「アミロペクチン第二章-36話 ~実りの秋~」
諸賢、すまない。あらぬ妄想をしてしまっていた。これは私の悪い癖である。
私に新聞を見せた後、ダンツィさんは朝礼の準備に行くといって一階へ下りていった。
◆
気付けばもう長月である。そう、稲の収穫時期なのだ。
いつもならおいしい新米が安く手に入れられるのだが今年は、
来年の夏頃に来るであろう大規模飢饉に備えてノーデン友好協力条約加盟国全てで
米の備蓄が政府から命令された。つまりいつもより新米が高いのである。
朝礼、朝餉を済ませ、我々は今日もベルツ・ベーカリーへ出勤する。
「あ~、やっと涼しくなってきたな。この前までの暑さは異常だった」
「うむ。ヴァルが寒くなればこっちが暑くなるのか」
「いやいや、今年のヴァルの寒さはこっちの暑さじゃ補えないくらいだったらしいぞ」
「そんなに酷いのか?」
「ああ、俺は毎週WWWを読んでいるからな」
「ダブリューダブリューダブリュー?」
「ああ。“WorldWeekWeekly”だ」
「週刊ワールドウィークか。なるほど」
「お前も読めよ。為になるぜ」
「俺には金がないから。シュルツはよく毎週買えるよな」
「いやあ、毎月親から送ってもらってるんだよね」
「呆れた、いつまで親のすね囓ってるんだよ。少しは親孝行したらどうだ」
「いいじゃないか、WWWを買うのなら俺は手段を選ばない!」
◆
少し涼しくなり、パン作りも快適になった。
汗もかかないのでタオルを用意する必要もなくなったし水分補給量も減った。
外はまだ陽が差していて暑そうであるが屋内ならば問題ない。
遠くの山々の少し黄色がかった山肌を見ながら我々はパンを作り続けた。
「なあ、毎日毎日同じものって飽きないか?」
「たしかにそうだ。そろそろ新商品でも出してバラエティ豊にしないと客も飽きるだろう。
シュルツなら金持ってるだろ、材料買えるよな?」
「今、金使ったら長月第四週号が買えない計算なんだ」
「うむ。毎月の材料費からは出せないな。ならば自分で稼ぐしかないのか…」
「そうだなあ。工場でなら働けるぞ」
「工場か。しかしココの仕事も続けなければならぬ。シュルツ、親からの仕送りを増やせないか」
「何行ってるんだよ、WWWを買う最低限の金しか貰わないっていう約束をしてるんだ。
俺はそこまで親不孝じゃないぞ」
「諦めるしかないのか…」
「後でダンツィさんにでも相談してみるか、金を出してくれるかもしれない」
「そうすることにしよう」
用語
- WWW…“WorldWeekWeekly(週刊ワールドウィーク)”の略。
最終更新:2011年03月28日 19:53