916 名前:ヒューマンタッチ 1/5投稿日:2006/04/22(土) 10:34:51 ID:???
今日もいつものように兄弟にザクで挑み、いつものようにバーニィが
ミンチになった。
そんな当たり前で平凡な週末の事である。
仕事のため帰りが遅くなるアムロやデートなどで帰ってこない兄弟抜きの夕食後、
居間にはシロー、ロラン、ガロード、アルの四人がTVを見てくつろぎ、
他の兄弟が自分達の部屋へ戻っていった後の事だった。
アル「どうして僕の家は
ガンダムばっかりなのさ!ザクだってかっこいいのに!」
他の兄弟が
ガンダムを所持もしくは
ガンダム派のため、唯一のザク派のアルは肩身が狭い。
そんな中、バーニィはザクに乗っていつも
ミンチになっているのである。
ザクが大好きなアルには我慢の限界だった。
ロラン「ザクだっていい機体だと思いますよ」
アル「だったらどうして
ガンダムじゃなくて、みんなザクにのらないの!?」
ロラン「アムロ兄さんを始めに、他の兄弟も
ガンダムに縁が深いですから」
シロー「そうだぞ、アル。アムロ兄さんの仕事の事も考えてやってくれ。
そのうちアルも
ガンダムに乗ることがあるさ」
アル「
ガンダムなって大っ嫌いだ!
ガンダムに乗るぐらいならそんな家出てってやる!!」
シロー「おい、アル…」
アルの過激な発言に、シローが少々あきれながらアルを叱ろうとした瞬間─
パシ───ン!!
乾いた音が居間に響きわたった。
917 名前:ヒューマンタッチ 2/5投稿日:2006/04/22(土) 10:36:31 ID:???
ガロード「独りになるつらさもわからないのに、そんなことを言うな!!」
シロー&ロラン「!!」
アル「ガロード…兄ちゃん…」
アルにとってガロードはふざけたりはしていても優しく楽しく笑いかけてくれる兄である。
そう、ガロードはアルに対してこんなにも怒ったことはない。
だからか、初めて真剣に怒るガロードを見たアルは冷や水を浴びせられたようにシュンとなった。
ロラン「ガロードもやりすぎですよ」
アルを叱るためとはいえ、少々やりすぎたガロードをたしなめようとしたロランだったが、
ロランの言葉に振り返ったガロードはいつものガロードには絶対に見られない
悲しい目をしていたため、何も言えなくなってしまった。
ガロード「くっ─────」
ロラン「あっ、ガロード!」
ガロードは振り返りもせず家を飛び出していった。
アムロ「ただいま。3人ともどうしたんだ?」
家を飛び出していったガロードと入れ替わりで一家の大黒柱、アムロが帰ってきた。
ロラン「あ…、アムロ兄さんおかえりなさい」
アムロ「何かあったのか?ガロードが家から飛び出して行ったようにみえたが…」
アル「僕が変なこと言っちゃったから…」
シロー「アルが家を出るとか言ったから、ガロードがあの時の事思い出したみたいで…」
アル「あの時…?」
アムロ「そうかアルは覚えていないか…まだ小さかったからな」
そう言ってアムロはソファーに深く腰掛け、深いため息をついた。
このソファーはガロードとジュドーが拾ってきて修理した物だったのをアムロは思い出す。
そして、その時の二人のやんちゃで誇らしげな笑顔を。
今では座り心地のよさから兄弟全員からのやすらぎの場の一つとなっていた。
アムロ「父さんと母さんが亡くなってしばらく経った頃のことだ。
二人がいなくなった頃…ちょうど俺が働きはじめた頃、
社会人になって仕事が忙しかった俺はみんなの面倒を見てあげれなくて、
小さかった兄弟はよくご近所さんに面倒を見てもらっていたりしてなんとか生活していたんだ。
そして、俺の仕事も軌道に乗ってやっと落ち着いたとき、
相当根を詰めて働いているように見えたらしくてな、
ご近所さんの好意でみんなで旅行にいくことになったんだ。
そして…その旅行の途中、ガロードだけが行方不明になったんだ…」
918 名前:ヒューマンタッチ 3/5投稿日:2006/04/22(土) 10:37:31 ID:???
アル「ガロード兄ちゃんが…?」
シロー「そうだ。…俺がもっとしっかりしていれば…」
ロラン「シロー兄さんのせいじゃありません。
コロニーが落ちてくる事件が起こるなんて誰も予想なんてできないですよ」
アル「えっ、コロニーが!!」
アル以外の3人の表情がその時のことを思い出して暗くなる。
アムロ「ザイデルとかいう過激派がコロニーを落としたんだ。その時、俺達は近くの空港にいたんだ。
そして、空港は…怒号、泣き声、押し寄せる人の群れ…逃げる人たちで大混乱になった。
他の兄弟ははぐれずにすんだが、ガロードだけが行方不明になったんだ。
色々と俺達も探したり手を尽くしたりしたんだが、ガロードは結局見つからなかった…」
アル「そ…そんな」
アムロ「ガロードは事件から何年も経ってから帰ってきた。
それまでの間、ガロードは一人で生きていたと言っていた。
行方不明になったときは今のアルよりももっと小さかったのにな…。」
アル「………」
アムロ「その時のことは、俺達他の兄弟の誰にも話してはくれない」
シロー「一人で生きていたからか集団生活になじめなくて、戻ってきた当初は喧嘩ばっかりだったな」
話を聞いてアルは昔、カミーユを筆頭にガロードが喧嘩していたのを思い出す。
確か、ガロードが間違ったことに何も謝らなかったことに対して、他の兄弟が怒ったのだ、と。
ロラン「近しい人にどう対応したらいいのか分からなかったんですよ」
すこし、3人の表情が和らぐ。
アムロ「その後、いろいろあって昔のように、心に壁を作ることはなく、喧嘩も少なくなった。
…騒ぎは起こすがな。ガロードは一人で生きていく辛さも苦しさも知っている。
だから、アルに怒ったんだ」
さっきのガロードの表情が思い浮かぶ。
真剣に怒っていた。そして、悲しい目をしていた。
アル「…僕、ガロード兄ちゃんに謝らなきゃ」
時計の針が日付が変わったことを知らせる。
アムロ「そうだな。だが、今日はもう遅い。…アル、今日はもう寝るんだ」
アル「だけど、ガロード兄ちゃんが帰ってくるまで僕は待つんだ」
シロー「ガロードは今日は帰ってこないだろう。昔もそうだったからな…」
ロラン「ええ、そうですね」
当時を思い出した3人にドタバタの記憶と微笑が浮かぶ。
アムロ「それに、今のガロードには彼女がいる。大丈夫さ」
919 名前:ヒューマンタッチ 4/5投稿日:2006/04/22(土) 10:38:28 ID:???
ガロード「………」
その頃、家を飛び出したガロードは近くを流れる川の土手で
寝転がり、星空を見上げ、生き別れてからのことを思い出していた。
家族と生き
別れた後、何日も食べ物を食べられない事もあった。
大人にだまされ、世間の辛さに挫けたこともあった。
盗みを始め悪いこともたくさんした。
MSが一般的になった後、MSハントをするようになった。
死ぬ思いをしたのも1度や2度じゃない。
それでも生きた。いや生き抜いた。
生き抜いて家族の元に帰ってからも家族になじめなかった。
自分がいるべき場所でないような気がした。
騙されないように、隙をつくらないように。そうやって生活していたことが変えられず、
本心をださないようにしていたのが、NT能力で感知できるるカミーユには気に食わなかったのか、
喧嘩した。
確かその時にカミーユは言っていたな…本当は愛されていることを思い出せ!…だっけな。
人の事には敏感なのに、器用で不器用で嫌いにならなかった。
他の兄弟も同じ…。
争うだけじゃなく愛することができるようになったのもこんな兄弟の影響だったかな…。
辛かった一人の頃の思い出と嫌いではないけれど馴染めなかった兄弟との思い出。
正直楽しかったといえば嘘になる。
ガロード(───でも、ティファと出会えたのもあの頃だった)
???「…ガロード…」
ガロード「!?ティ…ティファ!どうしてここに?」
ティファ「なんだか、胸騒ぎがして、ガロードの顔が浮かんで、足が自然にこっちに向かったの…」
そう言ってガロードの横に腰掛ける。
ガロード「………」
ティファ「………」
しばらく二人は無言で星空を見上げていた。
ガロードはティファと一緒にいるだけで、さっきまで沈んでいた心が穏やかになるのを感じていた。
ティファ「私は………。私は、ずっと研究施設に捕らわれていました。それは辛い実験の毎日でした。
楽しいことも、嬉しいことも何一つ無い毎日…。私にとって過去とは思い出したくないものでした」
ガロード「ティファ…」
ティファ「でも、ガロードと出会ってから、もう一人ぼっちじゃなくなってから、
毎日とはとても楽しくて嬉しいものに変わりました。
それまでがあったからガロードと出会えた。そう思うと私の過去は意味のあるものになりました。
だからガロード、そんな悲しい顔をしないで。
どんな事があっても、私はガロードと一緒に生きるこれからの時を悲しいものにしたくはないから…」
ガロード「ティファ………。
心配かけてごめん。そうだよな、今までがあったからティファと出会えたんだよな」
ティファ「ガロード…」
ガロード「俺…。ティファと出会うまでずっと一人で生きていたも同然だった。
でもティファと出会ってから俺の人生は変わった。
ティファ。俺はもう迷わない。一人生きていた過去も全部、ティファと出会うためにあったんだって。
だからティファ、ずっと俺のそばにいるんだ、いいな!」
ティファ「うん!」
─蒼き月光が夜空に輝いていた─
920 名前:ヒューマンタッチ 5/5投稿日:2006/04/22(土) 10:40:11 ID:???
ロラン「今日もいい天気ですね…」
朝5時。今日も一家の主婦ロランが朝食を作るために起きてきた。
居間のカーテンと窓を開け、鮮やかに晴れた春の日差しと心地よい風を感じても心は沈んだ。
ロラン「ガロードは結局、帰ってこなかった…」
1階に降りてくる際、向かいのガロードとジュドーの部屋を覗いてみたが、ガロードは帰っていなかった。
帰ってくると言うアムロの言葉もガロードの事も信じているが、やはり不安になってしまうのだった。
ロラン「…さ、朝食を作らないと」
ロランは不安を振り切るように台所へと向かう。
アル「ロラン兄ちゃん、おはよう」
ロラン「おはよう、アル。どうしたんですか、こんな朝早く?」
アル「ガロード兄ちゃんのことが気になって…」
ロラン「………」
ガロードが帰ってきていないことを告げようかロランが迷っていると、
ガロード「ただいま~」
ロラン「ガロード!」
アル「ガロード兄ちゃん!」
ガロード「今日土曜で休みでしょ。んで、これから眠るんで、朝食いらないからロラン兄」
ガロードは一つ大きなあくびをして部屋に戻ろうとする。
アル「ガロード兄ちゃん!」
ガロード「ん、アルどうした?」
アル「ガロード兄ちゃん。ごめんなさい。僕、ガロード兄ちゃんの気持ちも考えないで
あんなこと言っちゃって…。もう家出て行くなんて言わないから、ごめんなさい」
ガロード「…」
アルはガロードが手を伸ばしてきたのを見て目を閉じて、殴られると思い身を硬くした。
しかし、ガロードはアルの頭を撫であげるのだった。
ガロード「アル。俺だってもっと酷い事を言った事だってある。だから、気にするな。
そして、アル覚えておくんだ、生まれた日から愛されているんだって…。」
目を開けたアルの前には、アルの知っているいつもの
明るくて優しいガロードの笑顔があった。
アル「ガロード兄ちゃん!」
アルも笑顔になった。
ロラン「…今日もいい一日になりそうですね」
そんな二人を眺め、ロランも笑顔になり、
今日も兄弟の心に光と笑顔があふれる一日が始まる。
END
最終更新:2019年02月21日 14:22