを怖れてはいなかった。学徒兵を、そして脱出していく友軍を、何としても守り抜く。そう決めていた。
カスペンははじめ、未熟者ばかりの学徒兵たちをジオンの軍人とは認めていなかった。稚拙な戦いしかできず、いざというときは泣きじゃくって命乞いをするような、戦士とは程遠い存在だと思っていた。だが、彼らはそうではなかった。何人もの戦友を失ってもなお、彼らは健気に戦い続けた。祖国のため、家族のため、あるいは、隣に肩を並べる仲間のため。
彼らは戦ってきた。この戦争の最後の最後まで、戦って生き抜いてきた。戦士の名にふさわしい働きをしてきた。ここで死なせるわけにはいかない。自分を信頼して身を寄せ合ているオッゴを、なんとしても守り抜かねばならない。
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11/25 07:40 URBANO BARON(e) [480]エルザス
479
カスペンは機体を駆った。一直線に敵機の群れに突っ込んでゆく。最初のジムの太刀筋を見切り、すれ違いざまに首を切り落とした。即座に別のジムがカスペンを狙い、マシンガンを撃ちかけてきた。シールドで防ぎつつ、そのジムに向かって躍進する。迫りくるゲルググに恐れをなしたか、ジムはくるりと向きを変えて逃げ出そうとした。さらけ出された背中をいとも簡単に突き刺す。これで二機目。
そのとき、センサーが背後の敵を察知した。振り向く暇もなく、一機のジムがゲルググにマシンガンを向ける。
だが、火を噴いたのはマシンガンではなくジムそのものだった。
「大佐!援護します!!」
学徒兵のオッゴであった。オッゴはザクに匹敵する火力をフルに発揮し、ジムに射撃をくわえていた。
だが、オッゴの上方、学徒兵の死角から、三機編隊のジムが急降下してきていた。学徒兵は気づいていない。
「いかん!」
カスペンは装備を投げ出して、我を忘れて機体を駆った。そしてオッゴとジム編隊との間にわが身を晒した。直後、ジム編隊からの射撃がカスペンを襲った。
「がああああああっ!!」
あっという間に機体が穴だらけになり、カスペンはコックピットの中で激しい衝撃に揺さぶられた。彼は自身の死を確信した。艦隊の脱出まであと5分。どうにか役目を果たせただろう。あとは学徒兵が生き残ってくれればいい。
「ジーク…!!」
カスペンの最期の叫びは、ゲルググの爆発によってかき消された。
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11/25 07:42 URBANO BARON(e) [481]エルザス
480

「ムスカ大佐!戦闘を停止してください!」
京は必死に叫んでいた。両腕を黒眼鏡の士官に抑えられ、彼女はムスカから遠ざけられようとしていた。
「主砲発射用意だ!目標、前方のムサイ!っ撃てぇ!」
京を全く無視したムスカは、新たな罪を重ね続けていた。ラピュタから発射されたビームは、すでに息絶えようとしていた一隻のムサイを無慈悲にとらえた。ムサイの船体は被弾した場所から真っ二つに折れ、内部にいた船員たちが真空の宇宙に吸い出された。刹那、ムサイが大爆発を起こし、船員たちの姿は焔にのまれて見えなくなった。

「ハッハッハ、見ろ!人がゴミのようだ!!」

興奮した様子で叫んだムスカの姿は、もはや狂気に駆られているとしか言いようのないものだった。目は血走り、口元には不気味な微笑み。
戦艦ラピュタは今、Wフィールドから脱出した黒の騎士団を追ってSフィールドに入ろうとしていた。そこにはまだジオン軍の艦船が残っており、ムスカは臆することなくそれらへの攻撃を命じた。
「『雷』発射準備!11時の方向の艦船を狙う!」
「大佐!あれは病院船です!!」
絶叫した京の言葉などまるで無視して、ムスカは冷淡に言い放った。
「撃て。」
刹那、ラピュタの艦首にまばゆい光球が発生し、それがジオンの病院船に向かって一直線に飛んで行った。
「…ッ!!」
息をのむ京の目の前で、病院船は巨大な火の玉に呑み込まれて消えていった。
「なんて…なんていう…」
言葉にならなかった。人間のすることとは思えなかった。これは、悪魔の所業だ。
「お願いです大佐。すぐに戦闘を中止しください。」
切迫した口調で京は言った。
「聞き入れられんな。敵はまだ戦闘を続けるつもりだ。」
「では、この船の指揮権を自分に返していただきたい。本来戦闘の指揮は、艦長である自分の役目です!」
京は一歩踏み出した。
「お願いをする時にも軍規かね?君の糞真面目さはもうこりごりだ。」
「自分はこの船の艦長です!」
さらに一歩踏み出した京を、黒眼鏡が抑えつける。そしてその京に向けて、ムスカはおもむろにあるものを取り出した。
「私の意のままに動かない艦長など必要ない。残念だ、京大尉。」

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11/25 07:46 URBANO BARON(e) [482]エルザス
481
ムスカが取り出したのは拳銃であった。
「大佐、なにを…!?」
「艦隊砲撃戦となれば君の能力が役に立つと思ったが、こうも反対されては仕方がない。」
タンッ、と乾いた音がして、京は脇腹に灼けつくような痛みを覚えた。
「か、はっ…!」
京の両足ががくがくと震え、彼女は崩れ落ちた。黒眼鏡の士官は京を抑えていた手を放した。もはや彼女には、立ち上がる力さえ残っていなかった。
「あ、あ…くぅ…」
痛みと悔しさで涙が溢れてくるのを、京は止めることができなかった。ムスカは再び主砲の斉射を命じ、ラピュタは強力なビームを放った。
こんな卑劣な男の下で、なぜ自分が戦わねばならなかったのか。
京はわが身の不運を呪った。薄れゆく意識の中で、京はあずにゃんの顔を思い出した。
「艦長…もう一度…あなたのもとで…」
絞り出すようにつぶやき、京は意識を失った。

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11/25 07:47 URBANO BARON(e) [483]エルザス
482

突如として出現した光球を見て、カレンは一瞬わが目を疑った。
「停戦命令が届いていないの…?」
彼女の視線の先には、傍若無人に火砲を乱射する不気味な戦艦の姿があった。
「あの船は!」
見間違えるわけはなかった。船首の半球状の構造物とそこから突き出した突起。Wフィールドで黒の騎士団を苦しめた戦艦、ラピュタだった。
カレンの見ている前で、ラピュタの主砲が瞬いた。発射されたビームは暗い宇宙を駆け抜け、すでに応戦していた一機のドムを射抜いていた。
「あの戦艦を沈めろ!停戦命令を無視してやがる!」
無線から誰かの声が聞こえてきた。カレンは紅蓮弐式を駆った。あの船は沈めなくてはならない。そう思った。
「もう戦いはおわりって言ってるのに!!」
ラピュタは目ざとく紅蓮を見つけたらしく、すぐさま濃密な弾幕が形成されてしまった。うかつには近づけない。ほかのジオンMSがしり込みする中で、カレンは覚悟を決めて弾幕の中へと突っ込んでいった。
ラピュタの背後に回り込み、推進装置を狙う。ところが、横から数機のボールが突っ込んできた。ボールからの攻撃をかわし、そのうちの一機に狙いを定める。紅蓮弐式の右腕が伸ばされ、カレンは輻射波動砲を作動させた。そこへ狙ったボールが自ら飛び込んでくる形になり、ボールは粉々に砕け散った。
「時間がない!」
ラピュタを放っておけば、それだけ味方の被害が増える。カレンは残ったボールを無視して、ラピュタに向きなおった。
「はあああああああっ!!」
カレンの叫びとともに紅蓮の右手が再び突き出され、ラピュタの推進装置が爆散した。爆発に呑み込まれないよう機動した紅蓮に、生き残ったボールが撃ちかけてきた。カレンはこれをよけられず、紅蓮弐式の右足が吹き飛ばされる。
「まだ殺したりないかぁっ!!」
絶叫したカレンの目の前で、ラピュタがまたしても主砲を発射した。ラピュタはまだ戦闘能力を失ってはいない。
「艦橋をつぶすしかないか!」
カレンはそう判断し、戦艦ラピュタの真正面へと回り込んでいった。
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11/25 07:53 URBANO BARON(e) [484]エルザス
483

激震が艦橋を襲った衝撃で、京は再び意識を取り戻した。目がかすんではっきりとしない視界。それでもクルーたちの声は聞こえた。
「メインエンジンに損傷!操艦不能です!」
「構わん、主砲発射!」
ムスカの叫びに寸時も遅れず、ラピュタの主砲が発射された。直後、ラピュタは今度は舷側から衝撃を受けた。
「さっきの紅いMSが右舷を破壊しました!第二デッキに損傷!」
「赤いMS!?シャアじゃないのか?!」
クルーたちの焦った声が飛び交う中、ムスカは断固として戦闘をやめようとはしなかった。
「それがどうした!シャアならばここでラピュタが沈めればいい!『雷』発射準…ぬおっ?!」
ムスカが命令を言い終わる前に、ラピュタはまたしても激震に襲われた。
「今度は左舷です!第四砲塔に損傷!空気が流出しています!隔壁閉まりません!」
「やはりシャアだ、もうだめだ!」
一人の黒眼鏡が臆病風に吹かれ、あっという間に艦橋から出て行った。残されたクルーたちも後を追った。一人が逃げ出せば、恐怖は伝染する。
「待て!貴様ら、どこへ行く!」
ムスカの叫びもむなしく、艦橋には彼と京だけが残った。もっともムスカは京が意識を取り戻していることに気づいていないらしい。
「くそっ、こうなれば私が…」
ムスカはいらだたしげに席を立つと、射撃管制のコンソールに歩み寄った。何としても『雷』発射するつもりらしい。
京は残された力を振り絞り、立ち上がった。どうしてもムスカを止めなくてはならない。この戦いに終止符を打つために。意味なく散ってゆく命をこれ以上増やさないために。
「ええい、どうやって操作するのだ!」
コントロールパネルに苦戦するムスカの真後ろに立ち、京は言った。
「撃たせません。」
「何?!」
京は振り返りかけたムスカの背中に飛びつき、一気に後ろに引き倒そうとする。
「貴様、京大尉か!邪魔をするな!!」
ムスカはコンソールから離れまいと全力で京に抵抗する。はなっから華奢な体であるうえ、いまの京は深手を負っていた。またしても視界がぼやけていき、意識が遠のく。
誰か、この男を止めてくれ―――!
京の想いが声にならない叫びとなって、ア・バオア・クーのそらに広がった。

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11/25 07:57 URBANO BARON(e) [485]エルザス
484

「何?」
カレンは確かに聞いた。誰かの願いを。誰かの心の声を。
聞き覚えのある声だった。助けを求めていた。
「京大尉?」
なぜそう思ったのかわからない。だがカレンは確信していた。今のは京大尉の声だ。
カレンが艦橋の正面に回り込んだとき、彼女はハッと息をのんだ。
大柄な男の背中にしがみつく京の姿があった。京が紅蓮の機体を認めてこちらを見たとき、カレンははっきりと目があったように思った。
「京大尉!」
カレンは京が叫ぶのを聞いた。

「討てぇ!カレン・コウヅキぃぃぃぃぃ!!」

「!?」
反射的だった。カレンは紅蓮を操り、その右腕が艦橋にめり込んだ。それと同時に輻射波動砲が起動、ラピュタの艦橋構造物は文字通り粉々に砕け散った。
「京大尉…?」
幻を見たような気がして、カレンは呆然とつぶやいた。
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11/25 07:58 URBANO BARON(e) [486]エルザス
485


「ランチの収容、完了しました!」
ブラックハウスの艦橋で、アークがあずにゃんを振り向いて叫んだ。
「負傷者の搬出急いでください!リンディ提督にすぐ艦橋に来ていただくように伝えてください!」
あずにゃんは居ても立ってもいられない様子だった。アースラ轟沈の報告を受けてから、彼女はずっとリンディたちの心配をしていた。いったい誰が戦死し、誰が生き残っているのか見当もつかなかった。だが、あずにゃんはまさかリンディがランチに乗っていないなどとは思ってもみなかった。リンディは必ずこのブラックハウスにやってきて、引き続き第二連合艦隊の指揮を執ってくれるものと思ったからだ。あずにゃんが艦隊の指揮権をほしがった本当の理由はそれだった。リンディが合流したときに、指揮権をスムーズに彼女に移行するためだったのだ。
だが、そんなあずにゃんの気配りは全くの無駄骨に終わった。
「リンディ提督は来ません。」
突然背後から起こった声に、あずにゃんは驚いて振り返った。
艦橋フロアの入り口にクロノが立っていた。
「リンディ提督は旗艦アースラと運命を共にされました。」
重い口調ではあったが、クロノははっきりとそう言った。
「いまなんと…?」
聞こえなかったはずがないのに、あずにゃんはそう訊きかえしていた。
「リンディ提督が…?」
そんなはずはない。彼女はとっさにそう思った。だが、クロノが冗談を言うとは思えなかった。ましてこの状況だ。
「本当に、提督が…」
「はい。」
クロノは真剣な眼差しでうなずいた。もはや疑いようもなかった。リンディ提督は死んだのだ。
「で、では…艦隊の指揮はどうすれば…?」
目の前が真っ暗になったようだった。リンディを亡くした喪失感と、艦隊の指揮なんてできるはずがないという絶望感があずにゃんを包んだ。
「ナカノ少佐に指揮を執ってもらうしかありません。陰ながら自分も助力します、艦隊司令。」
「かんたいしれい…」
その役職の意味があまりにも非現実的で、あずにゃんはそれをすぐには受け入れられそうもなかった。艦長職でさえ多くの支えを必要とするのに、自分に艦隊の司令官など…
「つとまるはずがない…」

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11/25 19:27 URBANO BARON(e) [487]エルザス
486

黒猫とナガモンは、要塞の中で機体を降りていた。空気のある気密ブロックに入っていたが、ヘルメットはかぶったままだった。要塞内のあちこちでは今も小爆発が散発的に起こっており、いつ空気が漏れだすかわからなかったからだ。
「ナガモン、あれ!」
廊下を進んでいた黒猫が異変を察知した。彼女は小走りに走り出した。反対側を警戒していたナガモンが急いで後に続く。
「なんだこれは…」
二人の視線の先には、無残にも首筋を撃ちぬかれて死んでいる連邦軍兵士の死体がいくつも転がっていた。ざっと10体はある。
「なんでこんなところに連邦兵が死んでるんだ…?」
ナガモンは疑問をそのまま口に出した。
「捕虜じゃないかな…」
恐る恐る死体の様子を調べていた黒猫がいった。ナガモンもそうに違いないと思った。死体が身に着けている軍服はかなり着古されていた。この作戦に参加した者の服とは思えなかった。
その時、ナガモンは死体の一つがかすかに動くのを見た。
「まだ息があるぞ!!」
すぐに駆け寄り、その女性兵士の脈をとった。微弱だが、確かに生きていた。呼吸もしているようだ。
「急いで止血だ。それからブラックハウスに運ぼう。」
ナガモンはそういってノーマルスーツの医療キットに手を伸ばした。
「こんな綺麗なひとを撃ち殺そうとするなんて…」
嫌悪感をにじませながら黒猫がいった。
「これがジオンのやり方さ。死ぬよりひどい目にあった奴だっている。」
ナガモンはそういって応急処置の手を止めた。
「…ナガモン?」
「いや、なんでもない。」
ナガモンは再び手を動かし始めた。
「これでいい。ひとまず動かしても問題ない。しかし、よく生きてたな。」
ナガモンはそういって、首から肩まで血で真っ赤になっている女性兵士を見下ろした。
フェイ・ロシュナンテはこうして一命を取り留めた。撃たれる瞬間、思い切り首を曲げたのが功を奏した。弾丸は急所をわずかに外れ、致死量まで出血することはどうにか免れたのである。
ナガモンは奇跡的に一命を取り留めたこの女性兵士をBlackCatに乗せ、黒猫とともに要塞をでた。要塞の外では、すでに戦闘は行われていなかった。戦う意志のあるジオン軍はすべて要塞から脱出し、連邦軍は早くも要塞の完全制圧を目指していた。

残っていたジオン軍は次々に武装解除されたが、そのうちの何割が正当な捕虜の扱いを受けたかは、誰にもわからない。確かなのは、卑劣な残虐行為をするのはどちらか片方の陣営だけではないということである。

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最終更新:2010年12月23日 19:47
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