48 名前:
プルツーが帰宅するようです :2010/09/26(日) 00:15:33 ID:???
市営駐機場の一画。
ハンガーに固定された赤い機体の前で、私は愛しい人を待っていた。
「あ、来た」
多分200メートルくらい先、人通りも疎らな駐機場の入り口近くに
見知ったノーマルスーツ姿を見つけて、私は気持ちの高揚するまま手を振った。
ヘルメットと、何故だか枕を小脇に抱えた彼女は、少し驚いたそぶりを見せた後に
どこか遠慮したみたいに手を振り返す。
私は彼女がきっちりした歩幅で歩いてくるのを、今か今かと待った。
後ろにそびえる巨大な人型のマシーンが作る長い影の中に彼女が入ってきた頃、
私は思わず声を上げていた。
「遅いよ。プルもマリーダも心配してるよ?」
「……ああ。そうだろうな」
抑揚なく返す声も、耳慣れた息遣いも、成程どこか疲れが見て取れる。
ガンダム家や、他の色んな場所に行ってみたけど、どこも騒がしくて
安眠できなかったんだろう。伊達にこの街はネオジャパンで一番危険な街なんて
呼ばれてはいない。
「やっぱり自分の家が一番だってわかった。今から帰るところだよ」
プルツーは色々なことを思い煩いすぎる。
安心して眠りたいなんて、そんなこと、私なら万難を排して貴女を守ったろうに。
もちろん私だけじゃなく、貴女の姉妹もみんなそうするに決まってる。
私は彼女の手を取り、宝石のような青い瞳を覗き込んだ。
「うん、帰りましょう。乗せて行ってくれるわよね?」
「迎えに来たくせに、帰りの足は私頼りなのか」
「いいじゃない。一度モビルスーツに乗ってみたかったの」
嘘。実はモビルスーツなんてどうでもよくて、一緒に乗ってみたかっただけ。
プルツーは呆れたような顔をすると、私の手を引いてコクピットに誘った。
何重もの装甲材に覆われた球形のコクピットに入ると、プルツーはシートの側面から
助手席を引き出して座るように促した。
支持されるまま助手席に座り、彼女がタッチキーを操作するのを眺めた。
周囲360°を取り巻くオールビューモニターに外の映像が投影されていく。
ハンガーの拘束具から解き放たれた赤い巨体が駐機場を横切っていき、
プルツーはペダルを踏み込んでキュベレイを飛び立たせた。
コンピュータ・グラフィックスで処理された外の風景が目まぐるしく
流れていく。網膜を刺激するその光景に、私の心は沸騰するようだった。
これがプルツーの見ている世界なんだ。
大好きな人と世界を共有した喜びで、頭がくらくらした。
最終更新:2014年11月27日 19:42