シャクティの家の庭。と言っても道路と自宅の間の僅かな地面の部分。
この前植えたジャガイモの芽を見つめるシャクティ。芽はカサカサに枯れていた。
シャクティ「・・・何故、私の家の周りにはぺんぺん草さえも根付かないのかしら。」
丁度そこへ猛スピード急停車でシャクティの横にぴたっと止まる一台のオープントップのスポーツカー。
シーマがハンドルを握っていた。
シーマ「はぁい、シャクティ!元気にしてた?」
シャクティ「シーマさん、今日は。この前贈ってもらった難民用非常糧食、たくさん美味しくいただいてます。」
シーマ「なぁに、あんな物で良ければお安いご用さ。今日は天気がいいから遠出して海でも見てこようと思ってね。」
シャクティ「・・・ええ、今日はいいデート日和ですものね。」
満面の笑みを浮かべるシーマの横には、虚ろな目で曖昧な微笑みを浮かべるコウの姿があった。
シーマ「うふふ、実はシーサイドホテルの最上級スイートに予約入れてあるんだよ。この前の温泉旅行がフイになっちまったから
今日はその埋め合わせさ。」
シャクティ「・・・素敵、良かったですね、コウさん。」
コウ「ア、はは、は・・・」
シャクテイの在らぬ方向を見つめ、力なく笑うコウ。
シャクティ「(よほど嬉しくて周りに見せびらかしたいのね、シーマさん。だからこの寒空にオープンカーで・・・)」
シャクティ「でもシーマさん、コウさんは私の沐浴姿を見て鼻血を噴くほどウブな
敏感ルージュなんです。今夜に向けて気合が入るのも分かりますけど、お手柔らかにしてあげて下さいね。」
シーマ「んまー、そうだったのかい坊や!それでさっきからこんなに緊張しまくってたのかい。大丈夫、最初は刺激が強すぎないように優しく易しくしてあげるから。
んでもって、鼻血じゃなくて違う物噴かせてあげるからさ・・・って子供の前で何言わすんだいもうっ!」照れまくってコウの背中をバンバン叩くシーマ。コウは曖昧な虚ろ笑みでなすがまま。
シャクティ「2人とも楽しんできて下さいね。ア、
お土産はバンドウイルカを鯨と称して売ってる怪しい缶詰だと嬉しいです。」
シーマ「あいよ、任しときっ!それじゃ行くよ。じゃーねー!」
二人を乗せたコンバーチブルは走り去り、シャクティは天使の作り笑いで見送った。
ふと、シャクティは在る事に気づき、思わず声に出した。
シャクティ「・・・質量不変の法則ね。」
一方がプラスになるともう一方はマイナスになり、ありとあらゆる物のバランスを保つ自然の理。それはこの世の有象無象に作用し、、例えば人の幸せにも作用するとか。
大量の食料が届いた途端にジャガイモが枯れた、浮かれポンチ絶頂のシーマと断崖絶壁に直立不動のコウ、これらも幸福量の質量不変の法則により調和を成しているのだ。
そんな事をつらつら考えながらシャクティは在る事を思いつき、言葉に出した。
シャクティ「そうだ、お土産がきたらティファを呼んでご馳走しよう。」
そう言ってシャクティはそそくさと家の中に入った。
その時知らずに踏みにじったジャガイモの芽はそのままずっと枯れ朽ちていた。
完
最終更新:2018年10月31日 20:59