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276-300 - (2009/05/13 (水) 21:25:11) のソース
276 :本家ドルダ:2009/02/01(日) 18:30:54 蘇る記憶。 若かった頃のあの志。 嘘や裏切りによって、捨ててしまったはずだった。 (私は……) 今一度、彼等を見る。 ギデオンやクラン、ヴァイスだけではない。 まだ幼い子供達もまた、同じ面持ちだった。 「クッ……戻るぞ!」 メリリヴェイルは踵を返す。 慌てて追いかける部下達も目もくれず、メリリヴェイルは歩調を速めていった。 (大丈夫だろう、彼女なら……) それを見送るギデオンは、心の中でそう呟いた。 第33コロニー。 格納庫に輸送機が入った。 輸送機から降りる人影。ミランダだ。 「案外、お早いお着きだったね」 「新型を26コロニーから受領して、トンボ返りでこちらに来ましたので」 待っていたマイケルは、苦笑してミランダを見る。 「本日付けで[[マイケル・ミッチェル]]隊に配属されました。[[ミランダ・ウォン]]です。改めてよろしくお願いします」 ミランダは険しい表情を崩すことなく、小さく頭を下げた。 顔を上げる際、灯りに反射して、眼鏡が鋭く光る。 「まさか君がパイロットとして来るなんてね。実戦経験もない、シミュレーション回数も乏しい君がさ」 277 :本家ドルダ:2009/02/01(日) 18:32:34 「操縦技術に関しては問題ありません。上の判断でもあります」 「断言するねえ……」 「決意がありますから。それに自機であるブラッシュ・[[ローズ]]は長距離狙撃用モビルスーツです。 前線に出ない限り、ご迷惑をおかけすることはありません。それに、私はこれで戦果を上げます」 表情一つ変えることなく、ミランダは言った。 そんな彼女に、マイケルは不安を感じる。 (まるでパンパンの風船だね。ちょっとの刺激で割れてしまう) それほどまでに気を張って、ミランダを突き動かすものとは。 ドルダは確かに脅威だ。 だが、機体は地球圏連合軍にはないとわかった。 「[[ガンダム]]。向こうでの名前はドルダだったね。あれは駐留軍には渡らず、君がいた調査隊が所有している」 「知っています。あの人達がこの戦いを止めようとしていることも」 (内緒にしておこうと思ったけど、この様子だと報告もしちゃってるなぁ……) 火星コロニー義勇軍にとっては、和平を目指す者達もただの障害か。 新型機を寄越してまで、ドルダの破壊を優先させるその意図とは。 火星コロニー義勇軍、独立派…… 自由を勝ち取るために、決起した者達。 278 :本家ドルダ:2009/02/01(日) 18:33:13 その頂点に立つ[[宗谷陽光]]。 (自らの望む手段や結果以外は認めない……ということか) 彼の信念と、今目の前にいるミランダの考えは似ているような気がする。 目的に向かって突き進む。それは構わない。 (けど、度を越した暴走は、身を滅ぼすよ……) To Be Continued... 279 :コナイ◇8GDQEpBT:2009/02/02(月) 20:49:44 本家ドルダの人、乙です!! 本当にギデオンが父親に見えてきましたww [[ジャイアントマン]]、その目的は一体……? GJです! 280 :通常の名無しさんの3倍:2009/02/05(木) 11:35:09 保守 281 :コナイ◇8GDQEpBT:2009/02/06(金) 18:56:31 保守 282 :通常の名無しさんの3倍:2009/02/07(土) 19:59:47 あげとく 283 :通常の名無しさんの3倍:2009/02/07(土) 21:32:36 絵師さん、もうこないのかね。 284 :通常の名無しさんの3倍:2009/02/07(土) 23:25:04 規制か飽きたかじゃね? 来ないなら来ないで誰かまとめサイト更新しなきゃだが 285 :コナイ◇8GDQEpBT:2009/02/08(日) 01:19:06 現在受験シーズンだから忙しいんじゃないか? 残念な事に更新は管理人からのメンバー登録がないとできん。 一応申請したがいつ届くか・・・ とりあえずこのスレのここまでをメモ帳に保存しとく。 286 :通常の名無しさんの3倍:2009/02/08(日) 16:17:18 乙 287 :通常の名無しさんの3倍:2009/02/10(火) 17:55:35 保守 288 :通常の名無しさんの3倍:2009/02/10(火) 23:23:29 $だ。 289 :コナイ◇8GDQEpBT:2009/02/13(金) 00:08:29 保守 290 :通常の名無しさんの3倍:2009/02/14(土) 21:46:50 アナザードルダ投下します。 291 :アナザードルダ 1/22:2009/02/14(土) 21:48:25 マリネリス渓谷の東、マルガリテフェル地方の外れには、ドーム・ディオゲネスが位置している。太古には湖であったと推定されている地方である。 やはりこのドームも他のドームと同じく、火星のテラフォーミングが完了すれば水の底に沈むことになる。 ドーム・ディオゲネスは主に羊毛と羊肉を生産している。都市部といえるようなところは運河ターミナルくらいである。敷地のほとんど全部が草原である。 このドームで生まれた者は、羊飼いになるか、さもなければ屠殺業者に就職する。識字率は人口の三割を超えず、古くからの住民はたいてい親戚関係にある。要するに火星における田舎ドームである。 そこに、仮面の聖女と呼ばれた女が暮らしていた。エウテュミアという名前である。二年前、ふらりとある村にやってきて小さな教会に住み着いた。 この教会で神父をしていた男は、テーレマコスの神学校を出たと聞くが説教が下手で、古代語の知識も怪しい。 安息日になれば、羊飼いの青年たちのいかがわしい歌に合わせて古びたアコーディオンを鳴らし、度数の強い密造酒を煽った。 時たま村人が持ってくる家畜と、コンパニヤ総本山ドーム・テンポロからの僅かな補助金で暮らしを立てていた。 そんな清貧暮らしを続けていたわけであるから、エウテュミアと名乗る女が教会の扉を叩いたとき、いくら貧しき者に手を差し伸べるコンパニヤ神父とはいえ、どう処置していいやらと暫し悩んだ。 そもそも風采からしてよろしくない。女は蝶の形をした仮面で顔を覆い、みすぼらしくはないが見たことも無い種類の白装束を纏っている。 そのとき女が聖典ほどに分厚い紙の束を出さなければ、神父といえども追い出していたかもわからない。 異端と疑われたくない五十過ぎの神父は口にするのをためらったが、エウテュミアはどうも神秘的な雰囲気を持つ女であった。 彼女が主の祈りを始めると、礼拝堂の空気が張り詰めるというよりも、やらかく安らいで行くような心地がした。億劫な早朝の礼拝でさえ、いつまでも続けていたくなる。 292 :アナザードルダ 2/22:2009/02/14(土) 21:49:50 村の神父という役職は、本来の業務とは別に、庄屋と並んで諍いごとを調停する役割も担っている。 男女間の惑わしごとでなにやら食い違いがあったやら、あそこの羊がどこぞの敷地に入ったやら、酒の上での無礼やらと、なかなかどうして多忙である。 神父は日ごろこうした話はなるべく波風立てずに当人同士に解決を任せるように取り成していたが、あるときふとした思い付きから、エウテュミアに一任してみようという気になった。 仮面で素顔を隠しているとはいえ、背格好がすらりとしていて、村人たちに評判のいいシスターである。面倒ごとを避けたいという気持ちもある。 実行に移してみると思いがけない成果を上げた。一人の村娘をめぐって争っていた青年客気の男二人が、神学校の入学生のごとく大人しくなっていた。 涙をぼろぼろこぼして悔い改める始末である。どのような手管を用いたかは知らないが、楽をしたい神父は手放しで賞賛した。 この村に一人、物狂いの青年がいた。数年前に出稼ぎから帰って以来、奇態な行動をするようになった青年であった。 羊の鳴き声が聞こえると飛び上がって、すかさず手近にある干草の塊を抱え、羊の足元に飛び込んで行くのである。 羊の足に踏みしだかれながら「我突入ス、我突入ス」とわめき散らす。出稼ぎ先の木星で何があったか知らないが、村人にとってはたまったものではない。 錯乱した彼に羊が殴り殺されたこともある。青年の唯一の肉親である母親は肩身が狭く、教会へ礼拝に通うのも、数ヶ月に一度、平日に青年を連れてこっそり礼拝堂に座るばかりである。 エウテュミアがこの青年を見たのは、彼女が教会に住み着いてひと月ほど経ったころである。 その日は礼拝堂の入りもまばらで、座っているのは、井戸端しにきた主婦や、信心屋の老婆ばかりであった。そこに、扉をそっときしませて、例の母親が青年の手を引きながら足を踏み入れた。 なにやら青年にはげましの声をかけつづけているが、神父はその哀れっぽい様子を見飽きていたので、別段気に止まった素振りを見せずに聖典の朗読を続けていた。 293 :アナザードルダ 3/22:2009/02/14(土) 21:50:47 神父はエウテュミアが立ち上がったのに気付いた。朗読中いつもつつましく横に控えている彼女にしては考えられない粗相である。神父は朗読をやめて、エウテュミアの様子を観察した。 彼女は物狂いの青年をじっと見つめていた。仮面で隠れてわからないが、どこか悲しげな眼差しをしているとも思われた。 神父が何か声をかけようと思い立ったとき、エウテュミアは静かに青年に歩み寄って彼の手を握った。神父は首を振った。青年が彼の母親以外に無反応であることを知っていたからである。 けれどもエウテュミアが手を握ってしばらくすると、青年は顔を上げ、ぼんやりした目でエウテュミアを見返した。 蝶を模った奇怪な仮面を見て思うところがあったのかも知れなかったが、青年は暫し仮面を眺めた後、何かぼそぼそ呟いたかと思えば、母親の手を借りずに礼拝堂を出て行った。 翌朝、青年は近所の老夫婦の家を訪れて、人手は要らないかと口を利いた。老夫婦は物狂いの青年の物言いを訝しく思ったが、あれこれ聞いてみるに、どうも正気な様子である。 ためしに仕事を任せてみると、青年はそつなくこなしてしまった。青年の母親は感激して跪き、涙を流しながら己の主に感謝の祈りを捧げた。 村中から人が集まってきて、青年の仕事振りを見たり、おっかなびっくり何かものを訊ねてみたりした。青年はいたって正気な人間になっていた。 294 :アナザードルダ 4/22:2009/02/14(土) 21:52:36 この事件以来、エウテュミアは仮面の聖女と呼ばれるようになった。奇跡を行い、頭の疾病を消した聖女としてたちまちに話は伝わった。 奇跡の噂は、村は元よりドーム・ディオゲネスの外、コンパニヤ総本山ドーム・テンポロにまで広まった。村には各地から青年と似たような症状に悩む者たちが集まってきた。 かつて抱いていた野心をぶり返した神父は、張り切って仮面の聖女の宣伝を行い、それと同時に、異端と見なされぬよう教会の上層部への手回しにも奔走した。 エウテュミア当人はといえば、なるべく目立ちたくないというような言葉を漏らしたが、成功の味を知った神父からしてみれば穏便に事が済むのは面白くない。 神父は彼女が時たま行った説教の言葉を編纂して経典を作った。幸いにもエウテュミアの思想は実践的であり、どれも穏便な類のものであったから、教会が異端の言いがかりを付ける余地は少ない。 神父は上京してレコヒミエントという宗派を立ち上げた。信者には仮面の聖女の居場所を知らせず、月に一度、幾人かの患者を彼女に治療させた。 ディオゲネスの住民が存外閉鎖的な気質を持ち合わせていたのが幸いし、現代に蘇った奇跡というものを神父は独り占めすることが出来た。 指導者の仮面の聖女が人前に出ないということも宗派の神秘性を高め、二年も経つと、レコヒミエントは火星で相当な勢力を持つに至った。 しかし、そうそう一人の男の思い通りに事を進ませるほど彼らの主は寛容ではない。 別な宗派の宗教的嫉妬やレコヒミエント内での勢力争いによって、成り上がり者は瞬く間に没落し、結局は以前と同じく小さな村の神父で落ち着かざるを得なかった。 今はもはや、彼は過去の栄光を反芻する世話役の一人に過ぎなかった。 295 :アナザードルダ 5/22:2009/02/14(土) 21:53:24 礼拝堂の板敷は掃き清められるようになって久しく、ぶどう酒の染みや埃の縁取りは見受けられなかった。ステンドグラスから明かりが差し込み、色とりどりの模様を映していた。 模様の上に跪いて光を浴びているのが、今や仮面の聖女と呼ばれて、栄光をほしいままにしていると思われている一人の女であった。彼女はよく通る滑らかな声で聖歌を朗唱していた。 「デウスたるおんみを讃え、主たるおんみをあかし奉る。久遠の父よ……」 やつれてしまっている神父と貧しい恰好をした村人たちが、仮面の聖女の声に合わせてぼそぼそと口を動かす。その声は歌うというより散文を諳んじるのに近かった。 レコヒミエントの主導は歌い手たちから離れて一人歩きを続けている。各地のドームに散在する信者の手綱を握るのは、神父の背後で賛美歌を聞いている男たちであった。神父は密かに彼らのことを鮫の歯と呼んでいた。 「天使(アンジョ)、天国(ハライソ)の民、権力(ちから)ある者、ケルビムもセラヒムも、断えず声をあげて歌ふ……」 ここまで歌い終えて、突然エウテュミアが仮面を押さえて苦しげなうめき声を発した。 すぐさま神父と村人たちが彼女に駆け寄ったが、エウテュミアはか細い声で喘ぐばかりで、神父たちの呼びかけに反応する様子がない。鮫の歯の男達が目配せしあい、仮面の聖女を寝室に運ぶよう指示をした。 彼らへの罵倒は口の中だけに留めて、神父は村人達の手を借りて彼女の体を持ち上げた。 ひどく軽い体である。数百万人もの信者の希望を担っているとは思われないほどか弱かった。二年も顔をつき合わせていれば愛着が沸く。己の野心に利用したという罪の意識もある。 神父はエウテュミアを休ませると、一人自室に篭って、壁の十字架に告解の文句を浴びせた。 296 :アナザードルダ 6/22:2009/02/14(土) 21:54:50 眉間の奥の凄まじい火花の嵐は静まっていた。世話人たちを退室させて一人きりになると、エウテュミアは仮面を外した。改めて見ても趣味の良くない仮面である。 しかし仮面を外して数秒経つと、耳鳴りが始まり、恐れおののく声や、何者かを罵る声が聞こえてくる。あまりに喧しくて堪えられそうもない。 エウテュミアは再び仮面を付けた。すると声が途切れ、聞こえるのは遠い羊の鳴き声ばかりになる。エウテュミアはなるべく静かに息を吐いて、仮面の脇に垂らした黒髪の纏まりから一本抜き取った。 強くしごくと指先が黒ずんだ。毛髪の先端は、ほのかな翡翠色の輝きを発している。エウテュミアは下腹にそっと手を当てて呟いた。 「[[シンシア]]、あなたなの……」 答える声はない。教皇ペトロ四郎の演説が放送されたのはその三日後である。居合わせた者たちによって、仮面の聖女が独立戦争の始まりを予言したという風説が流布された。 297 :アナザードルダ 7/22:2009/02/14(土) 21:56:42 青い惑星の地表のあちこちで光が半球形に広がる。光が止み、黒いまだらばかりが残ると、今度は幾つもの巨大な岩の塊が光の尾を引いて惑星に向かって行く。 惑星に飲み込まれる直前、岩の塊は赤く染まり、それが豆粒ほどに小さくなってしまうと、惑星の表面全体に波紋が広がる。 惑星は急速に色あせて行き、遂には灰色に覆われる。振り返り、今度は真ん丸い衛星が大写しにされる。瞬時に接近し、広い議場に変わる。 壇上には男が立ち、腕を振り上げて熱っぽい調子で何やらわめいている。都市部では奇抜な恰好をした人々が心底幸せそうな様子で歩いている。 再び宇宙空間に変わる。近づいて行く先には、機械部品を生やした歪な岩石の塊がある。洞窟の中では、汚れで顔を真っ黒にした老人や少年が小型作業MSで岩を削っている。 そこに小奇麗な服装をした紳士が現れ、不愉快そうに鼻を摘む。大通りに出ると、道端に薄汚い身なりの物乞いが幾人も座っている。 中には一族郎党の組もあり、パンの欠片を手にした子供が、目を瞑ったまま動かない父親に声をかけている。 先ほどの紳士が現れて、喧しいのか、子供をステッキで打ち据える。今度は緋色の惑星が映し出される。 『火星。そこは最後のフロンティア』 錆色の大地に気密服姿の人々が降り立つ。土を手のひらに載せると、弾力の頼りない土がぽろぽろと零れ落ちる。 時は流れ、人々が鍬を手に列を作り、土を黙々と耕している。土から芽が伸び、荒涼とした土地はしだいに緑に覆われていく。 煉瓦造りの粗末な民家が立ち並び、それらの中心に、質素ながら美しい建物が見える。その屋根の上には真っ白い十字架が突き立っている。森が出来て、草原では牧童が家畜を撫でている。 『しかし』 軍服の男たちが、穀物の袋をトラックにうず高く積み上げている。トラックから離れた道端で、農夫がそれを見つめている。農夫の子供は咥えていた指を抜き、裾を引っ張って父親に何かを尋ねる。父親は力なく首を横に振る。 『民は餓えた』 土間のテーブルで、家族が透明なスープをすすっている。主な具材はキャベツとじゃが芋で、その上に申し訳ばかりのパンが泳いでいる。 突然、一人の青年が匙を叩きつけて立ち上がる。家族の者たちが落ち窪んだ目で一斉に彼を打ち眺める。青年は己に言い聞かせるように語り続け、ぼろぼろの鞄を持って家を出て行く。 298 :アナザードルダ 8/22:2009/02/14(土) 21:58:38 場面は再び居住小惑星に変わる。先ほどの青年が、小型作業MSで鉱石を運び出している。青年の肌は黄色く、青白い者たちの中にいれば汚れていても一目で見分けが付く。 底意地の悪そうな顔つきをした労働者が、青年の小型作業MSの背を小突く。体勢を崩し、鉱石のコンテナがひっくり返る。 すぐさま監督官がやってきて、青年を引きずり出して幾度も殴りつける。青白い肌の者たちは作業を続けながらにやにや笑いを浮かべている。 作業員たちが横一列に並び、監督官から日当を受け取る。青年の順番が来て、封筒を受け取ってみるがどうも隣の作業員より厚みが少ない。 青年が口を開く。すかさず監督官の拳が飛んでくる。周りの作業員たちははしゃいでいる。 顔面の幾箇所かを赤黒く腫らした青年が道を歩いていると、あどけない顔立ちの子供らが彼に石を投げる。周りの大人たちの中にそれを止めようとする者はいない。 ここで場面は切り替わる。護衛官をはべらせて通路を歩く連邦政府高官に、記者がマイクを伸ばしている。 「未だ根強いマーズノイド差別について、何かコメントを!」 「そんな事実はないと思われます。既に差別は根絶されたという報告を受けておりますので」 「事実として迫害を受けている火星出身者がいるんですよ!」 「それはきっと見解の相違でしょう」 記者がやにわに高官の頬を引っ叩く。要人に暴行を加えた記者を護衛官が取り押さえる。 「顔に蚊が止まっていると思ったんです! これも見解の相違です!」 しかし記者は、屈強な護衛官たちにもみくちゃにされる。 『嘘をつけ! 嘘をつけ! 嘘をつけ!』 先ほど頬を叩かれた高官が細君と腕を組んで繁華街を歩いている。 細君とはいうものの、相当にふくよかな体つきなうえ、小皺を埋め尽くしてしまうまでにどぎつい化粧をし、手をかけすぎて下品に転じた類の装飾品を幾つもぶら下げている。 細君が立ち止まり、店の陳列窓を指差して夫に何か言う。高官は仕方ないという様子でため息を吐き、細君に促されるまま店内へ連れられて行く。 場面は議場に移る。例の高官の口から発せられる一言一句に、いちいちもっともであるという具合で他の高官や議員が頷きを繰り返している。火星ドーム群の住民税増額は、大多数の承認を得て議決される。 299 :アナザードルダ 9/22:2009/02/14(土) 22:01:09 失職した男性が、頭を抱えている。男性のすぐそばでは赤子を負ぶった女性が洗濯物をしている。指の皮はひび割れ、節々に鮮やかな色が覗いている。 別の子供がやってきて、「ご飯は?」と訊ねる。母親は視線を桶に向けたまま、テーブルの上の小さな黒パンを指差す。硬そうな黒パンの割れ目からは藁がはみ出ている。 家の外では、宇宙からの観光客が買い物をしている。「あら安い」「悪くないんじゃない?」と勝手なことを言いながら、あちこちの店で品物を買いあさっている。 町の教会では、中年者の観光客がしきりにシスターに言い寄っている。紙幣をシスターの体に押し付けて、何やらけしからぬことを口走ってさえいる。 そこに、温和な顔立ちをした老人が現れて中年男をたしなめる。中年男は顔を赤らめていきり立ち、大げさな身振りで老人に殴りかかろうとする。しかし老人は拳をかわして、たちまちに杖で中年男をやっつけてしまう。 ここで大仰な音楽が始まり、老人の背後にある十字架が輝き出す。 「火星の民よ、武器をとれ!」 と老人が叫んで、杖を床に一突きする。すると幾十どころか、幾百機もの[[ガーランド]]が地から聳え、跪いた姿勢のそれらが画面を埋め尽くす。 「火星の民よ、立ち上がれ!」 ガーランドが一斉に立ち上がる。老人はいつの間にか三重冠を被り、白い法衣を身に着けている。 「矛を持て! 盾を構えよ!」 ガーランドが右手に持った銃剣を立て、左手のシールドを掲げる。 「今こそ我らの手で、真の自由と独立を、勝ち取ろうではないか!」 天から差し込む光が老人の法衣を輝かす。白髪も眩しいほどの光を帯びている。背後の十字架の上に鷲が舞い降り、十字架の下には蛇が絡みつく。安っぽいファンファーレとともにその輪郭が紋章に変わる。 「デハドスこそが、我らマーズノイドの矛と盾である!」 『皆様の利益と安全を守るデハドスにご協力をお願い致します』 というテロップが表示されると、 「ばかばかしい」 デイヴィッドはそう吐き捨てて映像を消した。そもそもプロパガンダになるかも疑わしい。初めの紳士、監督官、連邦高官、好色な中年男性、これら主役の四人からして同一の役者を使っている。 鬘と付け髭を変えただけである。マーズノイドにとってスペースノイドの顔は見分けが付きにくいとはいえ、視聴者を侮辱するにも程がある。 300 :アナザードルダ 10/22:2009/02/14(土) 22:24:18 「あれだけの軍備を整えられるくせに、今さら何が独立戦争だ」 寝返りを打つと、部屋の隅に少女が座っているのが見えた。肌は居住小惑星の住民よりも更に青白く、見たのがデイヴィッド以外の者であったなら体温の有無を確かめてみるに違いない。 髪の毛は、人間動物には見られぬ類の色をしている。目がちかちかする色合いである。どうみても正常な遺伝子を持つ生物とは思われない。 その人形面から喜怒哀楽は読み取れないが、どこかしょんぼりしているように感じられた。既に小一時間ほど置物同然に扱っていたわけであるから、デイヴィッド自身に憐憫の情を催させたかも知れなかった。 「糞忌々しい」 そう聞こえよがしに口にした相手は、確かな実体を持っている。 「おい、何で俺までモルモット扱いされなきゃならん」 少女は首を傾げた。まるで解せないという様子である。デイヴィッドは舌打ちをして己の愚昧さを罵った。四百年前の人間もどきに言葉の通じるはずがない。 ブラックテクノロジー全盛期についての物事は、言語体系ですら殆ど知られていないのである。 「一服してくる」 デイヴィッドは誰に言うともなく言って寝台から立ち上がった。自室は禁煙ではないが、この少女といえども最低限の礼儀は適用される。開発公社の所有物の肺機能を害しては減給で済まされない。