718 名前:光の翼(10) シーブックの戦い 1/5 :2015/09/28(月) 01:04:52.22 ID:Dzq6qNt60
ジェリド襲撃事件の犯人探しが打ち切られた次の日。
シーブックはザビーネからの連絡を受け、宇宙へと上がっていた。
「何があったんだ?」
「シェルフから連絡があった」
シェルフ・シェフィールド。宇宙海賊クロスボーン・バンガードの構成員にして、ザビーネの友人だ。
有能な男で、キンケドゥら主力が不在の時のクロスボーン・バンガードをうまくまとめている。
「私とお前宛にラブレターが届いたそうだ」
「ラブレターね…相手は?」
「クロスボーン・バンガードの恥さらしども――デス・ガンズだ。地球付近の隕石群で待つから来い、とな」
「丁寧にお断りしたいところなんだけど」
「腕もMSも大したことはない連中だが、クロスボーン・バンガードの名を借りて街で暴れられでもしてはかなわんだろう」
「致し方なし、ってことか。…あれだな」

「やあ。ちゃんと二人で来たようだね」
「久しぶりだなァ、ザビーネ! キンケドゥ!」
「デス・ガンズのイアンとドドンガ…」
デス・ガンズ。死神三銃士と書く。宇宙海賊クロスボーン・バンガードの元構成員だ。
その性質は一言でいえばならず者。海賊らしいと言えばらしいのだが、ベラ率いるクロスボーン・バンガードの気風には合わず
結局は規律違反を犯して追放処分を受けた。キンケドゥが調べたところによると追放された後も三人で暴れていたようだ。
「醜い肉団子と下品な女の二人だけか。三人いたような気がしたが」
「なにおう!?」
「三人目…ガンマッドのことかい? あいつなら殺っちまったよ」
「そうか」
肉団子と呼ばれたことに憤るドドンガと裏腹にあっけらかんと仲間殺しを公言するイアンに、ザビーネは特に感動もなく返答した。
この程度の品性の持ち主であることはわかっていたし、何よりザビーネは彼らのことについて何ら興味はなかった。
「MSを新調したんだ。こいつは凄いよ」
「ああ。こいつにかかりゃ、ガンダムなんざメじゃねえぜ」
二人が乗っているのは竜のような長い胴体を持つMAと、巨大なビーム・ランスが目を引く華美な装飾がなされた銀色のMSだ。
「そのマシンによほど自信があるようだな」
ドドンガが乗るものはザンスカール社のドッゴーラだとわかったが、イアンの乗る機体は見たことがなかった。
ザビーネとキンケドゥはなんとなく、ベルガ・ギロスとビギナ・ギナを足して割ったような印象を持った。
「そんなもの、どこから仕入れた?」
「さあね。これはスポンサーがくれたもんだ。出所なんか知らないよ。
 名前はたしか…ビギナ・ロナとか言ったかな?」
「ロナだと…!?」
名前からしてブッホ・コンツェルン製のビギナ・シリーズの一つようだが、正式に製造されていれば二人が知らないはずがない。
そこから、二人の脳裏に一つの答えが導き出された。
「あのはた迷惑な企業、またやらかしたな」
他社から設計図を買い取り、それを作って販売するGジェネ社。ブッホ・コンツェルンにもその手が及んでいたようだ。
稀に企業から横流しされた試作MSがいつの間にやらバルチャーや海賊の手に渡っていることがあるので、これもそのクチだろうか

719 名前:光の翼(10) シーブックの戦い 2/5 :2015/09/28(月) 01:09:58.08 ID:Dzq6qNt60
「…ベラ様もロナ家も信奉する気がない貴様らには惜しい機体だな」
ロナ家を敬愛するザビーネとしては、ならず者同然の彼らにロナの名前を冠したMSを使われるのが許せないらしい。
キンケドゥとしても、セシリーの――ロナの名前を冠する機体で悪事を働かれるのは愉快ではない。
「さあ見せてもらおうじゃないか、お前らの本気って奴をよォ! 行くぜぇ、イアン!」
「あいよ、ドドンガ!」
ドッゴーラとビギナ・ロナが左右に散る。一対一で相手をする、ということだろうか。
「ドッゴーラは私がやる。癪だが、その不愉快極まるMSはお前に任せるぞ」
ザビーネとしてはビギナ・ロナが気になったが、
「了解だ!」
「どっせぇぇぇぇぇぇい!」
目の前に広がる隕石を鮮やかな動作ですり抜け、突撃してきたドッゴーラを避ける。
そして、バスターランチャーを向け、発射。直撃されればMAの装甲でもただでは済まない。
バスターランチャーから放たれた光線は周囲の隕石を巻き込みながらドッゴーラに直撃。多量の煙をまき散らした。
「なんだあ、今のは。攻撃のつもりかァ!?」
煙が晴れた先には、焦げ跡一つないドッゴーラの姿。
直撃したはずの一撃がまるで効いていないことに、ザビーネは僅かに眉をひそめた。
「へっへっへ、このドッゴーラ改は普通のドッゴーラとは一味違うんだ! なんたってぇ…」
ドッゴーラが手近な隕石をマニピュレータで撫でると、爆発するように隕石が砕けた。
「全身がビームそのものなんだからよォ!」
全身がビーム。信じがたいが全身にビーム・バリアを形成している、ということだろうか。
あのドッゴーラが体当たりしかしてこないのも、武器に使うエネルギーをすべてバリアの形成に回しているからと考えれば納得がいく。
「馬鹿は聞いてもいないことをぺらぺらと喋ってくれる。扱いやすいな」
言わなければ少しは対処に困っただろうに。呆れと侮蔑の混じった声で相手を嘲る
これなら問題なく対処できるはず。さっさと始末してしまおう――と思った矢先、キンケドゥからの通信が入った。
「ザビーネ、そいつには聞きたいことがある
「パイロットを生かせと?」
「ああ。できるか」
「誰に向かって聞いている。…まあしかし、多少骨が折れることは事実か。さて、キンケドゥ」
ザビーネはいいことを思いついたとばかりに、にたりと笑った。
「――わかったわかった! 次の仕事の時はポーズでもなんでもとってやるから!」
彼の言わんとすることを読み取りキンケドゥは半ばやけになって答えると、ザビーネが笑みを深めた。
「その言葉、忘れるなよ」
「忘れたい…」
「おい、ドドンガだかトトゥガだか知らんがそこのデブ。良いことを教えてやる」
「俺はデブと呼ぶんじゃねえええええ!」
挑発に乗ってきたドッゴーラ改の体当たりを軽くかわす。単調な攻撃だから、避けるのも楽だ。
やはり弱い。そこらの有象無象を恫喝することはできても、本物の腕利きを相手にするほどの力量はない。
「バリアがあれば無敵。防げないものは何もない。…そう思っているようだが」

720 名前:光の翼(10) シーブックの戦い 3/5 :2015/09/28(月) 01:14:02.43 ID:Dzq6qNt60
ショットランサーを構えて急加速。狙うはジェネレーターがあるであろう機体の胸部。もちろん、コックピットは外す。
加速のついたX2がドッゴーラに接近、バリアが当たるギリギリまで接近し――ショットランサーを射出した。
勢いのついた槍がバリアと背中の装甲を突き破り、中のジェネレーターを貫いた。
エネルギーの供給が止まったことでバリアが消失する。
「げ、げえええええ!? なんで、なんで!?」
混乱するドドンガを無視して、ドッゴーラが爆発しないうちに機体表面に右腕を突っ込んで脱出装置ごとコックピットを引きずり出す。
「最近はビーム・バリア搭載の機体も多いからな。ジャベリンのものを参考に改造したのだが…
 なるほど、アナハイムもたまにはいい仕事をする」
アナハイムのMSジャベリンの装備、ジャベリンユニット。ショットランサーに似た武器だが
槍部分にビームの膜を張ることで対ビームシールド能力と貫通力を上げている。それと同じような改造を施したのだ。
「ひ、ひいいいいい!」
「そして、後片付けだ」
そしてバリアを張れなくなった残骸にバスターランチャーを発射。巨体は跡形もなく爆散した。
「ドドンガ!」
キンケドゥと戦っていたイアンが叫んだ。まだこちらは戦闘中だったようだ。
「余所見はいけないな!」
その隙をつき、左腕に向けてヒートダガーを投げる。
「…なんだ、まだ終わっていなかったのか」
呆れたように言うザビーネに、キンケドゥは苦笑した。
「意外に強いんだ、こいつが」
実際、ビギナ・ロナ"は"強かった。ベルガ・ギロスのショットランサーよりはるかに強力なバスターランサーに加え
強力な遠距離武器、ヴァリアブル・メガビームランチャーまで備える。下手に近づいても距離をとっても危険な相手だ。
「安心しろ、イアン。キンケドゥが生きている限り、私は傍観に徹するつもりだからな」
「何のつもり…」
「戦場で余所見をするなって!」
しかしキンケドゥが見たところ、イアンはビギナ・ロナの性能を出し切れていない。
というか、機体を理解せず持て余しているような感さえある。もう一本のヒートダガーが、今度はビギナ・ロナの右足に刺さった。
損傷したうちにも入らないだろうが、相手を怒らせるにはちょうどいい。
「ふざけるんじゃないよ、キンケドゥ! 少しはまともな攻撃をしてきたらどうだ!」
イアンが吼えて、ヴァリアブル・メガビームランチャーを発射。距離がある上に相手からは見え見え、当たるはずがない。
キンケドゥは頭の中で三、とカウントする。
「くそっ、くそっ…なんで当たらない!?」
「当たらないように動いてるからに決まってるだろ。そんなこともわからないのか?」
「ふざけんなああああ!」
わざと近づいて挑発すると、今度はバスターランサーを撃ってきた。予想通りの攻撃を避ける。
――こちらは、一。

「遊びのつもりか、キンケドゥ!? 人をコケにするのがそんなに楽しいか!」
「楽しいね。他人の悔しがる顔見るの、結構好きなんだ」
「変態野郎ッ!」
挑発に乗って、ヴァリアブル・メガビームランチャーを発射。順当に避ける。これで四。そろそろいいだろう。

721 名前:光の翼(10) シーブックの戦い 4/5 :2015/09/28(月) 01:15:15.40 ID:Dzq6qNt60
「さて。お前、俺が遊びでやってるのかって言ったな。答えはノーだ」
X1がビーム・ザンバーを装備、相手の懐に飛び込んだ。
ビギナ・ロナはビームシールド・サーベルで迎撃の構えを見せたが、発生器から出るはずのビームはわずかな光となってかき消えた。
「ビームが出ない…!?」
エネルギー切れである。強力な武器ほどエネルギーの消費が大きい。乱発すれば当然、エネルギーは底をつく。
キンケドゥは相手の燃費の悪さを見抜き、今まで回避と挑発に徹していたのだ。
機体特性を把握し適切に運用していれば間違っても犯さないミスだが、イアンは乗機に対する理解がなさすぎたのだ。
「ひ…」
「俺だって、遊びでやってんじゃないんだよ!」
いつか言ってみたいと思っていた同い年の兄弟の台詞を借りつつ、ビームザンバーを振りかざす。
「頭だ!右腕だ!右足だ!左足!左腕!」
叫びながら、機体の四肢をもぎ取っていく。数分後には、コックピットのある胸部のみを残したビギナ・ロナが出来上がっていた
「そいつも生かすのか?」
「ああ。聞きたいこともあるからな。聞くだけ聞いて警察に引き渡す」
「スポンサーとやらのことか」
「ああ」
ドドンガもイアンも、恐怖で気絶していた。マザーバンガードで休ませ、回復したら事情を聴こう。
そう思った矢先、X2の腰部をビームが突き抜けた。
「むっ!?」
「ザビーネ!」
慌てて周囲を見渡すが、戦闘の余波で粉々になった隕石があるだけでMSの影も形も見えなかった。
「レーダーは…使えんか」
高濃度のミノフスキー粒子。
「どうする、キンケドゥ?」
「どうもしない。――頼れる後輩がなんとかしてくれるさ」

 ・ ・ ・

「完全にコックピットを撃ちぬけると思ったが…」
舌打ちしたのは、デス・ガンズ最後の一人ガンマッド。
"スポンサー"から託されたビヒモスという機体に乗り込んで隕石群の外れに待機していた。
仲間割れで死んだことにして、自分は背後から不意打ちする。そういう作戦だった。
――ドッゴーラと隕石に視界を遮られ、またビギナ・ロナとX1が思いのほか素早く動いていたせいで作戦自体は早々に頓挫していたが。
そもそも、ザビーネもキンケドゥもガンマッドが仲間割れで死んだなどという話をまったく信じていなかった。それが警戒に繋がったのだ。

「風変わりだが、良いものをくれたもんだ。次はお前だ、キンケドゥ…」
だが、こうなれば話は別だ。目の前に張り巡らされた鏡のうちの一つにビーム・ライフルの照準を合わせトリガーを引く。
これでキンケドゥもおしまいだ。仲間の二人は捕まったが、囮として十分に役目を果たした。
歓喜の声を上げようとして、気付いた。ビーム・ライフルを持った腕が断ち切られていたことに。

722 名前:光の翼(10) シーブックの戦い 5/5 :2015/09/28(月) 01:20:32.18 ID:Dzq6qNt60
「鏡を使ってビームを反射させるのか。変わったマシンだな」
不意に聞こえてきたのは少年の声。
「き、貴様は――!?」
ビヒモスというMSはその性格上、鏡の位置や角度などを綿密に計算する必要がある。
銃口がわずかにずれるだけでも攻撃が外れてしまうのだ。よって、運用には大きな集中力を必要とする。
攻撃に集中するあまり、背後に迫ったX3に気付けなかったのである。
「いつもニコニコ、クロスボーン・バンガード。卑怯者の始末もお任せあれ、ってね」
気付いた時にはもう遅い。背後に現れたX3のビーム・サーベルがビヒモスを切断した。

 ・ ・ ・
「遅かったな、トビア」
その後、キンケドゥとザビーネはX3のパイロット、トビアと合流していた。
「これでも早くしたつもりだったんですが」
トビアは伏兵の存在を危惧したキンケドゥが用意した保険だった。戦闘区域の外で待機し、敵を見つけたらそれを破壊する。
X2に発射されたビームの光で敵の位置を把握したトビアはガンマッドのもとへ急行し、射撃に集中していて無防備な相手をダルマにして持ち帰ったのである。
あれから攻撃はない。おそらくこれで終わりだ。
マザー・バンガードも近くの宙域に待機している。後は帰艦するのみだ。
「君がもう少し早くそれを見つけていれば、X2を傷物にせずに済んだのだがね」
「す、すみません…」
「命は助かったんだ。また直せばいいさ」
「お前達が無傷だと言うのに、私だけ手負いだぞ。ベラ様に報告する私がみじめではないか。
 ――それとキンケドゥ、今日の約束は忘れるなよ」
「…やっぱりなし、っていうのは?」
「有り得んな」
やはり安易に引き受けたのは失敗だったかもしれない。少しの後悔を残しながら、キンケドゥ達三人は母艦へと帰投した。



街が大量の所属不明MSに襲われていることをキンケドゥ達が知ったのは、それからすぐのことである。


723 名前:通常の名無しさんの3倍 :2015/09/28(月) 18:44:22.51 ID:iQBduT8h0
ビギナ・ロナはやたらチートな機体だったね

724 名前:通常の名無しさんの3倍 :2015/09/29(火) 00:56:00.98 ID:yLdECBbJ0
個人的にはエネルギー面がちょっと不安だったな~

ところでアムロ兄さん、福山雅治まで結婚しましたよ。
関係各所からのプレッシャーが大きくなると思いますがいかがでしょう?

725 名前:通常の名無しさんの3倍 :2015/09/29(火) 22:14:55.57 ID:jhNYg1kN0
724
シン「じゃあデュートリオンビームの受信機を…」
ガロード「あれ、母艦がいるじゃん? だったらいっそサテライトシステム付けよーぜ」
キラ「エネルギーに余裕が出来たから、ヴォワチュール・リュミエールで機動力を上げよう」
セレーネ「ちょっと! ゲイザーちゃんのVLのパテントは公開してないんだけど!?」
ウッソ「ここはグレーゾーンのテクノロジーよりもですね、ミノフスキードライブで」
カミーユ「いや、せっかくだから余剰出力は武装に回して、ハイパー・メガ・ランチャーを」
ジュドー「フルアーマーにした方が生存性が」
シュウト「だから、このスペースにキャプテンが入って~」
キャプテン「おちつけシュウト」

726 名前:通常の名無しさんの3倍 :2015/09/29(火) 23:47:33.99 ID:BqDd5Yq90
エネルギー?そんなん太陽炉のっけりゃええねん

727 名前:通常の名無しさんの3倍 :2015/09/30(水) 19:44:08.48 ID:zzcrFp3C0
シロー「ここはウルテクエンジンで・・・」
マイ「ゲッター炉心・・・」
シン「兄さんたちそれ以上いけない」

728 名前:通常の名無しさんの3倍 :2015/10/01(木) 01:29:33.35 ID:J5vf9NmK0
726
刹那「ビギナ・ロナはガンダムなのか!?」

732 名前:通常の名無しさんの3倍 :2015/10/01(木) 20:28:48.38 ID:hFmOdvHo0
ウモン「何であろうとガンダム顔を付ければ全てガンダムじゃよ、ほっほ!」


ヨナ「ミンチより酷いわね」
ジェラド「ボールにセブンソードとはオーバーキルにも程があるな…」


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最終更新:2017年05月24日 20:49