206 名前:アッガイと海兵 :2008/10/20(月) 14:30:04 ID:???
マイ「ただいま」
ロラン「おかえりなさい今日は早かったんですね、ってその子、どうしたんです?」
マイの足には身長60cmぐらいの小さなアッガイがしがみついていた。
マイ「迷子らしくてね。会社の前に座り込んでいたから保護したんだけど、
ヘンメさんが的にしようとしたり、ソンネンさんがドロップを食べさせようとしたり、
デュバルさんが発作(ジオニックの陰(ry)を起こしてヅダで暴走しようとしたり
いろいろ危険だったから、ウチにつれてきたんだ」
ロラン「でも、ウチにいてもセレーネ姉さんに見つかったら、間違いなく改造されますよ」
マイ「そうか……困ったなぁ。その前にシロー兄さんに相談出来ればいいんだけど」
ロラン「警察に迷MSの係りってあるんでしょうか」
首をひねって玄関先で考え込む二人をアッガイが見上げている。
突如、玄関ドアが開かれ挨拶もなしに入ってきたのはホルバインだった。
ホルバイン「ロランはどこだ?」
マイ「あ、こんにちはホルバインさん」
ホルバイン「ロランはどこなんだ?」
マイ「貴様!無断欠勤常習犯の分際で!!」
ロラン「ていうか僕は目の前にいるじゃないですか!」
部外者には何だかよくわからないやりとりだったが、これが一種の挨拶であるらしい。
変わり者集団で有名な
ヨーツンヘイム社の中にあって、とりわけ変わり者だと言われている
ホルバインである。この程度は
日常茶飯事なのだろう。
そんな人たちともごく普通につきあう兄は常識人に見えてもやっぱり変わり者なんだろうな
とロランは思った。
ロランの思いを他所に、ホルバインはクーラーボックスを上がり口に置く。
ロラン「あ、いつもありがとうございます」
ホルバイン「海が波立っていた」
マイ「今日は不調だったんですね」
ホルバイン「ま、そんな日もあらぁな」
今の今までじっと三人の人間のやり取りを見上げていたアッガイが、ふと、マイから離れ
今度はホルバインにしがみついた。
ホルバインは首をかしげ目線を下げる。
アッガイはホルバインを見上げる。
ロラン「……えっと…」
ホルバイン「わかるのか……俺の海が」
説明しようとロランが口を開いたと同時にホルバインはぽつりと呟き、アッガイをひょいと
抱き上げると何も言わず
ガンダム家を後にする。
マイ「さすが水陸両用MS。海の男をしっかり見つけるもんだ」
ロラン「ちょ、マイ兄さんいんですか!?つれてっちゃいますよ!!」
マイ「ホルバインさんなら大丈夫。ああ見えて責任感の強い人だからしっかり面倒見て
くれるよ。保護者が見つかるまで預かっていてもらおう」
一方その頃、ダイクン社。
シャア「何、試作「萌えプチMSアッガイたん」が行方不明だと!?探せ!!探すんだ!!」
ナナイ「……大佐、最近仕事してると思ったらそんなもん作らせてたんですか…」
214 名前:アッガイと海兵2 :2008/10/20(月) 19:40:31 ID:???
翌日、アッガイは船の上にいた。
戸惑うように船縁からゆらゆらと揺らぐ海面を覗き込み、恐る恐るフレキシブルアームを伸ばして、
波に触れる。海水の冷たさに驚いたアッガイはビクリ、とアームを引っ込める。
その勢いが強すぎたため、後ろにひっくり返り船の中をころころ転がった。
ホルバインが助け起こすと照れているように丸い手で頭をかく。
いそいそと再び船縁へ行くとホルバインを振り返り、伺うように小首を傾げた。
ホルバイン「行って来いよ」
アッガイは大きく頷くと頭から海へとダイブした。
小型の愛玩用MSとして製作されたものだろうアッガイは海面近くを気持ちよさそうに泳いでいる。
魚を見つけては潜り、水面のきらめきを追って浮上する。
元々アッガイは広大な海や水辺で活動するMSだ。
搭載されたAIにそのような機能はなくとも「そう作られたMS」の本能が海を見たがったのだろう。
ホルバインはそう解釈した。
それを裏付ける理論も理屈も無い。
ただ、目の前で楽しげに泳ぐアッガイを見ていてそう思ったのだ。
シャア「で、アッガイたんはどこかね?」
アムロ「お前そのツラでアッガイたんとか言うな」
シャアはガンダム家の居間に上がりこんでいた。
アッガイがヨーツンヘイム社で保護されたことを突き止めたシャアは、マイが自宅に連れ帰った
ということを聞きだしガンダム家を訪問したのだ。
今日のシャアはロランを狙う変態ではなく、ダイクン社の社長として来ていたので
ミンチは免れた。
アル&シュウト「何か寂しそうだったからザコたちのところ行ってくるー!」
ヒイロ「今日は一日リリーナの護衛だ。夕飯はいらない……だが胃薬を頼む」
ネーナ「せっちゃぁぁぁぁん!!」
刹那「く、四丁目の猫同士の縄張り争いに介入する!!」
ウッソ「ちょっと園芸部の畑を見てきます。え?盗撮じゃありませんったら!」
レイン「ドモーン!今日は買い物に付き合ってくれるっていってたじゃない!」
ロラン「スミマセン、ドモン兄さんは今朝早くアレンビーさんの修行に付き合うって……」
シーマ「はん、ちょっと坊やを借りて行くよ!」
コウ「ぅわぁぁぁぁ!!」
休日とあって、ガンダム家はなかなかに出入りが激しい。
騒然としていてもすっかり慣れたもので涼しい顔をして渋茶をすするマイ。
マイ「今頃は十中八九海の上だと思われます」
シャア「海だと?」
マイ「ホルバインさんについていきましたから」
216 名前:アッガイと海兵3 :2008/10/20(月) 19:41:55 ID:???
日が傾き薄暗くなる頃になってようやく、アッガイは船に上がった。
水滴を払うように身体を振るわせる。
ホルバインがタオルで残った水滴をぬぐってやると、もっとやってくれ、と言わんばかりに身体を
押し付けてきた。
アッガイを拭きながらホルバインは水平線の先を指差す。
モノアイがつられて動き、止まった。
大きな太陽が水平線に沈もうとしていた。
夕焼けのオレンジに染まる空と、黄金色に輝き煌めく海面。
その光景を記録しようとしているのか、アッガイは微動だにせず、ただ、モノアイの焦点を細かに
調節していた。
アッガイはずっとこの光景を覚えているのだろう、たとえ分解され大量生産商品のマスター部品に
なったとしても。
「……!?」
ホルバインは唐突に思い浮かんだ自分の考えに驚愕した。
そして確信を持った。
このアッガイは自分がそうなることを察して、脱走してきたのだ。
そしてそうなる前にせめて海を見たいと、自分についてきたのだ。
すっかり日が落ち、暗くなった頃ホルバインはガンダム家を訪れた。
いつものようにクーラーボックスを玄関の上がり口に置く。
マイ「こんばんはホルバインさん」
それに気がついて出迎えたマイにホルバインは答えない。
ホルバイン「来てんだろ?」
マイ「え?」
シャア「ああ、アッガイたん、無事だったか。これで商品化に進める」
居間に居座っていたシャアが玄関先に出てきて、ホルバインの足にしがみついていた
アッガイに向かって安堵の表情で手を伸ばす。
ホルバインはアッガイを抱き上げシャアから隠すように背中を向けた。
ホルバイン「……コイツを商品になんざさせねぇよ」
シャア「……君は何を言っているのだね。アッガイたんは商品化するために開発したのだよ」
目深に被った帽子の下から射るような目線がシャアに向けられる。
ホルバイン「コイツをバラしてコピーとって、売り捌こうってのか」
シャア「そうやって市場は成り立つのだ。安易な個人的感情で口を挟むのはやめてもらおう」
ホルバイン「コイツは喜んでた。海で、泳いで」
217 名前:アッガイと海兵4 :2008/10/20(月) 19:42:45 ID:???
それを犠牲にするのかとホルバインは非難する。
シャアは経営者としての立場から冷徹な態度を崩さない。
開発費用が少なからずかかっているのだ。費用の回収が出来なければ会社は成り立たない。
一触即発のにらみ合いが続く中、気楽な声が張り詰めた空気を打ち破った。
セレーネ「それじゃあ、この子を分解しないで複製を作ればいいんでしょ」
シャアとホルバインが玄関先で睨み合っていたので家に入るに入れなかった仕事帰りの
セレーネがそこにいた。
アムロ「セレーネ!できるのか?」
セレーネ「もちろんよ。AI研究者の肩書きは伊達じゃないわ」
自信たっぷりにセレーネは胸を張る。
アムロ「シャア、あなたはあのアッガイの基幹AIと集積データがあれば良いのだろう?」
シャア「ふむ……ボディ部分はただの量産型だからな」
アムロ「なら複製したAIとデータを渡す。だからあのアッガイは彼に譲ってやってくれ」
シャア「フ、よかろう。わが社の製品を思いやってくれた気持ちを無碍にするのは
心苦しかったからな」
この急展開に驚き、目を丸くしたホルバインはやがて少し戸惑いながら笑顔を見せ、
そして遠慮がちに「ありがとう」と口にした。
抱きかかえられたままだったアッガイも周囲を見回してから、ぺこりと頭を下げた。
後日。
ダイクン社から発売された「萌えプチMSアッガイたん」は好評を博した。
第二弾の「カプルたん」の発売も発表され、ダイクン社の業績は上々となった。
ホルバイン「行くぞ」
雲ひとつ無い空の下で、アッガイはホルバインの声に頷き、船に飛び乗る。
そうして舳先にちょんと座ると出発を促すように腕を前に振り出した。
アッガイと海兵は今日も青い海にいる。
最終更新:2013年09月22日 21:46