291 名前:怪盗キンケドゥ・クリスマス決戦編 十二の一投稿日:2006/12/23(土) 03:31:04 ID:???
『さ、三番機大破、十一番機交戦…速ぇ!? なんだこのジムは!?』
『くそっ、
ガンダムが、ガンダムがジムに負けるなんて、そんなことあってたまるかぁ!』
「落ち着けお前たち! 動揺しては相手の思う壺だ!」
ハリソンが声を張り上げるが、全くと言っていいほど効果がない。
先程、蒼いジムがF91の編隊に飛び込んできた。それが全ての始まりだった。
事故かテロか知らないが、蒼いジムは赤い目をして、攻撃をしかけてきたのである。
普通のジムでないことは明らかだった。胸にマシンガンを付けているし、何より動きがハチャメチャ過ぎる。
(こんな動きで、中のパイロットは耐えられるのか!?)
自分がこんな機動をすれば、まず間違いなくGで意識が飛ぶ。
中身は人間ではないのだろうか。そんな馬鹿げた妄想さえ浮かぶ。
まるで、蒼い死神――
『く、来るなぁ!』
部下がヴェスバーを構えるのが見える。
「馬鹿、無闇に撃ったら…!」
熱線が闇を切り裂く。蒼いジムはそれを悠々とかわし、射線上にいたF91が大破した。
『あっ!?』
「呆けるな! 動け!」
叫びも虚しく、ヴェスバーを撃ったF91は蒼いジムのビームサーベルに切り裂かれた。
そのままジムは離脱し、また驚異的な速さで反転する。
「この…!」
歯噛みするハリソン。
部隊をたった一機にここまで崩されているのもそうだが、相手が自分と同じ蒼色だというのも気に障る。
(貴様が死神だというなら、この『青い閃光』が祓い退けてやる!)
ハリソンはビームサーベルを手に取った。
相手の狙いがF91の同士討ちであることは明らかだ。不本意だが、接近戦をとるしかない。
サーベルを起動させて――
ザシュッ
292 名前:怪盗キンケドゥ・クリスマス決戦編 十二の二投稿日:2006/12/23(土) 03:32:01 ID:???
気がつけば、ハリソンは脱出ポッドの中にいた。
何が起こった?
慌てて外を確認する。相変わらず猛威を振るう蒼いジム。
あいつにやられた? いや、あの一瞬、あいつは別のF91に躍りかかっていたはずだ。
ならば何が…?
「ん?」
チラリと何か異質なものが見えたような気がした。
よく目を凝らす。
凄まじい速度で動く蒼いジム。それと関係なく、閃き消えてF91を刈り取っていく光…
「伏兵…!」
ハリソンは不覚を悟った。
機動性に勝る一機に陽動を任せ、影でステルス機が戦力を削っていく。これならば、ジムが蒼という目立つ色をしているのも頷ける話だ。
「やられたな… しかし奴等、何者だ?」
そのハリソンの呟きに応える者はいない。
「物好きな奴もいたもんだぜ。ま、これでこっちもやりやすくなったけどな」
デスサイズの中でデュオは呟く。
「サンキューな、どっかの蒼いでしゃばりさん」
言いながら、死神は鎌を振るう。
(ねえ、ユウ、本当にいいの?)
「…………」(EXAMの再作成における暴走…理由としては十分だ。それに元々、こんなシステムを警察に導入させるわけにもいかんだろう。危険すぎる。アルフにはすまんが、安全性を考えた上でのことだ)
(そうじゃなくて)
「…………」(何だ?)
(もうすぐ五分よ)
「…………」(限界まで動ければいい。出来る限り潰す)
(五分経ったらユウ、リミッターが作動して
ミンチ確定よ?)
「…………」(…………)
293 名前:怪盗キンケドゥ・クリスマス決戦編 十二の三投稿日:2006/12/23(土) 03:33:20 ID:???
蒼いジムと交戦を始めて五分も経とうかという頃。
急にジムは稼動を止め、全く動かなくなった。
「は!? おい、ちょっと!?」
慌てるデュオ。
「オーバーヒートか!」
喜ぶハリソン。
他のF91パイロットも気付いたようで、今のうちにと蒼いジムに殺到する。
(やべぇ! あいつがいなくなったら、俺もタイマン勝負しなきゃならねぇじゃんかよ!)
焦るデュオだが、蒼いジムは全く動き出す気配がない。
F91の一機がサーベルを振り上げ…
『ふはははは! 怖かろう!!』
『ひゃーっはっはっはっは!!』
ちょうどそこを暴走ラフレシアwithX2が通過。
進路上のF91編隊を跳ね飛ばしつつ手当たり次第に触手で絡め取りながら、さらに向こうへと飛んでいく。
『バケモノだっ!』
『は、ハリソン警部ーっ!』
『ぐああ、放せこのチ○○○○リ!』
などと警察の面々が騒ぐ中、
「…………」(ある意味ミンチより酷いな)
(触られたくないのに…)
「って何で俺もなんだよ! 放せー!」
と叫びつつ、ふとデュオは気付く。ラフレシアにかなりの損傷がある。X2も同じだ。
更に、触手の数本は、まるで吹き飛ばされたかのように途中で切れている。
「……まさか」
ありえない話ではない。現にX2はここにいるのだ。慌ててセンサーを最大にし、手がかりを探す。
すぐに見つかった。ラフレシアの装甲に、メルクリウスの装甲の破片が挟まっている。
「ヒイロ…あの野郎、やりやがったな」
苦々しく呟いてみるが、この現状を考えると、それもアリかと思えてしまう。
(真似をするわけじゃねぇが…)
思えば久々である。錆び付いていないといいが。
「あばよ、相棒」
デュオはスイッチを押した。
294 名前:怪盗キンケドゥ・クリスマス決戦編 十二の四投稿日:2006/12/23(土) 03:39:20 ID:???
… … … …
「ってオイ!? マジで錆び付いてんのかよ!?」
そんな叫びも虚しく、ラフレシアは一直線にどこかへ飛んでいく。
「ど、どこまで行く気なんだ、こいつは!?」
脱出ポッドごと捕らえられたハリソンが呻く。
それを接触回線で聞いたカロッゾ、自信満々に言い切った。
『ふはははは! そんなもの私にも分からん』
『ちょっと待てぇーい!!』
総ツッコミ(ユウとザビーネ除く)が入った。
『何しろ調整も半端のまま飛び出してきたからな! しかも脳波コントロール出来ん』
「全然ダメじゃねーかよおっさん!」
デュオは全員の叫びを代弁した。
後悔した。何故自爆装置を整備しておかなかったのか。いやそもそもヒイロのように自爆し慣れていれば、
こんなことにはならなかったはずだ。
(ごめんな、ヒルデ… クリスマス、一緒に過ごせねぇ…)
遠くの恋人に謝りながら、デュオは観念して目を閉じた。
と思えば、いきなりがくん、と速度が落ちる。
「んあっ!? どうしたよおっさん」
『ふむう、推進剤が切れたな。それで手近な重力に引かれておるようだ』
「手近な重力って…」
デュオの目に、地球が写る。
『うおおおおおおおおお!?』
またしても全員の悲鳴が唱和する。
「お、落ちる、落ちる、落ちる!」
「燃える、燃えちまうぞっ!?」
「ひゃーっはははは! これで終わりだぁっ!!」
『うわあああああああ!!』
あわや
大気圏突入か、と思われたそのとき!
『てぇぇぇりゃぁぁぁぁぁぁ!!!』
295 名前:怪盗キンケドゥ・クリスマス決戦編 十二の五投稿日:2006/12/23(土) 03:40:10 ID:???
またも襲ってくる振動。
今度は一体何だ。ああ、俺はマジに貧乏くじを引いた、とデュオは涙する。
しかし…
『大丈夫か、お前たち!』
その声には聞き覚えがある。
デュオは涙を拭いて外を見た。世界的に有名なMSが、ラフレシアを止め、地球から引き離していた。
白と黄と青のトリコロールカラー。背に日輪を背負い、白馬に乗るその機体の名は…
「ご、ゴッドガンダム!? なんでっ!?」
『ここはファイト専用コロニーのすぐ近くだ! 年末なら格闘家がこのコロニーにいるのは必定!』
ドモンの言葉に、ラフレシアに捕まった人々は皆笑顔を取り戻す。
助かった。各国のガンダムファイターがいれば、ラフレシアを破壊することだってできる。
これで助かる!
だが、まだまだ甘かった。
『む、この触手は…』
ドモンの目が、ラフレシアの触手に止まる。さらに、
「ひゃーっはっはっはっは!」
接触回線で伝わってくる、壊れた笑い声。
ドモンの脳内で、一本の式が確立した。
以下略。
最終更新:2019年03月22日 22:01