673 名前:光の翼(7) 1/5 :2015/09/21(月) 16:59:52.94 ID:6YzyalXW0
カサレリア。シャクティが住んでいる"元"孤児院の名前だ。
昔はシャクティの育ての母が経営していたのだが、彼女が病死するとともに閉鎖
以来は母から継いだ広い土地の大半を農地に変え、シャクティ自身はその端にある小さな家で愛犬のフランダースや家畜とともに暮らしている。

「約束通り、一人で来ましたよ」
「…なるほど。仲間はいないらしいな」
目の前の紫色のMSから通信が入った。
ミノフスキー粒子が散布されていないこの場所ならば、レーダーも通常通りに機能する。
レーダーが機能すれば、V2とあの紫色以外のMSがこの場にいないことも簡単にわかる。
「それが…輸送船から奪い取ったマシン」
「ザンスパインとかいうらしいな。…名前といい性能といいザンスカールの象徴となれる素晴らしい機体だ」
――あれが、ザンスパイン。紫色のボディと、赤く光るデュアルアイが不気味な印象を与える機体だ。
両肩の一部が盛り上がっていることを除けば、なるほど確かにV2ガンダムに似たシルエットだ。
「よし。場所を変えるぞ。ここでは目立つ」
「…わかりました、行きましょう」
光の翼を持つ二つの機体は街のはずれへと飛んで行った。

  •  ・ ・

ウッソと謎の男は町のはずれにある廃坑で対峙していた。
「さて、改めて挨拶といこうか。ウッソ・エヴィン」
「あなた、いったい何者なんですか。こんなことをして――」
「何者か、だと!? そうか、殺した相手のことなど覚えていないだろうな!」
映像データが送信され――モニターに男の顔が映し出された。
クロノクル・アシャー! 貴様への復讐を果たすため、地獄から舞い戻った男よ!」
「く、クロノクルさん…?」
言われてみれば、なんとなく似ている気もする。しかし言動や性格からしてウッソの知るクロノクルとは似ても似つかなかった。
髪色も、本物が赤に対してこちらは黒。防塵用のマスクも被っていない。
「…まさか、マンガバン?」
ウッソとシーブックが日夜追い払っている、特定の人間に化ける妖怪。
吐き散らす意味のわからない言動も、そう考えれば納得が行った。
「…なんで輸送船を襲ったんです。」
「輸送船を襲い、その中にあるMSを復讐に使ってほしいと頼まれたのさ」
「そんな怪しい依頼、なんで引き受けたんですか…」
「怪しかろうがなんだろうが、私は貴様を倒せればそれでいい」
「僕を倒すためって…じゃあなんでジェリド先輩まで襲ったんですか」
「ジェリドとかいうのは知らないが、何人かで慣らしをさせてもらったのは事実だ。実に良い機体だ。これならお前も倒せる」
「そこまでして…僕に何の恨みがあるんですか!」
「なぜだと!? 私の姉を殺しておいてよく言う!」

674 名前:光の翼(7) 2/5 :2015/09/21(月) 17:03:19.07 ID:6YzyalXW0
「あなたのお姉さん? 待ってください! 僕はそんなことやってな――」
「あくまでしらを切るか! まあいい、貴様の大事なものをすべて奪い尽くせば、私の悲しみの一部でもわかるだろう!?」
「くっ…!」
狂ってる。誰と勘違いしているのかは知らないが、これ以上の交渉は無意味だろう。思ったところで、背後で轟音が聞こえた。
街の方角だ。
「始まったか」
「町が――!?」
振り向くと、街の方向から黒煙が上がっていた。
「私の仲間が貴様の街を襲っているのさ」
「なに!?」
「奴らが他の連中の眼を逸らしてくれている間、私と貴様は存分に戦っていられる
 連中やあの科学者の目的など知ったことではないが…まあ、利害の一致というやつだ」
「冗談じゃない…!」
みんなが心配だ。早く街へ向かわなければ。V2ガンダムがビームライフルを手に取った。
「街へ行きたいか? だがそうはさせない。お前はここで死ぬんだからな!」
先に動いたのはザンスパインだった。Y字の光の翼を展開して距離を詰めようとしてくるところを、
V2ガンダムのビームライフルが迎撃。しかしザンスパインは薄い膜のようなものを展開し、ビームを弾き返した。
「バリアなの!?」
「惑星を破壊するまでとはいかないが――小賢しい貴様の攻撃を防ぐには十分だ!」
そしてビームサーベルを手にV2ガンダムに肉薄する。
「くっ!」
どんな武器を備えているかわからない機体と接触するのはまずい。そう思ったウッソは光の翼を展開して上空へ逃げる。
追いすがるザンスパインの撃ったビームライフルを直感で回避する。V2を狙ったビームはそのまま上空へと消えて行った。
「あ、あぶな…」
息をつく間もなく。どこかから飛んできたビームが背部のメガ・ビーム・キャノンとスプレー・ビーム・ポッドを吹き飛ばした。
不意の一撃に混乱し、その間に接近してきたザンスパインが振り下ろしたビーム・サーベルをシールドで受け止め
V2ガンダムは大きく後ろに退いた。
「な…なんで…!?」
動揺するウッソの耳に届いたのは、喧しく鳴り響く鈴の音だった。つい両手で耳をふさいでしまい、操縦桿から手が離れる。
「何が、どうなって…!?」
「教えると思うか!」
不意打ちとNTの集中を乱す鈴の音。混乱するウッソのV2ガンダム。腰から何かを取り外したザンスパインが、光の翼を展開して迫る。そして、気付いた。

675 名前:光の翼(7) 3/5 :2015/09/21(月) 17:06:33.90 ID:6YzyalXW0
(翼が減ってる?)
先ほどまで三枚の翼があったのに、V2ガンダムと同じ二枚に減っている。
そして、ザンスパインが右手に持つ妙な形のビーム・サーベルらしき物体。
(まさか、ミノフスキードライブを外して武器にしてるのか?)
いくらジェリドでも、三枚の翼を出すザンスパインを二枚の翼を出すV2ガンダムと誤認するとは思えない。
これを使えば翼の数はV2ガンダムと同じなる。とすれば、あれがジェリド襲撃時に使った武器なのだろう。
ジェリドは何かで斬られたと言っていた。そして、あれがミノフスキードライブと同じものだとすれば――
「まずい!」
急いで回避行動をとる。少し遅れて普通のビーム・サーベルではまず考えられない長さの刀身が空を薙いだ。
「うまく避けたな。このビーム・ファンの攻撃を見切った人間はいなかったというのに」
「こっちだって、V2ガンダムのパイロットなんです…!」
「まあいい。ならばこちらを使うまで」
また、鈴の音が響く。ビームの雨がV2に降りかかった。

「くっ…!」
混乱した頭の整理に追われているうちにまたも死角からの攻撃が飛んでくる。
避けては受け、受けては避け。しかし悠長にやっている時間はない。焦りが隙を作り、その隙を狙った攻撃をまた避ける。悪循環だ。
「動きが悪いな。街のことがそれほど気になるか? …当然か、お前の守りたかったものだって壊れているかもしれないものな」
それだけではない。お互いに光の翼があるため、うかつに背面を取れず立ち回りにも神経を使う。
襲われているであろう自分の街への懸念もあるが、滅多にない真剣勝負の重圧も重なり、ウッソの集中力はどんどん削られていた。
アサルトバスターのパーツははがされ、もはや素のV2ガンダムとほとんど変わらない状態になっている。
「すぐには殺さんよ。姉さんと私の苦しみを味わってもらわねばならんからな…」
どうやらすぐに殺す気はないらしい。ウッソはそれを好機と見て、頭の中を整理する。光の翼を展開するというから
V2ガンダムに近い性質を持つ万能機だと思っていた。しかし先ほどの不意打ち。類似した攻撃方法をウッソは知っている。
(これは――ファンネル?)
兄の担当教師ハマーンの愛機キュベレイや、長兄アムロのνガンダムに搭載され使用されているものとよく似ている。
そうこうしているうちに、ザンスパインがビームライフルを構えた。回避の体勢を取ろうとすると、頭の中を稲妻が走るような感覚に襲われる。
(上からも攻撃が来る)
ニュータイプの直感。同時に攻撃するつもりだ。
機体を移動させて攻撃を回避し、ファンネルがあると思しき場所にビームライフルを打ち込む。少しして、爆発音が聞こえた。
「やっぱり…」
同時に、別の方向から飛んできたビームが今度は左足をかすって飛んでいった。
「まだあった…!?」

676 名前:光の翼(7) 4/5 :2015/09/21(月) 17:08:04.45 ID:6YzyalXW0
「…そこだ!」
わずかだがビームの発射音が聞こえた気がして、そしてV2ガンダムの体勢をわずかにずらす。そしてビームライフルを一発。
――当たったようだ。これで二基落とした。
(もう一基!)
なんとなく。ただそれだけだったが、機体をわずかにそらして明後日の方向へとビームを放つ。
「よくわかったものだ」
相手は感心した風に言うと、一本のビームがV2ガンダムのそばを横切って行った。体勢を変えていなければ直撃していただろう。
少し間を置いて爆発音が聞こえた。これで三基壊した計算になる。もうないかと意識を巡らせていると――
「だが、もう遅い」
通信機越しのクロノクルの声。気付けばモニター画面いっぱいにザンスパインの顔が映っていた。ファンネルばかりに気を取られ、接近を許したのだ。
不気味に赤く輝くデュアルアイが、画面越しにウッソを睨んでいた。

「まず…ッ!」
慌てて距離を取ろうとしたV2ガンダムに、ザンスパインの肘から飛び出したワイヤーが突き刺さった。
「逃がさん!」
異常はすぐに表れた。モニタが激しく明滅し、計器もめちゃくちゃに動く。振りほどこうとするも、操作がきかなかった。
「まさか、電撃…!」
シートは耐電仕様にしてあるためウッソ自身は安全だが、MSに搭載された精密機械の場合はそうもいかない。
やがて電撃が止んだ。V2は重力に引き寄せられ落下する。それを追ってザンスパインも下降し、ビーム・ファンを手にV2ガンダムに近づいた。

「これでおしまいだな」
「………」
機体の精密機器はすべて沈黙している。操作も効かない。これで、終わってしまうのか。こんなところでやられるのか。
死んでしまう。死が形を成して迫ってくるような感覚に、ウッソは言いようもない恐怖に襲われた。
脳裏に浮かんできたのは家族の顔。そして――何よりも大事な、一人の少女の顔だった。
(なんで…泣いているの?)
その少女は泣いていた。なぜ泣いているのだろうか。だが、その顔を見るとウッソはたまらない気持ちになった。
僕はあの子に笑っていてほしかった。自分が死んだら、優しい彼女はどうするだろうか。
少なくとも、絶対に笑ってなんかくれないはずだ。
「さて…死に際に何か、言い残すことはあるかな? 泣いて許しを請うなら、両手足を引きちぎる程度で許してやらんこともないぞ」
嗜虐的な色を含んだクロノクルの声。今は見えないその声の主を睨んで、ウッソは言った。
「嫌だ」
「…なに?」

677 名前:光の翼(7) 5/5 :2015/09/21(月) 17:10:07.41 ID:6YzyalXW0
死ぬのは。みんなに会えないのは。そして何より、あの子の泣き顔を見たくないから。
「僕は――」
その時。機体が再び動き出した。ニュータイプの力によるものか。それともただの偶然か。
しかしそんなことはどうでもよかった。生きたい。生きて、再び彼女の笑顔を見るために。
「生きるんだ!」
「なっ!?」
生きるという強い意志をみなぎらせたウッソの感覚は極限まで研ぎ澄まされていた。
研ぎ澄まされた感覚で、ザンスパインのほんのわずかな隙を見極め蹴り飛ばす。
体勢を崩したザンスパインにバルカンを浴びせながら、V2ガンダムは再び光の翼を展開して空を舞う。
「ぐおっ…」
先に体勢を立て直したザンスパインがビームライフルを撃ち、V2ガンダムもそれに合わせるようにビームライフルを発射。
そしてすぐさま目を閉じた。致命的な隙を晒すことになる行為だ。しかしウッソの目論み通りの展開になるならば。

――以前、兄のカミーユとMS戦について話した時、彼がこんなことを言っていた。
『似たような威力のビーム同士がぶつかると、すごい光と爆発が起きるんだよ。
 狙ってやれるようなもんじゃないけど、頭に入れとくと良いかもな』
その言葉の通り。互いのビームが激突し、爆発と強い閃光を引き起こした。
「ぐっ…」
クロノクルはたまらず目を覆う。視界が回復したそのあと、V2のブーツが飛んできた。
あらかじめ目を閉じていたウッソは眼がくらむこともなく、すぐさま行動に移ることができた。
「子供だましを! …む!?」
ザンスパインはやってきたブーツを寸でのところで避けたが、その視界からV2ガンダムの姿は消え去っていた。
「どこに行った――」
見失った敵を探すクロノクル。V2ガンダムは近くにいた。――ザンスパインの背後に。
『レーダーがあっても、後ろに回り込まれると意外と気づかれないものなんですよね。戦闘に集中してるからでしょうか』
そんなロランの言葉を思い出す。
接近に気付かないクロノクルのザンスパインの背中めがけ、ビーム・サーベルを手にV2ガンダムが飛びついた。
「後ろだと!?」
「これでェ――!」
V2ガンダムのビーム・サーベルがザンスパインの胴体部に突き刺さると同時に、一瞬だけ飛び出したザンスパインの光の翼がV2ガンダムの両肩を切断した。
「負けたとしても私は諦めんぞ、ウッソ・エヴィン!」
「来るなら来ればいい! 憎まれても終わりのない防御が続いても、僕は――!」
最後の通信。ザンスパインと、ザンスパインの最後の一撃で腕とコントロールを失ったV2ガンダムはともに墜落した。


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最終更新:2017年05月23日 22:53