キラーおなまう 3話
3人とJJJは、戦闘禁止エリアで互いの情報を交換していた。JJJは未だにこのゲームを何かの悪戯だと思っていた。しかし、実際に首輪が爆発して死んだ者が出たことを知り、息を呑んだ。
更に彼が驚いたのは、ゆにゅんと珊瑚のPDAのマークである。「A」と「Q」、片方が生き残るには、片方が死ななければいけない。その状況で共闘していけるとは、と、彼は素直に感動していた。
「いいだろう、俺もお前達に協力しよう」
そう言うと、彼は自らのPDAを差し出した。マークは「6」、JOKERを5回以上発動させるのが条件であった。
ゆにゅん、珊瑚、さくらの3人はJJJを快く迎えた。そして、4人で無事にここを脱出しようと誓った。
長い通路に、何者かの泣き叫ぶ声が響いていた。
RSTだった。
彼はゆにゅん達を殺し損ねてむしゃくしゃしていた。今度こそ待ち伏せを成功させてやろうと、更に上の階へと進んでいた。その折、幸運にもいぬいの後ろ姿を見つけた。彼の殺意はピークに達した。ナイフを構え、得意の暗殺術でいぬいを殺そうとする。
ところが、それは呆気なく失敗に終わった。いぬいは不意に振り返ると、RSTの額に拳銃を突きつけたのだった。
彼は為す術もなく床にひざまずいていた。
「どうしたよぼっちゃん?俺を殺すんじゃなかったのかぁ?」
「や、やめてくれ!こ、殺さないでくれ!」
「じゃあ踊れよ」
RSTは嗚咽を漏らしながらも、その場でブレイクダンスを踊り始めた。銃口を向けられながらのそれは、かなり滑稽なものだった。
いぬいは嘲笑した。
「つまらねぇな。こうやって踊った方がいいんじゃねぇか?」
銃声。彼の放った銃弾は、RSTの腹部を貫いていた。
苦しみながら床をのたうち回るRST、いぬいはその懐から強引にPDAを取り出し、そして、首輪に差し込んだ。RSTの首輪が警告音を発する。あと15秒で爆発します、と。
泣き叫ぶRSTをいぬいは通路の先に放り投げた。爆音。吹き飛んだRSTの首がゴトンと床に転がる。
ひっ、という小さな声がした。
「で、そこに隠れてる奴、俺と殺り合おうって言うのかい?」
いぬいは、RSTの首が転がっていった曲がり角の方を見る。
「やめとけぇ、今の見てたんだろ?俺にはそう簡単には勝てないぜ?」
「な、なめるな!こっちにだって銃はあるんだ!」
曲がり角の向こうから、ようやく声変わりをしたばかりかと思われる中学生程の少女の声が返ってきた。いぬいは嘲笑する。
「へぇ、ところでお嬢ちゃんに人が撃てるのかい?」
「ば、馬鹿にするな!こっちだって一人……もう殺してるんだ!」
ハッタリかとも思ったが、声の調子からしても、どうやら本当らしい。
「ほぉ、それは少し見直したぜ。お嬢ちゃん、俺はいぬいってんだ、お前は?」
「そうかい。それでな、おわたちゃん……」
いぬいは懐から、計4つのPDAを取り出した。
「俺は既に3人殺してるんだ。もうすぐ4人目になるがな!」
意を決したのか、曲がり角からおわたと名乗った少女が拳銃を構えて飛び出してくる。いぬいも拳銃を構える。
その折であった。
遠くで、銃声が響いた。
次の瞬間、おわたの両腕は、肘から先が吹き飛び宙を舞っていた……
JJJの協力を得ることで、ゆにゅん達は格段に行動しやすくなっていた。リア充の彼の的確な判断はともかく、なんといっても彼のPDAにインストールされていたソフト、ジョーカーを覗く13個のPDAの位置が地図上に赤い光点として記載されるソフトの効果が大きかった。彼は建物内の倉庫のような部屋で、このソフトの入った外部接続装置を見つけたという。
現在壊れていないPDAの数は未だ13。それぞれ独立して動く光点が、6階に2つと5階に1つ。そして、現在ゆにゅん達が到達したばかりの4階には、自分たち4つの光点の他に、計6つの光点がほぼ同じ場所に記されていた。
先に進むには、どうしてもその場所を通らなければいけない。ゆにゅん達は少しずつ距離を詰めていく。直線距離にしておよそ50mほどとなった時、小さな爆発音が聞こえた。全員が息を呑む。恐らく、また一人死んだのである。
「5階の光点が一つ、4階に移動した。例の場所から30mと離れていない場所にいるぞ」
「何かが起きているんです!急ぎましょう!JJJさん!」
そして、目的の場所まであと曲がり角一つという時に、それは起きた。
銃声。直後に起きる、少女の悲鳴。珊瑚やさくら、JJJの制止も聞かず、ゆにゅんは飛び出していた。
そこには、驚愕するいぬいの姿と、首のないRSTの死体、そして、床に血まみれになって倒れる少女の姿が。少女は、両腕の肘から先が無くなっていた。その先は、遠く離れた床に転がっていた。
銃声。更に銃声、銃声。通路の奥から銃弾が何発も飛んでくる。
「ちぃ!くそ!」
いぬいは溜まらずその場から逃げ出した。
ゆにゅんは銃弾の嵐の中を、奇跡的に一発も当たらずに駆け抜け、少女に覆い被さるようにして彼女を庇う。
「馬鹿やろう!何やってるんだ!」
後から追いついたJJJが、倒れこむようにしてゆにゅんと少女を銃弾の届かない曲がり角へと押し込む。その頃には既に、銃声は止んでいた。
「ゆにゅん!もう少し考えてから動け!本当なら今ので死んでいた!」
「そうですよゆにゅんさん!あなたが死んだら……私……私……」
遅れてきた珊瑚やさくらも目に涙を溜めてゆにゅんを責める。しかしゆにゅんにとっては、そんなことどうでもよかった。
「早くこの子を!このままでは死んでしまう!」
少女は大きく息を吸い吐きしながら、激痛に顔を歪めている。ちぎれた両腕の断面からは血がドクドクと流れ出ている。このまま何もしなければ死んでしまうことはわかりきっていた。
ゆにゅんは目の前で、もう誰も死なせたくなかった。あの夢の少女のように、理不尽な死を迎えさせたくなかったのである。
「そんなことはわかっている!さくらさん!この近くに戦闘禁止エリアはあるか!?」
「ぅっく……ぇっとぉ、あ、あります!こっちです!」
JJJのPDAには、部屋の詳細を表示するソフトも組み込まれていた。彼は腕のない少女を抱えてそこに向かった。今までの経験から、戦闘禁止エリアには多少の救急措置ができる道具がある。
案の定、そこには包帯やガーゼ、メスや、糸、麻酔までもがあった。
「JJJさぁん……こんなもの本当に扱えるんですかぁ……」
「多少かじったことはある!リア充をなめるな!それにやる他ないだろう!」
少女の意識は既にない。JJJは必死に、自分に出来うる限りのことをやった。ゆにゅんも精一杯彼の手助けをした。
しばしの時が流れる。
「やれるだけのことはやった。あとは、この子の頑張り次第だ」
JJJはそう言って、ふぅと大きく息を吐いた。
ゆにゅんも額の汗をぬぐいながら、お願いだ、この子を助けてくれ、と、遠い場所にいるあの少女に祈った。
「今回も首尾は上々といったところだな」
大きなライフルを抱えた男が、地図にはないルートを通って4階から6階へと上がっていく。
この男はあおの、今回のGM(ゲームマスター)であった。彼の役割は、このゲームの中に参加者として入り込み、ゲームを盛り上げること。そして、このゲームで誰が生き残るかを賭けているカジノの客達を楽しませることであった。
今回の一番人気は、おわたという少女であった。彼女は既に、心底彼女のことを心配して行動を共にしていたゆとまうという男を裏切り、背中をナイフで一突きにして殺していた。全ては、娑婆に残してきた家族のために、大金が必要であったからである。その健気さと冷酷さが、カジノの客達からの人気を博したのである。
そうなると、あおのは少し意地悪がしたくなった。彼はおわたの両腕を、ライフルの弾で吹き飛ばした。死なない程度に、そして、医術を多少かじったことがあるJJJがすぐに助けにきて手当てすることを見越してである。結果は思った通りになった。
堪らない快感だった。いくら頑張ろうと、参加者は自分の手の中で踊っているだけ。彼がこの仕事をやっていて、一番幸せを感じる瞬間であった。
歌でも歌いたい気分だ。そう思いながら、あおのは6階にある、GMしか入れないこの建物全体を制御するコントロールルームへの扉を開けた。
「え?」
有り得ない光景がそこにあった。このゲームの参加者の一人である幼女が、開いた扉の先に立っていたのだ。
何故ここに入れたんだ?何故センサーが反応しなかったんだ?
そう思う間も無く、あおのは額に銃弾を受けて死んだ。
最終更新:2008年09月11日 21:46