436 名前:ヤナギラン投稿日:03/09/08 04:14 ID:???
祝!VガンDVD化。とゆーこじつけで…VGネタを少々



夏の日の夕暮れ、ウッソ・エヴィンはヤナギランが1面に広がる丘の真ん中に立って、ブツブツと独り事を呟いていた。
「別にチューリップが特別、好きって訳じゃなかったんだよな…」

僕はシャクティ・カリンと今年の冬から暫く、関係がうまくっていっていない。
シャクティは僕にとって幼馴染以上の存在で傍から見ると兄弟みたいに見られる事も多かった。
いつも二人が一緒に居るのは当たり前の風景だと思っていて、それが当然の如く過していたんだ。

しかし、今は違う。シャクティは僕から次第に遠ざかっていた。
何がシャクティを頑なにさせ、僕から遠ざかったのか?
多分、というか原因は一つしか思いつかない。色々な事を考えたけれどやっぱりアレしかないと思うんだ。

僕が花壇にチューリップの球根を植えてしまったから

それしか考えられなかった。
あれからシャクティは僕に対してよそよそしくなって、今ではお互いに殆ど口も聞いていない。
前は毎日、互いの家を行き来するのが日常だったのに…今は音信不通。絶交状態。
糸がプツリと切れたように僕とシャクティの間は今、何も繋がっていないんだ。


437 名前:ヤナギラン投稿日:03/09/08 04:17 ID:???
僕は学校の園芸部『リガ・ミリティア』に入っている。
園芸って、地味だしもっと華やかな体育系にも憧れはあって最初は少し抵抗もあったけど
子供の頃から土弄りが好きだったから、自然と園芸を撰んでいた。
部活を通して良い友達も出来たから今では満足しているよ。

僕は園芸部でも花形の仕事、キャンパス内にある公園の植物の管理を任されていた。
ウチの学校は小、中、高、一貫の巨大なマンモス校で生徒の人数も多い
キャンパスも広いし、その中にある公園といったら結構な広さがある
普通は業者でも雇わなければ賄いきれない広さだけれど、僕らの園芸部はその大仕事をこなしていたんだ。

公園の管理を任されている役得として、何処にどんな植物を植えるのか?とか
その季節によって植える植物や花の種類は、僕に一任されていたから
自由に公園をデザインできたし、少し大変だけどこれは非常にやりがいのある仕事だと思ってる。


438 名前:ヤナギラン投稿日:03/09/08 04:19 ID:???
僕は公園の隅の方にある、あまり人目につかない花壇をヤナギランを植える為に空けていたんだ。
その花壇の横には小さな木造の小屋があって、中には木材を削りだして作ったテーブルと椅子が備えつけてある
ちょっとした休憩所になっていて、その場所を知っている一部の人達は(大抵は園芸部の仲間だけど)
その小屋に集ってランチを食べたり、夜集合する場所にしたりしてた。
同じ園芸部の先輩に当るオデロ・ヘンリークは午後の授業をサボって、その小屋で昼寝をして過す事もあるらしい。

秘密の花園…ってほどじゃないけど、公園の中でもその場所は1番のスイートスポットなんだ。
僕は1番良い場所をヤナギランを植える為に空けておいたという訳さ

小屋の横の特別な花壇にヤナギランを植えようと、最初に言い出したのはシャクティだったかな?
それとも僕だったか…もう忘れてしまったけれど、二人で決めたその計画は着々と進んでいのは確かだった。

園芸部だけが使える学校の温室では、特別な花壇に植える為のヤナギランの苗をシャクティが育てていた。
シャクティは他の苗や鉢よりも、特にヤナギランの様子に気を配ってたようで
学校が休みの日も温室に来ては毎日、ヤナギランの様子を見に来てるようだった。
シャクティはヤナギランの苗を大切な宝物を扱うように育てていたんだ。

僕はシャクティ程、入れ込んでもいなかったけれど
特別な花壇の1面にヤナギランが咲いている風景を想像してみたりもしたよ。いいよなぁって


439 名前:ヤナギラン投稿日:03/09/08 04:22 ID:???
僕はシャクテイが何を望んでいるのか、知っているつもりだった。
いや、実際に知ってたけど、僕はシャクティほどその事を深刻に考えていなかったんだ。

その年の一月、これから訪れる春の為に僕はキャンパス内の公園の花壇の土の入れ替えをしていたら
フレイ・アルスターがふらりと僕の側に来て挨拶をしたんだ。ウッソ君、ご苦労様って感じでね。
フレイ・アルスターはとてもすてきなお姉さんだ。
肩まで伸びた赤毛はいつも艶々してた。胸も大きいし、スタイル抜群だったね。
学校の上級生で兄さん達のクラスメイトになる。

彼女が近くに来るといつも良い匂いがしたんだ。
僕はフレイさんが残す匂い、残り香がとっても好きだったね。

フレイ・アルスターに対する兄さん達の評判はすこぶる悪かった、最悪と言ってもいい。
特にキラ兄さんに到ってはフレイさんの話題を避けたがってるようで
フレイさんの話を僕が聞くと黙って泣いちゃうんだよね。何でだろ?

他の兄弟からは大体が「我が儘女」「尻軽」「雌狐」…そんな風にしか彼女の事を噂しない。
確かにフレイさんは少し、我が儘なところもあるけれど、僕はみんなが言うほど悪い人じゃないと思っている。

フレイさんは僕と話をする最中、あの大きな目でじーっと僕の事を見つめるんだよね。
それをやられると僕は黙って頷くしかなくなっちゃうし、頼み事も断れなかった。
なんていうのか、綺麗なお姉さんにはイイかっこうを見せたがる傾向が僕には強いみたいなんだ。

「ウッソ君、あの花壇は何も植えないの?」
フレイさんは木造の小屋の横にある何も植えていない空の花壇を指刺して言った。あの特別な花壇を、だ。

「あの花壇ですか?あの花壇は…ヤナギランの苗を植える予定なんです。だから今は未だ空けてあるんです」
この話は園芸部の誰にも話していなかった。部長のトマーシュ・マサリクにも
夏にならないと咲かない野草を植える為に、花壇を空けておくなんてとても言えなかったからね。

実際に花壇が空になっているのは不味い事だし、その理由が単に僕の好みの問題で空けていた、というのは
もっと不味い話だからこれは僕とシャクティだけの秘密にしておく筈だった。
しかし、僕は喋ってしまった。部外者だから…って油断していたのかもしれない。

フレイ・アルスターは僕の顔を覗き込むと興味深々といった感じ質問してきた。

「ヤナギラン?なにそれ?」
「高原植物ですよ…夏には綺麗な紅色の花が咲くんです」
「ふ~ん…ヤナギランねぇ…私はチューリップが好きだなぁ、
春になると赤や黄色のチューリップが満開に咲くの。あの花壇にいっぱいにね。綺麗じゃない?」
「チューリップですか?」

正直いってあの特別な花壇に、チューリップは似合わないな、って思ったよ。
いや、ヤナギランとはあまりにも違い過ぎて比較出来ない、と言った方がいいかもしれない。
僕は慌てていたんだと思う。それまでシャクティと二人だけで進めていた計画を
園芸部じゃない部外者であれ、初めて人に喋ってしまった事もそうだし
4月に花が咲くチューリップを植えた方が、夏まで待たなきゃいけないヤナギランを植えるよりも良いかも
とかね、色々と考え始めてちゃったんだ。

けど、僕が慌てた1番の原因はさっきからフレイさんが僕の横に居て
じーっと僕の顔を見つめていたからかもしれないけど…

「園芸部にはチューリップの球根とかは無いの?」
「ありますけど…」
「なら、チューリップの球根を植えましょうよ。そうしなさいな。その方が華やかになるわ
ヤナギランよりも。チューリップを植えた方が花壇が映えると思わない?」
「そ、そう思いますか?」
「そうよ!」

僕は次の日の夕方、温室にあったチューリップの球根を特別な花壇に植えた。
だって、フレイさんに頼まれちゃ断れないよ。
それに少しだけ邪な考えが無い訳でもなかった…二人で小屋の前の花壇に咲いたチューリップを見て
ベンチの横にはフレイさんが座って、僕にだけ微笑んでくれるんだ。これは悪くないな、って

シャクテイと二人で計画していたヤナギランを植えるのは駄目になっちゃうけど
それは後でシャクテイに了解をとって、ヤナギランを他の花壇に植えればいいとも考えていた。

春になって艶やかなチューリップが咲けばシャクティも納得してくれると踏んでいたんだ。
いや、それよりもチューリップを見て微笑むフレイさんの笑顔が見たかったからかもしれない。
ヤナギランは僕にとってそれほど重要な事柄じゃなかったんだ。その時はそうだんだよ。


447 名前:ヤナギラン投稿日:03/09/09 04:44 ID:???
しかし、僕の考えは甘かった。

シャクティは翌日には特別な花壇にチューリップの球根が植えられていたのに気付いてた。
僕は少し不味い事になったなと思いながら、シャクティが大慌てで僕に捲くし立てるのを聞く事にしたんだ。

「ウッソ、花壇の球根を見た?あそこはヤナギランを植える為に空けてあったのに
誰かがチューリップの球根を植えてしまったのよ。
多分、花壇が空いていたから植えてしまったのね。…トマーシュ部長に言って貰わなきゃ、
あの花壇にヤナギランを植えるのは私とウッソしか知らなかったから
間違えて球根を植えてしまったのかもしれないわ。とにかく、この球根は他に移さないと!」

シャクティがこんなに一度に、喋るのを今まで聞いた事が無かったから少し驚いていたよ。
本当、こんなに興奮して喋るシャクティを僕は知らなかった。

「あの、シャクティ?」
「何?」
シャクティはこれから取り掛かる色々な作業の事で頭が一杯の様子で少し興奮気味だったから
それを抑えるように…僕は静かに言葉を切り出した。

「あの球根、チューリップの事なんだけどさ…アレ、僕が植えたんだよ…」
「え?…」
「やっぱり、初夏まで花壇を空けておくのは不味いと思って…僕が植えたんだ。
春になってチューリップが咲いていた方がみんな喜ぶだろ?
そう思って昨日の放課後に植えておいたんだよ。その…ヤナギランは…他の場所に植えればいい訳だし」

「どうして?……あの場所はヤナギランを植えるって…二人で約束したのに」
「そんなぁ、約束なんて大袈裟だよ。僕はただ、あそこにはチューリップを植えた方がいいと思って…
フレイさんも、そっちの方が良いって言ってくれたんだ」

しまった。フレイ・アルスターの名前を出すつもりは無かったのに
口が滑っちゃったんだ。フレイさんの名前を出したのは不味いなって…失敗した、と思ったね。


448 名前:ヤナギラン投稿日:03/09/09 04:57 ID:???
フレイ・アルスターの名前を出したのは失敗だった。
シャクティに対する罪悪感とは裏腹に、僕は自己弁護に走っていた。
指の間から何かが零れ落ちるような感覚を感じながら、なんとか上手く切り抜けようと必至になっていたんだと思う。

「フレイさん?…って、上級生のフレイ・アルスターさんのこと?」
「そ、そうだよ。兄さん達のクラスメイトのさ、僕らは学校の園芸部なんだから自分達だけで決めないで
他の生徒の意見も聞く必要があるだろう?それでフレイさんの意見を取り入れてみたのさ」

シャクティは暫く黙ったあと、僕のことを真っ直ぐ見つめて口を開いた。
「…今なら、球根が土の中で張らないウチに花壇から掘り出して、他に移すことも出来るわ。ウッソ、手伝って」

シャクティがここまで聞き分けの無いことを言うと、僕は思ってもみなかった。驚いたよ。
だって、シャクティは頑固なところはあるけれども、いつも僕の後ろにいて、妹みたいな存在で
今までがそうだったように、僕がそうする事はシャクティも従うって、そう思ってたからね。

僕はシャクティから予想外の反発を受けて、少しカチンときて
ここは引けない、って男としての面子ってやつかな?
自分の意見を押し通す事にしたんだ。僕は精一杯の虚勢を張って、自分の正当性を訴えたよ。

「駄目だよ。せっかく植えたチューリップの球根を掘り返すなんて。そんなの駄目だよ。
大体、この公園内の植物の管轄は僕に任されているんだ。
その僕が決めた事なんだから変更はできないんだよ。シャクティ!」

「ウッソはヤナギランよりもチューリップが好きなの?」
シャクティは真剣だった。しかし、僕はそれほど真剣じゃなかったんだ。軽く考えていた。

「別に…どっちが好きとかはないけど…あの花壇にはチューリップの方が相応しいと思うから植えただけだよ」
「ウッソ…私、温室の方に戻るわ」

シャクティは温室の方へと消えていった。
これがシャクティと会話らしい会話をした最後の日だったかもしれない。


449 名前:ヤナギラン投稿日:03/09/09 05:01 ID:???
それからのシャクティは何かと僕を避けていた。
しまいには挨拶さえもおぼつかない程、僕とシャクティの間は離れていってしまった。

特別な花壇に植える予定だったヤナギランの苗は、今も温室ので育てていたけれど
シャクティは以前程、熱心に世話をしていないようだったから僕が代わりに苗の面倒を見たりもしていた。

春になるとあの特別な花壇に植えたチューリップが咲き乱れた。
花壇1面に咲いたチューリップを僕とフレイ・アルスターは小屋の中から一緒に眺めてみたけれど
隣りに座って微笑んでくれたフレイさんの笑顔を、僕は以前ほどは眩しく感じられなかった。

フレイさんの笑顔を見ても僕は全くと言っていいほど、気分が晴れなかった。
何か後ろめたいような、悪い事をしているような気さえもしたんだ。


450 名前:ヤナギラン投稿日:03/09/09 05:08 ID:???
放課後、僕が温室で鉢の植え替えをしていると
園芸部の部長、トマーシュ・マサリクとシャクティが話し込んでいるのが聞こえたから
僕は黙って作業を続けて、横耳を立てる事にした。

「シャクティ、このヤナギランの苗。もうそろそろ他に移して方がいいと思うよ」
「…そうですか」
「鉢に植えたままじゃ育ちも悪くなるし、もう4月だろ?地面に根を張らせるべきだと思うんだ
ヤギランは早くて七月に花がつくものもあるからね」
「そうですね。もう、そんな季節なんですよね」

「部長としては温室のスペースを空けて欲しいって、事情もあるんだけどね…。
そろそろ秋のモノも仕込まないとならないし。そうそう、このヤナギランは何処に植えるつもりなの?
今のところ校内の花壇には空きが無いし、他には植える場所が無いし…って思ってたんだけど」

「そうですね…もう、植える場所は無いんです。私が数本、持って帰りますから
あとは好きな人が持って帰るなる、焼却して下さい」

「シャクティがそう言うなら…けど、なんだか勿体無いなぁ」
「しょうがないんです…。このヤナギランは植える場所がもう無いんですから」
「折角、ここまで育てたのに…残念だね」
「仕方ないですよ」

僕が植えなかったヤナギランは棄てられてしまう。
二人の会話を聞いて僕は胸がズキリと痛くなって、この場に居るのが辛くなってしまった。
トマーシュ部長とシャクティには気付かれないように僕は静かに温室を出ると
気分を落ち着かせようと、夕方の少し冷たくなっている空気をおもっきり吸い込むことにした。

452 名前:ヤナギラン(インターミッション投稿日:03/09/10 03:55 ID:???
僕の家は一家揃って食卓を囲む、今時珍しい家族…というか、そういう兄弟だった。
上の兄さん達は仕事や部活とかバイトとかで居ない時があったけれども
(今日はアムロ兄さんとシロー兄さん、それにヒイロ兄さんが居なかった)
だいたいは兄弟の殆どが同じ食卓につくのが我が家の習慣になっていた。

その日はドモン兄さんがボソッと言った一言がキッカケだったと思う。
「そういやぁ…シャクティ、最近来てないな。どうしたんだ、ウッソ?」
「そうだね、シャクティ来てないよね」弟のアルが復唱する。

末っ子のアルは兄さん達の話の輪に入りたいが為に、わざと同じ単語を復唱する癖があるんだ。
僕はいつもアルの言葉が癇に障ってたけど、今日のは特別ムカツいたね。

シャクティが家に来なくなって、ひと月は経っていた。
僕の家にはシャクティが毎日来ていたようなものだったから
(二日に一回は夕飯もウチで兄弟と一緒に食べていたんだ)
シャクティが家に来なくなると、その部分にポッカリと穴が空いたような雰囲気はあったよ。
他の兄弟達にとっても妹みたいなもんだったからね。

「さぁ…僕は知りませんよ」

「なんだウッソ、シャクティと喧嘩したのか?」
「どうせお前が悪いんだろ?早く謝っちゃえよ」
ガロード兄さんとジュドー兄さんだ。二人は馬が合うというか、いつも息があうコンビで
僕は二人の悪巧みに付き合わされる事も多かったけど、二人の事はそんなに嫌いじゃなかった。
悪巧みが成功した時は(ほとんどが失敗に終わるけど)僕も美味しい思いが出来たしね。

女の子に関して二人から学校に上がる前に色々なアドバイスを貰ったけど
間違っている事や、役に立たない事の方が多かったような気がする。
けど、今回の事に関しては二人の意見が正しいかも、って薄々は思ってた。


453 名前:ヤナギラン(インターミッション投稿日:03/09/10 03:57 ID:???
452は>>450からの続きです。書き忘れてた…


僕は食卓で兄弟から一斉に視線を浴びているのを感じた。非常に気まずかったよ。
まるでシャクティが居ないのは僕のせいだ。って、みんなして決めてかかっているんだから

けど、ギンガナムさんがそれを救ってくれた。
ギム・ギンガナムは家族じゃないけれど、毎回食卓に来てご飯を食べて帰る人だった。
最初は抵抗もあったけど、今では自然に振舞っていて
それがあたかも当たり前のようになっていた。馴れって怖いよね。

「ドモンよう、今、女の名前を呼ばなかったかい?」
「それがどうした…」
「食卓でな、女の名前を呼ぶ時というのはな、満腹の奴が甘ったれて言うセリフなんだよ!!貴様のコロッケは小生が頂く!」

ギンガナムさんはドモン兄さんが残していたコロッケを箸で摘むと、一口で口に放り込んじゃったんだ。
「あ”!?……お、俺が大切に残して置いたコロッケをぉぉぉ………」
「もぐもぐ…う~ん、この衣…もぐもぐ…香ばしいね」
「最後に残したコロッケをご飯茶碗に潰して、それにソースを塗して食べるのが俺の楽しみだったのにぃ……
吐き出せ!今すぐ俺のコロッケを返せよ!!なぁ、早く返しやがれ!!!」

ドモン兄さんがギンガナムさんの襟首を掴んで揺すったりしたけど
ギンガナムさん平気な顔をして、舌でペロリと唇の周りを拭いたりしていた。
「一旦、口の中に入れたモノを吐き出すというのは、出来るもんじゃなよなぁ…
いやぁ~五臓六腑に染み渡る旨さだったよ。ロラン君のコロッケわ、ハッハッハッハッ」

「き、貴様ぁ……表に出ろ!!」
「フン、腹ごなしには丁度いい…」
二人は縁側から外に出て、庭で喧嘩を始めたんだけど
他の兄弟といったら、僕もそうだけど
ギンガナムさんとドモン兄さんの事は日常になっていたから淡々と食事を続けていたね。
僕はシャクティのことが話題に上らなくなって少しだけホッとした。


454 名前:ヤナギラン(インターミッション投稿日:03/09/10 03:59 ID:???
「このご飯どうしましょうか?」
ギンガナムさんとドモン兄さんの喧嘩は未だ続いていた。
ロラン兄さんは二人が喧嘩で怪我をする事よりも、ご飯が冷めてしまう方が心配らしいね。

「あとで食うだろうからラップをかけて冷蔵に入れておけば?」コウ兄さんがそっけ無く答えた。
「そうですね……わぁ!って誰ですか貴方は!?」
ロラン兄さんが驚くのは無理も無かった。僕も驚いたよ。
食卓のドモン兄さんの席に突如、姿を表したゲルマン忍者のシュバルツ・ブルーダーが
ドモン兄さんの茶碗を持って黙々とご飯を食べていたんだからさ

「私はドモンの知り合いだ。何、心配するな…この夕食は私の方で平らげておく」
「え?…」
「あいつも一々相手の挑発に乗っているようではマダマダ修行が足りんとみえるな。
もぐもぐ…うむぅ!!この筑前煮。君が作ったのか?」
「…はい」
ロラン兄さんは突然の覆面をつけた珍入者に対して、息を飲みながら答えた。

「なかなかの味付け。君は相当の修練を重ねているようだね」
「あ、分ります?……結構これ、自信作なんですけどね。そうやって誉められると恥ずかしいなぁ…」
「いや、この味はなかなか出せるものではない…パリパリ。ほぅ、この大根の漬物も君が漬けたのか?」
「ええ、そうですけど…」
「塩加減が絶品だ。糠がきちんと手入れされているからこそ出せる味だ」
「いやぁ…嬉しいですよ!味の分る人に食べて貰えるのは。さぁ、どんどん食べて下さい!!」


「また、変なの寄りついてるよ…」
「ロランの方もまんざらじゃなさそうだし…、いいんじゃないの?」
シーブック兄さんとカミーユ兄さんはもう諦めたって、顔で覆面の人を無視してご飯を食べてたね。


455 名前:ヤナギラン(インターミッション投稿日:03/09/10 04:01 ID:???
暫くして、外から帰ってきたギンガナムさんとドモン兄さんは仲直りしていた。
二人は喧嘩して、仲直して、喧嘩して…を延々繰り返すつもりらしい。
原因も今回のようなコロッケ一個で始まるんだから、もう誰も止めたりしなくなっちゃった。

普段なら、二人して仲良く席に戻るんだけど今日は違っていた。二人のご飯は
ピエロのような覆面をつけたゲルマン忍者のシュバルツ・ブルーダーが平らげてしまっていたからだ。

「俺の飯が無いぞ!!」
「小生のご飯も…ロラン君!どういう事だぁ!!」
二人して山犬みたいに吼えてたね。

けれど、それをロラン兄さんがピシャリと抑えたんだ。
「食事の途中で席を立つ人のご飯なんか、もうありませんよ!代わりにシュバルツさんが食べてくれました」

「何だってぇ!?シュバルツ!!本当なのか?」
「その通り。ロラン君の料理は私が美味しく頂かせてもらった。こんな美味しい料理を前に席を立つとは、ドモン。
それにギンガナムとやら…貴様等、未だ未だ修行が足りないな」
シュバルツさんは覆面の上から器用に楊枝を咥えて、更にお茶も零さずに飲んでいる。
そうえ言えば、どうやって覆面のままご飯を食べたんだろう?…

「貴様!!!私の食事まで食べるとは!!!許せん!!」
ギンガナムさんがパンチを振りかぶるとシュバルツはそれを交わして蜘蛛みたいに天上にぶら下がったんだ。
ロラン君、これからも度々、ご相伴居に預からせて貰うとするよ…」
言い終わるか、終わらない内にすっーと影の中に溶け込んで消えてしまった。驚いたよ。

「チィ、忍者ふぜいが…小生はもう帰るぞぉ!!」
ギンガナムさんは歯軋りをしてたね、面白くないって顔で帰ってちゃったよ。

「なぁ、ロラン…飯、なんか残ってるかな?」ドモン兄さんはロラン兄さんに頼み込んでいたけど…
「カップラーメンならありますよ、ハイ」ロラン兄さんは冷たかったよ。ロラン兄さんにとって
食事を粗末にしたり、食べている途中に席を立って何処かへ行ってしまったりするのはタブーなんだ。


456 名前:ヤナギラン(インターミッション投稿日:03/09/10 04:03 ID:???
僕もそうだけど、殆どの兄弟は食事を済ませるのが早かった。
1番末っ子のアルにしてもそうなんだ。

自分の分を早く食べないと他の兄弟に食べられちゃうからね。
家族が多いと自然と身につく特性、本能みたいなもんだった。
僕もドモン兄さん達が喧嘩から帰ってきた時には自分の茶碗を台所へ片付けていたところだ。

けど、キラ兄さんだけは違うんだ…

食事をするペースが他の兄弟より遅いんだよ。決定的に
一般的なスピードに当て嵌めると普通なんだと思う、けれども僕ら兄弟の中じゃ
ダントツにご飯を食べるのが遅かったから、どんなに早く食べ始めても
キラ兄さんが最後に席を立つ事になっちゃうんだ。

ドモン兄さんはそれに目をつけたらしい、食卓の隅の方で食事を続けていたキラ兄さんに詰め寄っていた。
「なぁ…キラ、ご飯残ってるよな。お腹一杯なのかな?」
「そ、そんな事ないよ…」
「俺が手伝ってやるから…その茶碗をよこせ!」
「嫌だよぉ…これは全部、僕が食べるんだからぁ。ドモン兄さん、アッチへいってよぉ…」

「手伝ってやるっていうのを断る道理は無いだろう?…いいから、箸を貸せって」
うあ゛ぁあ ・゚・(´Д⊂ヽ・゚・ あ゛ぁあぁ゛ああぁぁうあ゛ぁあ゛ぁぁ


457 名前: ヤナギラン(インターミッション投稿日:03/09/10 04:22 ID:???
「ドモン!!何をしている?」
キラ兄さんとドモン兄さんが騒いでる後ろでアムロ兄さんが仁王立ちで待ち構えていた。
何時もならもう少し遅く帰ってくるのに、今日はすこし早く帰れたみたいだね。

「ドモン!」
「ハイ!!」
ドモン兄さんは直立不動でアムロ兄さんに応じていた。

「お前、弟の茶碗を取り上げようとしてなかったか?」
「え?…い、いやだなぁ…兄さん。そんな事する訳ないだろう?…ハッハッハッ…なぁ、キラ?」
「あ…その…(僕はこの瞬間、ドモン兄さんがキラ兄さんのことを睨みつけていたのを見逃さなかった!)
話を…してたんだよ……」
キラ兄さんは奥歯にモノが詰ったようなモノの言い方をしていたっけ

「そ、そうだよ。そうなんだ!兄さん。俺とキラは兄と弟として…なんっていうか、親交を深めていたんだよ。な?」
額から汗をダラダラ流しながら弁明しているドモン兄さんはキラ兄さんの肩を小突いていた。

「本当なのか?キラ」
「…うん」
キラ兄さんの声はか細い感じで何かにビクビクしてたよ。
運動神経や体力的には兄弟で1、2を争う筈なのに、なんだかね。優しすぎるから
それを良い事に、僕の兄弟達がキラ兄さんの事を良く利用しようとするんだ。僕は黙って見てるだけだけど。

「そうに決まってるだろ?疑うなんて酷いよ…兄さん」
ドモン兄さんの顔はそりゃ、もう必至だったよ。

「キラがそう言うなら……もういい。だが、今度見つけたら容赦しないぞ!ドモン!」
「な、何言ってるんだかなぁ…兄さんは…さ、さぁて、散歩でもして来るかなぁ~…」
ドモン兄さんは逃げるようにして、部屋を出ていった。

「ロラン、先に食事にしたいな。用意してくれるかい?」
「ハイ、今、お味噌汁暖めますね」

一家の長男でもあるアムロ兄さんに対して、兄弟達は誰も逆らえなかった。
僕にとっては兄さんってよりも、父親に近いのかな?アムロ兄さんの存在は

こんな感じで、何をするにしても慌ただしいのが僕の家の風景だった。
家に居ても四六時中、気が抜けないんだ。
僕は毎日をいつも通り、やり過ごしていたけれど胸の中じゃ
シャクティが僕の中からどんどん消えていってしまうような気がしてね。淋しかったよ。


458 名前:ヤナギラン投稿日:03/09/10 04:30 ID:???
園芸部の中でもシャクティとは特別に仲の良いスージィ・リレーンの話だと
シャクティは何かの宝物のようにヤナギランの苗を育てていたらしいんだ。

僕がその話をスージィから聞いたのはトマーシュ部長とシャクティが
ヤナギランの苗を処分する話をしていた翌日の事だった。
シャクティの提案通り、温室で育てていたヤナギランは部員が好きなだけ持ち帰っていい事になっていたから
スージィは4、5本の束にしてヤナギランを持ち帰る最中に僕にボソッと零したんだ。

「シャクティ、このヤナギランを大事に育ててたんだよ。ウッソ…それがさ、なんで棄てちゃうのかな?」
「そ、そうだね。何でだろう…」
「他の人には秘密にしてて…ってね、シャクティには言われていたけど。ウッソになら…いいかな?
シャクティがヤナギランを大事にしてた秘密、教えてあげる」
「キャンパスの中の公園にある小屋の前の花壇にヤナギランを植えるんだろ?」

「え?…そ、そっかぁ、やっぱりウッソも知ってたんだね」
「そうだよ、知っていたよ…」
「私、日曜日にシャクティに連れられて温室でヤナギランの様子を見てる時に聞いたんだ…
ヤナギランを花壇1面に植えてね、夏になって花が咲いたら、花壇の隣りにある小屋に入って
一日ヤナギランを見て過すんだって、シャクティは楽しそうに話してくれたんだよ」

「そうなんだ…」
「私が、じゃ、園芸部のみんなでヤナギランが見れるね。って言ったら
シャクティは、それは違うって言ってた…あの小屋はそんなに広くないから、園芸部全員は無理よねって
シャクティと私とカルルと、あともう一人で小屋は一杯になるわって、私はそんな狭い小屋だったっけ?って聞いても
ううん、あと一人だけよ。って言ったけど…そっかぁ…ウッソのことだったね」

「僕のこと?そうか僕の事…なんだよね」
「なのにさ、シャクティはせっかく育てたヤナギランを棄てちゃうなんて、おかしいよね?
最近、シャクティは元気も無いよね。あんまり部活にも来てないし…何かあったのかな?…ウッソは知ってる?」

「…さ、さぁ?…僕も最近はシャクティとあんまり話してないからね…」

言葉に詰まりそうになったけど、僕はなんとかスージィに答えていた。
僕はこれからどうすればいいのか全然分らなかったけれど一つだけハッキリしたことは
自分がとんでもない馬鹿野朗なんじゃないのか?って事位だ。

僕にはシャクティに謝罪をする機会が与えられていなかった。

学校でのシャクティは僕が存在しないかの如く振舞っていたし
僕の方もシャクティには朝の挨拶をするのさえ気が引けていたんだ。

放課後になって覚悟を決めてシャクティの家にいっても
シャクティのお母さんが玄関に出てきて
「ごめんなさいね。シャクティは今、居ないの」
って、何度も門前払いを食らっていたよ。

親戚の白いマスクをつけた叔父さんが玄関に出る時は最悪だった。
「貴様、よくも来れたものだな…失せろ!」と叫んだかと思うと
僕をネズミかなにか、みたいに追っ払うんだ。酷いもんさ
けど、酷い扱いを受けても仕方ないかなって僕は納得していた。
もっと酷い事をシャクティにしたんだから

僕はシャクティに謝りたかったんだけど、そのチャンスは尽く潰されていて
もしかしたら、自分でチャンスを潰していたのかもしれないけれど
この頃の僕ときたら、何が駄目で何が良いのかとか…何一つ分らなくなっちゃったんだ。

このままずっとシャクティとは途絶えたままなのか?なんて、考えも浮かんではいたけれど
それはすぐに拭い去ることにしていた。そんなことがある筈ないよ…って信じたかったんだよ。


462 名前:ヤナギラン投稿日:03/09/11 02:41 ID:???
僕がシャクティにどうやったら赦して貰えるのかを考えていたら
同じように、園芸部の部長トマーシュ・マサリクが口に鉛筆をくわえながら何か考え事をしていたんだ。
部室には僕と部長しかいなくて、僕は何気なく何かあるんですか?って聞いてみた。

「ああ、ウッソか…実はね。街の北にある丘の上…少し前まで小さな工場が建っていただろ?
今、あそこは空き地になっているんだよ。で、市の緑化運動の一環とかなんとかで
その空き地に植物でも植えようかって…僕らの園芸部に話がきたんだけどね…」
「…はぁ」

「それで何を植えたらいいかなーって…今は荒地になってるから、土から作らないといけないし
場所が場所だからね、普通の花よりも野草とかが良いんだろうだけど…中々いい案が思いつかないんだ」

僕はトマーシュ部長の話を聞いてすぐに閃いた。これしかない!って思ったよ。
今まで目の前にかかっていた靄が晴れて、一本の道が開けたような感じさ

「トマーシュ部長!温室のヤナギランは未だ残ってます!?」
「ああ、アレね。みんな全然持って帰らないから、未だ十分に余っているよ」

僕はトマーシュ部長に場所を聞くと、その日の夜に丘の上の工場跡地まで走っていた。
工場の解体工事はもう終わっていて、乾いた土だけしか残っていなかったけど
どこから種を運んできたのか?雑草が既に生えていた。
土は全部入れ替える必要があるな、石も取り除かないと、それだけでざっと二週間かかる。
僕一人だけで作業をした場合だけどね。

それから僕は久し振りにワクワクする気持ちを抑えて家に帰ると
これから取り掛かる作業の段取りを色々を考えながら、ぐっすりと眠りについた。


463 名前:ヤナギラン投稿日:03/09/11 02:46 ID:???
次の日から僕は放課後になると真っ先に丘の空き地に向かっていた。

辺りが真っ暗になるまで荒地にワクを入れて土を耕した。
流石に一人じゃ無理だと思って、休みの日は同じ園芸部員のオデロ・ヘンリークやウォレン・トレイスに手伝って貰ったんだ。
そのお陰で当初の予定よりも四日も早く土を作る事が出来たよ。

僕は園芸部で『魚の骨』ってよんでる真っ白に塗ったシノーペ(ザンス(略)製品)に
ヤナギランのケースを荷台一杯に積む込むと空き地へと向かい、独りでヤナギランの苗の植付けを行った。
この作業だけは他の人の手を借りずに、自分独りだけでやりたかったんだ。

ヤナギランの苗を植えている最中は冷たい土のヒンヤリとした感触が手に伝わってきて気持ちよかった。
僕は土いじりが好きなんだって、改めて思ったね。

苗の植付けは学校が終わる放課後から始めて、夜暗くなるまで作業していたから
普通よりも少し時間がが掛ったけれど無事、終える事が出来た。

それからは毎日、空き地に足を運んでは水をやったり、草むしりしたり、とヤナギランの世話をしたんだ。
僕が作業している時に何度かシャクティが丘の下の道を通るの見かけたけど
こちらには全然気付いていないようだった。

シャクティを見かけるのは大体が夕暮れの時間帯だったし、そんな遅い時間に工場跡地の空き地で
なにかをやってる人が居るなんて普通は思わないからね。


464 名前:ヤナギラン投稿日:03/09/11 02:55 ID:???
八月になると僕が植えたヤナギランは空き地だった丘を覆い尽くすように咲き誇って
辺り1面を鮮やかなピンク色に染めていたんだ。

僕は見渡す限りのヤナギランで埋め尽くされたの丘の真ん中に立って、独り事を呟いてた。

「…チューリップが特別、好きって訳じゃなかったんだよな…僕が好きなのは…」

ヤナギランを眺めていると確信が持てた。
チューリップよりもヤナギランの方が好きなんだよ、僕は。

この丘の上でなら、僕はシャクティに謝れるかもしれない。
そんな気持ちも辺りを埋め尽くすヤナギランの中に立っていると自然と湧いてくるんだ。

シャクティは僕の謝罪を受け入れてくれるんだろうか?
馬鹿な僕を許してシャクティはあの笑顔をもう一度、僕に見せてくれるかな?
早速シャクティをここに連れてこなきゃ。
いや、今の僕とじゃ口も聞いてくれないかもしれない…
シャクティと仲が良いスージィ・リレーンに頼んで連れてきて貰おうかな?

色々な考えを巡らせながら、僕はヤナギランの丘を下りるとシャクティの家を目指して走っていた。
ここからだと20分も走れば着くだろう。

シャクティの家の玄関の前に立ったとたんに心臓の鼓動の音が速くなった。
このまま心臓が爆発するんじゃないかって心配しながら
指の震えを抑えてドアの横についてるチャイムを二度、押す。

僕は今の自分にとって何が1番大切なのかハッキリと分かっていた。
もうこれ以上の事はも何も望まないんだ。
シャクティ・カリンに一言、謝るんだ「ごめんね、シャクティ」ってね。

(終)


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最終更新:2018年11月27日 15:39