「まずは、包丁の使い方を学んでもらいます」
テーブルの上は既にセッティングが終り、
人数分+ロラン用のまな板と二本ずつの包丁が置かれている。
「こっちの普通の包丁をつかって、まずは大根を切ってみましょう」
既に
輪切りになっている大根を持つと、皮を剥き始める。
「これがかつらむきです、要領は親指の腹で背を押しながら、
もう片方の手で大根を回すだけです」
一度、皮を剥き終えて切り離すと、もう一度かつらむきを始める。
「そして、これを適当な長さまで剥きまして、重ねて切ります」
まな板の上に、均等な長さのツマが出来上がる。
ロランはそれを水を張ったボールに入れながら、
「林檎の皮むきも理屈は同じです。では、やってみましょう」
そして、ロランは軽く、包丁を扱う時の取り扱い方を最後に教えた。
「なかなか見本通りには行きませんわね……」
「林檎と同じと言っても、これは少し勝手が違うわ……」
「普段は見慣れているが、いざ、と言うと難しい物だな」
「……!!……!……」
「はい、よくできましたよ」
ロランの目の前には厚さや長さ、幅が不揃いのツマが出来上がっていた。
「まず、半分はお刺身用に、そしてもう半分はサラダ用に使います」
「たかが、大根と思っていたが……」
「神経を使うものですわね……」
「……(こくこく)」
「くぅっ!…頭が痛くなってきた」
「では、次はお味噌汁の作り方を教えます」
ロランは鍋を取り出し、水を張ると、次は昆布を取り出す。
「注意して欲しいのは、昆布を入れる前に、堅く絞った布巾で軽く拭って下さいね」
「どうしてなのだ?」
「ゴミや砂がまだ付いていますから」
「あら、まだ綺麗になっていないわよ?」
「この白いのは昆布の旨み成分ですので、拭取ったら駄目なんですよ」
拭いた昆布に、包丁で所々切り目を入れながら、
「こうすると、よく出汁が出ますので、憶えといて損はありません」
「……豚骨と同じ」
「そして、この昆布を十分ほど、お鍋に入ます」
「まだ火を掛けなくて、よろしいのね」
「はい、柔らかくした方が良いんですよ」
十分待つ間、ロランは大皿を取り出したり、
鰹節を出したりとかいがいしく動きながら、
「料理をする上で、余った時間を出さない事が大切ですよ」
「効率は大事だからな」
「それでこそ、立派な奥さんなのね」
「ポーッ」
(エプロン姿の私を見つめるヒイロ……優しい目で見つめて、
「リリーナ、手伝う事は無いか?」
「大丈夫ですわ、ヒイロ」なんて、素敵なのでしょうか……)
「リリーナ、さん……?」
あっちの世界に逝きかけたリリーナの袖をティファが引く。
「……ハッ」
彼女が現実に戻ると、赤面した物静かな少女が、
心配そうな視線で自分を見上げた事に気付いた。
「……その、私しか気付いていませんから」
「あ……あの……」
「大丈夫です、私も女の子ですから」
ティファの微笑みに、
リリーナは女教師に自分の考えが悟られなくて良かったと思いつつ、
人前で思い耽るのは止めようと誓うのであった。
リリーナが戻ってきた頃、既に鍋は火にかけられていた。
「沸騰直前……鍋の内側から泡が出ているでしょう?」
「うむ」
「このタイミングで昆布を出します、そのままですと滑りと濁りが出ますから」
「繊細なものだな」
「このまま、沸騰したら火を弱めて、鰹節を入れて火を止めてください」
「どうしてなの?」
「生臭みや、苦くなりますので」
「……本当に繊細」
「灰汁を取りながら、鰹節が沈んだら完成です」
「いよいよお味噌汁の番ね」
「いえ、その前に二番出汁の作り方も教えますから」
鍋をコンロから下ろすと、中身を布を敷いたボウルに移す。
布で漉されたボウルの中身はそのまま、布に残った鰹節と、
小皿に載せておいた昆布を最初の鍋に入れると、再び水を入れ、火にかける。
「沸騰したら、弱火で十分、最後に鰹節を追加すれば出来上がりです」
「これでお味噌汁を作るのですね」
「はい、これに煮干しを加えたのが、家で作るお味噌汁の出汁です」
「では、どうしてこれを作ったのかしら?」
「それは大抵のお料理に使える万能出汁ですから」
「でも、使い切れるのかしら?」
「一番出汁は、一回分に分けて、冷凍すれば四週間は大丈夫です」
「それは良い事を聞いた」
(フフ、それは私も同様だぞ)
「でも、今回は時間が無いので、お味噌汁だけ教えますね」
最終更新:2018年12月03日 12:07