誰も居ない様なので、ネタ投下。
この地方にしては珍しく雪が降り積もった。
朝食を終えたウッソは、さっそく雪遊びに興じる兄弟達を尻目に
独り家を抜け出した。
最近、他の兄弟達と共にいる事に何故か苦痛を感じる。
自分でも理解できない、おもがゆい気持ちに苛まれるのだ。
彼らが嫌いなわけでは決して無い。
尊敬する兄達であり、可愛い弟達、愛する家族である。
しかし、どうも駄目なのだ。
ウッソ「反抗期って・・・、ヤツなのかな・・・。」
そう呟きながらウッソは跳ねるように歩く。
・・・気が付くと、彼は近所の寺の境内に立っていた。
雪に染められたせいか、何時にも増して寂しい無人の境内。
身を斬る様な静寂に、ウッソは暫し立ち竦んだ。
寒い。
本堂の周りを廻る廊下の縁に腰を下ろし、
ウッソはマフラーを巻き直し、己の身を抱き締めた。
風邪ひいちゃ駄目だからって、このマフラーくれたの
誰だっけ。
随分と年季の入った、手編みらしきマフラーを見やり考え込むウッソ。
ウッソ「・・・母さん?」
ウッソは母をあまりよく憶えていない。
物心ついた時には既に両親は居なくなっていた。
自分や幼い兄弟達を世話していたのは、主に四つ上の兄ロランだった。
211 名前:ロランとウッソ(2)投稿日:2005/12/15(木) 00:41:22 ID:???以来、ロランは他の兄達とは違い、彼にとって特別な人になった。
兄であり、母でもあり、そして恋人でもある。
・・・・・・特別な人。
長兄アムロにさえ言えない事も、ロランには気兼ねなく打ち明ける事が出来た。
ウッソ「・・・なら、僕は恵まれてるのか。」
少なくともロランより年上の六人に比べれば。
自分はまだ『子供』で在る事ができるのだから。
変な所で変な意地を見せる、個性豊か過ぎる兄達。
さぞや抱え込んでいる物も大きかろう。
そんな風に深く考え込むとNTの勘も上手く機能しないのだろうか。
ウッソは頬に熱い塊が触れるまで、隣りに立つ者の存在に気付く事が出来なかった。
ウッソ「うわっ!?」
心底驚き、思考を妨げた無粋者に眼を向けたウッソの前には、
両手に缶コーヒーを持ったロランが微笑んでいた。
212 名前:ロランとウッソ(3)投稿日:2005/12/15(木) 00:43:52 ID:???ロラン「どうしたんですか? こんな所で。」
風邪をひいてしまいますよ? と、ウッソの隣りに腰を降ろし、
ロランは缶コーヒーを手渡してきた。
ウッソ「・・・ありがとう。」
凍えた手の中、やけに存在感のあるコーヒー缶を弄りながら、
ウッソは小さく礼を返した。
ウッソ「ロラン兄さん、なんでここに?」
ロラン「お醤油が心細くて買い物に出たんですけどね。」
そう言ってビニール袋を見せるロラン。
ロラン「帰り道、この下の道を通ったんですが、ああ、ウッソが居るなって。」
ウッソ「判るんですか?」
ロラン「判りますよ。家族なんですから。」
いまいち釈然としないながらも、ウッソは缶コーヒーに口を付けた。
ロラン「・・・で? 何を悩んでいたんですか?」
微笑を絶やさないまま問い掛けてくるロラン。
ウッソ「それも・・・?」
ロラン「家族ですから。」
213 名前:ロランとウッソ(4)投稿日:2005/12/15(木) 00:46:17 ID:???ウッソはロランの質問に答える前に、何やらモジモジとした視線を彼に送る。
それに気付いたロランは、ふっと笑うと自らのコートの前を開き、弟を誘った。
ロラン「・・・いらっしゃいな。」
ウッソ「・・・・・・(真っ赤)。」
何も言わず、開いたコートの中に身を滑り込ませるウッソ。
ロランは彼の身に後ろから抱きつく形となった。
ロラン「ウッソは甘えん坊さんですねぇ。」
ウッソ「・・・・・・(真っ赤)。」
この様に、ウッソは他の兄弟達が居ない時に限り、
ロランに甘える時がある。
それはロランを特別に想い、信頼しているからなのであるが。
彼は知らない。
実は他の兄弟達も、それぞれロランとの間に秘密を分かち合っている事を。
ウッソ「悩みって言うか・・・さ。新ためて理解しただけなんです。」
ロラン「何をですか?」
ウッソ「僕が・・・子供だって事。」
そう告白するウッソを、ロランはギュウっと抱き締めた。
ウッソ「僕は皆に嫉妬していたのかもしれない。」
当然のように甘えられる弟達の幼さが。
そしてそれを受け止められる兄達の大きさが。
少年であり、少年ではないウッソには羨ましかったのかもしれない。
214 名前:ロランとウッソ(5)投稿日:2005/12/15(木) 00:48:54 ID:???ロラン「・・・貴方は手の掛からない子でしたからねぇ。」
抱き締められた分、ウッソとロランの距離は短くなる。
ウッソは肩口辺りからロランの匂いを感じ、少し頬を染めた。
例えれば、南国に咲く花や果実の様な。
そんな甘い匂い。
ウッソは彼の匂いが好きだった。
ウッソ「ロラン兄さん。・・・兄さんは、無いの?」
ロラン「何がですか?」
優しいロランの声が、ウッソの耳朶を甘く火照らせる。
それを大いに意識しながらも、ウッソは重ねて訊ねてみた。
ウッソ「誰かに・・・兄さん達に甘えたいって思った事。」
そう聞くとロランはウーンと唸り、そして照れたような声で答えた。
ロラン「あるとは思うんですが・・・。正直、よく判りません。
甘えるってどうしたら良いのか、ボクには判らないんですよ。」
そんな事より、家族の皆が愛しいって気持ちの方が先にきてしまいますから。
そう言って笑う兄の顔が、ウッソにはこの世の何よりも美しく思えた。
ウッソ(案外、不器用な人なのかもしれない・・・・・・。)
でも。
ウッソ「そんな事言わないでよ・・・。家族、なんですから。」
温かいコーヒーのおかげか、ウッソはすんなりと『家族』という言葉を
話すことが出来た。
ウッソ「だから、そんな寂しい事言わないでよ・・・。」
ロラン「ウッソ・・・・・・。」
215 名前:ロランとウッソ(6)投稿日:2005/12/15(木) 00:52:14 ID:???ロラン「じゃあ・・・甘えても、いいですか?」
ウッソ「・・・えっ?」
ロラン「今だけ、ウッソに甘えても・・・いいですか?」
その言葉と共に、ウッソは再び抱き締められた。
意外に力強い。しかしその抱擁は温かく、心地よかった。
花の匂い。
「・・・今日は夕食の準備、手伝うよ。」
「ええ。」
「後片付けも、僕がやる。」
「はい。」
「ロラン兄さんは・・・幸せ?」
「ええ、幸せですよ。」
静寂の境内に曇天から再び雪が舞い降りて来たが、
二人がその場から立ち去るのは、もう暫く後の事だった。
終
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ウッソ・エヴィン ロラン・セアック 雪
最終更新:2019年02月14日 11:59