地方自治法242条の2第1項4号に基づく住民訴訟が,出訴期間を徒過しているとして却下された事例
主 文
1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告は,Aに対し,金2440万円を請求せよ。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 本案前の答弁
主文同旨
(2) 本案の答弁
ア 原告の請求を棄却する。
イ 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は,B市外二ヶ村恩賜県有財産保護組合(以下「恩賜林組合」という。)を構成するC村の住民である原告が,恩賜林組合の組合長である被告に対し,「同組合理事長Aは,同組合の予算である繰越明許費『仮称D公民館敷地整備に対する補助金』から,C区に対し,2440万円を目的外支出した(以下,この支出を「本件支出」という。)。」などと主張して,地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,A個人に対して前記支出相当額の賠償を請求するよう求めている事案である。
2 前提となる事実(証拠等を掲記した事実以外は,当事者間に争いがない。)
(1)ア 恩賜林組合は,B市,E村及びC村によって組織され,山梨県恩賜県有財産の保護並びに土地の借受け及び払下げなどに関する事項の共同事務処理を目的とする一部事務組合である(乙1)。
イ Aは,本件支出が行われた平成17年4月よりも前から,恩賜林組合の組合長の地位にある。
ウ 原告は,恩賜林組合を構成するC村の住民である。
(2) Aは,平成17年4月7日,恩賜林組合の組合長として,C区に対し,「D公民館敷地整備事業」の補助金として,3500万円を支出した(本件支出は,この支出に含まれる。)。
(3) 原告は,平成17年6月30日,恩賜林組合監査委員に対し,法242条1項に基づき,上記支出は違法であるとして,住民監査請求をした(以下,この監査請求を「本件監査請求」という。)。
(4) 恩賜林組合監査委員は,平成17年8月24日,本件監査請求には理由がないと判断し,この監査結果を記載した書面は,同月26日,原告に到達した(甲2,乙2)。
(5)ア 原告は,上記監査結果を不服として,平成17年9月22日,甲府地方裁判所に対し,訴状(以下「本件訴状」という。)を提出し,本件訴えを提起した。
イ 本件訴状には,被告の表示として,下記の記載がある。
記
山梨県B市○○○▲▲▲▲番地
被告 B市外二ヶ村
恩賜県有財産保護組合
組合長 A
ウ 本件訴状には,請求の趣旨として,下記の記載がある。
記
1 組合長Aは平成17年4月7日、繰越明許費「仮称D公民館敷地整備に対する補助金」から金3500万円を違法に忍草区会に支出し、少なくとも2440万円の損害を組合に加えたので同額を組合に返還せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
(6)ア 当裁判所の裁判長は,平成17年9月28日,原告に対し,「原告は,本命令送達の日から7日以内に,本件訴えが,B市外二ヶ村恩賜県有財産保護組合を被告とする訴えなのか,それともAを被告とする訴えなのかを明らかにせよ。」との補正命令を発した(当裁判所に顕著)。
イ 原告は,平成17年10月5日,上記補正命令に対し,被告は恩賜林組合組合長Aであり,恩賜林組合ではない旨回答した。
(7)ア 原告は,平成17年11月22日に実施された本件の第1回口頭弁論期日において,訴状を陳述し,その上で,当裁判所の「本件訴えにおける被告は,恩賜林組合の組合長としての被告であるのか,それともA個人であるのか明らかにすることを求める。」旨の求釈明に対し,後日書面をもって回答する旨述べた。
イ 原告は,平成17年12月25日,当裁判所に対し,「釈明申立書」と題する書面(以下「本件釈明書」という。)を提出した。
ウ 原告は,本件釈明書において,被告は恩賜林組合の執行機関としてのAであり,したがって,請求の趣旨は下記のとおりであると釈明した。
記
1 被告は組合長Aに対し金2440万円の金員を請求せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
(8) 原告は,平成18年1月24日に実施された本件の第2回口頭弁論期日において,本件釈明書を陳述した。
3 当事者の主張
(1) 原告の主張する請求原因は,別紙訴状(省略)のとおりである。
(2) これに対し,被告は,本案前の主張として,「本件訴えは,法242条の2第2項1号の定める出訴期間が経過した後に提起された不適法なものであるから,却下すべきである。」と主張し,本案について,「本件支出は,B市外二ヶ村恩賜県有財産保護組合補助金等交付規則(乙3)などの財務会計法規にのっとって適正に行われており,予算の目的外使用ではなく,何ら違法ではない。」と主張している。
第3 当裁判所の判断
1(1) 本件訴状における請求の趣旨の記載及び本件釈明書によれば,本件訴えは,その提起の当時,Aに対して恩賜林組合に2440万円を支払うことを求める訴えであったが,本件釈明書によって,恩賜林組合の執行機関としての被告に対してA個人に2440万円を請求するよう求める訴えに変更されたと認められる。
(2) この点,原告は,本件訴状による訴えも本件釈明書による訴えも問題としている事実関係は同一であり,求める裁判の内容には実質的に変わりがないと主張する。しかしながら,本件訴状による訴えと本件釈明書による訴えは,明らかに法的構成及び被告を異にする訴えであり,しかも,本件訴状による訴えは,現行法上認められていない不適法な訴えであるから,本件訴状による訴えと本件釈明書による訴えが同一であると解すること,すなわち,本件釈明書による請求の趣旨の変更が民事訴訟法143条の規定する訴えの変更に当たらないと解することはできない。
2 そして,訴えの変更の場合の出訴期間の遵守の有無は,訴え変更の書面(本件においては本件釈明書がこれに相当する。)が裁判所に提出された時点を基準に判断すべきであるから(行政事件訴訟法7条,民事訴訟法147条),本件においては,本件釈明書が当裁判所に提出された平成17年12月25日を基準として判断すべきことになる(前記第2の2(7)イ)。そして,原告が本件監査結果の通知を受けたのは平成17年8月26日であるから(前記第2の2(4)),本件訴えは,法242条の2第2項1号の規定する出訴期間の要件を満たしていないといわざるを得ない(なお,本件訴状による訴えが現行法上認められていない不適法な訴えであることなどにかんがみると,本件においては,訴えの変更があってもなお訴えの提起の時点を基準として出訴期間遵守の有無を判断すべき特段の事情があるとはいえない。)。
3 以上によると,本件訴えは,その余の点につき検討するまでもなく,不適法であるから却下すべきである。よって,主文のとおり判決する。
甲府地方裁判所民事部
裁判長裁判官 新 堀 亮 一
裁判官 倉 地 康 弘
裁判官 岩 井 一 真
最終更新:2006年03月16日 16:15