63 名前:コウ・ザ・ハードボイルド投稿日:04/04/06 23:28 ID:???
あんたが誰かは今のところ知らないし、これからさき知ることもないだろうが、
自己紹介させてもらおうかな。俺の名はコウ。兄弟で一番ハードボイルドな男さ。
まだ首を傾げているかもしれないが、それは未だにベッカムがマンチェスターUの
背番号7だと思っていて、白いユニフォームの23を不思議に思っているような
ものだ。

 さて、気候も暖かくなってきて、ますますハードボイルド日和ってところか。
偉そうに自己紹介したけれども、俺はまだまだ若輩だってことぐらいわかっている。
ヒヨコもいいところで、このままじゃ業者に無理やりピンクのカラーヒヨコにされ
ちまうぐらいだ。あれはひどいよ。人知れず胸を痛めてるだろ、みんなも。
 そんな俺だけど、今日はハードボイルドのマストアイテムを手に入れる。酒? 煙草?
ノン、ノン。トレンチコートだよ。もう春だけど、真のハードボイルドメンはあれを
夏でも着るものさ。もちろん、モルディブだろうがハワイだろうがな。

 だけど金がない。井上陽水は傘がないけど、俺は金がない。仕方なくアムロ兄さんや
シロー兄さんのタンスを物色した。ない。これでトレンチコートもないな。
 しかし諸君危ぶむなかれ。似たようなものを発見した。ベージュのレインコートだ。
アムロ兄さんのタンスの奥深くでしわくちゃになっていたけど、しわしわなのがくたびれて
るって感じで、男の哀愁を漂わせているという解釈もできる。うん。これで万事OKだ。

 よし、これを着てさっそく街をぶらつこう。俺のハードボイルドっぷりをアピールだ。
アピールなんてハードボイルドじゃないけど、みんなに俺をハードボイルドメンだと認識して
もらうためにはしょうがない。苦渋を飲むさ。アイデンティティってやつは自分で思っている
だけじゃ確立されない。周囲に認知されてこそじゃないか。年間一勝もできない先発投手が、
俺は大投手だって言っても、鼻で笑われるだけだろ。

 外はすっきりさっぱりと晴れわたっていて、春の陽射しの輝きだけでも眠た……物憂げに
なってくる。まあ、眠たいのも無理はないよな。春眠暁を覚えず、って杜甫も詠っているし。
俺は理系だけどこれぐらいは知っている。常識だものな。教養はハードボイルドの隠し味さ。
カレーにチョコレート入れるみたいなものだよ。いや、もう少しクールなたとえを探すから
一時保留ね。

 家を出ようとすると夜勤から帰ってきたシロー兄さんと行き交った。シロー兄さんは俺を見て、
「なんだそれ? コロンボか?」
と聞いた。コロンボってハンフリー・ボガードの演じた『カサブランカ』の主人公かな?
「コロンボ? それどういう人なんだ?」
一応聞いてみると、シロー兄さんはこう答えた。
「なんて言うか、ちょっと主流から外れてる感じの刑事で、頭はいいけど……」
「ああ、そうだよ。そのコロンボ。まあ、真似したわけじゃないけどね」
やはりコロンボはハードボイルドだった。『カサブランカ』じゃないみたいだけど、依然
問題はない。

 じゃあ、行くか。しかし本当に眠たくなる空気だな。あ、そうだ、さっきの一文、春眠の
やつは杜甫じゃない。李白だよ、李白。まあ、きちんと訂正できてるから大丈夫だろ。


続く、かどうかは彼女の機嫌しだいだな。あ、もし物好きなハードボイルドメン
(淑女でもいいよ)がいたら続けてくれても構わない。


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最終更新:2018年12月07日 17:42