私の名はランスロー・ダーウェル、中央署捜査一課課長を務めている。
ティファ・アディールを誘拐した一味を追っていた。
奴らの後を付けた先、スラム街でも人が寄り付かない廃アパートの死角、
ここに私は応援を待ちながら、一味の隙をうかがっている。
シロー部隊が一番近いが、それでも到着まで三十分も待たなければならない。
事態は一刻を争うが、焦りは禁物だ。

足音が聞える、振り返ると一人の少年がこっちに向かって走ってきていた。
私が手招きをすると、彼は敵意を秘めた眼差しを向ける。
警察手帳を見せてようやく敵意を解いたのか、
「おいオッサンッ! ティファはいまどこに居るッ!!」
「ティファ――ティファ・アディールの事か?」
「そうだ! オレはティファを取り戻すまで、家に帰るつもりはないんだッ!!」
「まさかお前、彼女を追ってここまで来たのか」
少年は頷いた。意志の強さを秘めた瞳を私に向けたまま。
「たったひとりの少女の為に……」
私は驚くしかなかった。
まだまだ(私から見れば)幼い少年が、一人の少女を救う為に、
こんなスラム街まで追いかけて来るとは……
危なっかしいなと言う思いと共に、どこか羨ましさを感じていた。

「オッサン、突入しようぜ!!」
「しかし、二人で突入するにしろ……まだ無理だな」
廃アパートは三階建て、ティファ・アディールは首領らしき男と共に最上階にいる。
一階から突入して、運良く三階まで辿り着いたとしても、彼女を盾にされれば終りだ。
「へへ、こんなアイテムがあるんだけどさ」
彼は内ポケットからそれを取り出し、私は片唇を上げる。
「では、私が囮をやろう」

「おっと、誰か忘れてないかね?」
「げげッ!!」
「貴方は……」
周囲を窺っていた私達に気配も感じさせずに現れた男、
シャア・アズナブル、この街でも有名な大富豪の一人だ。
「ランスロー君、私にも手伝わせてはくれないだろうか?」
「しかし……貴方は……」
「一人の市民の命が脅かされているのだ! 
 一市民として見過ごすわけには行かないのだよ!!」
私は感動と尊敬の念をこの大富豪に抱く他なかった。
富と名誉を持ち合わせている人間が、それを失う事を怖れないとは。
「誘拐など、ロリコンの風下にも置けないのだよ!!」
「やっぱり、このオッサン危険人物だよ……」
聞かなかった事にすべきだろうな、精神的平衡を保つ為には……

銃撃音。
私はフォワードで、シャア氏がフォロー(無論、銃は私が貸与)。
最初、彼が「私が先に行こう」と、言ったのだが、
それは刑事としてのプライドが許さなかった。
市民を盾にするなど言語道断、裏に何かありそうと感じたのは秘密だ。
幸いにも、相手には飛び道具を持っていない。
跳躍、一気に懐に入り、ジャンピングニー。
どんどん、一味が集まってくる。
いいぞ、私は思惑通りになったので気分が良い。

ガラスが砕ける音が響いた。

「チェックメイト、って感じ?」
暫くすると、紳士然した中年男を先頭に、ぞろぞろと手を上げた男達が出てくる。

今日は本当に驚くべき事が連続した日だ。
とにかく、あの少年、ガロード・ランがシロー刑事の弟と言う事実。
シャア・アズナブル氏の性癖の一端を垣間見た日。
そして、何よりも、
「いや、こちらとしても助かりましたよ」
ニコラ・ファファス検事がティーカップを渡しながら、笑顔を浮かべ、
「内定を進めていたアルタネイティヴ社の摘発が出来るのですから」
誘拐犯の首領は、後ろ暗い噂が絶えなかったアルタネイティヴ社社長、
フォン・アルタネイティヴその人だったのだ。
倒産寸前の会社を立て直す為にどの株が上がるか、
彼女が持つ予知能力を利用しようとして誘拐。
いや、人間は欲望で身を滅ぼすものと改めて痛感した。
「明日はお互いに大仕事ですね」
夕陽が室内を包む。
今度、あの少年と少女に気の効いたプレゼントでもしよう。
「ニコラ検事官」
「どうしました?」
「ローティーンが喜びそうなものは何だろうな?」


いらんおまけ

「……む」
「トレーズ様、どうなされました」
「……いや、あの赤毛の男を見ろ」
「あぁ、彼は中央署所長ランスロー警視ですね」
「ふむ……私と似た匂いを感じると思わないかね?」
「しかし……大きなクマの縫いぐるみと、ゲーム機の箱を持っている姿は……」
「ミスマッチだ、しかし、それを恥じる事ない姿、挙止は見習うべきだよ?」


110 名前:誘拐~蛇足~投稿日:03/10/11 18:48 ID:???
「ティファ、大丈夫だったか?」
「ええ……見えましたから……」
「ハハッ、そうだよな」
「……でも」
「でも?」
「ガロードが絶対来てくれるって……信じていました……」
「……そっか」

(決して羨ましくなんか……羨ましくなんか……)
「だから、シーブックお兄ちゃん」
「ぐうぅぅぅぅ……彼女なんて、彼女なんて」
「コウお兄ちゃんまて……」
「どうして、私には何も無いのだ?」
「シャアおじちゃんも、みっともないよ」
Σ(´Д`lll)「おじちゃん……おじちゃんか……ふふ」


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最終更新:2018年11月29日 13:18