比較生産費説

国際貿易と言っても、何の考えもなしに貿易は行われない。
貿易の目的はそこから利潤を獲得することである。
そこで、どのようにすれば貿易の利益が発生するかを考え、
比較生産費説を生み出したのが、D.リカードである。

  • 国際貿易を何故行うか
  • 2国2財モデル
  • 絶対優位、比較優位
  • 国際貿易の例
  • 交易条件



国際貿易を何故行うか

そもそも貿易は何故行われるのだろうか。
その最も根本にある目的は利潤獲得である。
例えば、ある企業が自国で生産されていない財を輸入したとしよう。
すると、その財に対する需要は全てその企業の輸入した財に集中する。
したがって、その利益を独占的に得ることができる。

ではその貿易の利益はどのようにすれば手に入るのだろうか?
この問題を言い換えれば、次のようになる。
①どのようなものを売買すれば貿易利益が発生するのか(貿易パターンの決定)
②貿易利益の発生メカニズム
これを説明しようとしたのが、リカードの比較生産費説だ。

2国2財モデル

リカードの比較生産費説の解説のために2国2財モデルというものを用いる。
このモデルでは、世界に国は2つしかなく、生産できる財も2つしかない。
さらに比較生産費説を説明するためにいくつかの仮定を導入する。
  1. 生産要素は労働のみ
  2. 財1単位の生産に必要な労働投入量は一定
  3. 労働者の国際移動はなし
  4. 完全雇用
  5. 輸送費、関税、その他の貿易障壁はない(自由貿易)
  6. 貨幣は財の交換のためだけに用いられ、交換比率も財の価格も一定

生産要素は労働のみ

財を生産するには、様々な生産要素を複合的に投入することになる。
労働だけでなく、工場などの資本や、それを建てるための土地などがある。
しかし、ここでは単純化のため生産要素は労働のみとする。

財1単位の生産に必要な労働投入量は一定

財を1単位生産するのに必要な労働の量はどれだけの量の財を生産する時も変化しない、という仮定だ。
例えば、5人分の労働を投入するとある財が1単位生産できるとすると、
5000人分の労働を投入するとある財は1000単位生産される。
800単位しか作れなかったり、1200単位もできたりはしない。
このことを、規模に関して収穫一定と呼ぶ。
ちなみに、800単位しか作れないような場合を、規模に関して収穫逓減と呼び、
1200単位も作れるような場合は、規模に関して収穫逓増、あるいは規模の経済と呼ぶ。

貨幣は財の交換のためだけに用いられ、交換比率も財の価格も一定

貨幣が存在しないとすれば、財の貿易は直接の物々交換となる。
例えば、財Aを輸出して財Bを輸入したい時、財Bを余分に持っていてかつ財Aを欲している相手を探さなければならない。
2財しかないこのモデルではまだ相手を見つけるのは容易かもしれないが、
現実的には財の種類はもっと多いので、相手を見つけるのは困難だ。
そこで、仲介役として貨幣を用いる。
財Aを一旦貨幣と交換して、その貨幣を財Bと交換することで、貿易がスムーズに成立するようになる。
さらに、ここでは貨幣の交換比率、つまり為替レートは一定であるとする。

絶対優位、比較優位


先ほど定義したこの2国2財モデルの具体例を作っておく。
2つの国として、ドイツとフランスを用いる。また、2つの財として自動車と衣服を扱う。
表中の数字は、それぞれの財1単位の生産に必要な労働投入量だ。
ドイツ フランス
自動車 20 80
衣服 20 40

アダムスミスによると「財の生産はより効率的に行える人が実行し、販売すればよい」とのことだ。
つまり、各財についてより1単位当たりの労働投入量が小さい、
表中の数字が小さい方に生産を任せればよいということだ。
この考えを絶対優位という。
表を見てみると、ドイツは自動車衣服ともにフランスより少ない労働投入量で生産が可能だ。
よって、ドイツが自動車と衣服を生産し、フランスは何も生産しないのがベストと言うことになる。
しかしこれはいくらなんでもおかしい。
フランスは輸入するばかりで輸出するものがなく、双方向の貿易が説明できない。
それでは、ドイツとフランスはどの財を生産すればよいのだろうか。

これに答えを与えるのが比較優位の考え方だ。
ここで、それぞれの国の1単位の生産に必要な労働投入量の比を求めてみる。
自動車/衣服とすると、ドイツは20/20=1、フランスは80/40=2となる。
この値をそれぞれの国の比較生産費と呼ぶ。
比較生産費が小さいほど、分子の側の財が分母の側の財に比べて効率的に生産できることになる。
このとき、その財は比較優位を持つ、と呼ぶ。
例えば、1<2であるのでドイツは自動車に比較優位を持つ。
衣服/自動車とすると、ドイツ20/20=1、フランス40/80=0.5となり、
0.5<1よりフランスは衣服に比較優位を持つ。
また、比較優位を持つ財のことを比較優位財と呼ぶ。
各国が自国が比較優位を持つ財に生産を特化させ、
お互いがもう一方の財と貿易すれば生産量を増加させられる、というのが比較生産費説だ。

国際貿易の例

上の項目で描いたことは本当に正しいのだろうか。
そのことを例を用いて確認してみる。
ドイツ フランス
自動車 20 80
衣服 20 40
労働力 4000 12000
それぞれの国の労働力をそれぞれの財に分配して、財を生産する。
これから3つのステップに分けて、比較生産費説を検証していく。
STEP1
貿易をしていない場合。
生産の特化も行わず、2つの財に均等に労働力を分配する。
STEP2
比較優位財の生産特化を行う。
貿易を行っていないのでそれぞれの国には片方の財しか存在しないため、
現実にはこのような状態で落ち着くことはあり得ない。
STEP3
貿易を行う。
特化して生産した財の半分をそれぞれの国が輸出する。
STEP1の時の生産量と比べ、どのように変化しているかを見る。

STEP1:貿易を行っていない場合

各国が労働力を半分ずつ分配するため、それぞれの生産量は以下のようになる。
ドイツ フランス 世界計
自動車 100 75 175
衣服 100 150 250

STEP2:比較優位財に生産を特化した場合

それぞれの国の比較優位財はドイツが自動車、フランスが衣服である。
各国はその財に国の全ての労働力を投入することになる。
すると、生産量は以下の表のようになる。
ドイツ フランス 世界計
自動車 200 0 200
衣服 0 300 300

STEP3:さらに貿易を行った場合

各国の生産した財の半分を相手国に輸出する。
そうすると、各国に存在する財の量は以下のようになる。
ドイツ フランス 世界計
自動車 100 100 200
衣服 150 150 300
これをSTEP1での生産量と比べてみる。
するとフランス自動車+25、ドイツ衣服+50、世界自動車+25、世界衣服+50となっている。
これは明らかに生産特化と貿易によって、増産(=生産の効率化)に成功している。
したがって、この場合では比較生産費説によって増産をすることができる。

交易条件

最終更新:2015年07月01日 23:19