640 名前:光の翼(5) 1/5 :2015/09/15(火) 01:27:19.07 ID:juezTVbO0
リディからの報告を受けたシローは部下を引き連れ、Gジェネ社(日登町支店)へとやってきた。研究用コロニー破壊事件について聞くためだ。
輸送船が襲撃されたことに続いて、今回の事件だ。何らかの関連性を疑うのは自然なことだろう。
日登警察署からやってきました、シロー・アマダです」
「お話は聞いています。支社長のゼノン・ティーゲルです。よろしく」
「研究用のコロニーが破壊されたということですが…」
「まあ、立ち話もなんです。応接室のほうへ…」


応接室に場所を移して一息つくと、ゼノンは口を開いた。
「研究用に中古の無人スペースコロニーを買い取るっていうのは、業界ではあんまり珍しくないことなんですよ
 少なくとも、MAやコロニー内部での戦闘を予想した機体の開発をする企業にはね。
 まさか、本物のコロニーで機体のテストをするわけにもいかんでしょう?
 間違ってコロニーに攻撃を当てでもすれば大惨事になる」
確かにそうだ。スペースコロニーというのは一か所穴が空くだけでも大惨事となりえる。
もちろんそのための備えはされているが、まかり間違ってテスト中に事故が起きました、などということになれば
企業のイメージは暴落し、莫大な損害賠償を支払うことになり…下手をすれば倒産だ。
「そんなもんで、大型MAを扱うことが多い我が社も、何個かそういうコロニーがあるということです」
「今回襲われたのは、そのうちの一つ…ということですか」
「ええ。ガーダーは準備しておいたんですが、まさかコロニーごと木端微塵にされるとは思いませんでした」
ガーダーというのはGジェネ社が開発した迎撃砲台のことだ。陸海空宇あらゆるところで使える上に
一基だけでもMAと渡り合えるような強力なものから、ないよりはマシ程度のものまで取り揃えてあり、同社の人気商品の一角を担う。
「警備用のMSとか、そういうのはなかったんですか?」
「他にいくつも研究用のコロニーはあるし、全部に配置するようなことはできませんよ。維持費で稼ぎも吹っ飛んじまいます
 その分、ガーダーとセキュリティには金をかけてたんですが」
「被害の方は?」
「コロニー一つと、中で保管していたMSとデータ全て、開発中のパーツがいくつか消し飛びました」
「当時、現場に人はいたんですか?」
「幸い、就業時間外だったので…残っていたのは残業をしていたゲッペルという科学者一人だけです」
「その人は…」
ゼノンはかぶりを振った。
「警察の人の話じゃ、死体は見つからなかったそうです。
 …コロニーが吹っ飛ぶような攻撃を受けて人の死体が残ってるはずもないんですがね」
自嘲するようにゼノンが言った。

641 名前:光の翼(5) 2/5 :2015/09/15(火) 01:29:18.83 ID:juezTVbO0
「彼はなぜコロニーに残ったんですか?」
「現場主任の話じゃ、どうしてもやりたい仕事があると言っていたそうで。
 監視カメラも付いているし、妙なことはできないだろうと思って置いてきたらしいんですが…」
「なるほど…」
「オォォォゥマァァァァィレコォォォォォドブレイカァァァァァァ!」
シローの問いを遮って、女の悲痛な叫びが建物全体を揺るがした。
「落ち着け、ケイ! お客様がいらしているというのに――」
「あァァァんまりだァァアァ! ミノフスキードライブの研究もまだだったのにぃ!」
声の主は部屋の外で暴れているらしい。ドタンバタンとのた打ち回るような音がする。
「レコ…なんです? それにミノフスキードライブって…」
シローはMS業界にそれほど詳しいわけではないが、ミノフスキードライブというものがとても珍しいものであると
昔兄弟たちが話していたことは覚えていた。
「あの変態仮面副社長にアフロ社長! あんな胡散臭い科学者の言うことなんて信じるからこうなるんだよォォォ!
 そもそもあの積み荷が盗まれたのだって――」
「すみません、ちょっと失礼」
さすがにうるさくなってきたのか、ゼノンがいきなり立ち上がって早足で部屋を出た。そして。
「うるさいぞケイ! 静かに話ができねえだろ!」
「おふゥ!」
ゼノンのものらしき怒号とそれに続いて鈍い音と女のうめき声が聞こえ、それを最後に建物は静寂に包まれた。
「失礼いたしました。――それで、何の話でしたか」
それから少しして、ゼノンが咳払いなどしつつ部屋に戻ってきた。
「え、ええっと…そう、そうですね。さっきの女性が言っていたことなんですが…彼女はなぜあんなことを?」

642 名前:光の翼(5) 3/5 :2015/09/15(火) 01:33:35.04 ID:juezTVbO0
「先の輸送機襲撃事件、今回行方知れずになった科学者が手引きした――なんて噂が流れてまして。
 なんというか、あんまりにも胡散臭い上に人付き合いもよろしくなかったのでね」
人の口に戸は立てられぬ。そして悪口というのは伝染するものだ。
「穏やかじゃありませんね。輸送船襲撃にかかわった、というのはどういった根拠で?」
「今回の"積み荷"の製造には、彼が入社時に持ち込んだMSと技術がかなり役に立ちましてね。
 最新鋭機の開発だけさせて、後は機体を奪って逃げるつもりだった…なんて話をしていた者もいました」
「持ち込んだMSというのは…その、さっき言っていた…」
「やっぱり、聞かれていましたか。…そうです、F99レコードブレイカー…ミノフスキードライブ搭載のMSです。
 それを手土産に、うちに入社させてほしいと頼み込んできたのですよ」
「…そんな怪しい科学者、よく採用する気になりましたね」
「我が社の社訓は『来る者拒まず』ですから」
それからも色々と聞き取り調査を行った後、帰りのミデアで一同が報告を行っていた。

『せっかく黒く塗ったのに…え、ゲッペルさん? うーん、超がつくくらい胡散臭い人だよ
 どれくらい胡散臭いかって? うーん、ドクターJさんとかに近い感じかも。実際会ったことないけど』
『わしゃあ、あいつが犯人だって思ったね! ほら、あれだよ。ニュータイプ的な勘がぴっきーん!ときたさ
 あの怪しさ、ドロドロのモニョモニョでマニョマニョしてるんだ。それでフモッフ、フモッフと――』
『………意味不明な電波をまき散らさないで。…え、私はどう思ってるかって………まあ、胡散臭い科学者が来た、としか…』
『ゲッペル氏ですか。論理的な方でしたが…あまり人を大事にしないような印象がありましたね』
『俺のフェニックスガンダムを勝手にいじられたから、あまりいい印象はない
 しかも変なパーツを組み込んだみたいで、ケイと大喧嘩してたのを覚えてる』
『あんまり付き合いはなかったからな。新入りのいけ好かない陰険ヤローくらいにしか思ってなかったよ』
『あの人は…嫌いです。人の命なんか、なんとも思ってないみたいで…』
『市井の科学者というのはずいぶんとまあ、胡散臭いものだと思いましたけれど…彼がおかしかっただけなのですか?』

643 名前:光の翼(5) 4/5 :2015/09/15(火) 01:35:02.95 ID:juezTVbO0
『たしかに、こっちを見下すようなクソみてえな…こほん、嫌な目でこちらを観察していることがありましたわ。
 そんな胡散臭さを形にしたような陰険野ろ…もとい、怪しい人だったのであまり信用のおける方とは思えませんでした』
『なんというか、ある意味でまっすぐな野郎だとは思ったな
 見た目も中身も胡散臭ェが、あいつはあいつなりに何か目的があったんじゃねえかって思う
 それが何なのかは、今となっちゃわからねえが』
『ゲッペル…あいつ、パイロットを道具くらいにしか見てないんだ。
 開発中のパーツ乗っけた負荷の高い機体にうちの腕利きを乗せようとして…必死で止めたよ。
 あいつならやるよ。そういう奴だ』
『あの人の私を見る目…すごく嫌だった』
『あたしもミーちゃんと同意見。あたしたちのこと、モノとしか見てないんじゃないかって感じ』


「――というのが、Gジェネ社の社員のゲッペルという男に対する聞き込みの結果です。
 全体的にあまり好感をもたれていない様子でした」
「ここまで胡散臭いって言われると、逆に見てみたくもあるな…」
「社内での行動は?」
「一人で研究をしているか、資料を読み漁っているかの二つだけで、誘いなどがあっても参加するようなことはなかったようです
 パイロットを道具のように扱うような発言をしては口論になったりと、現場との衝突も多かったとか…」
「彼を嫌ったGジェネ社員がそのゲッペルという男に罪をかぶせて…という可能性は?」
「無いとは言い切れないが…とりあえず、ゲッペルという男が怪しいのは事実だ。調べてみてくれ」
「了解」

644 名前:光の翼(5) 5/5 :2015/09/15(火) 01:41:10.05 ID:juezTVbO0
「死んでるってわかってれば、こんなに疑うこともないのに…」
「リディ」
「すみません」
不謹慎なことを呟くリディをたしなめると、シローは軽く伸びをした。
「それにしてもコロニーを丸ごと壊すなんて…核ミサイルでも使ったのか?」
「現場の報告によると、周辺にそれらしい痕跡は見られなかったそうです」
「目撃者は」
「事件の前後、周辺で不審なムサイを見かけたとの証言があります」
「ムサイ…厄介だな」
ムサイはネオ・ジオン社が販売する戦艦である。ジオン製の戦艦の中では最初期のモデルだがその分安価で扱いやすく
一般層にもウケがいい。ちょっとだけデザインを変更した"ファルメル"も発売されている。
しかし捜査する上ではかなり厄介な種類である。その流通量ゆえ、あらゆる場所で見つかるからだ。
「戦艦で特定するのは難しそうだな…」
「でも、糸口はつかめました。」
「ああ。輸送船襲撃事件とこの事件、何かつながりがあるような気がする。みんな、頼むぞ」
「「了解!」」
シローが言うと、やる気にあふれた声が返答が返ってきた。
(そういえば兄さん達、どうしてるかな…)
ふと、家にいる家族のことを思い出す。一日帰っていないだけなのに、長い間会っていないような気がするのが不思議だった。




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最終更新:2017年05月23日 22:43