ニギメダナ參話『色聚ハ大財閥ノ息子ナリ』
我々が出発する数週間前にあのような会話があったことを思い出す。
◆
あの時は海岸の清掃が終わり、皆で船着き場の小屋で休んでいた。
そして唐突にサグ先輩が口を開いた。
「今年はキンジョン海苔を育ててみようと思う」
その言葉に驚いた私の口はぱっくりと開いた。
「え、あのキンジョン海苔ですか!?あの超高級のキンジョン海苔ですか!?」
「ああ。そうだ。今年は新たな挑戦をしてみようと思ってな」
他の海苔倶楽部の先輩達も驚いていた。
「もう海苔の果胞子を分けてくださる養殖場は見つかっている。夏休みにそこに行く」
「キンジョン海苔ということはその養殖場はキンジョンにあるんですかー?」
ヤンが訊いた。もちろん、部長のヤン先輩ではなく、私の友人のヤンである。
「うむ。そうだ。ちょっと遠いが我慢してくれ」
ちょっと待て。私はそんな金は持っていない。
我が校は全寮制である。つまりそんなに金は使わない。そして私は訊いた。
「それにしてもサグ先輩、そんな金あるのですか」
「心配いらない。金ならあいつが全部だしてくれるだろう」
そう言ってサグ先輩はセジュ先輩の方を向いた。
◆
セジュ先輩、セジュ・チュンジュンはあの大財閥、“セジュ財閥”の息子である。
当時は上等学校二年生であった。つまり我々の一つ上だ。
財閥の息子らしく横がデカい。立派な脂肪を皮膚の裏に持っていた。
身長は低い方で、私より低かった。
それにしても何故セジュ財閥の息子というおぼっちゃまくんが海苔倶楽部なんぞに
入ったのか。私は疑問を持っていた。そしてある日訊いたことがある。
そしてセジュ先輩はこう言った。
「旨いキョウシェン海苔が喰えると思って入ったんだけどさ、喰う同好会じゃなくて
育てる同好会だった。あの時は絶望したなぁ」
その時は私は十分に納得した。
◆
「そう。金ならあいつが、セジュが出してくれるだろう」
「え!?僕ですか!?」
セジュ先輩はずいぶんと驚きを見せていた。
財閥の息子なんだからそのくらいぃぃじゃぁないか。
「まあまあ、お前ならそのくらいの金もってるだろう」
「で、いくらなんですか。何億出せばいいんですか。
あ、まだ承諾したわけじゃないですよ。」
「億ってお前、冗談はよせ。100000ジンだ」
「十万ジン!?この靴下と同じ値段じゃないですか、そんな安くて済むんですか!?」
セジュ先輩は自分の靴下が十万ジンだといった。
サグ先輩や私だけでなく皆が驚いていた。わずかな時間だが小屋内が凍りついた。
「ちょっと待て、お前の靴下は何でできている」
「ああ、これはですね、超高級の絹を使ってるんです。アバッシティア共和国からの輸入品です」
「よし。そのことは置いておこう。で、セジュ。引き受けてくれるか」
「十万ジンくらいならいいっすよ¥」
◆
と、こういう会話があったのだ。
セジュ先輩が金を出してくれたからこそキンジョンへ行けたのだ。
そういうことを思い出しているとユナンゲオの駅に着いた。
ユナンゲオからはシンドン(星東)鉄道でチャグまで行くことになる。
我々は最低限の金しか貰っていないので特急は使えず、普通列車の三等車両になる。
しかしセジュ先輩はなぜか一人で一等車両である。
どう考えても死亡フラグである。セジュ先輩の運命や如何に。
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最終更新:2011年06月04日 19:21