501 名前:はじめてのセントウ1/5 :2011/12/14(水) 08:06:52.87 ID:???
 ちょっと前のこと。
 その言葉は夕餉の団欒の中で放たれた。
セルゲイ「ボイラーが…」
ソーマ「故障?」
ミン「と、言うよりは、全損です」
セルゲイ「どう言うことだ? …ふむ、このタクアンというピクルスはいいな」ポリポリ
ソーマ「お向かいのご夫人からいただきました。 自家製だそうです」ズズ…
セルゲイ「そうか…あとで何かお返しをせねばならんな。 それで?」
ミン「ここの設備は、ほとんど前の持ち主から現状渡しで引き取りました。
   ですので、あちこちがくたびれてたんです。
   ボイラーも、メーカーの耐用年数をかなり過ぎていました」
セルゲイ「修理をする訳にはいかんのか?」
ミン「今まではヤンとスタブロフががんばってくれていましたが、
   逆にそれがまずかったようです。
   ボイラー本体は熱による変形が著しいため、
   補修箇所から亀裂が発生。 ほぼ真っ二つです」
セルゲイ「やれやれ…では、しばらくは熱いシャワーはお預け、か」
ミン「業者に問い合わせたところ、新しい缶の交換には1週間ほどかかるようです」
ソーマ「そんなに?」
ミン「まぁ、他に宛が無い訳ではないんだが…」
 一同の脳裏に、やたらと元気な少年の笑顔が浮かぶ。
セルゲイ「…なんでもかんでも彼に頼るのは、良くないな」
ミン「同感です」
ソーマ「しかたありませんね…」
ミン「ですので、しばらくは入浴は銭湯を使用していただきます」
セルゲイ「戦闘…?」
ミン「銭湯、公衆浴場です」
ソーマ「スパのようなもの…でしょうか?」
ミン「そう考えていいようだ」
セルゲイ「うむ…しかし、予算は大丈夫なのか?
     ボイラーも交換しなくてはならないのだろう」
ミン「それなんですが…この国ではリーズナブルなこの手の施設が多いようでして」
セルゲイ「ほう」
ミン「何しろ日本人の風呂好きは、古代ローマ帝国市民に匹敵するとも言われます。
   この施設を日常的に使用している層もあるそうで、
   とりあえず一週間程度なら問題はないでしょう」
セルゲイ「了解した。 諸君、聞いての通りだ。 少々不便を強いるが、
     諸君ならば充分に対応してくれるものと信じる」
従業員一同「「「サー!イエッサー!」」」ザッ!
ミン「それでは、総員、2班に分かれてもらう。 A班は…」

502 名前:はじめてのセントウ2/5 :2011/12/14(水) 08:08:10.31 ID:???
ソーマ「その、わざわざすまないな。 私たちは皆、そんな場所は初めてなものだから…」
ティファ「気にしないでください。 困ったときはお互い様ですから」
フェルト「私、銭湯って始めて…」
ソーマ「そうなのか? 日常的に使われていると聞いていたが」
ティファ「えっと、そうですね。 使う人、使わない人ははっきりしてると思います」
 華やかに(ただし、言葉少なに)お喋りを楽しむ美少女たちと―

 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ…
セルゲイ「………」
従業員A「………」
従業員B「………」
 その後ろを正確な歩調で進む二列縦隊の男たち。
 日はすでに暮れ、道行く酔漢も多かったが、
 乙女たちに不逞を働こうなどという考えを起こす者はもちろん、無い。

 銭湯《サテリコン湯》

ソーマ「ここ、か?」
ティファ「はい」
セルゲイ「何というか…純和風だな。 もっとローマ建築風を想像していたのだが」
 鉄骨モルタルが多くなりつつある一般家屋の中に、
 その瓦葺の木造建築は異彩を放ちつつある。
ティファ「建物自体はずっと古いものなんだそうです。
     中は何度も改装したそうなんですが」
セルゲイ「ほう…では、紳士諸君!」
従業員s「「「サー!」」」
セルゲイ「目標に向かって、突撃!
従業員s「「「Ураーー!」」」
シン「なっ、なんだぁ!?」
フェルト「ちょ」
ティファ「ソーマさん! そっちは男湯です!」

503 名前:はじめてのセントウ3/5 :2011/12/14(水) 08:09:14.51 ID:???
ソーマ「男女別だったのか…」(////)
 やっちゃった感に頬を染め、「女湯」と染め抜かれた暖簾をくぐるソーマ。
フェルト「びっくりしました…」
ソーマ「すまない。 部隊では、ロッカーやシャワーも共用だったものだから…」
フェルト「ええっ!」
ティファ「…恥ずかしく、なかったですか?」
ソーマ「いや…それが当たり前だと思っていた」
パーラ「だよなー。 アタシとしては混浴のほうが手間がかからなくていいんだけどさ。
    いらっしゃい! あんたがソーマさん?」
 番台から身を乗り出す元気少女。
ソーマ「あ、ああ…」
パーラ「アタシはパーラ。 パーラ・シス。 ティファのダチさ!」
 にぱっ!と笑う顔には、どことなくガロードに通じるものがある。
ソーマ「ソーマ・ピーリスだ。 よろしくたのむ」
 人革連式の敬礼をしかけたソーマは、慌てて挙げた手を前に伸ばす。
 その手を、パーラはがっちりと握った。

パーラ「だいたい、男どもが情けないんだよな~。
    裸の一つや二つでオタオタすんなっつーの」
ザコ「…はぁ、ザコ」
シン「無茶言うなっての」
 男湯側。
 銭湯は初めてと言う異邦人たちに細々と説明していたシンたちが、思わずぼやく。
 見れば、荒熊従業員たちもうんうんと頷いている。
 どうやら、ソーマほどには開き直れていなかったらしい。
 それでも彼らは鉄の意志力で以てそれを表に出さなかったのだ。
ザコ「…紳士ザコ」
シン「ウチにもね、一人強烈なのがいるんですよ…」ハハハ…
 小さく、乾いた笑い声を上げるシン。
 初対面の筈の男たちが、万感を込めてシンの肩や背中を叩く。
 このとき、確かに彼らの心は通じ合っていた。

504 名前:はじめてのセントウ4/5 :2011/12/14(水) 08:10:19.30 ID:SboL8zxc
 しゅるり…
 わずかな衣擦れの音と共に、ソーマが軍支給のタンクトップから頭を抜く。
 腰まで届こうかという癖の無い銀髪が、光の滝になって滑り落ちる。
パーラ「おおお~~」
 爛々と目を輝かせて、番台から乗り出すパーラ。
ソーマ「?」
パーラ「うっわー! すっげー! おいシン、見ろよ!
    腰ほっせー! いろっぺー! なあってば! おい!」
 左手で男湯(脱衣所)のシンを手招きする。

シン「 で き る か ボ ケ え え え え え ! ! ! 」

 眉間の辺りで何かが砕けるような感覚を覚えつつ、
 力の限り投げつけられた衣類籠は天井で跳ね返り、
 狙い違わずしきりの向こう側に身を乗り出していたパーラを直撃する。
パーラ「おぶっ!」
 バランスを崩し、番台から脱衣所に頭から転落するパーラ。
パーラ「ふぎゅうぅぅ…」ピヨピヨ
フェルト「きゃっ!」
ソーマ「おい! 大丈夫か!」
ザコ「あー、ほっといていいザコよ。 これでオヤジ化が少しでも直れば御の字ザコ」
 よっこいしょと番台に上がるザコ。
 ロボットの筈の彼のモノアイに、何かを悟ったような光が見えるのは気のせいであろうか。

 かぽーーーん…

セルゲイ「おや?」
グラハム「おお! このような場所でお目にかかれるとは!」
セルゲイ「なんとも奇遇ですなぁ」
シン「(グラハムさん、ここに住んでるから奇遇でもなんでもないんだけどな)」
 脱衣所にモップをかけながらシンが内心でつっこむ。
セルゲイ「実は、私も部下(従業員)たちもこのような場所は始めてでして」
グラハム「ほう…では、不肖、このグラハム・エーカー
     銭湯のプロとして、ご指南いたしましょう!」
セルゲイ「おお! それは心強い!」
グラハム「それでは、エーカー流入浴術、序の一段として(ry」

ザコ「…そっちは頼むザコ」
シン「おう。 …ぜってー労働量に給料が見合ってないと思うんだけどな」
ザコ「気持ちは判るザコが、無い袖は振れないザコ」
シン「ちくしょう、なんでこんな事になってんだろ」つ【GNハリセン】

505 名前:はじめてのセントウ5/5 :2011/12/14(水) 08:11:18.47 ID:???
ぴちょん!






















ソーマ「…浮くんだな」
ティファ「浮くんです…」

フェルト「ふえ?」


                    おわり

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最終更新:2015年05月07日 23:05