………
……
…
「キア、この華はなんて言うの?」
「ほら、質問されてるぞ、キア 答えてあげなよ」
「な、なんで私が言わないとダメなのよ! あなたのお兄さんに聞きなさいよ!」
「………だって、斎月はいっつも揶揄うんだもん…」
「ははは」
「わ、笑うな!バカ斎月!! …ったく、いい!一回で覚えないさいよ!その華は………」
………
……
…
「………はぁ」
天空の片隅… その薄暗い書庫で深い溜息が発せられ掻き消えた
「どうしてオレは竜になれないんだろ…」
白髪の少年は宝物の図鑑を眺めている
何度も何度も何度も読んだ図鑑なのだろう、角が欠け、所々破れている…
「竜になれればこの243ページの3行目の『初春の里』も…」
「628ページの『桃源郷』も…、そうだよ!この『黄金卿』にも一っ跳びなんだっ!」
「………はぁ」
薄暗い書庫でまた深い溜息が発せられ掻き消えた
………
……
…
数時間後、白髪の少年は書庫から出て来た
とても近い位置で太陽を浴びながら、自分の育てている植木鉢を見た
そこには小さな小さな『光竜華』がちょこんと顔を出す
ーーー『光竜華』
とても小さく黄色い綿毛を宿した華よ
そう、下界で言うならタンポポに近いかしら?
大きく違う所は… そうね… タンポポとは違って飛び立つのに数十年は必要だったりするわね
「………キアの嘘つき」
白髪の少年はもうこの華を二百年は愛でている
未だに飛び立つ気配はない
「あ、そうだ! 挨拶の練習をしないと!」
そう言うと白髪の少年は駆け足で書庫に舞い戻り、また新しい図鑑を取り出して再び出て来た
「いつか友達を作る為にもちゃんと挨拶が出来ないとダメなんだ! 今日も頑張るよ!」
白髪の少年は何百年も続けている日課を始めた
「…こんにちは こんばんは おはようございます はじめまして ごぶさたしてます…」
「…ようこそいらっしゃいました げんきにしてましたか きょうはいいてんきですね…」
「…またあしたあいましょう きょうはとてもたのしかったです…」
………
……
…
「…………さようなら」
最後の文字を読み終えた白髪の少年の眼には涙が溢れていた
「…う、うう…」
横で少年の愛でる『光竜華』が北風を受けて靡いていた…
最終更新:2013年07月26日 19:08