968 名前:通常の名無しさんの3倍 :2010/07/29(木) 06:02:00 ID:???
私はシャア=アズナブル。三十とウン歳
今日は仕事を休んでクルーザーで外洋へとバカンスに来ている。
「今日"も"の間違いじゃないのかい?」
人の心の中に土足で入り込むのは辞めて貰いたいものだ。
釣り竿を引き上げる私のメモリークローン。
「大量だな、アフランシ」
「まあね。そっちは白い人が居ないとやる気がでないのか?」
「私の場合は放っておいた方が釣れるのだ」
逆に釣りたいと思ったものは手に入らなかったりするが。
「鯨でもみたいものだな」
「運があれば視れるさ」
「運か……悪運なら強いという自負があるのだが……む?! アフランシ、あれを見て見ろ」
「なんだい?」
私は双眼鏡をアフランシに渡した。
「マンボウ、だな」
南西数十㎞先の海面が、マンボウに埋め尽くされていた。
「死んでいる訳じゃない。マンボウは元々、身体を平らにして浮遊する事もある魚だ」
ウェットスーツでマンボウの海に飛び込んだアフランシがそう伝えてきた。
「マンボウは日向ぼっこの好きな魚なんだ」
「何かの気象異常でも起こったのかと思ったぞ」
「それはそうさ。そういう可能性は否定できない。この数は異常だから」
クルーザーに上がったアフランシは水気を払いながら海面を眺めた。
「マンボウはサンフィッシュ……太陽の魚なんて言われるけどね」
「ふむ、これだけ太陽があればコロニーのエネルギー不足も解決できるものだが」
私の冗談にアフランシは首を竦めてみせた。
「食べてみるかい?天ぷらにすると中々美味しいんだ。すぐ腐るから市場には出回ってない珍味さ」
「安全性を確保してからだな。といっても私達にできることと言えば、然るべき処に連絡を入れるぐらいだが」
「シャアのおじさん!」
マンボウ達を掻き分けて、ボールが浮上してくる。
正確にいえばボールの形をした潜水艇であり、それは見知った顔が使っている機械だった。
「シュウト君、私はまだオジサンという歳ではない!」
969 名前:通常の名無しさんの3倍 :2010/07/29(木) 06:02:55 ID:???
SDGFの仕事……というよりアルバイトとして海洋調査をしていたシュウト君は、ボール型潜水艇の燃料補給を願い出てきた。
「本当は基地に戻って他の海域の調査をしているガンダイバー達と一緒に協力したいんだけど……」
「時は一刻を争うという状況なのだな?」
この辺りはミノフスキー粒子が濃く、レーダーが使えない。
仲間と連絡をとりたければその足で向かうしかないのだ。
「船底に
ネオジオン社のマークがあったから、もしかしてと思って」
「私達の力を貸して欲しいと?」
「あ、でも深いところまで潜らないといけないんだ」
「問題ない。こんなこともあろうかと私のズゴックを持ってきた」
「それで?一体何が起こっているんだい? このマンボウと関係があるのかな」
「うん、実はあのマンボウ達は逃げてきたんだと思う。マンボウは200m以深の深海から海面まで行き来できるから」
「つまり……深海で何かが起こっている?」
アフランシの問いにシュウト君が頷く。
「海水汚染ってヤツかな? キャンサーとドーシート、グーンなんかの残骸からオイルとかが流れているのを見つけたんだ」
「なるほど。取り敢えずそれを撤去しようと言うわけだな。この辺りの海底地形図は持っているかな、シュウト君?」
「うん、潜水艇に搭載していあるよ」
「ではそれをこのクルーザーにコピーさせてもらおう。アフランシはそのデータを使ってクルーザーから私達に指示を出してくれ」
「了解した。ズゴックを出すときはシュウト君のように静かに頼むよ」
「何故だ?」
「マンボウはああ見えて繊細な魚なんだ。水面に叩きつけられた衝撃で死んでしまうこともある」
「私にできるかな?」
「赤い彗星がよくも言う」
アフランシの顔に"楽しそうだな、シャア=アズナブル"という意志が見える。
どうやら私は呑気に釣りや鯨を見ているより、MSの操縦桿を握る方がココロオドル人間らしい。
我ながら度し難いものだ……そう思いながらズゴックのコクピットに座る。
暫く使っていないコクピットは防虫剤の臭いがした……
「これはザンスカール系列のMSに破壊されたようだな」
無造作に引き裂かれたようなドーシートの装甲をズゴックの爪で縫い合わせる。
気休めではあるが、傷口から機械油が流れ出てたまま運ぶよりはいい。
「分かるの?」
「ムチとタイヤの後だからな」
私はこれらの破壊されたMSに共通のマークがあるのを見つけ、海上のアフランシに画像データを送った。
「知っているか、アフランシ」
『これはここら辺で活動していたオルク……海賊のマークだよ』
「海賊か。するとザンスカールによって退治された者達の成れの果てと考えていいのだろうな」
『そうだな。だが、粛清をするだけして、後はそのままでは地球クリーン作戦が聞いて呆れるよ』
「コロニーに住む人間にはそういうところがある」
スピーカー越しにアフランシの困惑した表情を感じる。
「宇宙の人間は地球の回復力というものに過剰に期待しすぎるきらいがあるということだ」
「悪いことをする人を排除すれば、地球は元気になるって考えてるってこと?」
「そうだな、シュウト君。だが、人間がそこにいたという事実を完全に消し去る事は容易ではないのだ」
「こんな乱暴な方法で地球を綺麗にしようとして、それで逆に地球を汚してしまったら意味なんてないのに……」
『そういう連中は、自分達が汚れした地球を見て何て思うんだろうな』
「世捨て人にでもなるのだろうさ……」
一枚の壁を隔てた先に真空という死しかないコロニーで育った人間には、地球の持つ巨大な循環システムを
感覚として理解することが難しいのだ。逆を言えば、宇宙で育った人間の切迫感を地球育ちは理解できまい。
「アフランシ、シュウト君、君達にこの所業を許せとは言わないが、理解はして欲しい
彼らは彼らなりに地球の事を思ってはいるのだろう。……引き上げるぞ」
シュウト君と私でMSの残骸を纏め、鎖で固めると、アフランシに鎖の巻き上げを開始した。
970 名前:通常の名無しさんの3倍 :2010/07/29(木) 06:05:03 ID:???
海上に出る頃、海は夕焼けの色に染まっていた。
MSの残骸は偶然にもアフランシが船影を見つけ、信号弾で呼んだジャンク屋のロウ=ギュールに引き取ってもらった。
「わぁぁ! 見てよ、シャアのおじさん!」
(むう……ナナイの気持ちが少しわかった気がする)
「水面に浮かんだマンボウの皮膚が夕日に反射しているな。なかなか見れない光景だ」
「アフランシ、あのマンボウが私には人間に見えるよ」
「おじさん、目大丈夫?」
「うぐ……」
「格好つけるからだ、オリジナルの記憶の僕」
しかしだ、深海から海上まで行き来できる姿は人間が地球から宇宙へ活動の範囲を広げた、その行動力に
そして衝撃で死んでしまうような脆さも、また人間の特徴にも思えるのだよ。
「そして、こうして美しく温かい気持ちにさせてくれるのもな」
「ああ、そうかも知れないな。ところでナナイ嬢から連絡が入った」
「ん?」
「例のヅダでネオジオン社の株価が暴落だそうだ」
なぜだ……久々に"
綺麗なシャア"だったのに……
「自分で言うな」
これは私の涙か……
「他人のセリフを取るな」
今の私はクワトロ=バジー…
「逃げるな」
(さっきからアフランシさんがシャアのおじさんに一方的にツッコんでるけど
これがNT漫才なのかなぁ……?)
最終更新:2014年09月14日 22:44