347 名前:怪盗キンケドゥ・クリスマス決戦編 十七の一投稿日:2006/12/23(土) 14:27:16 ID:???
クリスマスイヴ当日。
この日はリィズも家に帰ることを許されている。高官の屋敷を出て、足早に道を駆けていく。
アスファルトの上り坂。息を切らしながら、一気に駆け上る。
この坂を越えれば、懐かしい我が家までもうすぐだ。
この日は母も父もいる。家族で過ごせる…!
「むむ、困ったのう…」
坂を上がりきったとき、道の脇の林からそんな声が聞こえてきた。何事か、と木や草をかき分けていくと、信じられないものを見た。
赤白のコスチュームを着た、髭を生やした老人が、トナカイをつないだソリの上で、でかい白袋を覗いて唸っている。
どう見てもサンタのコスプレをした怪しい爺さんだった。
「あのー、どうしたんですか?」
困っている人を見かけたら助けること。
素直なリィズは、声をかけてみた。
サンタの老人は、ぱっと顔を明るくして、リィズに訴える。
「おお、お嬢ちゃん。それがのう、大事な袋に穴が開いてしまってな…」
見れば、白袋の底が破れている。
こんなところでメイド道具とメイド技術が役に立つとは。
リィズはカバンから裁縫道具を取り出すと、手早く縫い合わせた。
「ありがとう、お嬢ちゃん」
サンタの老人はニカッと笑う。リィズもニッコリ笑った。
感謝されて喜ばない人間はいない。
「そうじゃ、お礼にこれをあげよう」
と言ってサンタの老人が袋から取り出したのは、小箱である。
「ご主人様に渡してごらん、きっといいことがある」
きょとんとするリィズ。そんな彼女の頭を優しくなでて、サンタの老人はソリに乗ると手綱を取った。
「それでは、また夜に会おう」
言って、ピシッと手綱を振るう。トナカイたちはピンと背筋を伸ばして、走り出した。
どこに? 空の上に!
驚くリィズを尻目に、トナカイソリは空へ駆け上がり、そのまま走り去っていく。
シャン、シャン、シャン…
林の中で少女は、渡された小箱を両手に、唖然と空を見上げていた。
涼やかな鈴の音だけが、辺りに響く――
348 名前:怪盗キンケドゥ・クリスマス決戦編 十七の二投稿日:2006/12/23(土) 14:28:16 ID:???
「こちらウモン。作戦終了じゃ」
『りょーかい! キンケドゥ、全部終わったぜ』
『よし、爺さん、どこかに隠れてくれ。
ガンダムで迎えに行く』
「了解じゃ! しかしいいのかキンケドゥ、お前が渡したほうが良かったんじゃないのか?」
『……これはサンタクロースからの贈り物さ。それでいいじゃないか』
「まーお前がいいならいいんじゃが」
サンタ、いやウモンが頬をかく。通信機の向こうでキンケドゥがどんな顔をしているのか、ウモンには知る由もない。
そろそろアポジモーターの燃料も底をつく。ウモンはえいやっと一つかけ声をかけ、トナカイを地上へと向けさせた。
シャン、シャン、シャン…
「げぇっ! ファラ!」
「どうしたのジュドー? 先生なら職員室でテストの採点してるよ」
「お、おお…サンキュ、イーノ」
「?」
『午後から降ってきた雪は、明け方まで続くでしょう。渋滞には十分気をつけてください。
積雪量は2~5cmでしょう。今年はホワイトクリスマスとなりますね』
天気予報のキャスターは、そう言って予報を締めくくった。
今日は笑顔が自然だ。本当に嬉しいのだろう。
349 名前:怪盗キンケドゥ・クリスマス決戦編 十七の三投稿日:2006/12/23(土) 14:29:43 ID:???
「終わったのね」
「ああ、終わった」
ゴォゴォというストーブの音。厨房ではザビーネがパンを焼いている。カウンターではカロッゾが店番だ。
今、シーブックとセシリーは休憩時間である。
久々にゆったりとした時間が流れているように思えた。
これで、シーブックの戦いは終わった。リィズがあの小箱を、ブルーダイヤを突きつければ、彼女は自由になれる。
闇に流れ、誰が持っているかも分からなくなった宝石。
残されたわずかな情報からしらみつぶしに当たっていたが、ようやく確保することが出来た。
「どうするの、シーブック? 盗賊は」
彼女の目は純粋に自分を心配してくれている。
先日の醜態を見たからか…いや、彼女が心配してくれているのは以前からだ。
あんな状態を見せても普段通りに接してくれる彼女は、ドゥガチに言わせれば真に優しい人なのだろう。
今回はシーブックもそれに異存ない。
「俺には…もう目的はないよ」
セシリーは黙っている。余計な口を出さず、最後まで聞こうとしている。
彼女は元来聞き上手なのだ。
「俺はリィズを助けるために、キンケドゥになった。なら、彼女が自由になった今、続ける理由なんてない」
本当に?
そう目で問いかけてくる。シーブックは苦笑した。
「俺は…」
ふと気がつく。
仲間達にもそれなりの目的があったはずだ。それに…
リィズが今自由になっても、また同じように嵌められたら?
「はいこちらキンケドゥ。どうした、トビア?」
『キンケドゥさん、夕方に暇あります?』
「暇…か、作れることは作れるが」
『じゃあ、ちょっと手伝ってくれませんか?』
最終更新:2019年03月22日 22:21