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ありがとう、マミさん(前編) - (2014/08/16 (土) 19:36:43) の1つ前との変更点

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*ありがとう、マミさん(前編) ◆gry038wOvE  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。 ◇  さて、朝方の平野で車を走らせていた孤門一輝がそのドンヨリとした空気にブレーキを踏み込みました。  魔法少女でなくとも、その場所の異様に気が付いたのでしょう。孤門は誰の合図もなく、一人でに車をその道の真ん中に止めたのです。  魔女がこの先にいるのです。ええ、そうです。その魔女は、寂しがりやの魔女なのです。  魔女は、パーチーの準備をしていますが、生まれてから今日まで、誰もそのパーチーに足を運ぶ事がなかったのです。  だから、この場に来るどんな人間にもわかるように、ずっと自分の寂しさを外に向けて吐き出していたのです。  孤門が車のドアーのロックを開けますと、順番に、桃園ラブも、佐倉杏子も、蒼乃美希も、そのドアーを開けて外に出ました。  外へ出ると、朝の空気とともに、一部分だけが異様なその空間の邪気が、喉から胸になだれ込んでくるようでした。  魔女の結界。──それがラブや杏子の友人たる少女が作り出した異変の空間でした。ソウルジェムを濁らせてしまった彼女には、そこに人を呼ぶしか、誰かと仲良くする術はないのです。 「これが……魔女の結界?」  孤門が、鍵穴のように小さな魔力の出どころを指さしました。それらしいとは思いつつ、ラブと美希も孤門の横につきました。孤門も微かに震えているのが見えました。 「そうだ、ここに魔女がいる」  杏子の言葉を聞くと共に、ラブは唾を飲むのに手間取るほどの緊張を感じました。 「マミさんが……ここに」  ようやく呑み込んだ矢先にも、まだ喉が渇いて来るのでした。  むしろ先ほどより渇いているほどです。 「……入るぞッ」  杏子が彼女たちの前に出て行きました。  この魔女の結界は、魔法少女がこじ開けるしか入る方法はありません。本来ならば、杏子がソウルジェムを使って切り開くのが当然です。  しかし、魔女の正体が果たして、本当に彼女たちならば、そんな事をする必要は全くありませんでした。寂しがりやで、仲間の来訪に安心した彼女は、すぐに自分の暗闇を彼女たちに知って欲しいと、招こうとするに違いないのです。  杏子がこじ開ける時間さえ惜しいと思うのが、この魔女でした。 「──なッ!?」  意外でした。  魔法少女が魔女の結界に呑み込まれる、引き入れられるなど滅多にある事ではありません。そもそも、魔女は魔法少女の来訪を好みはしないはずなのです。  それでも彼女は呼ばれました。 ◇    ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。 ◇  ……そして、彼女たちは、気が付けばその異様な空間の中にいました。  空間の中では、金淵の巨大な皿が浮かんでいます。おそらくは四畳ほどの皿です。ここに招かれた人間は、皆その上にいました。虹の橋が星座のように皿と皿とを結んでいて、その上を歩かなければ先に行けないようです。  彼女たちは、起き上がると自分の足場よりもまず周囲に目を向けました。周囲には、果実が実り、花が咲いた綺麗な木々がありました。  桃の木です。桜の木です。杏の木です。誰が作ったのでしょうか。誰が咲かせたのでしょうか。──ええ、魔女自身です。魔女自身の望みや乾きがこの木を育て、実を作っているのです。  魔女はそうして、自力で実を生み出しながらも、他から与えられる何かを求めているようでした。 「……この空間が、魔女の結界?」  美希がそう訊きました。三人は魔女の結界に入るのは初めてです。  一帯は、なんだか冬場の緑黄色野菜を剥いて皮だけを並べたような、どこか昏い色をしていました。  彼女たちは、恐る恐る周囲を見回しましたが、杏子はお構いなしに前に進みました。  見れば、彼女は既に魔法少女の姿へと変身していました。肢体を真っ赤でぴっちりとした魔法服で包みながら、呆然とするラブたちを促します。 「ああ、行くぞ。それから、変身もしておけよ。……本当に油断がならねえぞ」  ラブと美希にそう言うと、彼女はただ前に進んでいきました。少しは焦っているようですが、一方でどこかそれを冷静に隠している様子でした。それでも、そんな冷静の裏側を、他の三名は正確に読み取っていました。 「あ、ああ、うん……」  ともかく、言われたので、虹の橋の上を、そっとラブが踏んでみました。どうやら、透けて落ちてしまう事はないようです。虹の橋は人が渡る事ができる頑丈な橋ではあるようです。  しかし、物体を踏んでいるような感覚ではありませんでした。まるで空中を歩いているような感覚で、気が気でないところがありましたが、彼女たちは意外と素早く歩いて行きました。  一番歩くのに苦戦していたのは孤門でした。彼には、虹の上を歩くほど非現実に即した想像力はありませんでした。子供の頃の小さな夢が最悪の形で叶ったようで、複雑な表情です。  二人のプリキュアは、その後変身しました。  ともあれ、おめかしの魔女──Candeloroは、四人の客人を自分の内に招待したのです。 ◇    ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。 ◇ 「どこか、気味が悪いわね……」  キュアベリー──蒼乃美希がそう呟きました。  空はよく見れば薄暗く、木々はよく見ると健康的な肌をしていませんでした。  葉も少し薄暗いのです。  曇り空に真っ黒い雲が浮かんでいますが、これはこの時偶然こんな色をしているというわけではないようです。ずっと、この色でこの木は育ってきたのです。 「もっと向こうに魔女がいるはずだ。強い魔力を感じる……」  杏子が言いました。  マミは一体、どこにいるのでしょうか。それ、捜してみましょう。  見回してみて、キュアピーチ──桃園ラブが何かに気づきました。 「もしかして、あの木のお家?」  木々の中に、どうやら木でできた家があるようです。見れば、それはドアーを拵えていました。一つだけ太く、小さく、まるで何かを主張しているようでした。  きっと、彼女が招待したい場所はその家なのです。しかし、そこに行くまでにはいくつもの試練があります。  魔女の精神は複雑でした。本当は自分のもとに来てほしいのに、そこから人を突き放す癖もあるのです。人に接したい気持ちと、人を巻き込みたくない不安とが、彼女の中に両方あるのです。  今、彼女たちの前に進軍してくる怪物が誰かを巻き込みたくない気持ちなのでした。  自己の矛盾の中で、魔女は一人戦っているのです。 「……チッ」  杏子は、進軍を見つけて舌打ちをします。キュアピーチが見つけたのは確かに魔女の根城のようですが、それを守るために敵がやって来たのです。  それは、使い魔でした。  赤と桃色の髪で顔を隠した小さな少女が彼女たちの前にやってきます。こんなのが魔女の使い魔です。 「敵が来たッ、戦う準備だッ」  杏子は槍を構えました。  真っ直ぐ前に来ている使い魔もまた、赤色で槍を持っていました。  杏子は眉を顰めました。 「おいおい、あたしの真似事か?」  マミが繰り出した使い魔は、色と槍との特徴が、杏子にとても似ていました。  どうやら、マミの心の中に在る杏子は、こんな野蛮な怪物だったようです。  その使い魔は、「あかいろさん」と云いました。  あかいろさんが杏子に向けて槍を突き放ちました。しかし、槍は、杏子の体の横を掠めていき、そのまま杏子の左手に掴まれてしまいます。 「槍ってのはな、こう使うんだよ!」  杏子があかいろさんの槍を突き返しました。  そして、もう一遍、相手が槍を突いて来る前に、杏子はいつもの如く、自分のやりであかいろさんの体を引き裂きました。あかいろさんの体はすぐに消えていきました。  やはり、槍を使う者としても、使い魔を狩る者としても、年季が違うようです。  まるで杏子と瓜二つのあかいろさんを、容赦なく無に返し、杏子は次の敵を探しました。 「きゃあッ」  すると、杏子の耳に誰かの悲鳴が聞こえてきました。キュアベリーに、小さな小さな「ももいろさん」が矢を放ってきたのです。  ベリーが矢を間一髪、上手く回避すると、また横から杏子がももいろさんを槍で一撃突きました。ももいろさんもすぐに消えてしまいました。  魔女や使い魔との戦いには、プリキュアよりも魔法少女の方がずっと慣れています。 「ぼさっとするなッ」 「だって!」  小さく、少女にも似た姿の彼女たち使い魔を倒す事を一瞬でも躊躇った所為でした。  キュアベリーは、全くそれに対応できずに、置いて行かれます。少女のような外見の敵に容赦なく戦う事が難しかったのでしょう。  使い魔の危険性というのをよく認知していなかったのも一因かもしれません。 「はぁぁぁッ」  キュアピーチは、そこに住んでいたもう一体の「ももいろさん」に、真っ直ぐパンチを放ちますが、それはすぐに真横に避けられました。パンチは虹の橋を叩き、大きな音を放ちます。この「ももいろさん」はキュアベリーを襲った「ももいろさん」とは少し違うようでした。  彼女は、一本のスティックを持っていました。  スティックの先端から、魔法のように光のシャワーを浴びせる使い魔でした。  今もまた、避けた拍子に横からキュアピーチに向けてその技を放とうとしてました。 「あぶないッ」  キュアベリーが咄嗟に、その攻撃を放とうとするももいろさんを蹴り飛ばしました。彼女たちの体はとても軽いのです。  ももいろさんの攻撃は空中で全く的外れな所に放たれました。  しかし、それをカヴァアする為に、孤門が、空中のももいろさん目がけて、ディバイトランチャアの銃丸を当ててやりました。  ももいろさんは空中で爆ぜて、弱った四肢で必死に空中もがきます。  最後に、それを杏子が槍でついてトドメを刺し、消滅させました。どうやら、それで今回の使い魔は全部終わりのようです。 「これでひとまず全部かな?」 「そうだな……兄ちゃん、なかなかやるな」  ここにいた使い魔は、全て倒したようです。  ほっと一息ついて、彼らは先に進む事にしました。  杏子は、今の孤門の銃の腕を見て、暁美ほむらのやり方を思い出しました。 「あの家に着いたら、打ち合わせ通りにやるんだぞ」  杏子が、仲間たちにそう確認しました。  予め、算段を立てておいたのです。その算段にのっとって、ラブが上手くマミを救うよう、杏子は願っていました。  今の様子では、ピーチとベリーに少し不安が残るのです。  もし、Candeloroとなったマミを救える術がなく、彼女が一切構わず仲間を襲うなら、杏子は自分の手でマミを先ほどの「あかいろさん」のように引き裂くしかありません。  最後の手段として、杏子の判断でマミの最期を彩るしかないのです。  彼女たち魔法少女にとっては、それは全く造作もない事でした。 ◇  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。 ◇ 「チッ……」  また杏子が舌を打ちました。  更に歩速を早めて彼女たちが進んでいくと、今度は彼女たちの前に、「あかいろさん」や「ももいろさん」が軍勢として現れてきたのです。  目の前には、何体かの使い魔たちがバリケェドを作っています。  彼女たちは正面突破に対して、少しの躊躇を感じました。 「さっきの奴らは偵察、今度のが主要戦力だ」  結界の中には、たくさんの使い魔がいます。  ただ、その使い魔はこれといって人間のエネルギィを吸収できたわけではないので、力はさほど強い者ではありません。  あくまで、彼女たちは軍勢になって固まって、向かってくる客人から最深部を防衛しようとしているのです。使い魔の兵隊たちは、こちらに向けて一斉に矢を放ってきます。 「うわあッ」  杏子に推されて、孤門が回避。他の二人はバック・ステップで後退します。  四人が先ほどいたところに、十本以上の矢が突き刺さっていました。  虹の橋に、いくつもの矢が深々刺さっています。矢は先端から真ん中半分まで潜り込んでいます。 「三十人はいるよ!」 「たかが三十だろ。それなら、こっちも数を増やせばいい」  杏子は、そう言って、ロッソ・ファンタズマを発動しました。ロッソ・ファンタズマは杏子が持つ幻影の技です。自らの体を幾人にも増やし、進軍する事ができます。  すぐに三体まで分身した杏子は、そのまま敵兵の矢をものともせず、前に進むのでした。  矢は、三体の杏子が全て避けています。 「正面突破しか手がないわけ!?」  そう言いながらも、後ろから、ピーチとベリーもついて行きました。  孤門は、もう少し遅く、ディバイトランチャアを構えながら五人の姿を追いました。 「そうだ、迎え撃てッ!」  先頭にいる杏子が指揮を執るように言いました。  あかいろさん、ももいろさんの集団に向かって、杏子たちはそれぞれの武器を構えました。  一人の杏子は多節棍、一人の杏子は鎖分銅、一人の杏子は槍を使いました。 「おらっ!」  杏子が多節棍を交わして、ももいろさんの体を消していきます。  一体、二体。優雅に消えていくももいろさんでした。前方の弓矢の兵団はまず先頭の杏子が、多節棍で消していくのです。  三体、四体。弓矢はこう伸縮自在の武器が前方に来られては使いづらいのです。  五体、六体。杏子が多節棍を振り回し、体をくねらせ、それを丁寧に消していきました。  七体、八体。しかし、一本の矢が偶然、杏子の体に命中しました。  九体、十体。それでも、その杏子はまず前方の弓矢の軍勢を全て消し去ってから、幻想の世界に帰っていきました。  本当の杏子は、まだ後ろにいます。 「次ッ!」  二陣として、杏子がまた鎖分銅を振り回し、次のももいろさんに投げました。  十一体、十二体、十三体。同時に三体纏めて分銅の犠牲になりました。  十四体、十五体。杏子がももいろさんを鎖で束ねて巻き込みました。  十六体、十七体。杏子が鎖で束ねたももいろさんは、別のももいろさん達に投げ当てられました。  十八体、十九体。分銅の重みが二人ほど使い魔を消しました。  二十体。残ったももいろさんの華美なスティックから放たれた光が、杏子に振りかかりました。彼女は、それで一瞬体ごと消えそうになりましたが、それより前に杏子は自分に光を浴びせるももいろさんに鎖分銅を叩きつけて消し去りました。  本当の杏子は、まだ後ろにいます。 「最後だッ」  二十一体。杏子が真正面のあかいろさんの頭を突きました。  二十二体。キュアベリーがキュアスティックで叩きました。  続けて、二十三体、二十四体。肘鉄と爪先があかいろさんを消しました。  二十五体、二十六体。キュアピーチが槍を掴んで敵を無力化し、拳を当ててみせました。  二十七体、二十八体。高く飛んだキュアピーチは、蹴りを繰り出しました。 「さあ、本当の最後よっ」 「はあああああああッ!」  二十九体。キュアベリーが残るあかいろさんが投擲してきた槍を手で捕って、あかいろさん本体を蹴り、消しました。  三十体。キュアピーチが最後のあかいろさんを、キュアスティックで叩きました。  これにて、目の前にいた全ての使い魔は消えたようです。  彼女たちの目の前には、ドアーがありました。少し見上げる程度のツリーハウスが目の前にあります。  ようやく孤門が追い付きました。 「遅ぇぞ、あんた隊長だろ。何やってるんだよ」 「ごめんごめん、……ていうか、君たちが早すぎるんだよ」  息を切らしている孤門でしたが、まだ戦う余力はあるようで、不器用に笑って見せました。  さて、残る準備は充分のようです。  四人は、ドアーの向こうに行く事にしました。 ◇  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。 ◇  杏子が、ラブが、美希が、孤門が……ドアーの先の奇ッ怪な空間に呑み込まれました。ドアーの向こうには自分たちから行ったはずですが、まるでそこに吸い込まれたような気がしました。  そうです。彼女たちが来るのを心のどこかで待ちわびていた彼女は、自分から引き込む事にしたのです。 「ここは……」  四人は薄暗いパーチー会場を見回しました。  これが魔女の結界の最深部です。  カラフルな輪飾りが天井や壁を飾っています。来訪者たちに向けて、たくさんのプレゼントが用意されています。テーブルの上にはお茶の準備ができているようです。  香ばしい匂いが漂っていますが、それが危険な蜜のようなつんとした刺激も混ぜ込んでいるのが彼女たちにはすぐにわかりました。飲んではいけない茶です。 「マミさん……」  そんな彼女たちを真っ先に襲ったのは、プレゼントでした。  彼女たちを囲むように供えられたプレゼントの箱が、一つ彼女たちに向けて飛んできたのです。 「危ないッ」  孤門が真上から降ってくる箱をディバイトランチャアで打ち抜きました。  プレゼントは空中で爆発します。どうやら、爆弾のプレゼントだったようです。一つのプレゼントが彼女たちに贈られると同時に、次々またプレゼントがやってきました。  きりがないほどにたくさんのプレゼントがこちらへ向かってきます。  杏子は跳ぶと、それを空中で爆発させ、猛スピードで急降下しました。 「これ……さっきの使い魔が投げてきたんだッ」  見れば、プレゼントの影には、使い魔たちがいたのです。  あかいろさん、ももいろさん。使い魔たちが物陰に隠れてプレゼントを投げて襲ってきます。しかし、彼女たちを絶つ為に真ッ向からプレゼントごと彼女たちを消そうとすれば、プレゼントが爆発してこちらも被害を受けてしまいます。  一刻も早く、マミの魔力の正体を見つけてどうにかしなければなりません。 「仕方ねえ……おい、ラブッ! 来い!」  杏子がやむを得ずにそう言いました。 「あたしたちが一刻も早く魔女を探さないと、キリがない。このままじゃ、この結界から出られねえぞッ」  どこかに潜んでいる使い魔が、また矢をこちらに向けて放ってきます。  隠れている場所からの距離が遠く、命中精度は低いのですが、万が一綺麗に的を射たのなら、孤門などは避ける暇もなく串刺しになるでしょう。  それだけに、彼らは運任せにして、早々に杏子が魔女を見つけ、ラブが説得しなければなりません。 「美希、兄ちゃん……悪いけどここは任せたッ」 「……行くの?」 「ああ! ちょっと野暮用を済ませにな……!」  杏子は、この攻撃にどこか懐かしいマミの面影を感じているのでした。  使い魔たちは全て、黄色いリボンに結ばれているのです。おそらく魔女が逃げないように捕まえているのでしょう。  この技は、マミの物でした。  これだけの元気があるのなら、間違いなくマミの意思がどこかにあると思うのです。  仕方なしに、杏子たちはマミを探す事にしました。 「じゃあ、わかったから行って。ここは私と孤門さんで何とか上手く持ちこたえるわ」  キュアベリーはそう答えました。 「ラブ、ここまでつき合せたんだから、無駄にしないでよね」  友達二人への激励の言葉が放たれると、二人はその先に行かざるを得なくなりました。  置いていく事になる二人が不安ですが、それでもこの一室を隅々まで調べ、魔女の本体を探すしかありません。 ◇  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。 ◇ *時系列順で読む 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*ありがとう、マミさん(前編) ◆gry038wOvE  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。 ◇  さて、朝方の平野で車を走らせていた[[孤門一輝]]がそのドンヨリとした空気にブレーキを踏み込みました。  魔法少女でなくとも、その場所の異様に気が付いたのでしょう。孤門は誰の合図もなく、一人でに車をその道の真ん中に止めたのです。  魔女がこの先にいるのです。ええ、そうです。その魔女は、寂しがりやの魔女なのです。  魔女は、パーチーの準備をしていますが、生まれてから今日まで、誰もそのパーチーに足を運ぶ事がなかったのです。  だから、この場に来るどんな人間にもわかるように、ずっと自分の寂しさを外に向けて吐き出していたのです。  孤門が車のドアーのロックを開けますと、順番に、[[桃園ラブ]]も、[[佐倉杏子]]も、[[蒼乃美希]]も、そのドアーを開けて外に出ました。  外へ出ると、朝の空気とともに、一部分だけが異様なその空間の邪気が、喉から胸になだれ込んでくるようでした。  魔女の結界。──それがラブや杏子の友人たる少女が作り出した異変の空間でした。ソウルジェムを濁らせてしまった彼女には、そこに人を呼ぶしか、誰かと仲良くする術はないのです。 「これが……魔女の結界?」  孤門が、鍵穴のように小さな魔力の出どころを指さしました。それらしいとは思いつつ、ラブと美希も孤門の横につきました。孤門も微かに震えているのが見えました。 「そうだ、ここに魔女がいる」  杏子の言葉を聞くと共に、ラブは唾を飲むのに手間取るほどの緊張を感じました。 「マミさんが……ここに」  ようやく呑み込んだ矢先にも、まだ喉が渇いて来るのでした。  むしろ先ほどより渇いているほどです。 「……入るぞッ」  杏子が彼女たちの前に出て行きました。  この魔女の結界は、魔法少女がこじ開けるしか入る方法はありません。本来ならば、杏子がソウルジェムを使って切り開くのが当然です。  しかし、魔女の正体が果たして、本当に彼女たちならば、そんな事をする必要は全くありませんでした。寂しがりやで、仲間の来訪に安心した彼女は、すぐに自分の暗闇を彼女たちに知って欲しいと、招こうとするに違いないのです。  杏子がこじ開ける時間さえ惜しいと思うのが、この魔女でした。 「──なッ!?」  意外でした。  魔法少女が魔女の結界に呑み込まれる、引き入れられるなど滅多にある事ではありません。そもそも、魔女は魔法少女の来訪を好みはしないはずなのです。  それでも彼女は呼ばれました。 ◇    ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。 ◇  ……そして、彼女たちは、気が付けばその異様な空間の中にいました。  空間の中では、金淵の巨大な皿が浮かんでいます。おそらくは四畳ほどの皿です。ここに招かれた人間は、皆その上にいました。虹の橋が星座のように皿と皿とを結んでいて、その上を歩かなければ先に行けないようです。  彼女たちは、起き上がると自分の足場よりもまず周囲に目を向けました。周囲には、果実が実り、花が咲いた綺麗な木々がありました。  桃の木です。桜の木です。杏の木です。誰が作ったのでしょうか。誰が咲かせたのでしょうか。──ええ、魔女自身です。魔女自身の望みや乾きがこの木を育て、実を作っているのです。  魔女はそうして、自力で実を生み出しながらも、他から与えられる何かを求めているようでした。 「……この空間が、魔女の結界?」  美希がそう訊きました。三人は魔女の結界に入るのは初めてです。  一帯は、なんだか冬場の緑黄色野菜を剥いて皮だけを並べたような、どこか昏い色をしていました。  彼女たちは、恐る恐る周囲を見回しましたが、杏子はお構いなしに前に進みました。  見れば、彼女は既に魔法少女の姿へと変身していました。肢体を真っ赤でぴっちりとした魔法服で包みながら、呆然とするラブたちを促します。 「ああ、行くぞ。それから、変身もしておけよ。……本当に油断がならねえぞ」  ラブと美希にそう言うと、彼女はただ前に進んでいきました。少しは焦っているようですが、一方でどこかそれを冷静に隠している様子でした。それでも、そんな冷静の裏側を、他の三名は正確に読み取っていました。 「あ、ああ、うん……」  ともかく、言われたので、虹の橋の上を、そっとラブが踏んでみました。どうやら、透けて落ちてしまう事はないようです。虹の橋は人が渡る事ができる頑丈な橋ではあるようです。  しかし、物体を踏んでいるような感覚ではありませんでした。まるで空中を歩いているような感覚で、気が気でないところがありましたが、彼女たちは意外と素早く歩いて行きました。  一番歩くのに苦戦していたのは孤門でした。彼には、虹の上を歩くほど非現実に即した想像力はありませんでした。子供の頃の小さな夢が最悪の形で叶ったようで、複雑な表情です。  二人のプリキュアは、その後変身しました。  ともあれ、おめかしの魔女──Candeloroは、四人の客人を自分の内に招待したのです。 ◇    ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。 ◇ 「どこか、気味が悪いわね……」  キュアベリー──蒼乃美希がそう呟きました。  空はよく見れば薄暗く、木々はよく見ると健康的な肌をしていませんでした。  葉も少し薄暗いのです。  曇り空に真っ黒い雲が浮かんでいますが、これはこの時偶然こんな色をしているというわけではないようです。ずっと、この色でこの木は育ってきたのです。 「もっと向こうに魔女がいるはずだ。強い魔力を感じる……」  杏子が言いました。  マミは一体、どこにいるのでしょうか。それ、捜してみましょう。  見回してみて、キュアピーチ──桃園ラブが何かに気づきました。 「もしかして、あの木のお家?」  木々の中に、どうやら木でできた家があるようです。見れば、それはドアーを拵えていました。一つだけ太く、小さく、まるで何かを主張しているようでした。  きっと、彼女が招待したい場所はその家なのです。しかし、そこに行くまでにはいくつもの試練があります。  魔女の精神は複雑でした。本当は自分のもとに来てほしいのに、そこから人を突き放す癖もあるのです。人に接したい気持ちと、人を巻き込みたくない不安とが、彼女の中に両方あるのです。  今、彼女たちの前に進軍してくる怪物が誰かを巻き込みたくない気持ちなのでした。  自己の矛盾の中で、魔女は一人戦っているのです。 「……チッ」  杏子は、進軍を見つけて舌打ちをします。キュアピーチが見つけたのは確かに魔女の根城のようですが、それを守るために敵がやって来たのです。  それは、使い魔でした。  赤と桃色の髪で顔を隠した小さな少女が彼女たちの前にやってきます。こんなのが魔女の使い魔です。 「敵が来たッ、戦う準備だッ」  杏子は槍を構えました。  真っ直ぐ前に来ている使い魔もまた、赤色で槍を持っていました。  杏子は眉を顰めました。 「おいおい、あたしの真似事か?」  マミが繰り出した使い魔は、色と槍との特徴が、杏子にとても似ていました。  どうやら、マミの心の中に在る杏子は、こんな野蛮な怪物だったようです。  その使い魔は、「あかいろさん」と云いました。  あかいろさんが杏子に向けて槍を突き放ちました。しかし、槍は、杏子の体の横を掠めていき、そのまま杏子の左手に掴まれてしまいます。 「槍ってのはな、こう使うんだよ!」  杏子があかいろさんの槍を突き返しました。  そして、もう一遍、相手が槍を突いて来る前に、杏子はいつもの如く、自分のやりであかいろさんの体を引き裂きました。あかいろさんの体はすぐに消えていきました。  やはり、槍を使う者としても、使い魔を狩る者としても、年季が違うようです。  まるで杏子と瓜二つのあかいろさんを、容赦なく無に返し、杏子は次の敵を探しました。 「きゃあッ」  すると、杏子の耳に誰かの悲鳴が聞こえてきました。キュアベリーに、小さな小さな「ももいろさん」が矢を放ってきたのです。  ベリーが矢を間一髪、上手く回避すると、また横から杏子がももいろさんを槍で一撃突きました。ももいろさんもすぐに消えてしまいました。  魔女や使い魔との戦いには、プリキュアよりも魔法少女の方がずっと慣れています。 「ぼさっとするなッ」 「だって!」  小さく、少女にも似た姿の彼女たち使い魔を倒す事を一瞬でも躊躇った所為でした。  キュアベリーは、全くそれに対応できずに、置いて行かれます。少女のような外見の敵に容赦なく戦う事が難しかったのでしょう。  使い魔の危険性というのをよく認知していなかったのも一因かもしれません。 「はぁぁぁッ」  キュアピーチは、そこに住んでいたもう一体の「ももいろさん」に、真っ直ぐパンチを放ちますが、それはすぐに真横に避けられました。パンチは虹の橋を叩き、大きな音を放ちます。この「ももいろさん」はキュアベリーを襲った「ももいろさん」とは少し違うようでした。  彼女は、一本のスティックを持っていました。  スティックの先端から、魔法のように光のシャワーを浴びせる使い魔でした。  今もまた、避けた拍子に横からキュアピーチに向けてその技を放とうとしてました。 「あぶないッ」  キュアベリーが咄嗟に、その攻撃を放とうとするももいろさんを蹴り飛ばしました。彼女たちの体はとても軽いのです。  ももいろさんの攻撃は空中で全く的外れな所に放たれました。  しかし、それをカヴァアする為に、孤門が、空中のももいろさん目がけて、ディバイトランチャアの銃丸を当ててやりました。  ももいろさんは空中で爆ぜて、弱った四肢で必死に空中もがきます。  最後に、それを杏子が槍でついてトドメを刺し、消滅させました。どうやら、それで今回の使い魔は全部終わりのようです。 「これでひとまず全部かな?」 「そうだな……兄ちゃん、なかなかやるな」  ここにいた使い魔は、全て倒したようです。  ほっと一息ついて、彼らは先に進む事にしました。  杏子は、今の孤門の銃の腕を見て、[[暁美ほむら]]のやり方を思い出しました。 「あの家に着いたら、打ち合わせ通りにやるんだぞ」  杏子が、仲間たちにそう確認しました。  予め、算段を立てておいたのです。その算段にのっとって、ラブが上手くマミを救うよう、杏子は願っていました。  今の様子では、ピーチとベリーに少し不安が残るのです。  もし、Candeloroとなったマミを救える術がなく、彼女が一切構わず仲間を襲うなら、杏子は自分の手でマミを先ほどの「あかいろさん」のように引き裂くしかありません。  最後の手段として、杏子の判断でマミの最期を彩るしかないのです。  彼女たち魔法少女にとっては、それは全く造作もない事でした。 ◇  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。 ◇ 「チッ……」  また杏子が舌を打ちました。  更に歩速を早めて彼女たちが進んでいくと、今度は彼女たちの前に、「あかいろさん」や「ももいろさん」が軍勢として現れてきたのです。  目の前には、何体かの使い魔たちがバリケェドを作っています。  彼女たちは正面突破に対して、少しの躊躇を感じました。 「さっきの奴らは偵察、今度のが主要戦力だ」  結界の中には、たくさんの使い魔がいます。  ただ、その使い魔はこれといって人間のエネルギィを吸収できたわけではないので、力はさほど強い者ではありません。  あくまで、彼女たちは軍勢になって固まって、向かってくる客人から最深部を防衛しようとしているのです。使い魔の兵隊たちは、こちらに向けて一斉に矢を放ってきます。 「うわあッ」  杏子に推されて、孤門が回避。他の二人はバック・ステップで後退します。  四人が先ほどいたところに、十本以上の矢が突き刺さっていました。  虹の橋に、いくつもの矢が深々刺さっています。矢は先端から真ん中半分まで潜り込んでいます。 「三十人はいるよ!」 「たかが三十だろ。それなら、こっちも数を増やせばいい」  杏子は、そう言って、ロッソ・ファンタズマを発動しました。ロッソ・ファンタズマは杏子が持つ幻影の技です。自らの体を幾人にも増やし、進軍する事ができます。  すぐに三体まで分身した杏子は、そのまま敵兵の矢をものともせず、前に進むのでした。  矢は、三体の杏子が全て避けています。 「正面突破しか手がないわけ!?」  そう言いながらも、後ろから、ピーチとベリーもついて行きました。  孤門は、もう少し遅く、ディバイトランチャアを構えながら五人の姿を追いました。 「そうだ、迎え撃てッ!」  先頭にいる杏子が指揮を執るように言いました。  あかいろさん、ももいろさんの集団に向かって、杏子たちはそれぞれの武器を構えました。  一人の杏子は多節棍、一人の杏子は鎖分銅、一人の杏子は槍を使いました。 「おらっ!」  杏子が多節棍を交わして、ももいろさんの体を消していきます。  一体、二体。優雅に消えていくももいろさんでした。前方の弓矢の兵団はまず先頭の杏子が、多節棍で消していくのです。  三体、四体。弓矢はこう伸縮自在の武器が前方に来られては使いづらいのです。  五体、六体。杏子が多節棍を振り回し、体をくねらせ、それを丁寧に消していきました。  七体、八体。しかし、一本の矢が偶然、杏子の体に命中しました。  九体、十体。それでも、その杏子はまず前方の弓矢の軍勢を全て消し去ってから、幻想の世界に帰っていきました。  本当の杏子は、まだ後ろにいます。 「次ッ!」  二陣として、杏子がまた鎖分銅を振り回し、次のももいろさんに投げました。  十一体、十二体、十三体。同時に三体纏めて分銅の犠牲になりました。  十四体、十五体。杏子がももいろさんを鎖で束ねて巻き込みました。  十六体、十七体。杏子が鎖で束ねたももいろさんは、別のももいろさん達に投げ当てられました。  十八体、十九体。分銅の重みが二人ほど使い魔を消しました。  二十体。残ったももいろさんの華美なスティックから放たれた光が、杏子に振りかかりました。彼女は、それで一瞬体ごと消えそうになりましたが、それより前に杏子は自分に光を浴びせるももいろさんに鎖分銅を叩きつけて消し去りました。  本当の杏子は、まだ後ろにいます。 「最後だッ」  二十一体。杏子が真正面のあかいろさんの頭を突きました。  二十二体。キュアベリーがキュアスティックで叩きました。  続けて、二十三体、二十四体。肘鉄と爪先があかいろさんを消しました。  二十五体、二十六体。キュアピーチが槍を掴んで敵を無力化し、拳を当ててみせました。  二十七体、二十八体。高く飛んだキュアピーチは、蹴りを繰り出しました。 「さあ、本当の最後よっ」 「はあああああああッ!」  二十九体。キュアベリーが残るあかいろさんが投擲してきた槍を手で捕って、あかいろさん本体を蹴り、消しました。  三十体。キュアピーチが最後のあかいろさんを、キュアスティックで叩きました。  これにて、目の前にいた全ての使い魔は消えたようです。  彼女たちの目の前には、ドアーがありました。少し見上げる程度のツリーハウスが目の前にあります。  ようやく孤門が追い付きました。 「遅ぇぞ、あんた隊長だろ。何やってるんだよ」 「ごめんごめん、……ていうか、君たちが早すぎるんだよ」  息を切らしている孤門でしたが、まだ戦う余力はあるようで、不器用に笑って見せました。  さて、残る準備は充分のようです。  四人は、ドアーの向こうに行く事にしました。 ◇  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。 ◇  杏子が、ラブが、美希が、孤門が……ドアーの先の奇ッ怪な空間に呑み込まれました。ドアーの向こうには自分たちから行ったはずですが、まるでそこに吸い込まれたような気がしました。  そうです。彼女たちが来るのを心のどこかで待ちわびていた彼女は、自分から引き込む事にしたのです。 「ここは……」  四人は薄暗いパーチー会場を見回しました。  これが魔女の結界の最深部です。  カラフルな輪飾りが天井や壁を飾っています。来訪者たちに向けて、たくさんのプレゼントが用意されています。テーブルの上にはお茶の準備ができているようです。  香ばしい匂いが漂っていますが、それが危険な蜜のようなつんとした刺激も混ぜ込んでいるのが彼女たちにはすぐにわかりました。飲んではいけない茶です。 「マミさん……」  そんな彼女たちを真っ先に襲ったのは、プレゼントでした。  彼女たちを囲むように供えられたプレゼントの箱が、一つ彼女たちに向けて飛んできたのです。 「危ないッ」  孤門が真上から降ってくる箱をディバイトランチャアで打ち抜きました。  プレゼントは空中で爆発します。どうやら、爆弾のプレゼントだったようです。一つのプレゼントが彼女たちに贈られると同時に、次々またプレゼントがやってきました。  きりがないほどにたくさんのプレゼントがこちらへ向かってきます。  杏子は跳ぶと、それを空中で爆発させ、猛スピードで急降下しました。 「これ……さっきの使い魔が投げてきたんだッ」  見れば、プレゼントの影には、使い魔たちがいたのです。  あかいろさん、ももいろさん。使い魔たちが物陰に隠れてプレゼントを投げて襲ってきます。しかし、彼女たちを絶つ為に真ッ向からプレゼントごと彼女たちを消そうとすれば、プレゼントが爆発してこちらも被害を受けてしまいます。  一刻も早く、マミの魔力の正体を見つけてどうにかしなければなりません。 「仕方ねえ……おい、ラブッ! 来い!」  杏子がやむを得ずにそう言いました。 「あたしたちが一刻も早く魔女を探さないと、キリがない。このままじゃ、この結界から出られねえぞッ」  どこかに潜んでいる使い魔が、また矢をこちらに向けて放ってきます。  隠れている場所からの距離が遠く、命中精度は低いのですが、万が一綺麗に的を射たのなら、孤門などは避ける暇もなく串刺しになるでしょう。  それだけに、彼らは運任せにして、早々に杏子が魔女を見つけ、ラブが説得しなければなりません。 「美希、兄ちゃん……悪いけどここは任せたッ」 「……行くの?」 「ああ! ちょっと野暮用を済ませにな……!」  杏子は、この攻撃にどこか懐かしいマミの面影を感じているのでした。  使い魔たちは全て、黄色いリボンに結ばれているのです。おそらく魔女が逃げないように捕まえているのでしょう。  この技は、マミの物でした。  これだけの元気があるのなら、間違いなくマミの意思がどこかにあると思うのです。  仕方なしに、杏子たちはマミを探す事にしました。 「じゃあ、わかったから行って。ここは私と孤門さんで何とか上手く持ちこたえるわ」  キュアベリーはそう答えました。 「ラブ、ここまでつき合せたんだから、無駄にしないでよね」  友達二人への激励の言葉が放たれると、二人はその先に行かざるを得なくなりました。  置いていく事になる二人が不安ですが、それでもこの一室を隅々まで調べ、魔女の本体を探すしかありません。 ◇  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。  ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。 ◇ *時系列順で読む 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