今、俺はとあるオフィス街の一角にある喫茶店にいる。目的は、もうすぐ姿を現すであろう美しい女性との待ち合わせ・・・といえば聞こえはいいが、ただの上司との仕事の打ち合わせである。クリスマスも近いというのに、色っぽい話とは今のところまったく無縁だ。いやいや悲観するのはまだ早い、あと1ヶ月もあれば素敵な出会いの一つや二つくらい訪れるかもしれん。神よ、我にささやかなる幸福をあたへたまへ・・・!
「本部長・・・・・俺は・・」
・・・本部長。実は俺も、あの改変世界の俺が少し羨ましいんです。機関や情報統合思念体や未来人や、そんなしがらみなど一切無く、普通の一男子高校生としてあいつらと馬鹿やって過ごす。もし、俺に涼宮ハルヒや長門有希のような力があったら、去年のあいつと同じようなことをしていたかもしれない。
なんてことは、今言いそびれてしまったからもう言わないがな。だが、きっと本部長も普通の女子高生として過ごしていた改変世界の自分に多少なりとも憧れているのであろう。そう思ってしまう気持ちは、同じような立場である俺には痛いほどよくわかる。
「そんなことよりっ。冬になって精神不安定になるのは有希っこだけじゃないにょろ~?クリスマス前だってのに、恋バナのひとつやふたつないんかい~?チミは」
また、いたいとこついてくる人だなあ、この人は。
「・・・・・・・・・・・前にも言ったじゃないすか。俺はあの女に5分でふられちゃってる記録の持ち主なわけで。今更どうこうする気にゃなれませんよ。・・・・・・・・・それに、今のあいつには・・・キョンがいるし・・・」
そう、俺は機関運営部本部長補佐であり、同時に涼宮ハルヒの監視と保全という現行最重要任務の最前線に立っている諜報員古泉一樹の監査役を務めている。このことは、キョンや朝比奈みくる、生徒会長のような機関外関係者はもちろん、古泉本人にも知らされていない。機関には、古泉のような超能力をもたない人間も少なからず存在している。俺のように潜入捜査に長けている者もいるし、情報収集能力に長ける者、対神人戦術を考案する者など、超能力だけでは補えない分野をカバーするために多くの優秀な人材が集められている。本来、涼宮ハルヒの監視役として俺が任命されており、実際中学時代からずっとあいつと同じ学校に潜入していたのだが、高校入学後間もなく思念体と未来人の2大勢力が接近してしまったために急遽能力者である古泉を転校生として入れた。古泉は俺の存在を知らないため、その監査役としてはまさに俺は適役である。
というのが、表面上の理由であるのだが、早い話が俺は涼宮の監視役を降ろされたのだ。
俺は、監視対象であるあいつに恋愛感情を抱いちまったうえに、告白までしてしまった。
本当に、部下思いな方だ。まったく頭があがらねえよ。
「『部下思い』・・・ねえ。はあ、君もキョンくんと同じなんだねぇ・・」
パコッ!
そんなことを考えながら、俺は二人分の会計を済ませるべく伝票を手に取った。
「1250円になります」