………
……

地面を這いずる音が響き渡る
近づいて来る
だんだん、だんだん、だんだん

それは直ぐそこまで迫って来ていた


「…………究竟靡所聞 誓不成正覚……」


祓い人の抵抗虚しく『ソレ』は遂に部屋を探し当てた



けたたましい音と共に障子は押し破られた!

経文は自然と燃やされ…
蝋燭は激しく燃え上がり、
『ソレ』の獲物を狙う舌は過剰に反応し、
祓い人は部屋の隅まで吹き飛ばされた

生臭い息吹がその場の震える全員を捕える…


≪シューッ…シューッ…≫


攻撃色を露わにした蛇鱗を纏うその巨体が全員を見渡す…


≪…約束の66日と6時間だよ≫

『ソレ』の声に美しい着物を着た女性は赤子を隠す


「どうか… どうか… この子だけは…」


≪例外は認めないよ! 恨むなら先祖を恨むんだね!≫

その声を聴いた女性は泣き崩れた


「どうして…どうしてこんなことに…」

女性の呟きに『ソレ』は答える


≪アタイの社の御神木… それをあんた等の先祖がへし折った≫
≪…よってアタイは崇り続けるだけさ≫
≪さぁ、生誕より66日と6時間だよ そのガキを寄越しな≫


ズルズル…と音を立てながら『ソレ』は近づく…


≪…あんたで5代目だよ アタイが怖いだろ?≫

シューッシューッと音を響かせながら『ソレ』は顔を覗き込む


………


≪……?≫

『ソレ』は首を傾けた

≪…アタイが視えていない?≫

赤子は『ソレ』がいる空間の先を笑いながら眺めている


決して眼はあっていない
しかし、その赤子の瞳は『ソレ』の丁度眼の位置を映していた


≪………≫


少しの間沈黙が流れ、母親の唾を飲み込む音だけが聴こえる


≪…興が覚めちまったよ≫


『ソレ』はその場に背を向けた


≪…明日また来る≫

地面を這いずる音は去っていった

その場にいた者達は暫しの安堵の声をあげ共に崩れ落ちた

最終更新:2013年07月25日 18:07