9 名前:ガーデニングテロと緑茶オレ 1/7 :2010/07/30(金) 20:14:05 ID:???
推敲完了、7レス投下します。
「あー、今日もあっつい、家出たころは薄曇りでまだ涼しかったのに……ただいまー……あれ?」
その日、バイトが昼で終わったシンが帰宅すると、いつも(今のように学校の休みの時期はなおの事)賑やかな
ガンダム家には
珍しい事に家人の気配が感じられなかった。
おそらく、皆買い物やバイト、遊びなどで出かけているのだろうか。
社会人組が仕事なのは言わずもがなである。
「何だよ無用心だな、玄関の鍵あけっぱじゃんか」
「──えりなさーい」
「……ん?庭の方から?」
鍵がかかっていなかったのは庭に人がいたからか。
だがこの炎天下、庭でいったい何をやっているのかが少し気になった。
現在地は玄関、一旦家の中に入るよりはそのまま外から回った方が早いだろう。
そう判断したシンは、スニーカーからサンダルに履き替えると念のために玄関の鍵を閉めて声の聞こえてきた方向に歩き出した。
「ああ、お帰りなさいシン兄さん。お疲れ様です」
「こんにちはシンさん、お邪魔してます」
果たして、庭の奥にいたのは二人の少年。
一人は自分の弟、もう一人は……。
「ウッソにハサウェイ、どうしたんだよ二人して畑でも花壇でもないこんな所で。こんな暑い日に草むしりか?」
「ええ……」
「草むしりと言うか、カウンターテロ?」
「はぁ?」
10 名前:ガーデニングテロと緑茶オレ 2/7 :2010/07/30(金) 20:15:06 ID:???
ウッソとハサウェイは、意外と仲が良い。
同い年ということもあるのだろうが、植物学を学ぶハサウェイと、自分で畑を世話しているウッソ。
興味の向いている方向がうまくかみ合ったのだろう。
一緒に研修に参加したり、時々ハサウェイがウッソの畑を手伝いに来たりと、なかなかうまくやっていっているようだ。
この日もハサウェイが手伝いに来る日なので、ウッソは畑仕事用の服装に着替え帽子をかぶると、今日も今日とてPCのモニターの前に
張り付く同室の兄に一声かけて外に出ることにした。
「じゃあキラ兄さん、僕は畑に出てますんで」
「ん~」
気のない兄の返事を背中で受け流し、一階の台所にある裏口から外へ。
最近はハサウェイが来たときは玄関先から庭を回って直接裏の畑に来てもらっている。
一々自分も玄関を経由するよりは手っ取り早いからだ。
勝手知ったる他人の庭先……といった所だろうか、ハサウェイも最初こそ遠慮していたものの、
今はもう裏口で台所のロランに挨拶してからすぐ畑に来るのがおなじみのパターンになっていた。
だから、庭から聞こえてきたハサウェイの呼び声にはちょっとびっくりさせられ、その呼びかけの原因を目の当たりにしたウッソは
ハサウェイよりもさらに大きな声──悲鳴を上げる事となったのである。
11 名前:ガーデニングテロと緑茶オレ 3/7 :2010/07/30(金) 20:16:32 ID:???
「最初は普通に植えたのかな、とも思ったんですけどまさかウッソがこんな畑の近くに危険物を放置しておくとも思えなくて」
「確かに一月前、プランターをここに三日間程置いていたけどまさか脱走してたなんて……油断してたんですよ!」
「ふーん……これってそんなに危険なのか?何かあたりがいい匂いしてるし、そんなまずいとも思えないけど」
「「甘いですよシン兄さん!」さん!」
その危険物とは、ミントだった。
ぱっと見畳一枚分程の面積をひっこ抜かれたミントは縁側前にしかれたビニールに積み上げられ、特有の香りを漂わせていた。
原因と言われたプランターは、ロランがお菓子作りに使いたいとのことで一鉢入手したのだがなかなか置き場所が定まらず、
しばらく家のあちこちを転々としていたのをシンは覚えている。
結局、裏口前のコンクリートブロックの上にそのプランターは落ち着いたのだが。
「シン兄さん、甘過ぎです!植えたわけでもなく脱走しただけのこぼれ芽が、たった一月でこれだけ広範囲に広がったんですよ!?」
「ミントは地下茎でも増えるし繁殖力も生命力も強いから、放っておいたら他の植物全部駆逐されてしまうんですよ。まさに爆発物テロです」
「そ、そんなに凄いのか!?」
「迂闊な雑草よりもよっぽど性質が悪いです、あー普段は裏口から直で畑だったから!庭の方ももっとちゃんと見とけばよかった!
ハサウェイが気づいてくれなかったらどうなってたか……」
頭を抱えるウッソと、まあまあとなだめるハサウェイ。
一ヶ月で結構な面積に広がったミントはさんさんと降り注ぐ日光を浴びて生き生きしている。
12 名前:ガーデニングテロと緑茶オレ 4/7 :2010/07/30(金) 20:17:33 ID:???
「それで二人して必死に引っこ抜いてたのか」
「一株でも残っていたら復活しかねませんから」
「そ、そんなに物凄いのか……」
「これでもし復活されたら後はもう熱湯撒くしかないです、土が死ぬから最後の手段だけど畑まで入って来る事も考えると手は選べません」
真剣、というよりむしろ悲愴な顔のウッソ。
そういえば大元となったプランターのミントも世話がいいのかワサワサと茂り、しょっちゅうむしってはお茶だゼリーだアイスの添え物だ、と
活用されてなお『我が世の春!!』といった風情の元気さである。
「そっか、じゃあ俺も手伝うよ」
「え、良いんですかシン兄さん」
「バイト帰りなんですよね、お疲れなんじゃ」
「そんな話聞かされてほっとく訳にもいかないだろ?」
「助かります兄さん、残りは畳1.5帖程度だから三人がかりならすぐですよ!」
「ありがとうございますシンさん、あ、でも帽子かぶって軍手はいてきた方がいいかも」
「ん、わかった。ちょっと待ってろ」
「ミントの匂いが漂ってるから虫除けはいらないかも……ん?」
頭上で窓を閉める音がしたようだったが気づいたのはハサウェイだけだったし、大した事でもないと感じすぐに意識から外してしまった。
14 名前:ガーデニングテロと緑茶オレ 5/7 :2010/07/30(金) 20:20:35 ID:???
まず、お湯の用意。大した量を使うわけでもないが電気ポットを見ると水が足されていなかったので、満水まで注ぎ足し再沸騰ボタンを押す。
その間に材料の確認。
緑茶良し。ガムシロップ良し。牛乳良し。氷はミキサーに放り込んでスイッチオン、クラッシュアイス良し。
背の高い、大振りなグラスを四つ用意し、氷を満たす。
急須の緑茶にお湯を注ぎ、しばらく待って濃い目に、抹茶並みの濃さで出す。
グラスの半分まで緑茶を注ぎ、ガムシロップを足したら、残りの容積は牛乳で満たす。
ストローをさし、緑茶オレの完成。
少し考え、プランターからむしったミントを一茎添えてみた。小洒落て良い感じになった。
おやつを探すと、戸棚に歌舞伎揚げが入っていた。
弟二人だけならそのまま出しても問題ないだろうが、今日はお客が+1だ。
適当な鉢を引っ張り出して歌舞伎揚げを盛り、お盆にグラス三つと鉢を載せ、縁側に持っていく。
三人ともこちらに背中を向けてミント根絶に一生懸命になっている。
シンはともかく、ニュータイプのウッソとハサウェイがこちらに気づかないのだから相当必死になっているのだろう。
お盆は縁側に置き、何となく駆除されたミントの山から折れた一枝を手に取る。
抜いたものを纏めてここに置いているのなら、声をかけずともおやつにはすぐ気がつくだろう。
見た限りでは作業もそろそろ終わりのようだった。
ミントを持ったまま台所に戻り、空っぽのジャムの瓶に水をいれていけてみる。
グラスにびっしりと汗をかいた自分の分の緑茶オレとミントのささった瓶を持って、エアコンが切ってあるため
熱が皮膚に染み込んでくるような台所からとっとと冷房を効かせた自室に戻ることにした。
15 名前:ガーデニングテロと緑茶オレ 6/7 :2010/07/30(金) 20:31:08 ID:???
「よし、これで全部か!?」
激戦の跡を見下ろす。
ドモンのトレーニングや何やらで踏み固められた部分にミントの駆除跡が繋がって、露出した地面が歪なひょうたん型を
描いていた。
「どうやら飛び火した株も無いようです。ハサウェイ、兄さんもお疲れ様でした、ありがとう」
「それじゃあ畑の方に行こっかウッソ」
「おいおい、こんな暑い中そのまま連戦かよ!?一旦休憩入れようぜ、体壊しちまうぞ?」
「そうですね、ちょっと喉も渇いたし……あ」
「どうしたのウッソ……あ」
「お、おやつじゃん」
外付けの水道で手を洗い、縁側に三人で腰を下ろしてのおやつタイム。
「汗かいたからしょっぱいモンが美味しいなぁ」
「ええ、それにこの緑茶オレも美味しいですね、味のバランスが絶妙です」
「うん、美味しーよな!」
抜かれたミントのメントール効果か、縁側には虫も近寄ってこないようだった。
「なあ、抜いたミントはどうするんだ?コンポスト(生ごみ処理機)行きか?」
「根っこが生き残る可能性があるからだめですね。食用はプランターの分で間に合いすぎるくらいだし……。
洗って泥を落としてお風呂にでも入れますか」
「薄荷湯かぁ、いいねそれ。僕も貰って帰っていいかな?母さんやチェーミンも喜びそう」
「好きなだけもってって、今日は本当助かったよ、ありがとうハサウェイ」
日光はいまだ強いが、縁側はほのぼのとしている。
「そういえばおやつが出てるってことはロラン兄さん帰ってきたのかな」
「あ、今日はディアナ様の所に行くから帰ってくるのは夕方だって言ってましたよ」
「え、じゃあこれ誰が……」
16 名前:ガーデニングテロと緑茶オレ 7/7 :2010/07/30(金) 20:34:52 ID:???
「ただいまー!」
「ただいま戻りました」
ガンダム家の夕暮れ。
外出していた家族たちも三々五々帰宅してきて、いつもの賑やかさが戻ってくる。
ただ、ウッソとキラの部屋はいつも変わりがないようだった。
「うあー、今日は疲れたー」
「ん~、お疲れ様」
「キラ兄さんもどうせだったら手伝ってくれればいいのに」
「嫌だよ、外出て溶けたらどうしてくれるのさ」
「まったくもう……まあ僕もあんまり人のことは言えませんけど……」
「今日の晩御飯何だって?」
「夏野菜カレーだそうです」
「そっか、じゃあ夕飯前に作業終わらすかな」
「キラ兄さん」
「何さ?」
「緑茶オレご馳走様でした」
「やめてよね改まって。ロラン兄さんどころかみんな留守だったんだから、僕がお茶出すしかなかっただけだよ」
「ハサウェイが凄く褒めてましたよ、苦味と甘味のバランスが絶妙だって」
「そっか」
「……シン兄さんもおいしかったって喜んでました。ご馳走様、って」
「……そっか」
「シン兄さんも直接言えばいいのに」
「何だかんだで喧嘩になるからね」
「……そうですね」
階下からはカレーの美味しそうな匂いがしてきた。
ガラスの瓶に生けられたミントの小枝は、涼しげな香りをモニターの脇で微かに漂わせている。
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新スレ>>1乙でした!
過去スレにあったウッソ・ハサウェイ(マフティー)同年齢設定が印象に残ったので引用してみた。
括弧の前に名前入れない形式にしてみたけど、13歳コンビの差別化ができてるかというとだいぶ微妙か。
このスレだとシンは面倒見よさそうなイメージで、キラは何だかんだで下の兄弟を気にかけてはいるけど
普段は他の兄弟に任せっぱなし、くらいがバランス的にいいような気がする。
最終更新:2014年09月15日 20:42