945強さの秘密 1/52018/07/25(水) 07:40:02.72ID:CsQBQCFh0
それじゃお言葉に甘えて投下。書いたの久々なんで出来が悪くても勘弁してね

深夜。ガンダム家地下の一室で、二人の少年がシミュレーターに乗り込んで話し込んでいた。
「ウッソの戦い方は奇天烈すぎるんだよ。シンがこんな戦法使ってくるわけないじゃない」
「そりゃ甘えですよ、兄さん。向こうにはガロード兄さん達だっているんですよ?」
「そうだけどさぁ…」
分離してパーツをぶつけてきたり、こちらのビームを逆利用――そんな戦術をとっさにとれる人間はそうそういない。ただ、キラの目の前の少年はできてしまう。

「こんな時間に何してるんだ?」
そうやって話し込んでいる最中、第三者の声がかかった。まさか人が来ると思っていなかったウッソとキラは驚き身をすくませた。
しかし改めて声の主を見ると、いきなり入ってきてもおかしくないような人間だった。――長兄のアムロだ。
「…なんだ、アムロ兄さんじゃない。なんでこんなところに?」
「こっちの台詞だ。こんな時間にこんな部屋で何してるんだ」
基本的に二十歳未満の兄弟の部屋は相部屋であるが、時には一人になりたい時だってある。そんな時に利用されるのが無数にある地下室だ。
地下にはミーティングルームやら仮眠室、視聴覚室に倉庫。果ては廃棄物処理施設などといったわけのわからない部屋まである。

「ナニって。ナニに決まっt」
「ちょっ」
「品のない嘘はやめろ。…というか、そこまでして隠したいのかお前は」
彼らだって年頃の少年。色々あるのだ。だから夜中に不自然なところで見かけたりしても見なかったことにしてとっとと忘れるのが通例だ。
女性であるアルレットやセレーネもその辺りの事情は理解している。
『月イチのアレを制御しろって言ってるようなもんでしょ? そりゃ無理だわ』とはセレーネの談(この後アルレットにデリカシーの欠如を指摘されて連行されていったが)

「これは…シミュレーターか。二人で特訓でもしてたのか?」
「そんなとこです。キラ兄さんに付き合ってもらってたんですよ」
さりげなく"自分がキラに指導を受けていた"という主張を絡めつつ、淀みなく答えるウッソ。しかし長兄に嘘は通じなかったようだ。
「そうか。しかしウッソ、お前は明日も早いんじゃないか?」
ウッソは家庭菜園の世話のため平日でも休日でも早起きである。たまに夜更かしすることもあるが、翌朝に響かない範囲でやっている。
「たまにはいいでしょ」

946強さの秘密 2/52018/07/25(水) 07:42:01.08ID:CsQBQCFh0
「お前が良いなら良いんだが…」
そう言って、アムロはキラに向き直った
「なに?」
「俺もちょうど、久々に戦ってみたいと思っていたところなんだが…ちょっと付き合ってくれないか」
「…アムロ兄さんがやりたいってんなら、付き合わなくもないけど」
「そうか。――そういうことで、ウッソ。お前はもう寝ろ。体を壊すぞ」
「…いいんですか?」
「いいよいいよ。もうバレてるっぽいし。遅くまで付き合ってくれてありがとね」
アムロではなくキラのほうに目を向け聞くウッソに、キラは手をひらひらさせて答えた。
「…わかりました」

  •  ・ ・

「シンに負けないための特訓だろ?」
ウッソが部屋を出た後、アムロが推論したキラ達の本当の目的について述べた。
「よくわかったね」
シンが最近、ガロードやカミ―ユたちと一緒に打倒キラを目指して特訓している。
そのせいかわからないが、最近はシンに押されたり負けたりすることが増えてきている気がするのだ。
「これでも兄貴だ。それくらいわかるさ。…ウッソを巻き込んでたのは意外だったけどな」
根底の部分では引っ込み思案で、他人に対し本音を発露することの少ないキラがこういうことで他人を巻き込んでいたのは意外だった。

「AI相手に勝負してる時にいきなり現れて『付き合いますよ』だもの。勘のいい弟がいると大変だよ」
そう言いながらも少しうれしそうなキラを見て、アムロは微笑する。(シンと並んで、と言うと本人は否定するかもしれないが)一番仲のいい兄弟だ。
 夜な夜な部屋を出て何かをしている兄の姿に、何か感じるものがあったのかもしれない。

「それにしても、お前がこんなことをしてるとはな。勝ち負けなんか気にしないと思っていたが」
「他人が相手だったらこんなことしないよ。めんどくさいもの。でもさ、お兄ちゃんが弟に負けたら恰好つかないじゃないか」
意外なようで、キラは上下関係をかなり気にする。こと同年の兄弟のこととなると特にうるさい。
同じく同年のカガリにずっと弟分扱いされていたせいかもしれないし、大人しそうな外見のせいでいつも年下に見られていたこともあるのかもしれない。
「なるほど。――それじゃあ、始めるか」

947強さの秘密 3/52018/07/25(水) 07:42:51.77ID:CsQBQCFh0
そんなわけで模擬戦が始まったが、やはり長兄との差は圧倒的だった。キラも十分に善戦してはいるのだが、どうしてもあと一歩届かない。

「どうにもお前はMSの性能と自分の才能に頼りすぎているところがあるな。ストライクフリーダムはたしかに強力なMSだが
 それに頼ってばかりでは対等以上の相手と戦った時に脆さが出る」
ビーム・サーベルによる接近戦は良いところまで行ったが、集中力が途切れたところを狙われて撃墜された。

「地力…才能という意味じゃ、お前の方が上だと俺は思う。それは大きなアドバンテージだ。
 シンはそれをわかっているから、数倍の努力でその差を埋めている。このままだといずれ追い越されるだろうな」
「わかってるから…こんな面倒なことしてるんじゃないか!」
次の模擬戦。持久力が足りないのならばと、今度はドラグーンを射出して遠距離戦を挑む。
「そうだな」
しかし難なくかわされ、ドラグーンをビームライフルで落とされた挙句フィン・ファンネルで退路を断たれて銃撃を受けて撃墜された。

「まだ、まだ…!」
「それに、お前のストライクフリーダムは設計レベルでお前個人の能力に合わせた作りになっている。
 何らかの理由でコンディションが落ちていると機体にも大きな影響が出てしまう。少しの疲労の蓄積や集中力の低下でも」
もう何度目かもわからない試合。がむしゃらに突撃したところでフェイントに引っかかった。
「うわっ!」
飛び込んだ勢いはもはや殺せず、隙だらけ。それを狙ってビームサーベルが胴を薙ぎ払った。
「こうやって、目に見えて動きが悪くなる。その隙を相手が見逃すことはないだろう」
撃墜。結局数十回と戦ったが、ろくに攻撃も当てられず倒されてしまった。フェイントに引っかかった最後の試合は今日最低の結果だった。
「もう終わりだ。これ以上やっても無意味だろう」
「わかった…」

948強さの秘密 4/52018/07/25(水) 07:45:35.97ID:CsQBQCFh0
「さて、話の続きだが…逆もまた然り、機体の調整を少しでも怠ると今度はお前の能力を引き出しきれない。
 非常に強力だが機体にもパイロットにも常に良好な状態を求められる…ある意味クラインカンパニーらしい、贅沢な作りのマシンだな」
座り込み肩で息をするキラに、近くの給水所から持ってきた水入りのペットボトルを渡すアムロ。キラは礼を言ってそれを受け取った。
製作者たちのこだわりによって極めてリアルに作られたシミュレーターは機体の振動や衝撃すら再現しているほどで、もとよりインドア派を標榜するキラの消耗は大きかった。
「それって嫌味?」
ペットボトルの水を飲み干したキラが聞いた。
「そうかもな。うちの会社、クラインほど高級志向じゃないから…というのはともかく、だ。
 お前の場合、戦闘中でも少しリラックスしてるくらいの方がいいかもしれない」

「そんなものかな」
「力を入れすぎるとかえって空回りするものさ。無気力なのも問題だけどな」
「それって」
「聞かれるまでもなく嫌味だ。とっとと治せ」
嫌味?――と再び聞く前に、アムロがかぶせてきた。
「前向きに検討しとくよ」
「治す気ないって言ってるようなものじゃないか…」
割と素直になっている今の状況でもこの辺りは変わってくれないらしい。アムロは肩を落とした。

「そういえばさ、戦術とかは何か教えてくれないの?」
「乗ってるMSが違うんだ。MSが変われば戦闘スタイルも変わるし、そもそも性格的な相性だってある
 たとえばドモンに隠れながら遠くでちまちま攻撃しろと言ったって難しいだろ」
「…ナルホド」

「だから、いつも通りの戦術でいいのさ。…それとも、何か不安でもあるのか?」
「デスティニーって接近戦得意じゃない。だから距離とって戦おうとするんだけど、なんでかいつの間にか距離を詰められちゃうんだよね」
つまり、自分のとっている戦術に不備があるからそうなっているのかも――というのが、キラの心配事らしい。

949強さの秘密 5/52018/07/25(水) 07:47:12.82ID:CsQBQCFh0>>952
「シンはお前の動きを徹底的に研究しているからな。自分がこう動けばお前はこう動く、というのを体に叩き込んでるんだろう。
 その証拠に、キラと戦っている時とそれ以外の時で明らかに動きが違う」
「個人メタとかサイテー!」
「逆に言えば、だ。お前が今までにないような反応をした時、わずかだが対応に遅れが出る。危ない時でもギリギリ引き分けまで持ち込めているのはこのおかげだな」
「…つまり?」
「お前の癖や動作を全部変えればシンは対応しづらくなる」
「無茶でしょそれ!?」
「…だろうな。だから徹底的に練習しろ。ウッソ相手でも俺相手でもいい。相手の動きに対して柔軟に動いて隙や癖をなくして、逆に隙を突けるようになるんだ」
「う、うん…」
それ以来、若干スパルタ気味のアムロの特訓が始まった。その合間にも暇を見つけてウッソと模擬戦を行う。意外性の塊のようなウッソとの模擬戦は精神的な訓練にも最適だった。


そして、数週間後。
「くっそォ…あと一息のところで!」
シミュレーターでシンのデスティニーを撃墜したキラが勝ち誇った笑みを浮かべた。思いのほか苦戦したので頬に汗が伝っていたが、兄妹の大半には気付かれなかったようだ。
「やめてよね。弟のシンがお兄さんの僕に勝てるわけないじゃない」
兄妹数人から苦笑を受けていることを知りつつ、キラはいつものように勝ち誇った笑顔でそうのたまった。
「あんた、一体なんでそんなに強いんだよ!?」
「理由なんてあるわけないじゃない。シンが弱いんだよ」
兄であるキラが弟のシンより強いことは当然で、理由など要らない。もし理由があったとしても――それはキラと、一握りの人たちの秘密である。


これで終了です。無事に全部投下できてよかった。




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最終更新:2018年10月20日 07:05