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『Missing-link:File1』シーン1「抑止」


―黄泉比良坂の調査と同時期、天叢雲本部・結城邸。
【天叢雲】:江戸時代から続く討魔組織。超人を中心とした所謂侍によって構成される。
この時点の当主は結城 辰興。

「・・・スペック一覧は同日中に。御剣重工と零番駐屯地には引き続き試験続行の指示を伝えておいてくれ。」
「は、御意のままに。」

辰興の指示に短く答えると、天叢雲幹部である本多正勝は部屋を後にした。
その姿を見送ると、辰興は革張りのビジネスチェアの背に寄りかかり、再び先ほどの「新商品」の仕様書に目を通す。

「・・・ふう。」

Y&Mグループ傘下の御剣重工による、極秘納入の自衛隊向け新商品―表向き戦後初めての純国産操機、零式。
【Y&Mグループ】:天叢雲の表向きの姿にして収入源の大企業。天ぷら油から戦闘機まで、系列企業と一丸となって
幅広くニーズに対応できるのが強みとされる。

「こんなものが必要になるなんて・・・寒い、時代か。」

近年の極東諸国の不穏な動きは辰興も承知していた。
米国、及び日本と東アジア諸国の対立は、既に水面から顔を出しつつあった。
最悪の場合でも・・・嘗ての二の舞は避けなければならない。

日本近海の海底資源が発見されたのを皮切りに、各国が我先にと群がり我が物にせんと、
魔法技術を結集した鉄の神々が殺し合う、現代のラグナロク。
その結果起きた惨状に、世界の国々が魔法と操機に対して口と目を閉ざし、
今のところは仮初の均衡を保っているのだから皮肉な話だ。

―だからこそ、現在の情勢に対して絶対の自信を持って切れる切り札が必要とされる。
分かっているのだ、そんなことは。

だが、それでも尚この言い知れぬ感触に、辰興は未だ慣れずに居た。
本当はこんなもの、必要とされない世界の方が良いのだから。

「・・・先日の操機を用いたテロ未遂事件、未確認だが生物兵器を使ったテロの計画も噂されていると聞く。
・・・だったら俺は・・・自分にできる事をするしかないんだ・・・。」

自分に言い聞かせるように呟くと、もう一枚の仕様書をちらりと見やる。
コンペティションで争うことになる、ドイツ資本の自動操機。
【自動操機】:一口で言うと無人の操機。ガンダムで言うところのモビルドールシステムである。
別名、ウィザードール。これは主にゴーレムの延長線として魔術師が操ることが多かった為の呼称である。

パイロットを必要としない自動操機は、基地が強襲されない限りは味方の兵が死ぬことはない―。
―それは同時にこの兵器には人の意思が宿らないことを意味する。それが辰興に厭な予感を抱かせた。

「あちらのテストは明日だったな・・・何事も起きなければ良いが・・・。」

胸のざわめきを感じながらも、辰興はそのまま床に着いたのだった。


最終更新:2013年08月06日 23:19