191 名前:東方不敗とロランクッキング① :2012/11/29(木) 00:59:50.11 ID:???
ロラン「さて、と」
 ある日の昼前。一通りの掃除を終えたロラン。向かう先には、ガンダム家の胃袋を支える冷蔵庫があった。
ロラン「あー、やっぱり昨日で結構使い切っちゃいましたね。また買い物にいかないと」
 冷蔵庫の中には野菜などはあるものの、メインになれるような肉・魚類が圧倒的に不足している。野菜炒めでもいいのだが、それでも量が少なすぎる。
 そもそもこのガンダム家。特にガロードやジュドー等が該当するのだが、人数が多い中に健啖家も多い。むしろジュドー・ガロード・ドモンの三人で通常の二家族分は一気に消える。
 まあとにかく美味しそうに食べてくれるので作り手としては作り甲斐があってなによりなのだが、そうなると食材の調達が難しくなってくる。
ロラン「はあ、今月は少し厳しいからなぁ………ウッソの家庭菜園も収穫はもう少し先だし」
 家庭の経済事情全てを取り仕切るロランは、この手のことでの気苦労が絶えない。
 このように、ちょっとでも気を抜くと空になってしまう冷蔵庫。買い出しに行くにも、先のメニューまで見越しておかなければ無駄が出てしまう。それは主夫根性が許せるものではないのだ。
 そして、今は丁度昼前。自分の昼食だってそうだ。まあ今あるだけのものでやってしまってもいいのだが、どうせなら買い物に行って献立の幅を広げておきたい。
ロラン「仕方ないですね。特売品を確認しながらメニューを………」
 ピンポーンッ
 耳に入ったチャイムの音。昼前に誰だろうと玄関まで(変態衆を警戒しながら)向かう。
??「失礼する、誰かおるかね?」
 最近、聞く機会が増えた声。一抹の安心感を覚えながら玄関の戸を開くと、
ロラン「お待たせしま………どうしたんですか?」
東方不敗「いやはや、このような格好で申し訳ないな」

 最強の武闘家が、釣キチ○平的な格好してた。

192 名前:東方不敗とロランクッキング② :2012/11/29(木) 01:00:31.05 ID:???
東方不敗「いやなに、最近釣りを始めたのだがこれがなかなか気に入ってしまってな」
 完全に堤防釣りから帰ってきました的な格好。手に持ったクーラーボックスと、収納された竿。うん、どっからどう見ても釣り帰りです。
 しかも、何故だろう。最強クラスの武闘家である東方不敗、この格好が妙にしっくりきている。
東方不敗「今日は朝方から行っておったのだが、どうも釣れ過ぎてしまってな。それで以前ウッソ君に芋を御馳走になったお返しにと思ってな。」
 そうか、と。ロランは少し得心がいった。
 そういえばしばらく前、ウッソの家庭菜園で大量に収穫されたサツマイモを東方不敗にお裾分けし、次兄と共に焼き芋をしたと言っていた。暇を見てはちょくちょくガンダム家に顔を出すようになったのもその辺りからだったと思う。
 ………最近はキオの件で様々あるみたいだが、まあそこは置いておいて。
ロラン「わざわざすみません。今は僕しかいないですが………」
東方不敗「いやいや、構わんよ。それで、その魚なのだが………」
 下に置いておいたクーラーボックスを掲げ、その蓋を………
東方不敗「実は、な。丁度群れに当たったらしく、かなり偏ってしまってな………」
 その中身は、まさに一色だった。
ロラン「アジ、ですよね………うわぁ、この数は、まさに………」
東方不敗「流石に予想できなかったわい。釣竿を投げて五秒と置いておらんよ。おかげで予定よりかなり早くあがることになってしまった………」
 クーラーボックスの中に所狭しと詰め込まれたアジ。これは最早このまま魚屋に出荷できるレベルではないだろうか。というかこんな重量物を担いでここまで歩いてきたのか。流石と言わざるを得ない。
東方不敗「まぁ、今日よりしばし、わしの食卓はアジ一色よ」
 カラカラと笑う東方不敗。
 というかこの人、自宅で一人の光景が想像つかない。そもそもどんな家に住んでいるのだろう。………まさか修業のために漂泊の民、とかないだろうな?と考えたところで、ロランの思考は現実に戻る。
東方不敗「まあ、そういうわけだ。好きなだけ貰ってくれい」
ロラン「ありがとうございます。これなら、しばらくは様々なものが作れそうです」
東方不敗「ほお?例えば、どのような?」
ロラン「そうですねぇ………例えば、定番で塩焼きに刺身、開きにしてもいいですし、ジンタ(小さいアジ)は唐揚げとか南蛮漬けとか、マリネもいいかもしれないですね」
東方不敗「まさに、様々よな。一つの食材からそれだけの献立を思いつくとは、感服いたすわい」

193 名前:東方不敗とロランクッキング③ :2012/11/29(木) 01:01:18.27 ID:???
 と、ここで。
 ロランの脳裏に一つの名案がひらめいた。これが漫画ならば頭の上に電球でも出たかもしれない。
ロラン「マスターアジアさん、今日のお昼は?」
東方不敗「いや、まだだが………それが?」
 以前、購読している料理本の中で地域料理の特集という物をやっていた。その中で、機会があれば一度やってみたいと思っていた物があったのだ。
ロラン「よろしければ、今からお昼作るのでご一緒しませんか?このアジを、早速使わせていただきます」
東方不敗「おや、これはかたじけない。では御相伴に与らせていただくとしよう」
 ロランは東方不敗を招き入れ、リビングに案内すると自身は記憶の中からその料理のレシピを引っ張り出す。
ロラン「さて、まずは、と」




ロラン・セアック先生のお手軽クッキング

材料(3~4人前)
  • アジ(4尾)   ・長ネギ(2分の1本。頭の部分も)
  • ショウガ(1欠片、およそ20gちょい) 味噌(大さじ1~2。種類はお好みで)
  • 酒(少々)   ・醤油(少々)   大葉(8枚)   ごま油(適量)

作り方
①アジは三枚に下ろして皮を剥く。ゼイゴ(尾の両側にあるトゲトゲ)を先にとると安全。皮と中骨についた身はスプーンなどでこそぎ取る
②長ネギとショウガをみじん切りにする
③アジの身を細かく切って、②のショウガ・長ネギと味噌を入れて包丁でよく叩く。この時、よく粘りが出るまで叩くと後で柔らかく焼ける
④酒・醤油を入れて混ぜる
⑤平たく纏め、大葉で挟む
⑥よく熱したフライパンにごま油を敷き、焼き上げる(焼き過ぎると大葉が苦くなるので注意)

完成。



ロラン「お待たせしました。『アジのサンガ焼き』です。」
 ロランがご飯と簡単な汁物と一緒に運んできたそれは、大葉で挟んだハンバーグのようなものだった。香ばしい香りが食欲をそそる。
東方不敗「おお、これはなんとも………」
ロラン「ネオ・ジャパンのチバ地方の南部で愛好されてる料理らしいんです。それと、これもどうぞ」
 ロランが追加で持ってきた皿には、こちらはまた香り豊かな魚のたたき。また食欲をそそる一品だった。
ロラン「サンガ焼きを作る際に、焼かずにおいたものです。これは『なめろう』という涼理らしくて、全く同じ作り方で2つの品ができるんですよ」
東方不敗「なんと。新鮮な生と香ばしく焼けた姿、一度に味わえるとはな。これはこれは、お礼のつもりで参った筈が、こんなに素晴らしい食事まで頂いてしまうとは」
ロラン「いいんですよ、こちらこそ素晴らしい魚を頂いてしまって。さあ、食べましょう」
 共に食卓につき、「いただきます」の声と共に箸をつける。
 香ばしく焼けた中に広がる薬味の香りとふわりとした魚の食感。それは白米の食感に優しく包まれ、思わず顔がほころぶような安心感をもたらす。
 今度はなめろうを口に運べば、新鮮な魚の風味を薬味が引き立て、油断すれば箸が止まらなくなってしまうような、癖になる味わいだった。
東方不敗「美味い。なんとも箸がすすむ。それに、驚いた。アジ一つで全く違った二つの味わいを演出するとは………ネオジャパンの食文化もそうだが、ロラン君の料理の腕、それに食に対する誠意には感服させられる」
ロラン「そんな、大したことじゃないですよ。ただ、ご飯は皆が皆楽しみにしてる物ですから、少しでも美味しく食べてもらいたいじゃないですか。だから勉強してるだけなんです」
東方不敗「その姿勢にこそ感服するわい。ドモンは幸せ者よ。ここまで心をこめて食事を拵えてくれる兄弟が居るのだから」
 マスターアジアはただただ顔を綻ばせる。なんとも優しい味だ。それは、食べる者を思いやる人間にしか出せないもの。
 眼前のまだ齢20にも満たぬ青年はそれを当然だと言い切る。
 それがただ、我が身のことのように嬉しかった。
 そして、食事を終え、箸を置く。
東方不敗「ごちそうさま。とても美味しかった」
ロラン「ありがとうございます。それじゃあ、お皿を下げるのと、ちょっとおまけの様なものを仕上げてきますね」
東方不敗「おまけ?」
ロラン「すぐにできますよ」
 兄弟以外の誰かに料理を食べてもらえたのが嬉しかったからだろうか。
 ロランの顔は、なんとも晴れやかに微笑んでいた。

194 名前:通常の名無しさんの3倍 :2012/11/29(木) 01:03:52.17 ID:???
ドモン「し、師匠!?いらしてたんですか!?って、その格好は………」
東方不敗「おお、ドモン。いやなに。もう帰るところだ。今日は貴様に用では無い」
 ドモンが帰って来たのは、丁度マスターアジアが玄関先で靴を履いている時だった。焼き芋の時といい、なぜかこの師弟、ガンダム家ではすれ違うことが多い。
ロラン「ちょ、ドモン兄さん。どうしたんですかその格好は」
東方不敗「またどこぞで化物と闘いでもしたか?」
 ドモンの恰好は正直言ってただ事では無かった。もう、あれだ。世界大戦に単身突っ込んでフィーバーした後みたいな、そんな感じ。
ドモン「いや、実は今回は俺もよくわからないんだ。永井市まで用事を済ませに行っていたら、突然謎の爆発に襲われてな。なにやら巨大な、真っ赤な機体が戦ってたよ」
ロラン「シャアさんのサザビーか何かですか?」
ドモン「いや、全く違った。そもそもMSなのかあれは?3つに分かれたと思ったら、今度は腕にドリルのついた白い機体になったり、戦車みたいな機体になったり………」
 相変わらず闘いの宿命から逃れられない人だ。本人的にはそれでいいのかもしれないが、なるほど、本人もわけがわからないというケースは珍しい。
ドモン「帰りがけに、ものすごい勢いでアムロ兄さんのνガンダムが飛んでいくのが見えたが………って、それよりも。師匠、今日は一体どうして?」
東方不敗「もう済んだと言っただろうが。まあ、今日の食卓を楽しみにしておれ。ロラン君が素晴らしい物を作ってくれるだろう」
 何やら腑に落ちないようではあるが、最近こんなこと続きなせいかドモンも深くは追求しない。
東方不敗「ロラン君、今日はごちそうになった。最後に作ってもらったあの『おまけ』、あとでわしも作ってみることにするよ」
ロラン「こちらこそありがとうございました。今度、ウッソがまた野菜を御馳走したいとのことなので、是非また」
東方不敗「おお、そうか。ウッソ君にアル君、キオ君達にもよろしくな。それでは」
 そういって去っていくマスターアジア。その表情は世界最強クラスの格闘者では無く、ここ最近見られるようになった、あの優しい顔、。
 祖父の、顔。
 釣り人スタイルの最強の祖父は、あの優しい味を思い出しながら帰路についた。



東方不敗「………うむ。美味い」
 夜。もう風も冷たくなってきたこの季節、それでも月は美しい。
 その月を見上げながら、マスターアジアはお気に入りの酒を味わい、皿に手を伸ばす。
東方不敗「これはいい『おまけ』だわい。思わず、いつもより酒が進んでしまうな」
 その手にあるのは、魚の骨を揚げた物だった。
 ロランが言っていたおまけ。それは『骨せんべい』のことだった。
 言ってしまえば魚の骨を香ばしく揚げて軽く塩をまぶしただけのものなのだが、これがまた味わい深く癖になる。お茶請けや酒の肴として、なんともうれしい一品なのだ。
東方不敗「………まこと、一匹のアジからあそこまで多種多様に無駄なく仕立てるとは、大した青年よ」
 あの、どこか幼さの残る顔立ちでいつもこうして家族のことを支えているのだろう。
 今度行く時は、自分も何か丹精込めた一品を御馳走しに行くとしよう。寒い日が続く、肉まんなどがいいかもしれない。
 この日、冬が顔を見せ始めた冷え込みの中で、
 マスターアジアは、どこか暖かかった。



最後連投規制くらって遅れた、申し訳ない自爆する

197 名前:通常の名無しさんの3倍 :2012/11/29(木) 02:00:24.39 ID:???
ロラン「サンガ焼きのレシピですが、いくつか補足です」

※③の時に大葉を少し刻んで入れても良し。
※酒は三枚に下ろした時に馴染ませても良し

ロラン「また、骨せんべいは大きめのアジよりもジンタ(小さい味)で作った方がいいかもしれませんね。食べやすくなります。
     それでは、是非お試しください」

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最終更新:2015年11月29日 21:12