キラ 「マイ兄さん」
マイ 「ん? やあ、どうしたんだいキラ」
キラ 「前に、兄さんの会社をちょっと見学させてもらったときに思ったんだけど……」
マイ 「ああ、どうだった? 他では見られない試作機がいろいろあって、楽しかったと思うけど」
キラ 「うん……そのことなんだけど、その……ちょっと、無駄が多すぎるんじゃないかなって」
マイ 「ふむ……つまり?」
キラ 「明らかに発案者の暴走というか、趣味としか思えない試作品がたくさんあったし、
性能はともかくとしてコストが高すぎて量産には向かないものとか、
安全性についてあんまり考慮されてなくて明らかに
空中分解起こしそうなものとか……
ああいうのは出来るだけ開発を止めて、他の実用的なものに予算を回すべきなんじゃないかな。
その方が無駄が少ないし、よりよい物を作ることが出来るんじゃないかと思うんだけど……」
マイ 「……なるほどね。確かに、キラの言っていることは正しい」
キラ 「ありがとう」
マイ 「でも、僕はこう思うんだ。ああいうものを作る場所も、必要なんじゃないかなって」
キラ 「どういうこと?」
マイ 「確かに、僕の会社で作っているものは、客観的に見ればあまりにも奇抜なのかもしれない。
他の企業ならば予算の無駄と言われてバッサリ切り捨てられても仕方がない、そんなものばかりだ。
でも、そういうものでもどんどん作ってどんどん実験して、普通では得られないデータをたくさん得て……
そうやって幅広く知識を蓄積していった末に見つかるものだって、あるんじゃないかと思うんだ」
キラ 「……そんなものかな」
マイ 「はは、そんなに悩まないでくれよ。普通に考えれば、キラの言っていることの方が正しいんだから。でも」
キラ 「でも?」
マイ 「正しすぎる、かな。はっきり白黒つけられない、つけない方がいいことだってあるのさ。
有用か不用か……そのたった二つの基準だけじゃ、くくれないものばかりなんだ、僕の会社は。
僕はそういうものが見たくてヨーツンヘイムに入社したんだし、日の目を見ないけれど
発案者のアイディアがたくさん詰まっているものを残らず入念に記録することは、絶対に無駄にはならないと思っている」
キラ 「……」
マイ 「……ごめん、少し説教臭くなってしまったかな」
キラ 「ううん。僕の方こそ生意気なこと言ってごめん。……いろいろ、考えてみるよ」
マイ 「ああ。キラはとても優秀だからね。よく考えてみれば、僕の言いたいこともきっと理解できるはずだよ」
マイ 「……兄弟成長過程報告書・No43523。
本日、技術研究のあり方についてキラとごく短い会話を交わせり。
彼の優秀さを改めて実感すると共に、少々の不安も覚える。
彼は非凡な人間である。高い能力を持つが故に、他者よりも早く、客観的に見て正しい答えにたどり着くことが出来る。
だが、それは他の選択肢を少しも考慮しない内に否定してしまう危険性を孕んでいる。
学業運動容姿等、全てにおいて秀でているが故に、他者のコンプレックスに気付けない可能性も懸念される。
それはつまるところ共感性の欠如である。そういった人間にとって、価値観の異なる他者を理解し、受容することは非常に困難だ。
これら全ての要素が悪い方向に重なった結果、独善的な人間になってしまう可能性も高い。
独善的かつ能力の高い人間は、往々にして崇高とさえ言える高い理想を持っているものだ。
また、自分にそれを実現する力があると思い込みやすいため、問題解決に際して極端な手段を選択しがちである。
こういったことが高じて昨今の世直し的なテロ活動に発展していくことを考えれば、容易に看過していい問題ではない。
今後も様々な種類の人間との交流を深めさせ、多少なりとも視野が広がるよう図ることが、兄としての務めであると考えられる……」
最終更新:2019年05月13日 15:49