928G熱大陸 イオ編2017/03/31(金) 23:58:20.81ID:Qi9PNn/L0
早朝、男は未だ寒さの厳しい冬の海にいた
―波乗りですか―
イオ「ああ、日課でな」
―まだシーズンじゃないし、寒くないですか?―
イオ「習慣ってのは季節を選んでやるモンじゃないだろ。それに俺にとって波乗りは遊びじゃない、一種の儀式だからな」
―儀式?―
イオ「今の世の中色々めんどくせえからな。知らないうちに頭ン中もくだらねえことに縛られてる。波に乗ってるとな、そういうこともリセットできんだ」

イオ・フレミング。フリーのジャズミュージシャン。その演奏手腕は高く、仕事の依頼が引きも切らない。
―今日はどなたからの依頼ですか?―
イオ「ラクス・クラインのツアーだったっけな?」
さらりと飛び出した人物の名に我々は驚いた。ラクス・クラインといえば大人気アイドルだ。我々はその交渉の場に密着した
ラクス「…すいません。もう一度おっしゃっていただけますか?」
イオ「悪いがこの内容じゃ受けられねえ。他を当たんな」
交渉はあっというまに終わった。意外なことに、彼はツアーの仕事を断ったのだ
―なぜ断ったのですか―
イオ「つまんねえからだよ。あんなガチガチに固められた譜面なら俺でなくてもいい」
―しかし大きい仕事ですし―
イオ「アンタ、何にもわかってねえな」
―あ、ちょっと待ってください―
何が気に障ったのか、彼はディレクターの発言に失望の表情を浮かべたまま去って行った

気難しい印象のあるフレミング氏。彼は一体どういう人物なのか、実姉で当番組にも出演経験のあるセレーネ・マクグリフ氏がインタビューに答えてくれた
セレーネ「そうですね。弟は芸術家気質ですから、ちょっと難しいところはあるかもしれませんね」
―なんだか怒らせてしまいました―
セレーネ「そう気にすることもないですよ。けんかなんて私もしょっちゅうでしたから」
―そうなんですか?―
セレーネ「昔からこうと決めたら譲らない性格でしたからね。でもだからこそ弟の言葉や演奏は多くの人々に届くのかもしれませんね」
そういって微笑む彼女の顔には、長年の間に培われた弟への信頼が顕れていた

再び我々が彼に取材できたのは、一週間後のことだった
―前回はすいませんでした―
イオ「いいよ、別に気にしちゃいねえし」
日登町内にある小さなスタジオ。海賊放送のラジオDJが彼のもう一つの顔だった
イオ「よう、元気かおまえら。サンダーボルト放送局、今夜もスタートだ」
リクエストにも応えない、リスナーからのハガキも読まない。そんな硬派なラジオ番組だが根強いリスナーは多い
―海賊放送なんてほとんど儲けはないんじゃないですか―
イオ「そりゃそうだ。だがよ、そんなことは関係ねえよ」
―関係ない?―
イオ「届けたい曲や言葉があって、それを望んで聞いてくれるリスナーがいる。それ以上に何か報酬がいるか?」
真っ直ぐな目でこちらを見るその姿に、我々は密着初日の彼の言葉を思い出した
深夜のライブハウス。一心不乱にドラムを叩き続ける彼と耳を傾ける観客たち。その音は、幾千の言葉より雄弁に彼の想いを物語っていた
イオ・フレミング。常に自由を求め続けるミュージシャン。彼の音楽は、現代社会に暮らす我々に生きる意味を問い続ける――


イオ「おいおい、結構前に取材受けたのに今更放送されんのかよ」
セレーネ「あんたがむちゃくちゃなことばっかり言うから編集にすごい時間がかかったってディレクターがボヤいてたわよ」
キラ「生意気だよね、イオ兄さんの分際でラクスのバックミュージシャン断るなんて」
イオ「だって移動も多くてめんどくせーし。ちゃんとそう言ったのにそこはカットされてんのな」
シロー「まあテレビ局の考えるストーリーに合わなかったんだろうな」
アセム「すごい…!これだけ見るとイオ兄さんがカッコイイ天才ミュージシャンみたいに見える…!」
シュウト「わあ!テレビの演出ってなんでもできるんだね!(棒」

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最終更新:2017年05月06日 13:00