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  • 涼宮ハルヒの経営I 【仮説3】その2

涼宮ハルヒのSS in VIP@Wiki(避難所)

涼宮ハルヒの経営I 【仮説3】その2

最終更新:2020年03月18日 21:50

haruhi_vip2

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 【仮説3】その2
 
 



 
 瓦礫の山を乗り越えつつ俺たちは歩いた。途中で何度も道に迷い、一時間くらい歩いただろうか。いいかげん疲れて、前を行く朝比奈さんにまだ着かないんですかと聞こうとしたところ、後ろから声をかけられた。
「おいそこの三人、止まれ。両手を上げろ」
俺たちはゆっくりと手を頭の上に上げた。
「その声は新川さんじゃないですか」
「な、なんで分かった」
やっぱり。迷彩服でバンダナを頭に巻いて片メガネしてりゃ誰でも分かりますって。一度襲撃されてるし。
「そちらは朝比奈さんですか。なんでこんなやつらと一緒にいらっしゃるのですか」
「ええと、わたしはあなたの知ってる朝比奈みくるではないんです。こっちにもう一人のわたしがいるはずなんですけど」
「どういうことでしょうか」
長門の姿を見て新川さんの表情が気色ばんだ。肩から下げたマシンガンのグリップを握り締めている。そのとき別の声が聞こえた。
「新川さん、待って」
物陰からもう一人の朝比奈さんが出てきた。俺の朝比奈さんと寸分違わず、まったく年を取っていなかった。朝比奈さん、あなたいったいどの時代から来たんですか。
 
「朝比奈さん、やっと会えました」
「キョンくん、お久しぶり」
紛らわしいのでこの人は朝比奈さん(特大)と呼ぶことにしようか。いや、あらゆるサイズは同じなんだが。特大のほうはOLっぽい服装ではなく、くすんだ緑色のよれよれの軍服っぽいものを着ていた。脇に銃のホルスターらしきものを下げている。
「朝比奈さんってサバイバルゲームやるんですか」
「うふふ、ゲームでも訓練でもないわ。わたしはこれでも少佐なのよ」
なるほど。今後は朝比奈少佐と呼ぶことにしよう。
 
 少佐のほうの朝比奈さんが俺の朝比奈さんに聞いた。
「あなたはどの時代から来たの?」
「時代というより別の時間線から来たの。わたしの時間平面にはこの歴史はないわ」
「そんな、時間って一直線じゃなかったの?」
「それが涼宮さんの時間移動技術のせいで分岐がはじまったらしいのよ」
「なんてこと……」
「お二人とも、ここでは敵に見つかるかもしれません。ともかく中へ」
新川さんが割って入った。俺たちは瓦礫の山をしばらく進んで、どうも見覚えのある場所に立った。かつてなにかの和風建築だったらしいもののなかに入り、急な階段を降りていった。降りてゆく途中、ところどころに電球が下がっていたが呼吸するように明るくなったり暗くなったりしていた。階段の底のほうから湿った冷たい空気が流れてくる。しばらくして最下層らしい場所にたどり着いたが、そこからもまだ暗くて長い通路が続いていた。壁はいちおうセメントが貼ってあるらしかったが今にも崩れそうだ。足元をちょろちょろと水が流れている。ときどきネズミみたいな黒い陰が小走りに逃げていく。
 
 俺は朝比奈少佐に小声で聞いた。
「どこに続いてるんですかこの道は」
「この先にわたしたちの居住区があるわ。ここは元々は第二次大戦より前に掘られたもので、それを拡張したらしいの」
そんな隠し施設があったとは、もしかして旧日本軍の地下基地とかじゃ。
 ドアを開けると目を刺すような光に照らされた部屋があった。俺は手をかざして部屋の様子をうかがった。そこは古い造りらしく、壁には白い漆喰が塗ってあり、低い天井から裸電球が下がっていた。やっぱり旧日本軍の秘密施設ってのが似合って気がする
 
 アサルトライフルを持った数名が俺の顔を見るなり銃を構えた。ここじゃ俺ってそんなに悪者だったのか。
「みんな落ち着いて、この人は彼本人じゃないの」
朝比奈少佐に銃を下ろすように言われても、なかなか信じようとはしなかった。俺は身体検査を受けてやっと信用されたようだが、長門はそうはいかなかった。
 長門が口を開こうとすると銃口が長門を取り囲んだ。こいつらはやたらビクビクしている。そりゃそうだろう、長門にはどんな武器も通用しないだろうからな。というより、ここまで神経質になるのは長門の実力を少しでも垣間見たことがあるからか。
「少佐、そいつは信用できません」
振り向くと、そこにいたのは森さんだった。
「森さんじゃないですか。お久しぶりです」
森さんは俺の目を見ようとはせず、フンと顔を背けた。その態度はあんまりだなぁ、俺あなたのファンだったのに。国木田がいたら悲しみますよ。
「世界を壊滅させたのはそいつだという話を聞いていますから」
「それはただの噂だ。銃を下ろせ」
朝比奈少佐が命令口調で言ったが森さんは応じようとはしなかった。どうやら階級は朝比奈さんより下らしい。
「できません」
「しょうがないわね。大佐を呼んで、過去から友達が見えた、と」
「分かりました」
 
 大佐とやらがなかなか現れないので俺は朝比奈少佐に尋ねた。
「朝比奈さん、どうなってるんです?」
「ごめんね、ここは機関の本部なの。神経質なのはそのせい」
「この時代の機関ってなにしてるんですか。レジスタンスとか聞きましたが」
「政府軍と戦ってるの。聞いてないかしら?涼宮さんを含む勢力と戦っているって」
「ええ、チラとは聞いてますが。この時代の俺ってなにしてるんですか」
「敵の本拠地にいるわ。軍の研究施設にいるはず」
「なんの研究施設ですか。バイオ兵器ですかロボットですか」
「時間移動技術を軍事利用する研究をしてるのよ」
それでこの待遇だったわけだ。この時代の俺は敵も敵、参謀本部くらいのところにいるじゃないか。
「実は俺たち、」
森さん一味に襲撃されたんです、と言おうとしたら長門に止められた。
「……それはまだ未来の情報。言わないほうがいい」
そうか。ということはこれから襲撃に行くということか。どうも時系列が混乱しているようだ。
「大佐がお見えです」
森さんがそう言ったが、誰も構えた銃を下ろそうとはしなかった。軍隊式の敬礼がないのはレジスタンスだからか。
 
 大佐と呼ばれた小柄なやつが歩いてきた。昔米軍が砂漠で着てたグレーの迷彩っぽい軍服を着て、帽子を目深に被っている。帽子のひさしをひょいと上げた。
「あれれ、キョンくんと長門っちじゃないか。これまたお若いっ。そっちにいるのはみちるちゃんかいっ」
俺にとってはこないだ会ったばかりだが、なつかしの鶴屋さんがそこにいた。重たいブーツを履いた将校の野戦服スタイルだが、長い髪をサラリと背中に垂らしてチャームポイントの八重歯も変わらずにいる。あれから十年は経っているはずだが、この人は年を取らない顔だよな。
「あれ、鶴屋さん。じゃあこの上にあったのはもしかして元鶴屋さんちですか」
「えへへっ。戦争でぶっこわれちゃってね。あの入り口はうちにあった倉さ」
「そうだったんですか。それはそうと、会社の件ではいろいろとお世話になりました」
「固いことは抜き抜き。ふーむ、それにしても元気そうだねぇ」
鶴屋さんは俺と長門をジロジロと見た。
「あたしはてっきりキョンくんはハルにゃんとくっつくのかと思っていたよ」
またまたご冗談を。若かりし頃、未来人か宇宙人かどっちか決めろって言ったのはほかならぬ鶴屋さんですよ。
「あはっ、そんなこと言ったっけね。長門っちもシアワセそうであたしゃ嬉しいさ、いよっご両人」
「……」
長門は少しはにかんでいるのか、俺の袖を指二本でつかんだ。
 
「鶴屋さんはまだ独身なんですか」
「こんなご時世じゃねえ、とてもお付き合いなんて無理さあ」
「時間移動技術のせいでいろいろあったと聞いてます。内戦とか核戦争とか」
「タイムマシンに投資したのは、うっとこのグループだからね。あたしにも責任はあるのさ」
「今は地下活動ですか」
「まあ簡単にいうと政府と結託したハルにゃんと戦ってるってわけさね。まっ、立ち話もなんだから入った入った」
鶴屋さんに背中を押されて通路を進んだ。壁にはあちこちひびが入っていまにも崩れそうな具合だ。通路は迷路のように入り組んでいた。突き当たりのドアを開けると、こぎれいな和室があった。いつぞやお邪魔した鶴屋邸の離れに似ている。
「秘密基地に畳ですか」
「わははっ、これだけは譲れなくてね。死ぬときは畳の上って決めてるんさ」
なんだか急に年寄りくさいことを言い出す鶴屋さんは、案外本気なのかもしれないと思った。
 畳の上に正座して待っていると、朝比奈少佐がお茶を運んできた。緑茶のいい匂いが漂う。
「みんな、味わって飲むんだよ。みくるの入れるお茶なんて、滅多に飲めないからさ」
戦争のせいで緑茶はもう贅沢品になってしまったらしい。なんてことだ。
 
「あれからなにがあったのか、かいつまんで話すよ」
 
── 鶴屋さんと朝比奈少佐の話をまとめると、次のようになる。
 
 ハルヒがタイムマシンのプロトタイプを開発し、それを鶴屋さんが親に教えた。親父さんが実験を見に来てこれは世紀の発明だと方々に宣伝してまわった。親父さんには政治家のつてもあって、政府のお役人が見に来た。
 最初は、これは科学の発展に大いに貢献する技術だから、助成金を出そうという誘いだった。文部科学省、総務省、防衛省、あと得体の知れない連中がそろってやってきた。ハルヒは得意満面な笑顔で承諾した。ところがすでにこのとき、裏では技術を掌握するための陰謀が動いていたのである。
 
 助成金をもらっている手前、研究結果は逐一報告しなければならない。防衛省が噛んでいる手前、守秘義務という猿ぐつわをかまされることになった。話を聞きつけて海外から諜報組織が紛れ込むようになった。政府はこの技術を使って国際的に優位な地位を獲得しようと企んだ。そこで研究施設の本拠地を防衛省特務機関に移す話が出て、鶴屋さんと親父さんは反対した。
 それから政界からの鶴屋グループへの圧力がはじまった。取引先が撤退し、銀行から融資を断られ、グループの役員が法人税の脱税やらインサイダー取引やら曖昧な罪状でしょっぴかれた。親父さんは失踪、一族は離散し、残ったのは一人娘だけとなった。
 
 鶴屋グループの傘下で、世間に知られていない組織がひとつだけ残っていた。機関である。身寄りを失った鶴屋さんを見かねて、機関が助け舟を出した。そして名前を変え、素性を隠した鶴屋さんは世間から消えた。
 
 やがて日本は、歴史を書き換えられることを危惧した隣国から攻撃を受け、NATOや日米安保条約を巻き込んだ戦争に発展した。政府主導の元で研究を続けていたハルヒ達は、戦時宣言のもとに軍組織に取り込まれた。
 
 長引く戦争で国の経済が衰えた頃、それまで鳴りを潜めていた機関が活動を再開した。目的はハルヒの時間移動技術の破壊だった。
 朝比奈少佐は時間の流れを元に戻すために未来からこの時代に訪れたが、既定事項が崩れたためにTPDDを失って未来には帰れなくなった。機関の協力を得てSTC理論とTPDDをこの時代で作ることにした。その中心人物であるハカセくんは今、スイスの研究施設に避難している。
 
「、というわけなのさ」
「古泉は今どうしてるんです?」
「古泉くんは涼宮さんと一緒にいるわ。一度、なにか約束したらしいの。SOS団の味方をするって」
あれか、雪山の洋館での約束がアダになったのか。あるいは自らハルヒの味方をすることを選んだか。あいつはあれで人情に動かされるところがあるからな。
「ハカセくんとみくるの時間移動技術が完成すれば先手を打てるんだけど、長門っちが向こうにいるかぎりなかなか手が出せなくてね」
そりゃそうだろう。こいつだけは敵に回したくない。
「この長門っちが加勢してくれると随分と助かるんだけどねえ」
鶴屋さんはすがるような目を長門に向けた。
「……できることはしたい。でも、状況を見定めたい」
「うんうん、そうだよねっ。無理強いはしないさ、なんせあたしたちは自由の戦士だかんね」
一族企業お取り潰しになっても、財産を失って帰る家がなくなっても鶴屋さんは強かった。大正デモクラシーにこんな人が生まれていたら、もしかしたら日本はいい方向に変わっていたかもしれない。
 
「鶴屋さん、俺ハルヒと話してみようと思うんです。あいつが私利私欲のためにこんなことをはじめたとは思えないし」
「それもそうだね。それが公正な判断ってもんだね」
「それにこの時代の俺がなにを考えているのか、不可解なところもあるんで」
「今のキョンくんとは会ったよ。彼には彼の考えがあるみたいで、どうもあたしとはソリが合わないんだけどね」
「三十億人も死んだってのに、俺はなに考えてんでしょうねまったく」
「今じゃもう、なにが正しいのかもわかんないさ。ともかく会ってみるといいよ」
 
 俺は長門と朝比奈さんを置いていくことにした。こういう事態だ、二人にもしものことがあっては困る。それにこっちの長門を連れて行くと向こうも過剰に反応するだろう。
「長門、こっちの人たちを助けてやってくれ」
「……分かった」
「キョンくん、必ず帰ってきてね」
二人の朝比奈さんが涙ぐんでいた。大丈夫ですよ。俺は滅多なことじゃ死にませんから。
 隠れ家の出口まで鶴屋さんが送ってくれた。
「キョンくん」
「なんでしょう」
「世界がこんなになったのは、たぶんみんなが悪いんだよ。キョンくんやハルにゃんだけじゃない。このままいけばどうなるかって分かっていたのに、誰も止めなかったからさ。あたしもね」
はじめて見る鶴屋さんの悲しそうな顔だった。これからよくなりますよ、とも、俺がなんとかしますよ、とも、俺には答えようがなかった。自分たちがやったことに、みんながツケを払っている。そう思えてならなかった。
 
 鶴屋さんに教えられた方角をひたすら歩いた。道と呼べるものはなく、人が歩いた形跡のあるところを探しながらたどった。たまに途切れて道を見失い、顔を上げると延々瓦礫の山が続いていた。
 このあたりは確か東中があったはずだ。グラウンドもフェンスも跡形すらない。瓦礫の間に草が生えているところがあるのは、もしかしたらグラウンドの名残の空き地か。折れた電柱らしきものをたどって、俺は北を目指した。道らしいものは線路の跡地だろうか。もちろんレールはないが、枕木とバラストの石が無数に散らばっている。
 歩いてゆくと道は途絶えた。たぶんここが光陽園駅にちがいない。見上げると山だけは残っていた。緑はなく、土が剥き出しで茶色に禿げた丘になっていた。
 
 道が終わったところにある瓦礫の山の上から見回すと、離れたところに少しだけ広くなった場所があった。そこに長門は座っていた。忘れることがあろうか。高校一年の五月に長門に呼び出されたのがこのベンチ。朝比奈さんとタイムトラベルをしてハルヒの校庭落書きを手伝うことになったのもこのベンチ。戦災で町が再起不能になるまで荒廃したありさまで、この長椅子だけが残ったのはなぜだろうか。
「よう、待たせたな」
「……」
「このベンチ、残ってたんだな。お前が保全してたのか」
「……そう」
言葉が継げない。いつもの俺なら二人の会話はそれなりに続いて、長門から感情を引き出すのにそれほど苦労はしないんだが。この長門は未来の長門であって、今俺といる長門ではない、そんな感情移入を阻むなにかが俺の中にあった。
 
「長門、教えてくれ。観察するだけで干渉しなかったってのは本当は嘘だろ」
「……そう」
長門は俺の目を見ず、コクリとうなずいた。俺は長門の答えを待っていた。ほこりにまみれた風が二人の前を吹きぬけた。
「……あなたを、失いたくなかった」
長門はおずおずと自分の手を俺の左手の上に重ねた。俺はその手を取って長門を抱きすくめた。ベンチの上でやや腰をひねり気味にしながら、長門は俺の耳元で小さな溜息をついた。
「……」
「お前らしくない」
自分を見失うなんてこいつにはあってはいけない。こいつは俺たちが道を踏み外さないかといつも後ろで見守ってくれている存在のはずなんだ。
「この時代の俺とはうまくいってないのか」
「……微妙」
こういう時代だから、仲むずまじく暮らすってのは無理があるかもしれんな。
 
 しばらくして長門は手を解いた。長門が立ち上がると俺もそうした。
「……こっち」
長門はどこか瓦礫の山の向こうを指した。そう、俺はハルヒに会いに来たんだ。
 長門は元公園だった敷地を出て、坂道を登り始めた。道と呼べるものはなく暗くて分かりづらかったが、長門のマンションの残骸らしきものがあった。もう、あの長門空間は存在しないのか。
 
 元玄関だった石の塊を乗り越えて、ストーンヘンジの片割れのような石がひとつだけポツンと立っているのが見えた。二人はその前に立った。長門が石の表面に触れると、石のまんなかがスゥと消え小さな空間が生まれた。
「……入って」
「これ、もしかして昔のエレベータか」
「……そう」
こんな石と化したエレベータでなにをするつもりなんだろうといぶかしんだが、ガクンと音がして箱が降りていくのを感じた。もしかしてこのマンション、地下があるのか。軍の施設にしちゃ、えらく地味な入り口だな。衛兵もいない。
「……ここは秘密の通路。わたし以外通れない」
 三十秒ほどしてドアが開くと、そこから長い廊下が続いていた。固く冷たい灰色の壁に緑色の床が長く伸びている。歩いていくとところどころで監視カメラに睨まれた。
「かなり深いのか」
「……地下二百メートル」
「奥にはなにがあるんだ?」
長門は金属製のドアの前で立ち止まり、なにかを言い淀み、それを開けた。
 長門が見せた空間はドーム球場くらいはありそうな大規模な研究施設だった。政府機関だけあってかなりの額をつぎ込んだと見える。高い天井から下がったいくつもの水銀灯、何台ものパソコンと大型モニタ、白衣を来た大勢のスタッフ、ライフルを抱えた何人もの衛兵、車輪がない車のようなものは移動装置か。厚いガラスで仕切られた向こうの部屋に見えるカーブしたパイプは加速器の一部か。
 
 キャットウォークを通ると、ところどころにいる衛兵が直立不動の気をつけをして敬礼した。長門の階級はけっこう上らしい。俺はそれを見て感心しつつ長門の後ろをついていったが、どうやらこいつらは俺にも敬礼しているらしいのである。
 パイプがいくつも並んだ、ボイラー室か発電施設みたいな場所を抜け、さらに銃器やロボット兵器のようなものが並んだ倉庫を抜け、将校だけが使う豪華なラウンジのような場所に着いた。そこには俺がいた。ハルヒもいた。三十歳は越えてるはずだが、見た目はたいして変わりなかった。
「お前か、じゃなくて俺か」
マヌケなことを言ってしまった。ハルヒはその辺にいた軍服のやつらに顎をしゃくって外に出ろという仕草をした。すげー偉そうじゃん。こいつも海軍っぽい軍シャツを着ている。事務屋の制服ってやつだろう。肩の階級章には横線二本と星が三個ついていた。その隣にいた俺は横線二本に星が一個、ここでもやっぱ平だな。
「来るなら連絡くらい入れろよな。俺が二人もいたら騒動になる」
どうやってだ携帯でかよと突っ込みを入れるのを忘れるほど、俺は圧倒されていた。予想外の展開にだ。俺が軍将校に?ハルヒも?いつだったか海軍将校一種軍服でコスプレさせられたときより衝撃を受けた。
 
「キョン、やっぱ若いわね」
ハルヒが笑っていたが、なぜかやたらむかついた。いつものスーツじゃなくて軍服だからか。
「教えてもらおう」
俺は精一杯の虚栄を張ってすごんだ、つもりだった。
「まあそうしゃっちょこばるなよ。一杯飲め」
缶ビールを渡され、椅子を勧められたが俺は座らなかった。
「ああ、これのせいか」
俺(大)はシャツの階級章にチラと触れた。
「軍ってのは一種の生活共同体みたいなもんだ。外から見りゃ殺人集団みたいなもんかもしれんが、中に入れば居心地はいいもんさ。ここで結婚式もやってくれるし産婦人科の病院もあるし、死ねば葬式だってやってくれる」
「だからなんだ」
「俺は格好こそ兵隊だが、鉄砲なんざ撃ったことは一度もないってこった」
「じゃあそのホルスターに突っ込んであるのは水鉄砲か」
「本物に決まってるだろ。お前はなにをカッカしてんだ?」
「そうよキョン、じゃなくて若いキョン、ここにいれば食べるのも住むのも困ることはないわ。好きなこともやれるしね」
そうじゃねえだろ、俺たちの会社はそんなことのために作ったわけじゃねえだろ、と言いたかったのだが、言葉にならずにコブシを握り締めるばかりだった。
 
「お前ら、外がどうなってるか知ってるよな」
「知ってるわ。タイムマシンがきっかけだったってことも知ってるわ」
「お前ならどんな願望でも実現できたのに、なんでよりにもよってこんな政府のお乳にすがって生きるようなマネをしちまったんだ」
「仕方ないでしょ。時代の流れに飲み込まれないで生きていくためにはしょうがなかったのよ。鶴屋グループがどうなったか知らないの?」
「それは聞いたが、しかしだな」
やり場のない怒りにかられてスチールのテーブルをドンと叩いた。俺(大)が俺を抑えた。
「まあそう怒るな。もし政府と手を組まなかったら俺たちは今ごろ消されてる」
「長門と古泉がいりゃなんとかなったはずだろ」
「あの頃の俺たちは無力な零細企業にすぎん。なあ、小さなノミが自分よりでかいバケモンに飲み込まれようとしたとしたら、どうすると思う」
「なに言ってんだお前は」
「背中に乗って毛に隠れて生き延びるしかない」
「それが三十億を殺したやつが言うことなのか」
「俺たちが殺したわけじゃない。時間移動技術はいずれは誰かが完成させた。たまたま俺たちが完成させただけで、最初からこんな展開になるとは思っていなかったさ。車だってそうだろ。家族で休日を過ごすシアワセのワンボックスカーも、軍用になって大砲を積めば人を殺す道具さ」
「バカだろお前。外で人がバタバタ死んでるってのになんだよこれは。のんびりビールなんか飲んで地下でご隠居生活か」
俺は缶ビールを投げつけた。やつは避けて、缶は壁にあたって転がっていった。
「お前は過去から見てるからそう思うだけだ。時間が経てば同じように考えるさ」
俺ってやつはいつのまにこんなバカになっちまったんだ。俺にはこいつがハルヒの能力を使って野心を叶えたとしか思えん。これでは長門が不憫すぎる。
 
 俺はふつふつとたぎる怒りを抑えて真顔に戻した。
「ちょっと二人だけで話したいことがあるんだが」
「なんだ?」
「外で話そう」
俺は親指で廊下のドアを示した。後ろからついてくることを背中で感じて俺は先に出た。廊下には俺たち以外はいない。俺はドアをロックした。
「話ってハルヒのことか」
俺たちにはいくつもの秘密があって、こういう内緒話はたいていハルヒの能力に関わることだが、別にそういう話をしたいわけではない。俺はいきなり腹にボディブロウをかました。腹をおさえてうんうん唸っている俺(大)を尻目にセキュリティカードを取り上げドアを開けた。あいかわらず人を信じやすい性質だ。
 
 俺は部屋に戻るなりハルヒに向かって叫んだ。
「ハルヒ、お前に言ってなかったことがある!」
「な、なによいきなり」
「実は俺はジョ……」
さっと影が動き、長門の冷たい手が俺の口を塞いだ。
「……それを言ってはだめ」
「な、長門」
「……おねがい、言わないで」
長門の目は潤んでいた。俺には分かっていた。これを言えばすべてが終わる。前回とは規模も範囲も違う情報爆発が起こる。次元断層が生まれ俺たちは存在しなくなる。
「……その名前を言ってしまうと、わたしたちの関係は終わってしまう」
 
 俺は思った。これはもう長門の、情報統合思念体の手に負えない事態になってしまったんじゃないかと。ハルヒがはじめた時間移動技術は、たぶん世界中の誰もが欲しがるシロモノで、もちろん政府も軍もその中にいた。各国の思惑が金と権力と政治を動かし、それからドロドロしたなにかが交錯して俺たちはその渦に巻き込まれてもがいた。海流が逆巻く渦に飲み込まれた小さなボートは、沈まずに生きていくために大きな流れに乗るしかなかった。
 もしかしたら人類はこれを手にしてはいけなかったのかもしれない。過去は忘れ去られるべきだった、未来は夢の中で見るべきだった、と。
 
 ドアをドンドンと叩く音がした。まずいな。俺は拘束されるか、よくてぶん殴られるかだろう。衛兵がドアを開けると俺(大)が顔を真っ赤にして怒っていた。
「そいつをつまみだせ!」
自分に怒鳴られてもいっこうに動じないのは自分ってものを知っている余裕からか。
「ここは軍の施設だぞ。俺が命令すればお前は消されちまうんだぞ、分かってんのか」
「いいさ、こんな未来はクソくらえだ。俺が消されたらお前も道連れだからな」
ハッとしたようだった。まあ、時間の概念がよく分かってないのは相変わらずとみえる。
 俺(大)は殴りかかろうとするところをドウドウと抑えられ鼻息を荒くしていた。長門が見ている手前、手を出せないんだろう。そいつに冷ややかな視線を送りつけながら、俺は長門に連れられて、来た道を出口に向かった。こんな時代来るんじゃなかった。地球を破滅させやがって、どいつもこいつもアホだらけだ。谷口のほうがまだましだ。
 
「ここでいいよ」
俺は公園のベンチの前で別れを告げた。
「……そう。気をつけて」
「お前も元気でな」
「……あなたは、やるべきことをやって」
この長門には分かっていたのだ。俺が歴史を書き換えるためにここに来たことを。そして書き換えた結果、今の自分が消えてしまうことを。こんな不幸の影を背負った長門は見たくなかったが、だからといって消えてしまっていいわけじゃない。なぜだか長門の姿がぼんやりとしか見えない。
 俺はベンチを後にした。長門はいつまでもそこから動かず、去っていく俺をじっと見ていた。あの頃は楽しかった、そう言いたかったにちがいない。
 
 夜道、瓦礫の山をいくつも超え、おぼろげながら道らしいものを辿った。月の光がなかったら迷っていただろう。俺の時代なら長門マンションから三十分もかからないはずなのだが、この瓦礫を登っては降りてを繰り返して一時間以上かかった気がする。着ていた服も顔もホコリにまみれて、機関の基地にたどり着いたのは月がだいぶ傾いてからだった。
「……おかえり」
隠しドアの前に、俺の長門が待っていた。
「長門……」
その姿を見てほっとした俺の目から熱い液体がぽろぽろとこぼれ落ち、視界がぼんやりと見えなくなった。この時代の長門の身に起ったこと、そして俺がこれからやろうとしていることが頭の中をぐるぐる駆け巡る。俺は手探りで長門の肩を引き寄せ、力いっぱい抱きしめ、嗚咽して泣いた。たぶん十年ぶりくらいに泣いた。
 
 水の出が悪い洗面台で顔をごしごしと洗いながら、軍施設でシャワーを借りればよかったなどという甘い考えを振り払った。長門からタオルを受け取った。つい数分前に長門の前でオイオイと泣いてしまったのを思い出して少し赤面した。
「長門、この歴史は変えないといかん。どうしてもな」
だが、俺がこれをやろうとしていることをこの時代の俺は知っているわけで、それを出し抜こうとしていることをまた知っているわけで、その上を行こうとしていることも、ああっ無駄にややこしい。ひさびさに言ったなこれ。
「長門、頼みがあるんだが」
「……なに」
「これが終わったら俺のここでの記憶を消してくれ。未来の俺に情報を残さないために」
「……分かった」
今回ばかりは仕方あるまい。未来の自分と戦うにはそれしか有利になる方法がない。
 
 俺は朝比奈さんと朝比奈少佐を呼んだ。おそらくはここが、森さん一味が俺たちの会社を襲撃する流れのスタート地点になるのだろう。
「朝比奈少佐。不本意ながらこの歴史を書き換えてほしいんです」
「ええ。それにはわたしも賛成ですけど、どうやったらできるのかしら」
「十年前に戻ってタイムマシンの開発を阻止してもらえませんか」
「キョンくんが戻って阻止するわけにはいかないの?」
「ええっと、実はこの組織のメンバーが阻止することが既定事項なんです。俺たちが阻止してしまうと俺たちがこの時代に来る理由がなくなってしまうんで」
「でもわたしのTPDDはまだ戻らないし、ハカセくんのほうも進展がないし」
「俺たちの朝比奈さんがいます。TPDDをコピーするなりSTC理論を渡すなりできませんか」
「それは無理だと思うわ」
「なぜです?」
「TPDDってふつうの理論と違って、言葉で伝えられる技術じゃないのよ」
俺の朝比奈さんもうなずいた。どっちが話してるのか俺も混乱気味なのだが我慢してくれ。
「そうなの。この理論は論文とかテクノロジーだけじゃないの。言葉にはできない概念というべきか」
「……わたしが、手伝う」
二人が長門を見つめた。こいつならなんとかできるかもしれないな。今までずっとなんとかしてくれてきた。だがどうやって?
「……言語を伴わない概念の伝達は、一度試みた」
「ああ、それってもしかして、ルソーからシャミセンに生命体を移したときか」
「そう。あの情報生命素子の構造はDNAなどの言語ではなく、概念に近いものだった」
あのとき巫女さんだった朝比奈さんは考え込んでいた。
「やってみる価値はあるわね」
「そうね」
「……セッティングをして」
「分かった。任せろ」
 
 俺は鶴屋さんを呼んだ。
「ほいほい、なんだいキョンくん?」
「朝比奈少佐にTPDDを復活させたいんです。手を貸してもらえませんか」
「へえええ、そんなことできるのかい?」
「長門の技術で俺たちの朝比奈さんから転送できそうなんです」
「おぉ!その手があったんだね、みちるちゃんも役に立つじゃないか。けへへっ」
どうも朝比奈みちるさんにこだわってるようだなこの人は。あのとき本当のことを教えなかったからスネてるのかな。
「じゃあみくるが時間移動できるようになるんだね。こっちの切り札になるね」
「残念なんですが、この歴史は書き換えないといけません」
「え……」
「ハルヒのタイムマシン開発を阻止してほしいんです。詳しくは言えないんですが、機関の人にやってもらいたいんです」
「そんなことしたら、そんなことしたら……この世界が消えちゃうんじゃないのかな」
鶴屋さんの声は消え入りそうだった。そう、この世界は消えなければいけない。俺のエゴだということは分かっている。腹が立ってこの時代の俺をぶん殴った俺だったが、三十億どころかこの世界の全員を消してしまうということで、もしかしたら俺のほうが背負えないくらいの罪を被ることになるのかもしれない。どんな状況にせよみんながそこで生きている。はじめから存在しなくてもよかった世界など、どこにもありはしないのだ。
 
「長門っちに頼んで今のハルにゃんの施設をぶっ壊してくれるだけじゃだめなのかい?」
「そうすると二人の長門が戦うことになります。前にも似たようなことがあって、それは避けたいんです」
「そうだったのかい……」
「鶴屋さんごめんなさい。歴史の根本から変えるしか方法がありません」
「そう……そうだよね。こんな世界、最初からなかったほうがいいのさ」
「ごめんなさい」
「まあまあ、そんなに卑屈になることはないさ。もしかしたら別の世界に存在してるかもしれないじゃないか」
存在とはなんなのか、時間とはなんなのか、俺にはとても説明できない。人間ごときの俺には、肯定も否定もできなかった。
 
 和室の照明をぼんやりとした暖色系にしてもらい、座布団を三枚用意してもらった。ルソーのときは香を焚いてもらったが、そんなものはとっくの昔に消滅している。せめて落ち着けるようにとお茶を点ててもらった。長門用に巫女さんのコスプレ衣装でもあればよかったのだろうが、当然そんなものは残っていない。
 二人の朝比奈さんは対面して座り、その横に長門が立った。長門は二人の両手を互いに握らせ、自分の手をそれぞれの頭の上に置いた。
「……目を、閉じて」
 二人は目を閉じた。長門はぶつぶつと、いつもより長い呪文を唱えた。長門の目はどこか遠く宙をさまよっていて、焦点が合っていない。STC理論を読んでいるのだろうか。
 十五分ほどして長門は手を離した。
「……終わった」
朝比奈少佐が目を閉じたまま右手をこめかみに当てていた。
「戻ったみたいですね。なんだか前とは違う感じがするけど」
「……いくつか修正を施した。十五パーセント程度の効率は上がったはず」
「ええっ、ほんとですか。ありがとうございます」
「よかったわねぇ」
朝比奈少佐と朝比奈さんは抱き合った。こうしてみると双子の姉妹みたいだな。
 
 俺は部屋の外にいた鶴屋さんを中に引き入れた。
「どうかなっ」
「戻ったわ。これでいつでも時間移動できるわ」
「よかったよかった。みちるちゃんも、長門っちもありがとうさ。さっそくだが、作戦を練らないとね」
 俺は鶴屋さんに頼んで特殊部隊を集めてもらった。森さんをチーフとする機関の工作部隊のメンバーを編成してくれるよう頼んだ。
「みんな、みくるにタイムマシンが戻ったようだから、時間を遡ってタイムマシンの破壊工作を実行するよ」
タイムマシンを使って別のタイムマシンを壊しに行くなんて、なにか間違っている気もするが。自分たちの存在が消えてしまうということを言っておいたほうがいいだろうか。と俺が心配してるのを、鶴屋さんはサラリと言ってのけた。
「これを決行したら、あたしたちだけじゃない、世界の歴史が変わってしまうからそのつもりでね」
全員が、覚悟の上だというようにうなずいた。レジスタンスというのはそういうものなのかもしれない。
「ハルヒが抵抗すると思うんですが、手加減してやってください」
新川さんはうなずいたが森さんはなにも言わなかった。俺はまた蹴られるんだろうな。
 
 黒装束に着替えた朝比奈少佐は俺に言った。
「キョンくん、いろいろありがとう。これでお別れになるかもしれないけど、わたしのことをよろしくね」
何も言えない。俺はこれ以上なにも言えなかった。ただ手を握り締めただけだった。
 部隊の面々は武器を構えたまま朝比奈少佐を取り囲んで、そのまま時間移動して消えた。新川さんの赤いバンダナだけがなぜか目に焼きついて残った。
 
 工作員を見送ったあと、俺たちも後を追うことにした。長門によればあのとき不可視遮音フィールドの中に俺たちがいたようだから。俺は鶴屋さんに別れを告げた。
「じゃあ鶴屋さん、俺たちは自分の時間に戻ります。いろいろとごめんなさい」
「いいってことさね。スゴロクが振り出しに戻ったと思えばいいのさ」
そう言ってくれる鶴屋さんの顔を、俺はまともに見ることはできなかった。俺の表情があんまり悲愴だったので、長門が心配したのだろう。俺の目をじっと見て言った。
「……心配しないで。彼らは死ぬわけではない」
「でも世界は消えてしまうわけだよな」
「……分岐する時間線とは、物理世界のコピーが生まれるということではない。多次元的な要素の積み重ねがその後の流れを作るだけ」
一次元の時間軸しか考えられない俺にはよく分からん。
「じゃあ遡って歴史を改変したらどうなるんだ?」
「……この歴史のいくつかの要素が消え、元の流れに戻るだけ。異なる要素でも同じ空間に存在できる」
「じゃあ全員が消えるわけではないのか」
「……そう。元の流れに生きている、と考えられる」
どうやら時間論は一生かかっても俺の手に負える問題じゃなさそうだ。
 
「じゃあそろそろ」
「あそうそう、キョンくんにずっと渡そうと思ってたんだけど」
「なんでしょうか」
「うっとこに江戸時代から伝わる手紙らしいんだけどね。これ、どうもキョンくん宛てじゃないかと思うんだよ」
俺は茶色く煤けた巻物っぽいものを受け取った。
「よく分かんないんだけどさ。倉の中にこれだけが焼け残っててね」
「これラテン語かなんかですか」
ボロボロになった布らしきものを開いてみるが、虫に食われたりかすれたりしてほとんど読めない。かすかにSOSという文字と俺の名前だけは分かった。よくは分からんが受け取っておこう。
「戻ります。鶴屋さん、いろいろありがとう」
「みちるも元気でやんなよっ」
鶴屋さんが笑って軽く敬礼する姿が哀愁っぽく見えた。
 俺と長門は朝比奈さんと手を繋いだ。風景がぐるぐると回転し始め、足元に吸い込まれていく。
 
 俺たちはちょうど森さん一味が転がり込んできたところに出現したらしい。銃を構えた一団が俺たちを縛り上げていた。長門の不可視遮音フィールドで姿をくらまし、部屋の隅で様子を伺っていた。自分が蹴られるのを見るのはこっちも痛い。
「なるほど。ってちょっと待て、あんたらに正しい歴史の記憶がるのはなんでだ?」
「わたしが歴史を修復したからよ」
ってこのタイミングには朝比奈さんが三人いることに?壮観だなオイ。
「自分たちがやったことを償うがいい」
森さんが凄んだ。ええ。これが償いになるかどうかは分かりません。正しかったかどうかもわかりませんが、俺がやれることをやったつもりです。
 時間移動技術が消え、一味もかき消すように消えたあと、スプリンクラーが作動した。濡れネズミなったみんなを見届けてから、三人はまた時間移動した。
 
 俺たちは出発地点の時間に戻ってきた。さっきと同じ喫茶店のシートに座っていた。コーヒーはまだ冷めていなかった。
「職場に戻りましょう。データが残ってるから、もしかしたら別の森さんの一味が現れるかもしれないわ」
 古泉にハルヒを連れ出せと言い残しておいたので、実験室のドアはロックされていた。自分のIDカードで中に入った。長門が修復して部屋を出たときと何も変わってない。
「どの次点まで戻せばいいんだ?すべて破壊するのか」
「……宇宙ひも理論の実験データを消去、わたしたち以外の記憶を消す」
「じゃあやってくれ」
長門が詠唱し、加速器をはじめとする実験機材、すべての論文、パソコンの中のデータ類、実験データが音もなく静かに消え去った。
「朝比奈さん、これでよかったんですよね」
「ええ。そうだと思うわ」
「あいつら、ちゃんと生きてますよね」
「たぶんね。ここからはじまる新しい世界に生きてるわ」
朝比奈さんが耳に手をあてていた。
「TPDDが消えちゃったみたい」
「まさかそんな」
「……時間移動理論が白紙に戻り、既定事項が消滅した」
「そう……もうわたしは存在できない……みたい」
朝比奈さんの声は段々と小さくなっていった。
「キョンくん、ごめん……ね……」
「朝比奈さん待って!」
俺は朝比奈さんの名前を叫んだ。謝るように両手を合わせた朝比奈さんの姿がだんだんと透けていく。その姿が消えてしまうまでの数秒間、映像が超スローモーションで流れたように見えた。金色のブレスレットだけが床に落ちてくるくると回った。
 出会ってから七年にもなろうかという朝比奈さんと過ごしたこの時間が、その事実すらなかったことに変わり果て、俺は呆然としていた。消えてからもその空間をじっと見つめていた長門の目は潤んでいた。俺と長門はどちらからともなく手を握り合い、数秒前までそこにいた、可憐な女性の名残を必死に記憶に刻もうとしていた。
 
「キョンどこでさぼってたのよ。どうしたの青い顔して」
「朝比奈さんが消えた……」
「朝比奈?誰それ」
 
 暗転。
 



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