乗数分析

ここからはマクロ経済学の技法を用いて、貿易がある場合の財政政策について分析する。
しかし乗数分析の方法を確認するために、貿易の無い閉鎖経済での場合を先に考える。

  • GDP
  • 乗数分析(閉鎖経済)
  • 乗数分析(開放経済)

GDP

経済指標で最も有名なものの一つとしてGDPがある。
GDP(Gross Domestic Product)は日本語で国内総生産と呼ばれる。
三面等価の原則より、GDPの支出面と生産面は一致する。
消費をC、投資をI、政府支出をG、純輸出をEX−IMとすると、
GDPはGDP=C+I+G+(EX−IM)と表される。
生産量をYとするとGDP=Yなので、Y=C+I+G+(EX−IM)…①が成り立つ。
このページではこの式を用いて分析を行っていく。

乗数分析(閉鎖経済)

本来は貿易がある経済での財政政策の効果を分析するのが目的である。
しかし乗数分析という方法をつかむ為、まずは貿易の無い閉鎖経済で分析を行う。
したがって貿易に関わる項であるEX,IMはとりあえず無視する。
Y=C+I+G…①'

まずは①'式にある変数C,I,Gについての式を3本追加する。
C=c0+c1Y…②,I=I0…③,G=G0…④ (c0,I0,G0>0)
ここで、C0,C1,I0,G0は外生変数(モデル外で与えられる変数)である。
それに対してY,C,I,Gはこのモデル内で決定される内生変数である。
消費について見てみると、定数項C0とYの1次の項であるC1がある。
c0は基礎消費と呼ばれ、所得がゼロの場合でも生きていく為に最低限必要な消費分である。
c1は限界消費性向と呼び、c1Yは所得に比例して増加する消費の分を表す。
c1は通常0<c1<1と定義されるが、なぜそう定義されるのだろうか。
もしc1が負の値をとるのならば、所得が増えれば増えるほど消費量が減少することになる。
そして所得がある一定以上の水準になれば消費量が負になってしまうことになる。
これでは少し現実的とは言えない。
c1>1の時も同様で、所得の増加分を超えて消費を増加させることになる。
ある一定以上の所得水準になると借金してまで消費を増やさなければならない。
これも現実的とは言えないため0<c1<1が採用されることになる。
④式のG0は政府の裁量によって決められるため政策変数と呼ばれることもある。

ここからいよいよ政府による財政政策の効果を見ることにする。
財政政策は政府支出G0を増加させることであり、今回はG0からG0'に増加したと仮定する。
①'〜④式をYについて解くと以下のようになる。
Y=(1/(1−c))(c0+I0+G0)
この時の1/(1−c)を乗数と呼ぶ。
この状態から政府支出G0を増加させてG0'にしたとし、それに伴って生産量YもY'に変化したとする。
すると政府支出増加前の式Y=(1/(1−c1))(c0+I0+G0)…⑤と、
政府支出増加後のY'=(1/(1−c1))(c0+I0+G0')…⑤'が得られる。
ここで知りたいのは財政政策による生産量Y、つまりGDPの変化がどのようなものであるかだった。
それを確かめるため⑤'−⑤を計算すると、
Y'−Y=1/(1−c1))(G0'−G0)が得られる。
政府支出は増加させたのでもちろんG0'−G0>0である。
次に1/(1−c1))がどのような範囲をとるかを計算する。
0<c1<1
−1<−c1<0
0<1−c1<1
1/(1−c1))>1
このこととG0'−G0>0より右辺は正である。
したがって政府支出の増加によりGDPは増加することがわかった。
また乗数が1より大きいので、政府支出の増加分よりもGDPの増加分の方が大きいことになる。
このことは乗数効果と呼ばれ、限界消費性向が大きいほどその効果は大きくなる。

乗数分析(開放経済)

開放経済の場合であるので、貿易の項を含んだ①式を用いる。
Y=C+I+G+(EX−IM)…①
この①式と②〜④式に加え、EXとIMを説明する⑥、⑦式を追加する。
EX=x0…⑥,IM=m0+m1Y…⑦(x0,m0>0)
消費を行う際に需要される財は国内のものとは限らない。
需要された財が国内で生産されたものか海外で生産されたものかは消費者である家計にとっては無差別である。
したがって輸入を表す⑦式も国内の消費を表す②式と同様に表せる。
なのでm1は限界消費性向と同様に0<m1<1の値をとる。
また、m1のことを限界輸入性向と呼ぶ。
輸出には海外所得と為替レート、輸入にも為替レートが関わるが、今回はそれは固定として考えないこととする。

閉鎖経済の時と同様に①〜④、⑥、⑦式をYについて解くと、
Y=(1/(1−c1+m1))(c0+I0+G0+x0−m0)…⑧となる。
1/(1−c1+m1)のことを外国貿易乗数と呼ぶ。
開放経済の場合でも閉鎖経済と同じように財政政策を行い、G0からG0'に増加させたとする。
それに伴って生産量YがY'に変化したとする。
Y'=(1/(1−c1+m1))(c0+I0+G0'+x0−m0)…⑧'
⑧'−⑧を計算すると、Y'−Y=(1/(1−c1+m1))(G0'−G0)が得られる。
この結果を見ると開放経済の場合でも閉鎖経済と同様に何らかの乗数効果が存在することがわかる。

ここで外国貿易乗数1/(1−c1+m1)と乗数1/(1−c1)の大小関係を調べてみると、
0<m1<1であるので、乗数よりも外国貿易乗数の方が分母が大きい。
したがって外国貿易乗数の方が乗数よりも小さいということになる。
それはそのまま乗数効果も小さいということに繋がる。
これは財政政策を行って国内の生産増を図ろうとしても、輸入という形で海外の生産増に逃げてしまうことを意味する。
最終更新:2013年12月13日 19:57