「アミロペクチン第二章-33話 ~一組の番い~」


 文月中旬。夏本番がやってくる頃合いである。
竃でパンを焼いていると体から汗が噴き出してくる。
町には蝉の鳴き声が響き渡り賑やかである。
 「おい、リリーさんっていつ帰るんだっけ」
「俺に訊かれたって知らん」
「リリーさんに訊いてみるか」
「よろしく頼む。俺からのミッションだ」
「またミッションかよ。つまり3000ラッツくれるんだな?」
「俺は本棚買ったから今は金ないんだ、タダでやってくれるよな」
「はい、はい、分かったよ」
そう言ってシュルツは店頭の方へ行った。
 やがて帰ってきた。
「いつだって?」
「リリーさん居なかった」
「またダンツィさんとデートか」
「ああ、最近ダンツィさんが憎くなってきた」
「何故?」
「なぜダンツィさんには恋人が出来て俺には出来ないんだ!」
「何を言っている。恋人が居ないことを肯定的に見てきたのが我々じゃないか」
「ああ、そうだった。すまない」
              ◆
 その日の夕方。我々はいつも通りアパートメントへ帰った。
そこでダンツィに偶然会った。なんだか淋しそうである。まさか…。
「ダンツィさん、どうしたのですか」
シュルツが訊いた。
「………」
「大丈夫ですか、どこか悪いところでも」
「ああ、行ってしまった!あああ」
「どうしたのですか、誰が行ったのです」
「お前達知らないのか、リリーだよ。リリーがリムに帰っちまったんだ」
「え、俺たち何にも知らないのですが」
「そうか。リリーは優しいやつだからお前達を悲しませたくなかったんだろう」
「そうですか…でも振られたわけじゃないんですよね」
「うむ。これからは遠距離だ…。よし。俺はこの仕事が終わったらリムに移住する!」
              ◆
 それからしばらくはダンツィさんは落ち込んでいたが、リリーさんからの手紙が来て
元気になったようだ。それから二人はずっと手紙でのやりとりを続けているようだ。



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最終更新:2011年03月22日 22:32
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