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護るということ(Ⅰ) ◆auiI.USnCE











――――護るということはとても難しいこと。でもそれを思える貴方はとても優しいのです。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「……それで、うちらは逃げてきたんや」
「本当……よく解からない二人だったな。コスプレしてるような……まあ、そんな感じです」
「……コスプレ?」
「ええと……仮装みたいなものです、クロウさん」
「おっちゃんでいいよ、なあおっちゃん」
「おっちゃん言うな……そんな歳でもねえよ」
「うそっ!?」
「こんな時、嘘言っても仕方ないだろう……」

夕暮れの中、私達は新たに出会ったお二人と会話していました。
強面のガチムチ系の人、クロウさんと三枝さんに似た賑やかな人、河南子さんのお二人です。
最初、和樹さんは警戒して、珊瑚さんと私――美魚を護ろうとしてくれたのです。
ですが、河南子さんが攻撃の意志はないということを示して直ぐに纏まりました。
その際、クロウさんの強面を河南子さんを弄ってるのが印象的でした。

まぁ、それは今置いておいて、此処まで私達に起きた事を話したのです。
最も、変な人達に会って逃げただけですが。
話したのは主に珊瑚さんと和樹さんでした。
私は日傘を差しながら、二人を見ていただけで。
何となく、それでいいなと思ったから。

「しかし、両手に華ですな」
「な、何言ってるんだよ」
「何って、この状況を見てそれを思わない方が可笑しいですよ、ねぇ、こんなにも可愛い所二人も連れて」

河南子さんはげへへというおっさんみたいな笑い声を出して、和樹さんを弄ってます。
両手に華ですか…………ぽっ。
………………何を考えてるんでしょう、私は。
ただの冗談でしかないのに。

「それとも、そっちの気ですか?」
「……はっ」
「ほら、其処にいい感じの筋肉が居るじゃん」
「………………それは、断じて違う!」

クロウさんの方に、和樹さんを押し付ける河南子さん。
クロウさん×和樹さん……………………
うーん、美しくないですね。
というか、暑苦しいです。そういうのはノーサンキューです。
どちらかというと薔薇が散ってるような美しいのでないと。
恭介さん×理樹さんみたいなのが実にベネです。
ガチホ……ごほんごほん。
兎も角、それとBLは全然違うのですから。
そこの所を勘違いしてもらっては困ります、はい。
………………こほん。
………………私は何を考えてるのでしょう。
いけません、また暴走したようです。

「和樹、そっちの気やの?」
「絶対に違う!」
「またまたぁ、恥ずかしがる事ないのに」
「河南子っ! 茶化すのもいい加減にっ!」
「……やれやれ、随分と騒がしいこった」

そして、和樹さんの周りには沢山の人が集まっていました。
本当に、いつの間にかですが。
珊瑚さんが不思議そうに、河南子さんは笑顔で、クロウさんは呆れながら。
和樹さんを中心に、いつの間にか輪が出来上がっていました。
それは、偶然でしょうか?……いや、違うと思います。

きっと和樹さんの回りには自然と人の輪が出来るのではないかと思うのです。
あの人は誰よりも優しくて、誰よりも真っ直ぐだから。
そんな和樹さんを見て、人が集まってくる。
きっと彼がいた日常でもそうなのでしょう。
何となくですが、そう思います。

だから、彼は誰にでも優しくて、手を伸ばす。
誰かに望まれれば彼は、何時までも傍に居てくれるだろう。
そんな人じゃないでしょうか。
それだからこそ、彼の元に人が集まる訳で。
だから、私が特別とかそんな訳じゃなくて。

……あれ、どうしてこんな事を思うのでしょう。
結局、一人になろうとしてるのでしょう、私は。
解かりません……わかり…………



――――だったら、早く変わってしまおうよ。



「………………っ!?」

響く声。
あをに混じるのを誘う、声。
私は思い切り目を見開いて、空を見る。
紅く染まった空が見えて。
私は見えるわけがないのに、『あの子』の姿を探した。
でも、確かに聴こえた。あの子の声が。
あの子の声が、聴こえたのだ。

……ねぇ、私は…………私は…………



「………………美魚ちゃん……どうしたの?……大丈夫?」



ああ、それなのに、貴方はこの瞬間に話しかけてくれるのですね。
それでも、私を見つけ出そうとするのですね。
其処には心配そうな和樹さんが居て。
私はぎこちなく笑って

「大丈夫ですよ、和樹さん」

そう答えた。
答えるしかなかった。
和樹さんは何か言いたそうにして。


その瞬間





『――――さて、定刻となった』



響く、死者を告げる放送。











     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









「そ……んな……」

哀しみしか告げなかった死者の放送が終わって。
千堂和樹は、言葉を失い、崩れ落ちるしかなかった。
怒りと後悔と哀しみがぐるぐると心の中で巡っていく。

「くそ、なん……で……皆…………」

覚悟はしていた、していたつもりだった。
なのに、こんなに呼ばれるなんて、予想が出来る訳がなかった。

プライドが高くて、でも、人一倍頑張り屋だった大庭詠美。
騒がしかったけど、誰よりも仲間想いだった猪名川由宇。
どんな時でも笑っていて、懸命に仕事に取り組んでいた桜井あさひ。
病弱ながらも、いつでも素直だった立川郁美。

皆こんな所で死ぬべきじゃなかったのに。
なのに、死んでしまった。

「畜生……護れなかった……くっそ……」

和樹は思いっきり拳を地面に叩きつける。
悔しかった、ただ悔しかった。
護れなかったのが、悔しくて。
大切な仲間を死なせてしまったのが哀しくて。


「オレは……オレは……くそ……オレに力があれば……皆を、皆を護れたのにっ!」



ただ、力が欲しかった。
こんなに後悔をするなら、皆を護れる力を。
こんなにも哀しいなら、皆を護れる力が。

ただ、和樹は欲しくて。


夕焼けに染まる空の下、千堂和樹は無力さを叫んでいた。

「――――なめんじゃねえよ。兄ちゃん」

そして、重く響く低い声。
クロウが目を鋭くさせ、和樹を睨んでいた。
和樹は驚いて、クロウの方を見る。

「力が欲しいだと……? 皆を護れただと?」
「ああ、そうだよ……オレに力があれば護れたかもしれな……」
「だから、なめんじゃねえ!」

クロウは、和樹を近づいて、そのまま胸倉を掴む。
鋭い剣幕のまま、和樹を睨み続けて。
抑えきれない思いを抱えて、クロウは言葉を吐く。

「力があってもなぁ、護れないものは護れないんだよ。どんなに護りたくてもな」
「だけどっ!」
「兄ちゃん、勇者にでもなるつもりか? 力があれば、誰でも護れると思っているのか」
「ああ……オレはそれでも護りたいんだよ! 皆をっ」
「そうか」

クロウはそう言って、和樹を胸倉を放して突き飛ばす。
そして、二人寄りそって見つめていた美魚と珊瑚の元に駆け寄っていく。
クロウはそのまま二人を抱え込んで

「何を……っ!?」
「ほら、兄ちゃん。今、俺がその気になればこの二人を殺す事ぐらい簡単だぜ」
「っ!?」
「助けに来いよ。護りたいんだろ?」

まるで、挑発じみた言葉。
クロウの和樹を試すような言葉に、和樹は立ち上がりクロウを凄い剣幕で睨む。
次いで、事態を静観していた河南子を見るが、河南子は腕組んだまま動こうとしなかった。
先ほどのふざけた態度が嘘のように冷静な顔で、ただ二人を見つめていた。
和樹が最後に見たのは、護らなければならない少女達。
怯えた表情で、和樹を見ていた。
その顔を見た瞬間、和樹は駆け出していた。

「二人を……放せぇぇえええ!」
「……あめぇよ」

和樹は我武者羅に突撃を繰り出すも、クロウに簡単に避けられて、そのまま突き飛ばされてしまう。
直ぐに和樹は立ち上がり、また向かうも結果は一緒だった。
何度かそれを繰り返して、クロウの何度目か解からない突き飛ばしに

「ぐっ……くそっ」

遂に和樹は起き上がれなくなってしまう。
まだ体力はあるのに、何故か起き上がれない。
悔しさだけが、和樹の心を支配していて。

「ほら、お前さんはこの二人ですら護れない」

クロウの言葉が重く圧し掛かって来て。

「勇者になれやしないんだよ、この戦場で誰もかも護るなんて無理だ」

千堂和樹じゃあ、勇者になれない。
この当たり前に人が死ぬこの島では。
誰もかも、護るなんてのは、ただの理想論しかない。

「だから、オレは……力が欲しいんだよ……皆を護る力を」
「二人も護れないのにか?」
「……っ」
「兄ちゃん。その意志は大切だけどよ……それで闇雲に力を求めちゃダメだ」

厳しくも、今度は和樹を諭すような言葉だった。
地に伏せる和樹を見ながら、クロウは言葉を続ける。

「まず、自分を正しく見つめろ。そして、目の前の事を確かめるんだ」
「…………」
「おめぇは真っ直ぐだな。皆を護りたい、だから力が欲しい。けれど、ただ、それだけじゃダメなんだよ」
「じゃあ、どうすればいいんだよ……」
「さぁな、自分で考えな。それはお前がこれから見つけなきゃ駄目なんだよ。手掛かりは教えたぞ」
「……くっそ、オレは…………」

和樹は、クロウの言葉を考えながら空を見つめる。
悔しいくらい綺麗だった。
この空を、死んだ皆にもみせてやりたかった。
哀しいのか、悔しいのか、もう心がグチャグチャだった。

「まあ、更に手掛かりをやるなら…………まず、ほら、この二人を護る方法を考えるんだな」
「……美魚ちゃん、珊瑚ちゃん」

クロウの言葉に、和樹は二人の少女を見つめる。
和樹を心配するような、顔だった。
ああ、ダメだなと和樹は思う。
心配させちゃ、ダメだ。
二人をそんな顔、させちゃダメなのに。
悔しかった、ただ、悔しかった。
二人をこんな顔にしてしまった自分が。

「なあ、兄ちゃん……素直な自分の気持ちを言ってみろ」

素直な、気持ち。
自分の素直な気持ち。
死んでいった皆。
どれも、皆、綺麗な未来があったのに。
皆、綺麗な、夢を見ていたのに。

こんな所で、しんじゃダメなのに。


「オレが……オレが……かわりに死ねば良かったのに…………皆、素晴らしい夢を希望を未来を持ってたのに」


詠美も、由宇も、あさひも、郁美も。
皆、皆、死んじゃ、ダメだったんだ。
生きて、生きて、生きて。
夢も希望も未来もあったんだ。
だから、そんな素晴らしいモノを持っていた人達が死んでいい理由なんて、無い。
代わりに自分が死んでしまえばいいとさえ、思ってしまう。


「こんな、ところで、死んじゃ、ダメだったんだよ…………ちくしょう」


目が滲んでいた。
ああ、オレは哀しいんだ。
ああ、オレは悔しいんだ。


「オレは護りたかった……くそっ……オレが死ねば……くそっ……くそう……あぁ」


護りたい、護りたかった。
でも、護れない。オレじゃ護れない。
力が無い、でも力を求めても、ダメだ。
じゃあ、どうすればいい。
答えが、見つからない。

悔しくて、悔しくて。


「ちく……ちくしょうううううううううう……あああああああああああああああああああぁ!!!」



そして、オレは泣いて、叫んでいた。


どうしようもない哀しみと悔しさを抱えながら。


ただ、慟哭するしかなかった。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「ほら、後は嬢ちゃんの役目だぜ。怖い思いをさせて悪かったな」
「ええんよ。美魚ちゃん、いこ」
「ええ」

クロウが抱えていた二人を解放すると、少女達は一目散に和樹達の下に向かっていた。
それでいい、後はあの子達の仕事なのだから。

「お疲れ、おっちゃん」
「だから、おっちゃんじゃないと何度言ってる」
「まぁまぁ」

そして事態を静観していた河南子がクロウの元にやってきた。
河南子は、放送で知り合いが呼ばれる事はなかったようだったが、死者が多いことに驚きを隠せないようだった。
けれど、河南子は河南子なりに考えて、クロウの行動を理解してくれたらしい。

「和樹、どうなるかな」
「さあな、これからだろ」
「そうだねぇ、でもいいな」
「何がだ……?」

河南子は、髪を押さえながら、少し遠くを見つめていて。
躊躇いがちに、言葉を紡ぐ。

「……あたしも死んだら、あいつは、あんな風に泣いてくれるのかな? あいつは、あたしの為になにかしてくれるのかな?」

それは此処に居ない人へ。
今も、今でも想い続けてる人へ。
届かない言葉を、ただ、紡いでいて。

「……あたしも、あいつが死んだら、あんな風に泣けるのかな? あたしは、あいつの為になにか出来るのかな?」

そんな、切ない想いを。
ただ、言葉と想いを紡いで。
河南子は、遠くだけを見て。


「……なんてね」


最後は、おちゃらけて、笑った。
クロウは言葉をかけられなかった。
かけるべきではなかった。


「おっちゃんもさ、誰か亡くしてしまったんでしょ」
「……なんでそう思う?」
「じゃなきゃ、和樹にあんなに熱くなれないって」
「……ふん、じゃあ、そうなんだろうよ」

河南子の言葉に、クロウは誤魔化した。
見透かされてるが、詳しい事を話す気はなかった。
死ぬなら、あの子らというのは解かっていた。
子供だったのだから、死ぬならあの二人と思っていた。
あの包容力ある人まで死ぬとは思わなかったが。
それに、あの自分を慕ってくれたらしい人まで死ぬとは思わなかった。

けれど、それを言葉にすることは出来ない。
護れなかったのは仕方ない。
そのことに後悔するほど、青くは、もうなかった。

だから。


「…………すまねぇ」


クロウは、それしか言えなかった。


それだけで、充分だった。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





真人さんが亡くなってしまった。
信じられないが、事実なんだろうと思う。
哀しいけれど、仕方ない事だろうかとさえ思ってしまう。
でも、仕方ないかも知れないけど、やっぱ哀しかったんです。


そして、和樹さんは数多くの仲間が死んでしまったらしい。
護れなかったことを悔しんでいた。
凄く哀しがっていた。


そして、代わりに自分が死ねばよかったという言葉に心が掴まれたような気分になってしまう。


あの人は、とても優しいんだ。
誰かの夢を、誰かの未来を、誰かの希望を、本当に大切に思っている。
だから、それを護りたかったんでしょう。
優しいから、そんな想いを持てるんでしょう。


「……和樹」
「珊瑚ちゃん……御免……護れなくて御免」
「ええんよ、和樹」

珊瑚さんもきっと同じ事を考えてるんだろう。
だって、和樹さんを見てればきっとそう思うんでしょうから。

「和樹……焦らんでええよ。ゆっくり、ゆっくりな」
「……オレは」
「一緒に、一緒にな、和樹だけやないんから。ウチも美魚ちゃんもおるんやから」

珊瑚さんは、和樹さんの右手を握った。


「せやから、一緒に、考えよ……それでええんから……護るって事を、考えるのは一人やなくてええんやから」


そして、珊瑚さんは私を見ました。
次は、私の番やよというように。

私は……私は…………



「和樹さん。一緒に行きましょう。和樹さんなら……きっと見つけられますから」
「美魚ちゃん……」
「はい。三人で一緒に、ゆっくり、考えましょう……大丈夫ですよ、きっと、きっと」



私は、和樹さんの左手を強く握った。
寄り添って、労わるように。
私の意志で、そう言葉を紡いだ。


真っ直ぐな和樹さんだから。


きっと、きっと、大丈夫。



そして、あの子への意思表示だった。




私は。



私は、まだ此処に、この人達の傍に、居たい。


たとえ、残された時間が短いのだとしても。


私は、まだ、此処に居たい。


そう示すように、手を、握り続けていた。



其処には、とても、とても、温かいものが、存在していたのです。



私は、それが、とても、とても、心地よく感じたのです。






 【時間:1日目午後6時40分ごろ】
 【場所:E-5】

千堂和樹
 【持ち物:槍(サンライトハート)水・食料一日分】
 【状況:深い哀しみ】

姫百合珊瑚
 【持ち物:発炎筒×2、PDA、水・食料一日分】
 【状況:健康】

西園美魚
 【持ち物:水・食料一日分】
 【状況:健康】

クロウ
 【持ち物:不明、シャベル、アイスキャンデー、ゲンジマル、水・食料一日分】
 【状況:健康)】

河南子
 【持ち物:XM214”マイクロガン”っぽい杏仁豆腐、予備弾丸っぽい杏仁豆腐x大量、シャベル、アイスキャンデー(クーラーボックスに大量)水・食料二日分】
 【状況:健康】

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最終更新:2012年02月14日 15:00