兄弟達が通っている学校の放課後、カミーユとシーブックが教室でのキャッチボールを
終え、そろそろ帰るか、と話していると、教室の反対側から頬を寄せ合ってなにやら相談
しているらしいジェリドとマウアーの声が漏れ聞こえてきた。
ジェ「マウアー、これ、俺のこの前の模試の結果なんだけど、お前どう思う。」
マウ「そうね、あなたの実力ならきちんと努力すれば大丈夫だと思うけど。それに、奇遇
ね、私もその大学に行きたいって思ってたのよ。」
ジェ「本当か、マウアー。でもお前の模試、他の大学が第一志望だったんじゃないのか。」
マウ「あれは適当に書いただけよ。それに、私、あなたのそばに……」
相変わらず仲の良いことで、俺もセシリーともっと上手くやれたらなぁ、シーブックが
そう思ってカミーユの姿を探すと、カミーユは既に二人の間に割って入ろうとしていた。
今日はファもフォウも機嫌が悪かったため、カミーユはどちらにもかまってもらえなかっ
たのだ。そのイライラがジェリドとマウアーの熱愛ぶりでちょっとした限界に来ていた。
カミ「どうせジェリドには無理だよ、まだ時間はあるけどここって結構名門じゃないか。」
ジェ「なんだとカミーユ、お前に言われたくないな、成績は俺のほうがいいんだぜ。」
カミ「ちょっとの差だろ。お前はいざってときに弱いからな。」
ジェ「自分だけが特別だと思うな!お前こそ精神的に弱いだろうが!」
つかみ合いの喧嘩に発展しそうなところを、シーブックとマウアーがそれぞれカミーユ
とジェリドを抑える。
シー「よせよ、カミーユ、お前が悪いって。なにやってんだよ!」
マウ「ジェリド、およしなさい。」
カミ「教室でいちゃいちゃしやがって!そんな生徒、修正してやる!」
ジェ「俺はお前ほど女を口説いちゃいない!お前と違ってマウアーひと筋だ!」
ジェリドの恥ずかしい叫びが炸裂し、ジェリドとマウアーはもちろんカミーユとシーブッ
クまで真っ赤になったところで殴り合いは回避され、揉め事もそれっきりで終わった。
その後、家路につきながらカミーユとシーブックはこれからの進路について話し合った。
カミ「俺たちの場合、大学にいけるかどうかっていうのはさ、成績より学費の問題だよ。」
シー「だよな、でもカミーユさ、お前大学行く気なのか?」
カミ「実は俺よく考えたことないんだよな、お前はパン職人にでもなるのかよ。」
シー「俺もそこまで考えてバイトしてるわけじゃないよ。セシリーの近くにいれるからや
ってるところもあるからさ。」
カミ「ロランにも相談してみよう。あいつはハイム家の使用人としてやってくのかな。」
シー「ウチにとっても欠かせないよな。この前アムロ兄さんがロランのこと間違えてさ、
ミライさんって呼んでたもんな。」
カミ「おふくろさん、てことか。たしかにウチの母親的ポジションだもんな、あいつ。」
カミーユとシーブックとロランは同じ17歳であるため、3人だけの連帯感というもの
がある。とくに今回の場合、これからの人生どうするのか、ということに関して一種の選択を迫られている仲間なのだ。
2人が家に帰ってくると、ロランは慌ただしく食事の準備を整えていた。お帰りなさい、
と声を掛ける時間も惜しむように手早く料理をテーブルに並べていく。相談するのは食事
の後にするか、そう思ってカミーユが自分の部屋に向かおうとすると、聞きなれた大声が
風呂のほうからリビングに接近してくる。
ギム「うむ、いいお湯であった。小生は満足の一歩手前である、ローラァ!」
シー「なんとぉー……ついに人の家の風呂にまで入るようになったのかよ。」
ギム「おお、
シーブック君、お帰りである。」
ロラ「満足の一歩手前ってどういう意味なんです、ギンガナムさん。」
ギム「
風呂上りにはビールだということである。それがあってはじめて満足と言える!」
そういうとギンガナムはアムロやシローのために冷蔵庫に置いてある缶ビールを取り出し、
ごくごくと飲み始めた。さすがのカミーユも突っかかっていく気をそがれてしまった。
カミ「あんた、いったいウチのなんなんだよ……。」
残業やらなんやらでカミーユ達より年上の兄弟は今日は遅くなるらしい。食卓では
コロッケが美味しそうに湯気を立てている。
ジュドー「あれ、アルお前も風呂はいったのか。」
アル「うん、ギンガナムさんと一緒にね。楽しかったよ。コロッケ美味しいね。」
キラ「なんか、すっかりなじんじゃってますね。僕も違和感ないし。ガロード、ソース。」
ガロード「あんがと。(もしも、もしもだぜ、俺とティファが結婚するとしたら、ギンガナ
ムのオッサンまで俺の家族として結婚式に出席するんじゃないか、こりゃ。)」
ギム「今日の夕食も旨いのである。みんなー、地球はいいところだぞーー」
ウッソ「早く帰ってこーーい、ユニヴァース、ユニヴァース!って、このセリフを僕らが
言うなんて、おかしいですよ!ギンガナムさん!!」
そんな一家団欒?な夕食の後それぞれが部屋に引き上げていき、カミーユとシーブックは
話を切り出した。どうにも後片付けが気になる様子のロランをみて、ヒイロが今日は自分が
やろうと言い出した。
ロラン「ありがとう、ヒイロ。」
ヒイロ「問題ない。気にするな、皿洗いなんて安いものだ。とくに俺の場合はな。」
傍らでヒイロが皿洗いをする音を聞きながら、3人はこれからの進路について話し合った。
カミーユ「で、ロランはハイム家の使用人でいいのか、これからさ。」
ロラン「うん、僕はそれでいいと思ってるんだけど。シーブックはどうなんだよ、カロッゾ
さんのところでパン職人になるっていうの。
キースなんかはそうして頑張ってるけど。」
シーブック「そんな深く考えてないんだよな、俺。それも悪くないとは思うけどさ。」
カミーユ「ロランはよくそんなに考えてるよな。俺なんか特に何もないよ。」
ロラン「家計なんだけど、二人には正直に言うけどやっぱり苦しいのが実情なんだよね。」
シーブック「そうなると奨学金は必須だな。でもやってみればなんとかなるかも。」
と、そのときまだ帰らずにお茶を飲んでいたギンガナムが話しに割って入った。
ギム「ローラは進路をある程度決めているようだが、シーブック君とカミーユ君はまだの
ようだな。どうかな、我がギンガナム隊に入り、闘争の世を築くというのは。」
はぁ?という顔で三人がギンガナムを見返すと、一同の顔を見回しながらギンガナムが
続けた。
ギム「小生としてもありがたいのである。我が野望の実現のためには優秀な部下が不可欠。
どうだ、二人とも待遇は良くすると約束しよう。悪い話ではないと思うのであるが。」
ふと考え込むような表情になってしまったカミーユとシーブックをみて、ロランが身を乗
り出して反論する。ロランは頭のてっぺんから足の指先まで、ディアナ様万歳!だ。
ロラン「それじゃディアナ様に敵対することになる!二人ともそんな申し出受けませんよ。
ウチはみんなディアナ様の味方なんですから!(勝手に断定)」
カミーユ「ちょっとまてよ、ギンガナムさんもロランも。俺達は別に……」
ギム「我がギンガナム家を選ぶべきである。後悔はさせんよぉ、二人ともぉ!」
ロラン「むしろシーブックもカミーユもディアナ様の親衛隊に入ればいいんだよ。ハリー
大尉とディアナ様に頼んでみようよ。」
シーブック「いや、ちょっとおかしい方向に話がいってないか、これ。」
カミーユとシーブックの意向を完全に無視して、親衛隊、ギンガナム家と言い合うロラ
ンとギンガナムの間にヒイロがさらに口を挟んだ。
ヒイロ「リリーナは完全平和主義を唱えている。もしもリリーナの敵になるというのなら、
俺はそれが誰だろうと排除する。」
ギム「それでは完全平和でもなんでもないではないかぁ!子供の妄想も大概にすべきであ
る。ディアナよりも無茶なことを言うとはなぁ!」
ヒイロ「分かっている。それでも俺はリリーナのために戦う。」
ギム「ディアナにとってのハリーのようなものかぁ!よくも人生を無駄にする!」
もはや自分達の進路とは全然関係ない言い合いを続ける3人の傍らで、カミーユとシー
ブックはどうでもいいよ、というような気分になってしまっていた。
カミーユ「ヒイロのヤツは進路が決まってるんだな、えらいよ全く。ロランもあんなに俺
達をディアナさんの親衛隊に入れたがるんなら、自分が入隊すりゃいいのに。」
シーブック「あいつもあれで気が多いからなあ、ハイムのお嬢さんがたも捨てがたいって
ことだよ、きっと。」
終わり。
最終更新:2018年10月31日 21:25