私はシーブック君と工科準備室の鍵を開けて、中に入ると
運んできたプロジェクターとスクリーンを棚にしまい込もうとしていた。

「前から思ってたけど、女子で工科を選択するのって、珍しくない?」
「そうかな?」

シーブック君と私は自然に話せるようになっていた。未だ少しだけドキドキはするけど…。
昨日からのことを思えばだいぶリラックスして会話を交している自分に気付く。

「クラスでも女子は少ないだろ?…それに君は園芸部をやってるし、花とかが好きなら
環境科とかその手の専攻もあるから、少し気になってさ」
「私、機械油の匂いが好きなのかも」

私はシーブック君がレールで移動する脚立に登って、棚の上のに資料を片付けている様子を見上げて返事をする。

「匂い?…」
「ハイラインドの生活が長かったからかな…。園芸部で使う肥料の匂い
アレって生き物の腐った匂いなのかしら?嫌な匂いだな、って未だに思うし」

「ふ~ん。宇宙で育った人には土の匂いとか、馴染めないもんかな?」
「ねえ、シーブック君は何で工科を選択したの?」

シーブック君は脚立を降りると、私の方を振り返って返事をした。

「俺?…俺は前からグライダー作るのにハマってて、その設計とかなんとかで
図面モドキも引いてたりしてたから。自然と工科かな?って」

そうかぁ…シーブック君ってグライダー作ってるんだ。
そういえばハイランドに居た頃、父さんも私によくグライダーの模型とか作ってくれたっけ?

「グライダーって、フロンティアⅣでやってる大会に出たりするの?」
「その大会には中学の頃から出てるかな」

「中学からやってるなんて凄いのね。フロンティアⅣでやってる大会はレベルが高いって聞いたけど」
「グライダーのこと、詳しいね」
シーブック君が微笑んでくれると、私も嬉しくなって、口数も多くなる。

「これでも一応は工科の生徒ですもん。それに、父さんがね。昔、趣味でグライダーをやってたから、少しだけ知ってるの…」

と、私が言い終わるかどうかのタイミングに、棚の中に入れた資料の置き方が悪かったのか?
元々乱雑に置かれていたモノのバランスが崩れたのかわ、それは分らないけど
突然、資料の雪崩れが起きて棚の上からファイルとか何かの資料の束とかが私達に降り注いできた。

「きゃあ!!」

棚の上からファイルや資料の束が、ドサドサと床に落ち続けるのが聞こえる。
私は逃げようとしたけど、躓いて、床に倒れてしまった。
怖くなった私は目を閉じて、頭を庇う姿勢のまま身を屈め、辺りが静かになるのを待つ。

辺りが静まり、物音がしなくなったのを確認した私はゆっくりと目を開けると
目の前にシーブック君の胸板が飛び込んできた。
な、なな何?……。ど~なってるの。
お、落ち着いて、落ち着くの……。こ、これは…状況を整理して考えてみると
シーブック君は落ちてくる資料の束から私を庇うように、身体を私の上に重ねている。という事でしょう?

「怪我、ない?」
「…う、うん」

シーブック君は私に胸を突き出すような姿勢で、私の身体全体をすっぽりと覆っている。
昨日の風呂場での会話。兄弟のカミーユ=ビダンが言っていた通り、シーブック君の、彼の胸は逞しく思えた…。
床に寝転んでいる私の身体を…シーブック君の長い足が跨いで、彼の腿が私の太腿と軽く触れている。

シーブック君は直ぐに私から身体を放して立ち上がると、私に手を差し出す。
私は差し出されたシーブック君の手を取った。彼の大きな掌の中に私の手はすっぽりと包まれてしまう。

「こ、これも…事故かな?」シーブック君がぼそりと呟く。

「えと…その…そ、そうね…。そう…。じ、事故だと思う」
いやだぁ…私、声が震えてる。シーブック君の顔をまともに見れない。

私がシーブック君の手を取って、会話を交していた…その瞬間。
工科準備室のドアが開くと、オデロ=ヘンリークとセシリー=フェアチャイルドの二人が勢い良く飛び込んできた。

「シーブック、居るの!?」
「エリシャさぁん!?」

心なしか、二人は目をギラギラさせていたと思う。



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最終更新:2018年12月03日 12:05