134
ロランの商店街巡り-4 1/62017/10/26(木) 10:18:13.03ID:g5GfGnn20
「イオリ模型店…」
イオリ模型店は、商店街で唯一の模型専門店である。
「今はどうか知らないけど、昔はロランも来てたんでしょ?」
「あ…うん…まあ…」
「何よ、気のない返事」
「いや、それが…あんまりよく覚えてなくて。というかここ、最近できたところだったような…」
「そうなの?」
「知らないわよ。プラモデルなんか興味なかったもの。…あちゃー、連れてくるところ間違えたか…」
唯一ということもあってロランも
子供のころは通っていた――気がするのだが、なぜか子供のころのこの場所に関する記憶がすっぽり抜け落ちている。
家に子供のころに作ったであろう粗末な
ガンプラがあるのだが、それを買ったのはどこだったか。それ以上は考えてはいけない気がしたのでやめた。
「あ、でも知り合いはいますよ」
「いるの?」
「それならそう言ってよ。じゃ、入りましょ」
「いらっしゃ…あら、ロランくん!」
店に入ると、店長のリン子が出迎えてくれた。こちらに気付くと、満面の笑みでロラン達のところに寄ってきた。
「ご無沙汰してます、リン子さん」
「ロラン兄ちゃん!」
リン子の声でロランがやってきたことに気付いたか、奥のスペースから一人の少年が駆けてきた。リン子の一人息子、セイだ。
「セイも、久しぶり」
「…ロラン」
ソシエが、再会を喜ぶロランの脇を突っついた。自分たちにも紹介しろ、の合図だ
「あ、そうだ。ええと、僕の友人で記者をしてるフラン・ドールと、勤め先の家のソシエ・ハイム嬢です」
「フラン・ドールです」
「ソシエ・ハイムです。よろしくお願いします」
「ご丁寧にありがとう。私はイオリ・リン子。その子が私の息子のセイ。よろしくね」
「セイです。よ、よろしくお願いします」
リン子は二人の挨拶ににこやかに応じ、セイは頭を下げた。
「…どういう関係?」
「親戚なんです。セイは従弟にあたりまして」
耳打ちするフランに、ロランは小声で返した。
「あなたに親戚がいたなんて、私も初耳なんだけど」
「最近わかったことで…」
「親戚の存在が最近になるまでわからないってどういうこと…?」
「僕が聞きたいくらいだよ…まあ、それはともかく。フラン、用を済ませるんでしょ」
「いつかあなたの家族のことも取材したいわね…」
「勘弁してよ…」
135ロランの商店街巡り-4 2/62017/10/26(木) 10:19:18.13ID:g5GfGnn20
「まあ、商店街の振興活動」
ロランとフランに説明を聞き、リン子は声を弾ませた。
「はい。それで、このお店を取材しにきたんですけど…」
「ちょっと待ってて。うちの人呼んでくるから。…あなたー!」
「どうしたー?」
リン子が声を上げると、すぐに店の奥から男が出てきた。リン子の夫、タケシだ。
「ロランじゃないか! 久しぶりだな!」
ロランの姿を確認すると、これまた興奮した風に駆け寄ってきた。
「ご、ご無沙汰してます」
「∀を持ってきてくれているのかな!? 早速見せてくれ!」
勢いに若干引いているロランなどお構いなしといった風に、早口と大声であれこれ言い立てるタケシ。
「あ、僕も見たい!」
それに乗っかってセイも一緒になってせがむ。
「す、すみません。今日はターンエーは持ってきてないんですよ」
とても嬉しそうな二人に大変申し訳なく思いながらも、ターンエーを持ってきていないことを告げる。
二人とも少し残念そうにしたが、タケシはすぐに立ち直った。
「そうか…残念だ! だがしかし、ロランくんが来てくれたのは嬉しい! 用事は
ガンプラバトルかい? 買い物かい? 僕のおすすめはね――」
「落ち着きなさい!」
「おうふ!」
どこからともなくガンプラを取り出し再びマシンガントークに入ろうとするタケシの首筋にリン子のチョップが突き刺さった。
タケシはそれでようやく落ち着いたらしい。
「…やあ、失敬失敬。少し興奮してしまったよ」
「は、はぁ…」
「それで、何の用かな?」
「はい、このフラン・ドールがですね…」
再びの説明。
「…というわけで、取材をお願いできないかなぁと」
「なるほど! 願ってもない誘いだ! ぜひとも取材してくれ!」
「あ、ありがとうございます」
ちょうど、お客もいなかったので。みんなで店内を見て回る。やはりというか、大量のガンプラと関連商品で埋め尽くされていた。
「うちの特色といえば、なんといっても品ぞろえ! 流通量の少ないガンプラから関連商品まで幅広く揃えてるぞ!
保存状態も完璧だ! ちなみに完成品も扱ってる! 自信作は沢山あるが…最近気に入ってるのはこれだな、ザク2!
リアルさを求めて三か月かけて調整した極上の――」
「ボルジャーノンじゃない」
タケシのマシンガントークを、ソシエの一言が止めた。
「…見る目がないなあお嬢さん! いいかい、ザクとボルジャーノンは似ているけど細部に大きな違いが…」
「何よ、細かいところが違ってたってボルジャーノンはボルジャーノンじゃない!」
「なな、なんと嘆かわしいことを!」
ソシエの言葉にいたくショックを受けたタケシはその場でうなだれた。
狂信的なザク・ボルジャーノンファンが聞けば暴力沙汰になってもおかしくなかったが、さすがにお客に手を出すようなことはしない。
136ロランの商店街巡り-4 3/62017/10/26(木) 10:20:27.28ID:g5GfGnn20
「はいはい、ガンプラ談義はそのあたりにして。もう一つの目玉が…」
手を叩き場の空気を切り替えると、リン子は一行を別室に誘導した。ホールほどの広さの部屋で、中央に大きな筐体が鎮座していた。
「これね。ガンプラバトルの筐体よ」
「へぇ…」
「手が届かないお子さん向けにガンプラのレンタルもしてるから、ぜひとも来てくれ! 免許もなく手軽にできるのがガンプラバトルの魅力だからね!」
「男の子って、やっぱりこういうの好きなの?」
「刹那やコウ兄さん、アルやシュウトは大好きですよ。実機とは操作感が違うのでちょっと新鮮ですね」
「ふーん…」
「
せっかくだから、ちょっとやっていかないか?」
「え?」
「面白さはやってみないとわからない!
ロラン君は頻繁に本物に乗っていて慣れてるだろうから、ソシエさんとフランさんVSロラン君ということで!」
そんなタケシの勢いに押され、三人はガンプラバトルをすることになった。
「見せてもらおうか…本物のMS乗りの動きとやらを」
準備する三人の後ろ姿を見ながらタケシがにやりと笑う。
「あなた、いまだに免許とれないものね」
「実際、羨ましい!」
この男、ガンプラバトルに慣れすぎてなかなか免許が取れなくなってしまったのであった。
「マシンは最新式でね。コックピットのタイプも選べるんだ。連邦系にジオン系、スモーに使われてるコックピットもあるぞ」
「ほんとだ」
「あたしはこの…ジオン系?のほうが使いやすい気がする。カプルとほとんど同じだもの」
「しかしカプルとカプールは別の機た…むぐぐ」
また余計なことを言って論争になることを避けるべく、リン子がタケシの口をふさいだ。
「では、使いたいガンプラを選んでくれたまえ!」
タケシが持ってきたレンタル用と書かれた箱をロラン達の前に置いた
「ロラーン、ホワイトドールは禁止ですからねー!」
「なんでです?」
「いつもホワイトドールじゃつまらないじゃない」
「だったら、ソシエお嬢さんも違うの使いましょうよ。僕ばっかり不公平じゃないですか」
「ハイハイ。じゃあ…スモーに乗ってみようかしら。ちょっと興味あったのよね」
「私はフラットで…っと」
ソシエはスモー、フランはフラットを選んだ。
「コックピットの準備もいいぞ。全員、スモータイプのコックピットでいいね?」
「はい。ちょっとロラン、早く選びなさいよ」
まだガンプラを選んでいたロランをソシエが急かす。
「急かさないでくださいよ…じゃ、僕もスモーで」
結局、ロランもスモーを選んだ。
137ロランの商店街巡り-4 4/62017/10/26(木) 10:21:40.28ID:g5GfGnn20
「色も変えられるんだ…」
「色が同じじゃわかりにくいからね。色違いも用意してあるんだ」
「緑色のがある! あたし、それにするわ」
「承知しました。ロランくんはどうする?」
「僕はシルバータイプで」
ロランにはシルバーの、ソシエにはグリーン・メタリック仕様のスモーが配られる。
「よし。ステージは砂漠に設定して…」
コックピットにガンプラを置いたことを確認し、タケシが手慣れた様子で機械を操作する。そして
「それではァ! ガンプラファイトォ!」
「レディ!」
「ゴー!」
リン子、セイの合いの手も入り、バトルが始まった。
ソシエがスモーのコックピットを模した座席に座ると、前方のモニターに砂漠の映像が映された。
「この操縦桿、初めてだけど…意外とやれそう!」
あちこち操作し、手ごたえを感じたソシエ。モニターにはフランのフラットの位置が表示されている。比較的近場にいるようだ。
当然ながら敵であるロランのスモーの位置はわからない。
「ガンプラバトルならではね。簡略化されてて煩雑な処理が必要ない。逆に…慣れてるロランは苦労してるかもね」
フランからの通信。今回のバトルは通信の制限がないので、はっきりと伝わってくる。
「なんで?」
「慣れすぎてるからよ」
●
一方のロランはというと、フランの言う通り苦戦していた。
「うわっ、とっと…軽すぎてなんだかやりにくいな…」
スモーとホワイトドールの操作感の違いというわけではない(というより、似た系統のMSの操作感は統一されている)。
操作が簡略化されすぎて、逆にうまくいかないのだ。本来なら三工程必要な動作を一工程で行える。便利なように聞こえるが
普段の癖が染み付いてしまっているゆえに余計な作業をしてしまう。加えて動作に重みがない。本来のMSに乗り慣れているほど動かしにくいのである。
「二人とも隠れてるのか…VRヘッド!」
呼び出そうとするも、VRヘッドは現れない。
「…そうだった、今はホワイトドールじゃなくてスモーだもんな…」
仕方なしに砂漠を移動する。レーダーも使えるが、レーダーに反応はない。しかし置物というわけではないので、動きがあればきちんと反応してくれるはず。
「…どこかに潜んでる? でも、スモーで?」
メタリック・カラーのスモーは極めて目立つ。隠れるには向かないはずだが。
そう思っていた時だった。グリーンスモーが、ビームファンを片手に砂地から飛び出てきた。
「待ってたわよ、ロラン!」
ソシエの通信。攻撃を同じくビームファンで受け流す。
「えーい!」
ビームファンで猛攻をかけるグリーンスモー。未だ操作に慣れないこともあって、シルバースモーは攻撃に転じられない。
「簡単にボタン一つで攻撃できるのは楽だけど…!」
「もしかして、やれそう…!?」
138ロランの商店街巡り-4 5/62017/10/26(木) 10:23:08.36ID:g5GfGnn20
「音声認識も使えないのか! でも、お嬢さんの攻めは…」
単調なパターンの攻撃の繰り返しである。見切ってビームファンでビームファンを受け止め、空いている左腕で殴り飛ばす。
「あッ!?」
「これでェ!」
そして驚いて動きを止めたところを、ビームガンで撃ちぬいた。
「やられたー!」
撃破したことが映像に表示される。これでソシエの撃墜は確定だ。
「あとは…うわっ!?」
周囲を見まわそうとしたロランのスモーの足元が揺れる。当然、地震のはずはない。
「ありがとう、ソシエさん。いい位置に来てくれたわね」
「砂の下に…フラットが!」
「これでおしまいね!」
正体はフラット特有の全身の振動。真下に潜んでいたフランのフラットのソニックブレードが、スモーを貫いた。
『GAME SET!』
全員のモニターにこの文字が踊り、コックピットの電源が落ちる。
ガンプラバトルはソシエ・フランチームの勝利に終わった。
「ロランも大したことなかったわね!」
「慣れない環境で二対一だったんですから、仕方ないでしょ」
胸を張るソシエに、ロランはむっとした表情で答える。少し悔しかった。
「結局、不意打ちで倒したようなものだしね」
フランも同意するように言った。
「でもフランさんの作戦で勝ったんだから、作戦勝ちってやつよ」
ソシエに誘導させ、彼女が倒されたら自分が不意打ちを仕掛けるという作戦はフランが立てたものだった。
地中に隠れやすいフラットの特性を利用したものだ。
139ロランの商店街巡り-4 6/62017/10/26(木) 10:24:18.50ID:g5GfGnn20
「うん、楽しんでくれたようで何よりだ! まさかロランくんが負けるとはね」
話す三人のもとに、別室でバトルを見ていたタケシがやってきた。
「MS免許が取れない人や小さな子は十分楽しめると思います。実機と同じような仕様にすれば立派にシミュレーターとしても機能するんじゃないかしら」
「そのあたりはどうしてもね…企業秘密ってところが多いから難しいんだ」
個人での調整や改造でそのようなことをしている人間も多いのだが、店で大っぴらにやるにはいささか難しいのだ。
「残念。でも…周りの被害を考えずに楽しめるのはいいですよね」
「そうだろうそうだろう」
周りに被害が出ないのは素晴らしいことだ。ロランが心の底から思っていたことを口にすると、タケシも満足そうにうなずいた。
「…あ、そうだ。アピールポイント」
「アピールポイント?」
「はい。回っているお店に聞いてるんです。一言、お願いします」
「そうだな…"ガンプラ、ばんざぁぁぁぁい!"かな」
「………」
駄目だこりゃ。フランはため息をついてリン子を見た。
「そうね…"ガンプラバトルもできる、屈指の品ぞろえのお店です。ぜひ来てください"…こんな感じで、いかが?」
苦笑してそう答えたリン子の言葉をメモ帳に記す。その後いくつかの質問を終え、お礼を言って店を出た。
「…あのおじさん、テンション高くてすごく疲れるわ…」
「あ、あははは…いつもはもう少し落ち着いてる…かな?」
疲れた表情で車に乗り込んだフランを見て、ロランは苦笑した。
「で、次どこ行く?」
ソシエの問いに、フランは表情を切り替えた。
「それじゃ、今のうちに行っておきましょうか。裏通りのお店」
「………やっぱり、行くんですか?」
「やっぱり行くんですよ」
ロランはため息をついて、車を走らせた。目標は、割となじみのある店――酒楽だ。
140通常の名無しさんの3倍2017/10/26(木) 12:32:53.50ID:dSSs3iAP0
142
GJです!
特にソシエお嬢さんの
>「何よ、細かいところが違ってたってボルジャーノンはボルジャーノンじゃない!」
これは脳内再生バッチリでした
劇中でザクとボルジャーノンの違いがわかるキャラがいたら、確実にこの台詞ありそうだ
逆に気になった点があるのですが、その前に質問です
ズバリ、ここに登場したセイは13才(BF時の年齢)以上でしょうか?未満でしょうか?
142書いたひと2017/10/26(木) 17:25:42.99ID:g5GfGnn20
140
いちおう13歳(BF基準)のイメージで書いてますが
読んでて違和感を覚えなければお好きなように解釈してくだされば幸いです
143通常の名無しさんの3倍2017/10/27(金) 12:40:54.66ID:nPIS9XQx0
>「親戚の存在が最近になるまでわからないってどういうこと…?」
親戚どころか兄弟が増えるからな、この家族w
アムロ「あんのクソ親父…」
セレーネ「あらあら、すっかりガラが悪くなっちゃって。
まぁ1000%同意だけどもさ」
最終更新:2018年09月17日 11:59