今日は日曜日、現在時刻10:00。ということで兄弟達も各々の友人や恋人と一緒に過ごすため
に出掛けるか、またはその準備をしていた。アムロはカイ、ハヤト達と旧交を温めに、カミーユ
はファの買い物に付き合い、ジュドーはルーやビーチャ達と街に繰り出す。ヒイロはリリーナの
『護衛』にアルはバーニィとクリスのデートのダシに、といったように。がロランは主夫業にやす
みなしという言葉通り、これから掃除をする計画を立てていた。
 そんなガンダム兄弟の家に向かってソシエ・ハイムは足取りも軽く向かっていた。可愛らしい
顔には笑みさえ浮かんでいる。家の二階からその姿を認めたシローは、予定より早くきちゃったな
とつぶやいて、リビングに下り、掃除の準備をしていたロランをつかまえた。
シロー「ロランお前、今日は掃除なんかしなくていいよ。もうすぐハイム家のソシエさん来るから。」
ロラン「え、ソシエお嬢様が?だったら余計綺麗にしといたほうがいいじゃないですか。」
シロー「違うよロラン。お前にはいつも苦労かけてるだろ、だから今日ぐらいみんな忘れてソシエ
    さんとデートしてこいよ。お前だってシーブックやカミーユと同い年なんだぞ。」
 実はシローは他の年長者の兄弟と話し合い、今日はロランに普通の17歳らしい日曜日を過ごさ
せてやろうとしていたのだ。そしてそのためにソシエには昨日、ロランから頼まれたと嘘をついて
ロランとのデートの誘いをかけたのだ。ソシエはすこし考えてから-実はそのふりをしただけだが-
OKの返事をした。そして彼女はいま幸福な歩調でロランの住む家に向かってきているのだ。
シロー「・・・そういうわけだ。俺も午後からアイナと待ち合わせてるし、みんなどこかしらに出
    かけてくよ。夕食のことも心配しなくていい。あ、これもってけよ。」
そういうとシローはロランの手に1万円を握らせた。俺達も厳しいからこれぐらいしかやれないが、
と言いながら。ロランは彼の性格上の反射と言った感じで拒もうとしたが、結局は受け取り、
ロラン「ソシエお嬢様と、デート、かぁ。そうはいってもどうすれば・・・」
とつぶやいた。急な展開に頭がすこしついていかない、と困惑していると、ソシエの到来を告げ
る呼び鈴が彼女の気持ちを乗せたように明るく鳴り響いた。

 きっとソシエさんだよ、とシローが玄関に出て行くと、ソシエが嬉しさを隠し切れていない
表情で顔をのぞかせた。やっぱり結構脈ありだな、ロランもあれでなかなかやるじゃないか。
そう思いながらシローはソシエを出迎えた。
シロー「ロランは今着替えてるよ。もうすぐ準備できると思うから。」
さすがにいつもの服装ではまずい。が、ロランは兄弟のなかでも服には無頓着、というよりは
自分のためにお金を使うのを避けるきらいがある。当然おしゃれな服など持っているはずがな
く、アムロが彼のとっておきのイタリア風のスーツを貸してやることにしたのだ。出迎えがロ
ランではなかったことにソシエは少しがっかりしたが、やがて出てきたロランを見るとそんな
気持ちはすぐにきえてしまった。
ソシエ「ふーん、まぁまぁじゃない。じゃあいきましょ、どこ行くか決めてあるんでしょ。」
ロラン「え、えぇ。まぁ。」
 アムロのスーツはロランには少し大きかったがそれほどおかしくもなかったし、何よりもと
もとロランはかなり容姿がいい。こちらはコウから貸してもらった革靴を履きながら、ロラン
はソシエの服装をちらりと見た。上品さと可愛らしさが共存したワンピースは着る者を選びそ
うなものだが、ソシエはそういうものが違和感なく似合う少女だ。
ロラン「そ、その服とてもよくお似合いです。ソシエお嬢様お、お綺麗ですね。」
言いなれているはずの言葉もどもってしまい、とってつけたようになってしまった。すかさず
ソシエが対応する。
ソシエ「お世辞はいいわよ。それよりどうせ街にはいくんでしょ?早くしなさいよ。」
ロラン「お、お世辞じゃありませんよ。じゃあシロー兄さん、いってきます。」
ソシエ「ロランのお兄さん、さようなら、また今度。」
家の二階ではコウがうらやましそうに二人の後ろ姿を見送っている。相手のいるやつはいいよ
な、キースとナンパにいったとこで、どうせまともな戦果は上がらないんだろうし。

 街に向かうまでの道すがら、ロランはとりあえず、僕から誘ったことになってるしなにか
しゃべらなければ。そう思ってはみたものの、ロランの頭には何も浮かんでこない。
ロラン「えと、キエルお嬢様や、メシェーさんはどうしてらっしゃるんでしょうね。」
ソシエ「お姉さまは昨日からハリーさんとどっか行っちゃたわよ。まったく、なにしてるん
    だか、メシェーは彼とお父さんと一緒に人力飛行機飛ばすって言ってたわ。」
ロラン「ディアナ様はいったい何をしていらっしゃるんだろうか。」
 これぞ失言。口を滑らしたとすぐにロランも気付いたが、これを聞いたソシエは、あんたホン
トはディアナ様と一緒にいたかったんでしょ!私の先に誘って断られたの!と、言ったきり黙り
こくってしまった。その後街まで二人は何の会話もなく、ロランはただ自分のうかつさと愚かし
さを呪い、気まずい雰囲気とソシエへの罪悪感に身を突き刺され続けた。
 やがていろいろな店が立ち並ぶ街のメインストリートに入ると、ソシエはロランには何の断り
もなくバーガーショップ『マクダニエル』に入っていった。あわててロランがあとを追うとそこ
には白い軍服を着て、頭にワッカをはめた見覚えのある青年がいた。
ロラン「待ってくださいよ、ソシエお嬢さん!あれ、あなたはシロッコさん。どうしてこんなと
    こに?」
シロッコ「なに、私の知り合いの女性がここでバイトをしているのでな、そろそろ終わるという
     ので来てみたのだが・・・」
そこまで言うとシロッコはソシエの峰に向き直りいきなり、今後の地球圏を支配するのは女性だ
と思っている。などと口説き始め、はぁ?と呆けているソシエのあご先に指を持っていこうとし
た。それに気付いたロランは二人の間にすばやく割って入り、
ロラン「やめてください!ソシエお嬢様には僕が指一本ふれさせません!」
と叫んだ。その声は店の全員が振り返るほどに大きく、当然注目の的になってしまった。ロラン
は顔を赤く染めながらも、それ以上に真っ赤になっているソシエの手を引いて外に飛び出した。

名前:ロランにも休日を4(446、448、450の続きです)投稿日:03/03/01 03:02 ID:???
 シロッコのちょっとした挨拶から、ロランがソシエをかばったのは使用人としての感情から
だったが、今日ばかりはそれが特別な意味を持っている。もっとも普段から二人はただの主従
関係と呼ぶには、ほんの少しだが親しすぎるが。あれ以来、先ほどとはまた違った気まずさが生
まれてしまい、ロランはそれを打開するために、目の前のデパートにソシエを誘ってみた。
ロラン「あの、ソシエお嬢さん、そこのデパートで買い物でもしませんか。新しい服とか見て
    回るの、お好きでしょう?」
ソシエ「そうね、ロランがそう頼むなら入ってあげてもいいわ。それより、きょ、今日ぐらい
    お嬢さん、お嬢様、とか呼ぶのやめなさいよ。」
ロラン「じゃあなんておよびすればいいんです?」
ソシエ「ソシエ・・・さん、でいいわよ。」
ロラン「はぁ、分かりました。ソシエ、さん、ですね。」
 ソシエは本当はただ、ソシエ、と呼んで欲しかったが、恥ずかしくて頼むことが出来なかっ
た。もっとも頼んだところでロランは、恐れ多いとか何とか言って受け付けてくれないかもし
れない。ともかく、そんなやりとりを交わしながら二人はデパートに入り、まずはソシエの服
を見ようということでそのためのショップが入っている3階へとむかった。するとついたとた
んに、ロランの耳に聞きなれた声が飛び込んできた。
カミーユ「偶然だよ、ファ。フォウとここであったのはさ。いや、そう確かに今日はお前に付
     き合うっていったけどさ、せっかくフォウとあったんだから話しぐらい・・・」
 声のしたほうを見てみると、カミーユが右のファと左のフォウのに挟まれて、二人の間で右
往左往している。それを見たソシエは屈託なく言った。
ソシエ「ひっどい男。どっちにも振られちゃえばいいのよ。あれ、そういえばあの人もロラン
    の兄弟だっけ?」
暗にディアナへの尊敬だか、敬愛だかが強すぎるロランを牽制したのかどうかは、分からない。

 ロランはカミーユを助けようとはしなかった。冷たいようだけれど、あれこそ身からでた
さびってやつだし、自分たちが行ったところで何の解決にもならないのは明らかだ。とりあ
えず、全く別のほうにあるショップに入って二人は自分たちのデートに集中することにした。
 当然ながらどのショップに入っても二人はカップルとして扱われた。ロランは日頃こういう
ところにくることさえないので、自然に何もかもをソシエがリードすることになった。今日初
めてデートらしい会話や雰囲気が生まれ、多少の気恥ずかしさは伴ったものの、二人は大いに
二人きりで何かをするということを楽しんだ。買い物はというと、結局ソシエは何も買わず、
ロランがソシエの見立てたシャツを買うことになった。いつもの習性でロランがお金の心配を
してしまうと、なんとソシエがそのシャツは私がプレゼントする、と言い出した。
ソシエ「いいのよ、遠慮なんかしなくて。あんたにはいつも世話になってるんだし。どうせ兄弟
    多くて、お金あんまりないんでしょ。」
ロラン「人を貧乏人ぽくいわないでくださいよ。確かにお金はあんまりないですけど。でもいいん
    ですか?なんか悪くって。」
そうはいったものの、ロランはこれもまた彼の性格のおかげで結局はソシエに押し切られ、シャツ
を買ってもらうことになった。ソシエにとっては自分がお金を出して、何かをロランと共有するこ
とが、自分が新しい洋服を買うことよりとてもすばらしく感じられた。
 ふと時計を見ると1時をだいぶ回っている。時間を見たとたんおなかがすいたのか、とにかく何
か食べましょう、もうおなかが減りすぎたわ、とソシエがジェスチャー付きで言った。
ロラン「それなら公園に行きませんか?ドモン兄さんが、日曜日だけおいしいホットドッグのスタ
    ンドが出てるって教えてくれたんです。」
ソシエ「ホットドッグかぁ、ロランのお兄さんのすすめに従うのもいいかもね。でもほんと兄弟多い
    のね。」
そうして二人は街のオフィス街の真中にある公園に行くことにきめた。その公園は平日はオフィスで
働く人々の息抜きの場、休日は恋人たちの定番のデートスポットとして有名な所である。

 公園につくとロランとソシエは適当な芝生の上に腰をおろし、そこにソシエを残して、ひとりで
ホットドッグを買いに行った。確かB&Jホットドッグって名前だったな、と周囲を見回すと何人
かが並んでいるスタンドがすぐに見つかった。ロランは小走りに近づき、列の最後尾につけた。な
にか知ったふうな声が聞こえるな、と思っていたが、その理由は自分の番がくるとすぐに分かった。
ロラン「ホットドッグふたつくださいな、っと、ああ、ブルーノさんとヤコッブさんじゃないですか。」
ブルーノ「よぉ、ロラン。俺たちここで日曜日だけ店出してんだ。結構評判いいんだぜ。」
ヤコッブ「パンはキースんとこからまわしてもらってんだ。あ、お前ふたつってことはデートだろ?」
ロラン「え、えぇ、まぁ、そんなとこです。」
ブルーノ「相手は誰だ?多分、ソシエの嬢ちゃんだろ。たく、やるじゃねぇか。」
ヤコッブ「全く、全く。ほら、出来たぞ。あ、お前でも代金はきっちり払ってもらうからな。」
そりゃ、もちろん。と答えてロランは代金を払い、二人分のホットドッグを受け取った。ソシエお嬢
様にも早く教えてあげようっと、ロランはニコニコしながらソシエのもとに帰っていった。
 一方ソシエは、ロランがホットドッグを買いに行っている間、30メートルほど離れたところに
座っている男女を見つめていた。多分恋人同士だろう。ふたりで楽しそうに笑いながら、彼女の方
が作ってきたらしいサンドウィッチを食べている。あの二人もそれほどすすんだ仲とは見えないけ
れど、少なくとも隣に座っている人が自分の恋人だという共通の認識はあるだろう。自分とロラン
には、それがない。ロランは私のことなんて思ってるんだろ。ただのちょっと仲のいい主人としか
思っていないのかな。ひとりになったソシエはそんなことを想い、少しもの悲しくなった。

 ロランがソシエの元に帰ってきたとき、ソシエが何かを見つめていることに彼は気付いた。
ソシエの視線を追ってみるとそこには、シーブックとセシリーが笑いながらサンドウィッチを
食べている光景があった。ホットドッグをソシエに手渡しながら、ロランは視線の先の兄弟の
ことを話した。
ロラン「あれ、僕の兄弟です、また。そっか、シーブック達もこの公園に来てたんだ。」
ソシエ「そう、きれいな彼女ね。二人は恋人どうしなんでしょ?」
ロラン「はい。彼女は確かセシリーさんって方で、パン屋の娘さんです。あ、あのサンド
    ウィッチ、きっとご自分でつくられたんでしょうね。」
 そうね、とソシエがつぶやいたとき、ロランはソシエと顔を合わせた。表情にどこかし
ら寂しさがたゆとうている。なぜなんだろう、と疑問を抱えながらもロランはブルーノと
ヤコッブがホットドッグを売っていたのを話すことにした。
ロラン「そうそう、ソシエお嬢、いや、ソシエ、さん、このホットドッグ誰が作ったか知
    ってます?聞いたらきっとびっくりしますよ。だってあの二人が・・・」
そこまで話したところでロランの話はさえぎられた。ソシエが急に口を開いたのだ。ほん
の少しだけれど、思いつめた顔をして。
ソシエ「ねぇ、ロラン、ロランは私のこと、どう思ってるの?」
そのとき確かに、風が吹いた。

 ソシエに、私のことどう思うの?と訊かれて、ロランは心底困ってしまった。ひとつ
には、うかつに返答すれば何もかも台無しにしかねない、ということがあるが、何より
も問題なのはロラン自身、ソシエのことをどう思っているかがはっきり分からないから
だった。
 ロランはキエルやディアナにソシエ以上の憧れを抱いている。しかし同時にソシエに
も、あの二人にはない身近な親しみを感じている。さらにそれらが恋愛感情か?と考え
れば思考はいっそう泥沼にはまっていってしまう。ふつうの17歳ならこのことで一日
中悩んでいられたかもしれないが、兄弟の家事を一手に引き受けているロランには、今
日までその余裕さえなかった。結局、ロランにはお茶を濁すような答えしかできない。
ロラン「ソシエお嬢さんは、素敵なひとだと思っています。今日一緒にいれて、僕は、と
    っても、幸せですよ。」
ソシエ「そう、ありがと。ロラン、今日はお嬢さんはやめてっていったでしょ。」
 は、はいと返事しながら、ロランはふと違和感を感じた。いつもならソシエは、ロラン
に曖昧なところを見つけると、容赦なく追及してくる一面があるのに、今はそれをしない。
ソシエ「ところでこのホットドッグ誰が作ってるの?」
ロラン「ああ、それ、ブルーノさんとヤコッブさんがつくったんですよ。」
ソシエ「あの二人が?結構器用よね、あの二人。前は人形劇なんかやってたし。」
 ソシエは屈託なく笑いながら、ホットドッグに噛み付いたり、ロランの口元についたケチ
ャップをふいてやったりした。そんな楽しげな様子を見たロランは、とりあえずこれでよか
ったのかな、と思い、二人の間で交わされる他愛のない会話を自然に楽しむことができた。
 ソシエには、ついロランの気持ちを訊いてしまった時点で、はっきりした答えが返ってこ
ないことが分かっていた。だったらせめて今日だけでも彼女は、ロランと楽しく過ごしたかった。

 公園でゆったりとした時間を過ごした後、二人は映画館へとやってきた。時刻は3時過ぎで
客も多く、本来見ようと思っていた恋愛ものは見られそうになかった。
ソシエ「チケットぐらい買っておきなさいよ。ったく、しょうがないからちょっと子供向けだ
    けどはりー・ポッターでも観る?」
ロラン「そうですね、たまにはこういうのもいいですよね。」
 二人が席に座って上映開始を待っていると、またもやロランの耳元に聞き慣れた声が届けら
れた。談笑しながら隣の席に入ってきたのはアルとクリスとバーニィだった。
アル「あ、ロラン兄ちゃんも『はりー・ポッターと黄金の魂』観るんだ。パンフレット、見る?」
そういってアルが二人に渡してくれたパンフレットにはこう書いてあった。

 意地悪な親戚と暮らしていた11歳のはりーはある日、急に魔法使いだと知らされて
ムーンレィス魔法学校の、シンエイタイ寮に入ることになる。そこでであった尊敬すべ
き寮監ディアナや、仲間達。赤いゴーグルをきらめかせ、黄と黒のローブをはためかせ、
金色の箒、ゴールドタイプを駆るハリーの雄姿を、心の底からお楽しみください。

ソシエ「なに、これ。」 アル「始まるよ、お姉ちゃん。」  以下、映画名場面

丸フォイ『シンエイタイはディアナの尻をおっかけてればいいんだよ!』
はりー『ディアナ様の尻と言ったかぁ!スニッチは渡さん、いけぇゴールドタイプ!
    ユニヴァース!!掴んだ、これで我がシンエイタイがクィディッチに優勝だ!』

はーまいえる『一言好きとおっしゃってくれれば、あなたのためになんだってするのに。』
はりー『その代わり愛するというのでは、それでは貧しいでしょう。』 

映画を見終わったあとのアルは大喜びで、やたらとバーニィやクリスに向けて、ユニヴァー
ス!とさけんでいたが、ロランとソシエにはすこし内容が子供向け?過ぎたようだった。

 ロランとソシエは映画を見終わった後、アルたちと分かれ、喫茶店でコーヒーを
飲んでいた。時刻はすでに6時ごろであり、ロランは夕食をどうするか考えていた。
ロラン「あの、ソシエさん、夕ご飯どうします?」
ソシエ「あんた、考えてなかったの。そう、じゃあ私がウチでご飯作ってあげるわ。
    遠慮しなくていいのよ、お父様とお母様も組合の旅行でいないし、お姉様
もハリーさんと出かけてるし。」
 ロランは畏れ多いのと、ソシエお嬢さんって料理できたっけな?という不安とで
その提案に賛成しかねたが、やっぱりソシエに押し切られてしまい、結局ハイム家
でソシエの手料理をご馳走になることになった。
ソシエ「あんた私に料理なんかできないって思ってるんでしょ、思い知らせてやる
    んだから。メニューはカレーよ。(これなら私でも出来るしね。)」
 二人はスーパーで材料を買い揃え、ハイム邸のキッチンにてカレーを作る準備に
とりかかった。エプロンを着けたソシエに、ロランは胸の鼓動が一瞬強く、はやく
なったのを感じ、それをごまかすために手近にあった人参に手を伸ばした。すると
それをみたソシエが鋭く、
ソシエ「ロランは何もしなくっていいって言ったでしょ!座って待ってなさいよ!」
そう怒鳴られてロランは、僕も手伝いますよ、と言ったのだがソシエは聞き入れず、
何がどうしても押しに弱いロランは、食事をするための部屋で一人、料理が出来る
のを待つことになった。
 しばらくすると一人で時間を持て余していたロランの耳に、案の定かそうでない
かはともかく、ソシエの、アクシデントを告げる声が響いた。
ソシエ「ロラーン、バンドエイド、バンドエイドはどこにあるのー?」

ソシエの声を聞いて慌ててロランがキッチンに入っていくと、ソシエは左手の人差し指
に血をにじませていた。どうやら玉ねぎを切っていったときにやってしまったらしい。ロ
ランはキッチンに置いてある救急箱からバンドエイドを取り出した。このへん、ロランの
ほうがハイム邸のキッチンに詳しい。
ロラン「やっぱり、僕がやりましょうか?怪我してしまったら………」
ソシエ「なによ、私には無理だって言いたいの!指の一本ぐらいなんでもないわよ!」
ソシエの怒声がキッチンに響き渡り、ロランは再びキッチンから叩き出されてしまった。
 その後一時間半ぐらいして午後9時を少し回ったぐらいの時間になってから、ようやく
ソシエが二人ぶんのカレーをお盆に載せてやってきた。バンドエイドを巻いた指が二本ほ
ど増えている。ロランは先程から鳴り始めたおなかに、カレーの匂いを漂わせる空気が快
よく入ってってくるのを感じながら、材料を買ったのに付け合せのサラダが出てこないこ
とと怪我した指が増えていることには触れないようにしようと思った。
それぞれが席に着き、ロランは少しカレーを見つめ、口に入れてみた。意外とおいしいな、
もっともカレーをまずく作るのは、おいしく作るよりよっぽど難しいけど。
ロラン「このカレー美味しいです、ソシエさん。」
ソシエ「どうせ、お姉様がつくってくれたほうがいいんでしょ。どうせ私はカレーを作る
    のに精一杯で、サラダを作ることも忘れてたわよ。」
ロラン「そんなことないですよ、ソシエさんがわざわざ作ってくれて、僕、嬉しいです。」
ソシエ「そう、お世辞ありがとう。(手料理作戦はとりあえず成功かも。猛特訓の甲斐が
あったわ。カレーごとき作れるようになるまでにどんなに苦労したことか……)」

※ 一応ソシエは右手に包丁を持ってるんですが、利き腕どっちだったでしょうか。

 ソシエの手料理を食べながら、ロランは一家の食を預かるものとして、色々と不満な点
を見つけたが、口には出さなかった。料理下手なソシエがわざわざ自分の為にカレーを作
ってくれたのが嬉しかったからだ。一方ソシエは、多少問題はあるけど、とりあえずカレー
は作れたわけだし、今度は肉じゃがとかコロッケに挑戦しようかしら、家庭的な
とこから攻めるのよ、ソシエ、と思っていたりしたが。
 食事の間やその後も、二人の間では和やかな会話が続いていた。たいていはソシエが話し
役で、ロランは、合いの手を入れたりしている。話は弾み、気付いてみると時間は10時半を
回っていた。
ロラン「あ、もうこんな時間ですね。明日も早く起きて朝ご飯を作らなきゃならないし…」
ソシエ「帰るの、そう、じゃあ玄関まで送っていってあげる。」
 玄関から出て見送るソシエと向かい合ったロランが、おやすみなさい、ソシエさん、と
言うと、ソシエは3秒ほど間を空けてから、すこしドギマギしながらロランに頼んだ。
ソシエ「呼び捨てでいいわよ。というか、今だけでもそうしなさい、ロラン。」
ロラン「え?そ、そんな、………えっと、こ、こうですか?お、おやすみ、ソシエ。」
ソシエ「おやすみ、ロラン。」
 そう言うと同時にソシエは、ロランの左の耳元の髪をなでた。プラチナの美しい
髪がきゃしゃな指に乗って遊ぶ。ほんのすこしの時間そうした後、ソシエはもう一
度、お休み、ロラン、と言い、後ろを向いてドアの向こうにきえてしまった。
 突然のことに驚いたロランは、すこし立ち尽くしてから、帰途に着いた。空に鮮やか
に浮かぶ満月を見上げながら、ロランは兄弟のことよりも、ソシエのことを考えていた。

終わり。



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最終更新:2018年10月30日 15:45