前に書いたのはpart7の625、季節は三月の話という事で。分かりやすくするために前に貼った分も一緒に貼る。


バレンタインも終わり、季節も春に入ろうとしている頃のとある土曜日。家の庭でツナギを着、機械油にまみれてMSをいじっていたガロードとジュドーが 、
訪問外交に出掛けたリリーナの護衛で半月近く家を留守にしていたヒイロが疲労も露に家の門を通ろうとしている所を目に留めた。
「ヒイロ!?お前一体何やってたんだよ!一週間前に『これから帰る』って連絡が入ってから音沙汰が無かったもんだから皆心配してたんだぞ!」
今にも倒れそうな危なっかしい足取りで歩くヒイロに駆け寄りながら、ガロードが声をかける。
「すまない……護衛中に要調査すべき対象が見つかって、調査を終えるのに予想外に時間がかかった…俺の…ミスだ……!」
ふらつきながらも懐を探って自爆装置を取り出し、スイッチを押そうとするヒイロをジュドーが必死に押し止める。
「だあーわかった!わかったから自爆スイッチを取り出すな!押すな!とりあえず家の中に入るぞ!そろそろロラン兄が昼飯作る頃だし!」
「あ、そうだ。それでちょっと頼みたい仕事があるんだけど……おーいロラン兄ちゃん!ヒイロが帰ってきたぞー!」
ガロードが玄関から奥に向かって声を張り上げ、パタパタという音とともにエプロンで手を拭きながらロランが走って来る。
「ヒイロが!?一体今まで何をやって…って二人とも何ですかその格好は!これからお昼ですけどその前にお風呂に入ってください!」
「えーっ、別にいいじゃんこのままで」
「そうだよ、どうせ昼飯食べた後もまた仕事で汚れるんだから…」
口々に文句を言う二人だったが
「 い  け  ま  せ  ん  !入らないのなら二人とも御飯抜きにしますよ!」
二人に顔を近づけ、伝家の宝刀「やらないのなら御飯抜き」を使ったロランには逆らえず、渋々と承諾する。
「ちぇ…それじゃヒイロ、さっき言ってた仕事の話は俺らが風呂入ってからで…」
「いや、構わない。今聞こう」
「今って…しょうがねぇな、んじゃ風呂入りながら話すとするか」

727 名前:通常の名無しさんの3倍投稿日:2006/07/16(日) 00:23:47 ID:???
「で、だ。さっき言った仕事の話、さっき庭でいじってたMSあったろ?あれを売ろうと思うんだ」
シャワーの水音の混じったガロードの声を、ヒイロは風呂場からガラス一枚隔てた脱衣所でガラス戸に背を預けて麦茶の入った湯飲みを片手に聞いていた。
湯飲みを傾けて中身を飲み干すと、傍らに置いてあるヤカンから再び湯飲みに麦茶を注ぎ足す。
「庭にあったMS…外部装甲を見る限りではGX-9900ガンダムエックスに見えたが…まさかあれを売るつもりか?」
「そうだよ。流石ヒイロ。見てないようでよく見てる」
茶化すようなジュドーの声を背中で聞く。
「しかしあれにはサテライトキャノンとFシステムが搭載されている。迂闊に売却すると…」
「んなこたぁこっちだってわかってるよ」
咎める色を含んだヒイロの声を遮るようにガロードが返事をした。
「そりゃあね、俺だってこんな下手すりゃ後ろに手が回ることはしたかないよ。
でもホワイトデーも近くてティファにお礼しなきゃならないってのにその前に先立つものもありゃしない状況なんだから、 もう主義云々言ってられないのが現実なんだよ」
悟りというか諦観というかそんな感情が入った声で世知辛い話を言う。因みにそうなった原因はカズィの情報提供によるスーチーパイちゃん(20)の新商品登場(part7スレ>>443参照)の発覚である。
本人は「この前偶然見ちゃったんだけど~」などと言ってはいたが信用できたものではない。
それが自分にとってどういう意味を持っているかを確実に分かっていて情報を流したとガロードは見ている。
「それで?売る相手は誰だ」
これ以上言っても時間の無駄と判断して脱線しかけた話を元に戻し、ぬるくなった麦茶を口にする。売却に際して
自分に頼み事をしようというのだ、まともな相手でないことだけは確かである。
「え~と…何つったっけか、ガロード?」
「アイム…アイム…何だっけかなあ?確かイットだかザットだかそんな名前だったんだけど…」
「! アイムザット・カートラルか!」
アイムザット・カートラル。非合法的なNT関連技術者として裏の社会でもそれなりに名を知られている人物である。
思ってもみなかった人間の名前を出されて思わず声を上げ、その拍子に口の中に残っていた麦茶が気管に入り、ヒイロは大きく咳き込んだ。

728 名前:それぞれの仕事2投稿日:2006/07/16(日) 00:26:36 ID:???
タイトル書き忘れた、>>727は「それぞれの仕事1」でよろしく。

「お~い、大丈夫か?なんか咳してるみたいだけど風邪でもひいたか?」
「いや、大丈夫だ、問題は無い。それで仕事というのはその取引での警護か」
「そういう事、ついでに取引場所の周辺の調査もやってもらいたいんだよ」
「馬鹿馬鹿しい、それぐらい自分でやれ」
「おっと、そんな事いっていいのか?今回の音信不通の件で今月の小遣いは無しだって兄貴達が言ってたぜ。
今月は色々と外に出てたから懐ヤバいんじゃないのか?」
「む…」
リリーナの護衛に関する出費は基本的にピースクラフトから費用が出るが、武器弾薬に関してはその限りではない。
できるだけ現地調達を心掛けてはいるがそれでも出費は避けられず、毎月の小遣いはヒイロの財布のウェイトを少なからず占めている。
ちなみに先ほどジュドーが言った言葉は嘘である。しかし一週間留守にしていたヒイロにはそんな事が分かるわけもなく、しばらくの沈黙の後にヒイロが口を開いた。
「それで報酬は」
「この仕事の報酬を山分けってことで。俺たちとお前で9:1」
「問題外だ。3:7なら受ける」
湯飲みを床に置く音と共にヒイロのものと思われる欠伸が聞こえてくる。流石に疲労が溜まっている様だ。
「それじゃあ経費こっち持ちの8:2でどうだ?これ以上はまけられないぜ」
先程よりも譲歩した――実はこちらが本命の――額を提示する。本命の額を出す前にそれよりも分が悪い額を提示するのは交渉術の基本である。
それをむこうが飲めば儲け物だし、飲まなくてもその後に提示した本命の方を飲む確率が高くなる。しばらく間をおいてからヒイロの声が聞こえてきた。
「……わかった、それで手を打とう…任務は…明日から…開…始…する……」
それっきりヒイロの声は聞こえなくなった。どうやらそのまま眠ってしまったらしい。
「ありゃ、寝ちまったか?」
「まあしょうがないさ、ヒイロも疲れてたんだろうしな。後で部屋に運んで……ってこらヒイロ!戸にもたれたま

ま寝るな!起きろ!俺達が出られなくなるだろう!」


「警部、お電話入ってますよ。シーマ=ガラハウとかいう人から…」
「俺に?」
珍しい相手である。コウ目当てに家の方に電話が来る事はコウが携帯のシーマの番号を着信拒否にしているためによくある事だし、
「将を射んとすれば~」の精神で搦め手を使わんと家族相手に電話が来る事も時折あるが、

自分相手に電話が来る事など初めてだ。しかもよりによって警察署という職場である。また何か悪巧みしている

のかという考えが一瞬浮かんだが、さりとて居留守を使う訳にもいかないので受話器を受け取る事にした。
「もしもし、お電話代わりました。それで、今日は前非を悔いて自首をしようとでも?」
「おっとご挨拶だね。まぁいいさ、今日は善良な一市民として一つ警察にご協力したいと思いまして…」
恐ろしく胡散臭い台詞である。ギンガナムが「もうキラの朝飯を食べに来るのは止める」という言葉よりも胡散臭い。
そんな言葉を耳にしてシローの顔顔をしかめたが、シーマの話を聞く内にその顔がみるみる強張ってきた。

729 名前:それぞれの仕事3投稿日:2006/07/16(日) 00:28:27 ID:???
「でもさ、なんで俺に取引を持ちかけた訳?MS一体でこんな危ない橋を渡るような真似するぐらいなら自分達で作った方が楽だと思うけど?」
アタッシュケースを受け取ったガロードが尋ね、部下に機体の確認をさせていた交渉相手――アイムザットが答える。
「なに、簡単な話さ。確かに君の言う通りではあるがいかんせん我々にはMSの方のノウハウがからっきしでね。

ならば既存の物を入手して研究し、そこから模倣して作ろうという話になったのだよ。
本心を言うと自分達でゼロから作りたいが、先立つものが無いとそういった意地も通らない」
どこかで聞いた話だなと思いながらガロードはアタッシュケースを開けて中の報酬を確認する。
中の札束を二三束取り出してナンバーを確認すると、元に戻してケースを閉じた。
「ようし、交渉成立。これGコンね。それじゃあ俺らはこの辺で…」
失礼させてもらうよ、とガロードが言おうとした時、突然倉庫の扉が音を立てて空き始めた。
視線が一斉に扉に注がれるが、開け放たれた扉の前には誰の姿も無く、無言の状態が数秒続く。
それに耐え切れなくなったか一人の男が開けられた扉に向かって一発発砲すると、数瞬の間を置いて両端から銃口がぬっと顔を出す。
ヒイロが二人の首根っこを掴んでコンテナの陰に飛び込んだ次の瞬間、先ほど放たれた数十倍の量の銃弾がアイムザット達に降り注いだ。
弾を浴びた男達が次々と倒れていくが、倒れた男達は悶絶しているだけで致命傷を負ってはいない。どうやら非致死性のゴム弾を使っているらしい。

「なんだなんだ?何が起きたんだ!?」
突然の事で混乱しているジュドーとガロードを尻目にヒイロが冷静に答える。
「どうやら敵対組織の奇襲を受けたようだ」
「敵対組織だぁ?」
「この状況は予測できた事だ、退路も確保してある。走れるか?」
「当然!ケースもばっちりだ!」
「よし、行くぞ」

730 名前:それぞれの仕事投稿日:2006/07/16(日) 00:31:40 ID:???
「ようし、その辺にしときな。せっかく話し合いをしに来たのに話し合う人間がいなくなっちゃしょうがないからね」
そう言って銃撃を止めさせ、倉庫に入ってきたのは禁酒法時代のギャングが持つようなマシンガンを右手に持ったスーツ姿のシーマだった。
背部から突き出した尻尾、モノアイに改造されたアイカメラ、ピンク色に塗り替えられたカラーリングと
殆ど原形をとどめていないまでに改造の施されたハロを海賊の親分よろしく左肩に乗せている。
「シーマ=ガラハウ…貴様一体何のつもりだ!」
運良く、若しくは狙ってやったのか一人無傷のアイムザットがシーマを睨んで声を上げた。いつの間にか姿を消した三人の事は脳裏から消えうせている。
「何言ってるんだい。先に撃ってきたのはあんた達だろ?あたし等はそれに応戦しただけだから全くの正当防衛さ。
悪いのは部下を止められずに撃たせちまったあんたの方だと思うけど?」
アイムザットの苦々しげな言葉にさらりと返す。
「くっ…それで、一体何の用だ」
「なに、この前物別れに終わった協定締結の続きさね。あのまま終わったんじゃあんたも色々と不便だろ?
それで条件付きであんたの行動にこっちは一切感知しないって協定をこのあたりの連中と話しつけてきてやったから、

この協定書に判子頼むよ。それでそういった面倒事を率先してやってあげた心優しい私にはマージンこの位」
そう言ってシーマはアイムザットに協定書と金額だけ書かれてサインの無い小切手を渡す。それに目を通した瞬間、アイムザットは声を張り上げた。
「ふざけるな!こんな無茶苦茶な条件と金額が飲める訳…!」
「ハロ」
次の瞬間シーマの肩に乗っていたハロが背部のブースターを噴かして突撃した。ハロはアイムザットの頬を掠めて彼の後ろで拳銃を撃とうとしていた男の顔面に直撃すると、
ゆっくりと赤い尾を引いた放物線を描いてシーマの肩に戻る。
「驚かせちまったかい?あんたの後ろにいた奴に撃たれそうだったんでついねぇ、見ての通りあたしは臆病なもんで…
で、なんだって?」


「ふむ…日付よし、小切手のサインよし、協定書に押された判子もよし。で、後何か言っておきたい事はあるかい?」
「この…悪党が!」
「褒め言葉として受け取っておくよ。野郎共!引き上げだよ、準備しな!」
そう言ってシーマは倉庫を出て行くと、近くに停めてあった車に近づき、その中にいた男に声をかけた。
「これでこっちの仕事は終わったよ。向こうの連中はアイムザット以外全員ぶっ倒れてるから簡単な捕り物にな

るだろうねぇ。ま、せいぜい頑張りな、シロー警部殿」
車の中にいた男――シローが納得のいかないというような顔で返事をする。
「協力してくれるのはありがたいんですが…いいんですか、我々に同業者を売るような真似をして?」
「かまやしないよ。私等はあいつらが邪魔だった。あんた達はあいつらを捕まえたかった。互いの利害が今回たまたま一致した。そういう事さ」
「『敵の敵は味方』って奴ですか」
「そういうことさ。それじゃああたしはここいらで失礼させて貰うよ」
そう言って去ろうとしたがそうそう、と何かを思い出したように呟いてもう一度シローの方を向く。
「包囲は少し甘くする事をオススメするよ、二匹ほどネズミが紛れ込んでいたからねえ」

731 名前:それぞれの仕事ラスト投稿日:2006/07/16(日) 00:34:38 ID:???
「ようし、全員確保だ!一人も逃がすなよ!」
指揮を執りつつ証拠物品を確かめるためにコンテナの扉を開けたシローは、その中にあったものを見て驚愕した。
(GX!なんでこんな所に!?しかもこのタイプは家にあるやつと同じ……!)
先程のシーマの言葉を思い出して眉をしかめる。
(成る程、彼女が言ってたネズミっていうのはあいつらの事か…まったく、帰ったらたっぷり絞っておく必要があるな)
全てを悟ったシローの無線にサンダースからの通信が入った。
「警部、裏の扉から人が外に出た形跡があります。こちらも何人か出して追跡を…」
「いや、どうせ今から行っても捕まらないだろう。倉庫内にまだ残った奴がいないか確認してくれ」
無線を切って溜息をつく。脳内はいかにしてこれを巧く収めるかでフル回転していた。現職の警察官といっても

シローも人の子なのだから実の弟二人に手錠をかける様な事態だけは避けたい。
しかしこれで自分もとうとう汚職警官の仲間入りかと苦虫を噛み潰したような顔をしているシローを他の警官は不思議な顔で見ていた。


翌日、顔中に絆創膏を貼ったジュドーとガロードが朝一で出した「前々から整備しようと思っていて庭に出しておいたら盗まれた」という内容の盗難届により、ガンダムエックスはあっさりと一家の手に戻った。
ジュドーとガロードは共に報酬(ヒイロへの報酬支払済み)の70%を没収及び5ヶ月間の小遣い停止処分を受けたが、
アイムザットから貰った報酬はティファへのホワイトデーのプレゼントを買うには十分な金額だったので
ガロードとしてはしごく満足な結果に終わったといえるだろう。ジュドーに関してはどうだか分からないが。



link_anchor plugin error : 画像もしくは文字列を必ずどちらかを入力してください。このページにつけられたタグ
それぞれの仕事 アイムザット・カートラル ガロード・ラン シーマ・ガラハウ ヒイロ・ユイ 長編

+ タグ編集
  • タグ:
  • それぞれの仕事
  • 長編
  • ヒイロ・ユイ
  • ガロード・ラン
  • アイムザット・カートラル
  • ヒイロ・ユイ
  • シーマ・ガラハウ
最終更新:2019年03月05日 13:24