「アミロペクチン第二章-29話 ~パン屋の華~」
祈りの時間が終わり、南リム街道が再び賑わい始めた。
私とシュルツはパンの販売をしながらベルツ店長夫婦を待った。
その時声が聞こえた。
「ただいま~」
女性の声である。奥さんが帰ってきたのであろうか。しかし奥さんとは違い、若そうな声である。
「あれ?お母さんもお父さんもいないのか。ああ、お祈りに行ってるのね」
お母さん?お父さん?もしかしてベルツさんの娘さんなのだろうか。
「ん?あなた達新人さんね、お米で作ったパンを広めてるとか」
「あ、はい」
「やっぱり。手紙で両親からきいてるわよ」
「あの、ベルツさんの娘さんですよね」
その時ベルツ夫婦が帰ってきた。
「おお、リリー。帰ってたか」
「お父さん!お給料届けに来たよ」
「おお、そうかそうか。ご苦労」
「リリー、新人さん達に挨拶はした?」
「あ、ごめんお母さん。挨拶忘れてた。え~と、私はリリーヴィルヘルミーネ・ベルツ。
もう分かってるでしょうがこのベルツベーカリーの娘よ。」
「どうも」
そう言って我々は頭を下げた。
◆
リリーさんは首都リムの工場勤務の女工さんで、二十歳らしい。
化粧は薄く、ベルツ夫人と同じく赤茶色の長い髪をしていてなかなか美人である。
“大人の女性”という気風が漂っている。
両親の生活を支えようと頑張って働いている優しい人だ。
◆
我々が米粉パンを作っていると見慣れた人が店の前へ来た。
エシスシルチームのリーダー、ダンツィさんである。
用語
- 女工・・・工場で働いている女性。18世紀の産業革命と共に増えていった。
最終更新:2011年03月18日 22:52