船は来た。

奇跡は起こった。

私達は、生き延びた。

「・・・何日ぶりの風呂だろう。」

船の中でシャワーを浴びながら私は今までの事を思い返していた。

あの島に来た日の事、ゾンビが現れた時の事、コロンや来夏に出合った時の事。

いろんな事があった。

この6日間の事は将来自分にとって大きな転機になるだろう。

それが良くても悪くてもどちらでもいい。

いまはとにかく、自分が生きている事に感謝しよう。

そんな事を考えていると隣に誰かが入ってきた。

「あ・・・。」

驚くほど綺麗なその人は長めに切りそろえられたその青い髪を棚引かせて私の横の部屋に入った。

芍薬の花、とは良く言ったものでその人は地面に咲く一輪の花のように佇んでいた。

ただその人は何故か風呂でも煙草を咥えていた、シャワーの水が掛かって火が消えているにも関わらず。

「貴方が有沢香音・・・だったっけ?」

その人は空気のように軽く、それでいて金属のように重い声を出した。

変な比喩に思われるかもしれないが本当にそんな声なのだ。

「え、あ、はい。」

その気配に押されて思わず丁寧語が出てしまう。

「初めまして、私はベレッタ・スティンガー、帝国海軍の・・・将軍だっけ?」

「何で私に聞くんですか。」

「アハハ、冗談よ冗談、とりあえず初めましての握手、ね?」

ベレッタは仕切りの上から右手を差し出した。

私はとりあえずその手を取った。

その手には大きな傷跡が付いていて、腕の付け根のあたりには縫合の後が残っていた。

思わずその右手に注目してしまった、まるでその腕だけ他人の腕のように感じたからだ。

「この腕が気になる?」

「え、ええ・・・。」

ベレッタは何も言わず私の右腕を握りしめるた。

刹那。

「!」

私の腕に電流が走る。

「驚かせちゃった?ちょっとした手品よ。」

「・・・。」

私は驚いて声もです、ただその場に立ち尽くすしかできなかった。

「・・・この腕は私のじゃないわ、私の大切な人の物なの。」

そう言うとベレッタは遠い目で腕を擦った。

「そうだ、貴方確か・・・。」

ベレッタは興味深そうな顔をすると私に質問を浴びせた。

そしてそれは風呂から揚がった後も続いた。

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最終更新:2011年10月23日 11:11