需要曲線や供給曲線の分析をしていく上での大切な概念のひとつが弾力性だ。
ここではその定義と、それがどのような意味を持つかを解説する。
- 弾力性
- 需要の価格弾力性
- 総収入と弾力性
- 需要の所得弾力性
- 需要の交差価格弾力性
- 供給の価格弾力性
△
弾力性
需要曲線や供給曲線と言ってもその形はさまざまだ。
それらがどのような形をしているのかを分析する上で重要な概念が弾力性である。
弾力性は市場の変化に対して、売り手や買い手がどのように反応するかを示している。
弾力性の計算方法は基本的には、二つの変数の変化パーセントの比の絶対値だだ。
Aという変数が1%変化した時に、Bが何%変化するかというこの値の絶対値が弾力性そのものである。
例えば、Aが5%増加した時にBが25%減少したとする。
その時のAに対するBの弾力性は25%/5%=5である。
基本的には上の方法でいいのだが、場合によっては以下の中間点の方法を用いる場合もある。
この方法では、変化の方向によって弾力性が変わることがないという特徴がある。
それは価格がpからp'に変化した時と、p'からpに変化した時で弾力性が一致するという意味である。
単純な変化パーセントの比ではその方向によって変化してしまうことがあるため、中間点の方法が使われることも多い。
弾力性が1であるとき、単位弾力的であるという。
また弾力性が1より大きい時は弾力的であるといい、1より小さい時は非弾力的であるという。
ある変数の変化に対してもう一つの変数が全く変化しない時、すなわち弾力性が0であるときを完全に非弾力的と呼ぶ。
逆に完全に弾力的という状態はある変数がわずかに変化しただけで、もう一つの変数が無限に反応する場合をいう。
需要の価格弾力性
需要の価格弾力性とは、ある財の価格の変化に対して需要量がどれだけ変化するかを表した値である。
ある財の需要の価格弾力性を決定する財の性質としては、その財が必需品か贅沢品か、代替財が存在するか、その財の市場をとる広さ等が挙げられる。
例えばその財が電気や食品といった生活に欠かせないものであれば、多少価格が高くなってもそう簡単に需要量を大きく下げることは出来ない。
このような生活必需品の市場は非弾力的であることが多い。
逆にその財が贅沢品であれば、必ずしも必要なものでないため価格が高くなれば需要を見送ることが多くなると予想できる。
贅沢品は価格の変化に対する需要量の変化が大きいことが多いので、弾力的な市場の場合が多い。
食の多様化が進み、一般家庭での主食としてご飯だけでなくパンも多く消費されるようになってきた。
このときご飯とパンは代替財の関係にある。
ご飯の価格が上昇するとご飯の需要が減少し、パンにその需要が簡単に流れてしまうだろう。
しかし代替財が存在しない場合には、価格が上昇してもすぐにほかの財に流れることはないため弾力性は小さくなる。
市場をとる広さというとピンと来にくいかもしれないが、簡単に言えばどこまでを同じ市場に含まれる財として見るかということである。
アイスの市場をより狭くすればチョコアイスやバニラアイスの市場になるし、より広くすればデザートや食品の市場となる。
市場が狭ければ代替財が多くなり弾力的になり、広くなれば代替財が少ないため非弾力的になる。
総収入と弾力性
ここからは需要の価格弾力性と総収入の関係について紹介する。
総収入とはある財に対して買い手が支払い、売り手が受け取った金額のことである。
ある点における総収入はその点での価格と数量を掛け合わせたものとして定義される。
これをグラフとして表してみると原点とその点で作られる長方形の面積がこれに対応している。
需要曲線上では価格の上下と数量の上下が負の関係にあるため、価格が増加しても総収入が増加するとは限らない。
それではいったいどのような場合に総収入は増加するのだろうか。
以下ではそれを分析していく。
需要曲線が弾力的なとき、価格上昇の割合よりも数量の減少割合の方が大きいため総収入は減少する。
なぜそうなるのかを数式で説明すると以下のようになる。
(数式)
需要曲線が非弾力的なとき、価格上昇の割合の方が数量の減少割合よりも大きいため、総収入は増加する。
こちらの場合もなぜそうなるのかを数式を使って以下に証明しておく。
(数式)
需要の所得弾力性
需要の所得弾力性の場合も同じように計算を行う。
需要のパーセント変化を所得のパーセント変化で割ればよい。
こちらは所得の変化がある財の需要量にどのような影響を及ぼすかの値である。
生活必需品の市場は非弾力的であることが多い。
例えば食品で考えると、ある程度以上の所得水準から所得が増加した場合には、需要量そのものを増やして効用を高めようとするより、食品の質を上げて効用を高めようとすると考えられる。
なぜなら、人間が摂ることのできる食事の量には限界があり、量だけで効用を高めるのには限界があるからである。
一方、贅沢品の市場は弾力的である場合がほとんどだ。
所得が少なくなれば贅沢をしている場合ではないと需要量を減らすだろう。
所得が多くなれば、少しくらい贅沢をしてもいいだろうと需要量を増やそうとするだろう。
前項で紹介した正常財(上級財)の場合では、所得の増加にともなって需要量が増加するので、需要の所得弾力性は大小こそあれ正である。
逆に劣等財(下級財)の需要の所得弾力性は負である。
需要の交差価格弾力性
この弾力性は、二つの財の価格と需要量の関係を示すものである。
定義は第1財の需要量の変化率を第2財の価格変化率で割ったものとしてなされる。
定義を見ればわかるように、これはある財の価格の変化にどれくらいもう一方の財の需要量が反応するかを示す指標だ。
二つの財が代替財であった場合、需要の交差価格弾力性は正になる。
価格が増加した財の需要量の減分がもう一方の財の需要量に流れるからだ。
逆に二つの財がそれぞれ補完財であった場合には、需要の交差価格弾力性は負になる。
価格上昇による需要量の減少にもう一方の財も引っ張られてしまうからである。
供給の価格弾力性
需要の面からだけでなく、供給面からの弾力性ももちろん存在する。
これは価格のパーセント変化を供給量のパーセント変化で割ったものとして定義される。
供給の価格弾力性がどのように決定されるかは、その財の性質が大きく関わる。
例えばその財が生産量をすぐに増減できないような財の場合、その市場の供給は非弾力的である。
また、多くの財の供給は長期的に見れば弾力的であることが多い。
工場が足りず短期では生産の限界に達していたとしても、長期では新工場を建設し生産量を増やすことができる。
最終更新:2013年12月27日 10:51