―………

「…あなたは誰?」

―………

「…私の中で泣くあなたは誰?」

―…名前の無いピエロです…

「…何故私の中にいるの?」

―…その答えはあなたが知っているはずです…
 



ピピピピピ……

ガチャ!

…疲れた…一昨日の比じゃありませんよ…

時計を止めたままの姿勢で固まってしまう。

9時までに長門さんの家に行かないと…
まぁ6時に目覚ましをかけたからまだ時間的余裕は…





















現在時刻8:13

…なんでぇぇぇぇ!?

時間間違えた!?
というか何でこんな微妙な時間!?

完全に寝起きです…しかし急げばまだ間に合うはず!!

朝食…食べる暇がない!
もういいです!

急いで身支度を整え財布を握って長門さんの家へ走りました。

 

 



はぁ…はぁ…間に合った…
正直奇跡としか言いようが…

ピンポーン

疲労で震える指先でチャイムを鳴らす。
相変わらず豪華なマンションですね。

しばらくして長門さんの声がインターホン越しに聞こえてきた。

「…入って」
「あれ?出かけるんじゃなかったんですか?」
「…問題が発生した。とりあえず中へ」

そういい終えると隣のスライドドアが開いた。
何かマズイことでもあったんでしょうか…
長門さんの部屋は…これか。

「長門さん?古泉です」

しばらくすると玄関の戸が開いた…って

「…何でパジャマなんですか?」
「…今起きた。原因は目覚まし時計の時間設定を忘れたから。迂闊」
「じゃあさっきの問題というのも」
「…そう。身支度を整えるから中で待ってて」
「…そうですか」

促されるままにリビングに連れられて待っていると長門さんがコーヒーを入れてくれた。
ありがとうございます。

っていうか長門さん…

「…何?」
「…めやに付いてますよ?」
「…迂闊」ゴシゴシ

 

 

 

 



水色のワンピースに着替えた長門さんと外にでる。

「…とりあえずお腹が空いた」

まぁ2人とも何も食べてませんからね。

「じゃあ適当なお店に入りましょうか」
「…今度こそハンバーガー100個を「それは勘弁して下さい」

夏休みが終わりかけてるのもあってか店内は賑わっていた。
恐らく残り少ない休みを全力で遊んで過ごそうとしているのだろう。
大して年の変わらなそうな学生が大半を占めてました。

「長門さんは席を確保しておいて下さい。何が食べたいですか?」
「…メガマックとてりやきとベーコンレタスとフィレオフイッシュ…更にアップルパイを2つにポテトのLサイズを3つ…ドリンクはコークサイズでコーラを所望する」
「…せめてもう少し量を抑えてもらえませんか?」
「…どうして?」
「…お腹が空いているのはわかるんですが…それだと周りの人が驚きませんか?」
「…大丈夫。情報操作は得意」


…えぇ、買ってきましたよ。
嫌ね、別にお金のことはどうでもいいんですよ。
だけど何ですかあの店員の目つきは…完全に引いてましたよ。
情報操作で何とかするんじゃなかったんですか長門さん?

「…迂闊」

迂闊じゃないでしょ迂闊じゃ。
それ言えば許されると思ってるんですか?

「…駄目?」
「わかりましたよ。罰ゲームですしね」

そう言ってハンバーガーにかぶりつく。
やっぱり朝食には重いかな。

僕の3倍の早さで食を進める長門さんを見ながらぼんやりとしてみる。

「…?」

視線に気付いたのか長門さんが首を傾げる。

「あ、いえ…少し考えごとを…」
「…それは駄目」
「へ?」
「…あなたにこのカリカリのポテトは渡さない」

いや何勘違いしてるんですか。
というか本当にポテト好きですね。

「…ただこのフニャフニャのポテトならあげてもいい」
「ふふ、そうですか。ありがとうございます」

口の中にへばりついたポテトをアイスティーで流してから長門さんに話しかけてみる。

「ところで今日は何をするつもりで僕を呼んだんですか?」
「…行ってみたい所がある」

そう言うと長門さんは窓の外を指差した。

「あれは…」

確か最近出来た遊園地ですか。

「…そう。ただ1人でそういうところに行くのは寂しいものだと涼宮ハルヒが言っていた。だからあなたを呼んだ」
「そういうことでしたか…」
「…そう…モグモグ…ゴクン…ご馳走様」
「口の周り汚しすぎです」
「…拭いて「絶対嫌です」
「…ケチ」

 

 

 

 



そういうわけで遊園地です。

2人分のフリーパスを買って中に入る。
そういや遊園地も久しぶりなんだなぁ。

「さて、まず何に乗りますか?」
「…あれ」

…ジェットコースター…ですか…
絶叫系は…まぁ神人の相手をするより100倍ましですかね…

「…怖いの?」
「そんなことある訳ないじゃないですか!ほら、行きましょう!」

長門さんの手を引っ張ってジェットコースターの列に並ぶ。
怖くない怖くない怖くない…

「………」




















「うわああぁぁぁぁあ!!!」

無理!もう無理!
最近のジェットコースターはこんなに怖いものなのか!?
目が回る…

ふと横を見ると長門さんが両手を離してバンザイをしてます…

もう何でもいいや…早くこの悪魔の乗り物から逃げ出したい…

マシンがゴールするや否やすぐベルトを外して降りようとしました…が

「あれ?ベルトがあがらない?」

故障でしょうか?

「…故障ではない。先のマクドナルドであなたに意地悪をしてしまった。これはそのお詫び…というわけでもう一回乗る」
「ちょ、僕は満足しましたって!それに並んでる人の迷惑になりますよ!」
「…大丈夫」
「へ?」

…そういえば周りの人達は僕と長門さんのことなんか気にせず乗ってるような…

「…情報操作は得意」
「いやいやいやいや!」

なんでこんな時だけまともに操作するんですか!?

「…そんなに喜ぶとは思わなかった。速度を二割増しにする。喜んで」
「いやだぁぁぁ!!」
「…レッツゴー」



















結局4回も乗りました…えぇ、ヘタレですよどーせ…

…その後

「下は見ない下は見ない…」

フリーフォールに乗ったり。
「へぇ、この火の玉本物みたいですね」
「…呼び寄せた」
「呼び寄せた!?え?ちょっと行かないで下さい長門さん!」

お化け屋敷に入ったりしました。

「…次は…」
「あの…長門さん…少し休憩しましょう…3時間ぶっ続けで遊んでますよ?」
「…そう」

そう言って近くのベンチに腰を掛ける。

「もうすぐ夏休みも終わっちゃうんですね…」
「………」
「長門さんはどうでした?夏休み」
「………」
「…長門さん?」

長門さんは完全に押し黙っている。
そのまま数分の沈黙の後

「…楽しかった」

とだけ口を開いた。

「…そうですか」
「…今日はありがとう」
「いえ、どうせ家にいても暇を持て余しただけですし。誘っていただいて光栄です」
「…そう」
「…何かあったんですか?」
「………」

また沈黙。
というより長門さんは言うのを迷っている感じだ。

「…無理に話したくなかったら話さなくてもいいですよ。忘れて下さい」
「…大丈夫」

そして三度目の沈黙を挟んで、長門さんは静かに話し出した。

「…情報統合思念体は涼宮ハルヒの自立進化の可能性に興味を示している」

…そういえば彼がそんなこと言ってましたね…

「…ただそれは涼宮ハルヒに限定せず他の人物を対象にとることも出来る。彼女の周りにいる人間及び鍵である彼なら尚更」

彼女の周りって…SOS団の事ですか?

「…そう。私がこれから話すことによってこの現象が情報統合思念体の望む物とは違う形になる恐れがある」

…この現象?

「…そして一部の情報を伝える際に…うまく言語化出来ない。情報の伝達に齟齬が発生するかもしれない。でも、聞いて」























「…私たちは8月17日から8月31日までの間を延々と繰り返している」
「…え?」

正直長門さんが何をおっしゃっているかわからないのですが…

「…涼宮ハルヒの無意識での望みによりこの夏休みはループを繰り返している。あなたにも明確にではないが何らかの既視感はあったはず」

…思い当たる節がいくつか…

「待って下さい、なら朝比奈さんの…」
「…朝比奈みくるが未来へ連絡が取れなくなったのもこのループが原因」
「…知ってたんですか」
「…この時間が続く限り未来に到達することはない、だから彼女の存在した未来にも到達することはないと考えられる」
「…このループは何回目ですか?」
「…9533回目」
「何で…何でもっと早く言わなかったんですか!?」
「………」

一呼吸置いてから長門さんは「あの」セリフを言った。
そうか…これも9532回聞いたのか。

「…わたしの役割は観測だから」

そして長門さんは一旦話すのを止めた。
僕の反応を待っているみたいだ。
あれ?待てよ…

「だったら何故長門さんは今回の夏休みでは助言を?」
「…楽しかったから」
「…え?」
「…あなたと一緒に過ごした夏が楽しかったから」
「いや、でも僕なら今までの夏にもいた筈で「…違う」

違うって…

「過去の9532回のシークエンスと比べても今回のパターンは明らかに異質のものが多かった。まず市民プールに行く際に集合場所に付く順番。これは一律してあなたは3番目に来ていた筈だった」
「………」
「…これはあくまで可能性の話。更にその日の自転車の分け方ではあなたの後ろには朝比奈みくる、そして涼宮ハルヒと私が彼の後ろに乗っている筈だった」
「でもそれと僕に何の関係が…」
「…今までのパターンが違うようにあなたの行動も変化していた。祭りの日の朝に出会うこともあなたと祭りの時に2人で過ごせることも無かった。だけどその時のひとつひとつの時間がとても楽しかった。あなたにこの夏の出来事を忘れて欲しく無かった。…私はこの夏もループしてしまうのを恐れた。だからあなたに頼った…でもダメだった…」
「ダメって…まだ2日あります!何とか出来る筈ですよ!?」
「…このまま解決に向かおうとすると…私は処分されてしまう…」
「…そんな…」

何と言っていいのか解らず僕は黙ってしまった。
残った命を精一杯叫ぶ蝉の音が遊園地の機械音と不調和して…なんとなく耳障りだった。

つづく

 

 

最終更新:2020年03月11日 18:05
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