「アミロペクチン第二章-38話 ~在庫無し~」
私が『米世界の夜明けぜよ!』と叫んでから約四ヶ月。
“冷ゆることの至りて甚だしきときなれば也”の大寒の頃である。
思えば私がエシスシルへ来てから一年以上経ったのだ。
フレシュや先生、サテュール村のみんなとはもう十三ヶ月も会っていない。
去年は色々なことがあり、さほど長くは感じなかったが
やはり皆が懐かしく思えてくる。
飢饉こ混乱まだ続いているが、週刊WorldWeekなど一部の報道関係誌によれば
“大規模飢饉は起きない”とされている。確かにヴァルでは異常気象が起きたため、
小麦の生産量は例年より低くなるとされている。
しかし異常気象が起きたのは東部の一部地域のみだったため被害は少ないだろうと予測されている。
そしていざとなれば小麦生産量世界第二位のウェンバスから輸入すればいいのだ。
まあ、どちらにしろ麦は高く、米は安くなるのだからいいのだ。
◆
「なんか最近、ベルツさん暗い顔してること多くない?」
シュルツが呟いた。
「確かに。一体何があっというんだ」
「俺にきかれたって知らないよ」
「うむ」
その時後ろから声がした。
「なあ、君たち。ちょっといいかい」
それはベルツさんであった。
◆
その後我々はベルツさんに呼ばれて話を聞いた。
「小麦の在庫がないのですか…」
「そうなんだ」
「それにしても何故?まだ去年の備蓄が売っているはずなのに」
「飢饉にそなえて大きい店が買いだめをしてるんだ。
私らみたいな小さい店は金がないから買えないんだ。とほほ」
「なるほど。我々には何が出来ますかね」
「君たちは頑張って米粉パンを売って欲しい。
そうしないとベルツ・ベーカリーが潰れてしまう!
これはベルツ家の危機なんだ!宜しく頼む。」
「分かりました。シュルツも賛成だよな」
「はい!今まで以上に気合いを入れてパンを作ります!」
「ありがとう。ありがとう。君たちがいてくれてよかったよ」
そう言ってベルツさんは泣いていた。
用語
- “冷ゆることの至りて甚だしきときなれば也”…『暦便覧』にある言葉。
最終更新:2011年04月02日 18:39