市場の均衡によって定められた価格は、消費者と生産者のどちらにとって得が大きい価格なのだろうか。
それに一つの答えを与えるのが余剰という考え方である。
この余剰分析を用いることで、市場に手を加えた際にどのような影響が出るかを見ることができる。
ここではその為の準備段階として、余剰とはどのようなものであるかを中心に紹介する。
- 余剰とは
- 支払い許容額
- 消費者余剰
- 生産者余剰
- 市場の効率性
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余剰とは
そもそも余剰とはなんなのだろうか?
簡単に言えば、消費者や生産者がその市場から得られる便益のことである。
余剰という言葉には「余り」や、「残り」といった意味がある。
その意味の表す通り、余剰とはいわゆる「もうけもん」なのである。
その余剰には大きく分けて消費者余剰と生産者余剰の2種類がある。
消費者余剰と生産者余剰を合計したものを総余剰と呼ぶ。
この総余剰が、その市場が生み出す便益となる。
消費者余剰と生産者余剰はその便益のそれぞれの主体の取り分である。
支払い許容額
消費者余剰を考える上での大事なものに支払い許容額がある。
支払い許容額とはそれぞれの消費者がその財に対して支払ってもよいと考える最大の額である。
例えばある人が80円ではりんごを買うが、81円では買わないとする。
このとき、この人のりんごに対する支払い許容額は80円ということになる。
支払い許容額は消費者ごとに異なると考えてよい。
この支払い許容額は需要曲線として市場に関わってくる。
消費者は支払い許容額以下のいかなる価格であってもその財を買ってもよいと考える。
つまり、その財の価格が低いほどその財を買ってもよいと思う人数は多くなる。
逆にその財の価格が高ければ、その財を買ってもよいと考える人数は少なくなる。
これは右下がりになるという需要曲線の考え方そのものである。
この支払い許容額の人数分布によって、需要曲線の形も決定される。
支払い許容額に対して一様に人数がいる場合は需要曲線は直線になる。
支払い許容額の低い人ほど人数が多い場合、需要曲線は下に凸の曲線となる。
消費者余剰
ある財の市場を考える。
需要曲線Dと供給曲線Sの均衡点Eでの均衡価格をp*、均衡数量をq*とする。
消費者余剰は需要曲線と直線p=p*とp軸(価格の縦軸)で囲まれた領域のことを言う。
(グラフ)
消費者余剰とは、消費者が市場から得られる便益であると上に書いた。
それが何故、上のグラフの領域で表されるのか。
需要曲線上の点Daでの価格をpaとする。
Daはpaを支払い許容額とする消費者である。
その消費者の数は市場全体から見て十分小さいと考えられるので、点のように表現できる。
この人達はその財にpa支払ってもよいと考えている。
しかし実際に支払う価格は均衡価格p*である。
ここでDaの消費者は、pa支払ってもいいと思っているのにp*で買うことができた。
この時、Daの消費者はその財を差額の分だけ安く買えたことの便益を感じる。
この便益をp*より高い支払い許容額を持つ全ての消費者が感じる。
それこそが消費者余剰の正体である。
消費者の数が少ない場合で考えてみると、もう少しわかりやすいかもしれない。
(グラフ。左・Daの消費者余剰。右・消費者が少ない場合の消費者余剰)
生産者余剰
基本的には消費者余剰と考え方は同じである。
消費者の支払い許容額に当たるものは、生産者の生産費用である。
この価格であれば生産してもよいと考える価格と、均衡価格の差が生産者余剰になる。
生産費用pbの生産者Sbが均衡価格p*に直面している時のその生産者の生産者余剰を下のグラフで表している。
(グラフ)
市場の効率性
市場は最終的に需要曲線と供給曲線が交わる均衡点に価格が向かっていく。
この均衡価格の水準で、均衡数量が決まり、総余剰が決定される。
この総余剰の大きさは均衡価格の時が最大である。
それは果たして本当だろうか?
それを(a)価格が均衡価格より高い場合、(b)価格が均衡価格より低い場合に分けて考える。
(a)価格が均衡価格より高い場合
市場価格が均衡価格p*より高い水準のphにあるとする。
この場合、供給量はShとなるが需要量はそれより少ないDhとなっている。
したがって市場の取引量はDhに等しくなる。
よってこのときには、p=ph、需要曲線、価格軸に囲まれた領域が消費者余剰となる。
一方生産者余剰はp=ph、供給曲線、価格軸、q=Dhに囲まれた領域に等しい。
これは明らかに市場が均衡しているときよりも総余剰が小さい。
また、市場価格が均衡価格と比べ高ければ高いほど総余剰は小さくなる。
(グラフ)
(b)価格が均衡価格より低い場合
市場価格が均衡価格p*より低いplであるとする。
この時の需要量Dlと供給量SlにはDl>Slという関係が成り立つ。
よってこの市場の取引量はSlと等しくなる。
したがって消費者余剰はp=pl、需要曲線、価格軸、q=Slに囲まれた領域となる。
同様に生産者余剰はp=pl、供給曲線、価格軸に囲まれた領域に等しい。
この場合も市場が均衡している時よりも総余剰は小さくなる。
市場価格が低いほど、総余剰は小さくなる。
(グラフ)
以上の結果より、総余剰は市場が均衡している場合が最大であることがわかる。
よって余剰分析においても市場は均衡状態が最も望ましいことになる。
最終更新:2014年06月14日 11:56