キラーおなまう 5話



 ゆにゅん達は、先程の戦闘禁止エリアで見つけた新たなソフト、首輪を探知するソフトを使い4階の通路を見張っていた。このソフトは、解除されたりや爆発していない首輪の位置を地図上に記すもので、現在では、6階には2個、5階は0、そして4階には1個、自分達を示す2個、さくらとJJJを示す2個の計5個の光点があった。

「4階にいる人、どんどんこっちに近づいてきている……。気をつけよう、珊瑚さん」

「……ねぇゆにゅんさん」

 唐突に、珊瑚が深刻そうな表情をしてゆにゅんの顔を見た。

「もし、もしもですよ……私達の中に嘘をついている人がいたら、どうします……?」

「え、珊瑚さん?」

「お願いします、答えてください」

 真摯な瞳であった。ゆにゅんは真面目に考えてみた。嘘をついている?珊瑚、さくら、JJJ、おわたの中で……?

 ゆにゅんは考えた末、言った。

「……別に、どうもしないよ」

 彼は笑った。珊瑚には、それがとても寂しい笑みに見えた。

「珊瑚さん達が嘘をついているとは思えないし。それに、嘘をついているとしたら、それなりに理由があるはずだから、別に構わないよ」

「ゆにゅんさん……」

 珊瑚が悲しそうに俯く。その折であった。

「ゆ、ゆにゅんさん!PDAが……!」

「珊瑚さん!?どうしたの!?」

 ゆにゅんはPDAの画面を見る。4階の、首輪の所在地を表す光点が2つ消えていた。さくらとJJJのものだった。

 ゆにゅんは息を呑んだ。珊瑚も今にも泣き出しそうな顔をしている。当然だった。光点が消えたということは、首輪が解除されたか、もしくは、首輪が爆発したということなのだから。

「と、とにかく行こう……」

 光点が消えた辺りまで行くには、急ぎ足でも10分程かかった。近づくにつれて火薬臭と、そして鼻を突くような生々しい血の匂いが通路に充満してきた。

「ゆにゅんさん……」

「……まださくらさん達と決まった訳じゃない……」

 二人の光点が消えた場所まであと曲がり角一つとなった時、彼らは見た。通路の奥に、血まみれになった腕の先がわずかに覗いているのを。

 ザッと、何かが擦れるような音がした。

 同時に、ゆにゅんの体が珊瑚によって押し倒される。直後に銃声。先程までゆにゅんの頭があった場所を銃弾が通り過ぎていく。

 彼は通路の奥を見やる。血まみれの腕が覗いていた場所に、男の姿が見えた。うへーだった。彼はこちらに向けて拳銃を構えている。

「ゆにゅんさん!立って!」

「え」

 コロンという音。珊瑚が何かをうへーに向けて投擲していた。直後、プシューという気の抜けた音とともに、通路全体が白い煙で満たされていく。

「早く!ゆにゅんさん!逃げるんです!」

 呆気に取られたゆにゅんは、珊瑚に手を引かれるままその場を後にしていた。





 ゆにゅんと珊瑚の強襲に失敗したうへーは、思わず苦笑した。先回りし、PDAの探知ソフトに表示されないジャマーソフトを使い、更には転がっていた死体をわざわざ動かし相手が動揺するよう罠まで仕掛けたのに、殺し損ねた。

「……焦りすぎだな」

 そう呟く。

 彼には恐れている人物があった。おじさんと名乗った、あの幼女であった。

 一度目に彼女と会った時、彼は油断していた。あのような年端もいかぬ幼女であれば、JOKERを所持しているかどうかだけを問い詰め、持っていれば奪い、持っていなければ捨ておけば良いと思っていた。結果、彼は利き腕に重傷を負った。

 二度目は直接会った訳ではない。彼女をつけていると、不意に姿を見失った。その辺りを調べてみると、偶然PDAの地図には描かれていない通路を見つけた。進んでみるとその奥には、額を撃ち抜かれた男の死体が転がっていた。

「ここは……制御室か?」

 彼は思った。この男は恐らく、このゲームの管理者か何かなのだろうと。そして同時に、そのような奴を簡単に殺す程の実力を持った彼女に恐怖した。

 うへーは、自らの首輪の解除条件である「2」、JOKER PDAの破壊をさっさと成しとげ、おじさんとは対峙せずにゲーム終了まで隠れていようと考えた。

 彼のPDAにインストールされた首輪を探知するソフト。その動向から、彼はゆにゅん達に起きたことをだいたいは察していた。一人が裏切ったところまでも察していた。そして、その裏切った者がJOKERを持っていると推測していた。

 恐らくそいつは自分の首輪を外せているだろう。その状況で侵入禁止エリアに入られると、厄介なことになるな。

 3階が侵入禁止エリアになるまであと2時間。早めに蹴りをつけなければ。彼は気を引き締め、3階の階段へと向かった。





 ゆにゅんは突然の珊瑚の行動に呆気に取られていた。しかし、徐々に落ち着きを取り戻していくうちに、何故自分は逃げているんだと思い始めた。さくら、JJJ、おわたが、まだあの場所にいるのだ。

「ダメだ!珊瑚さん戻ろう!まださくらさん達が!」

「ゆにゅんさん……ダメです……あの状況じゃもう……」

「それでも、それでも行かなきゃダメなんだ!」

 自分でも、さくら達が無事ではないのはわかっていた。仮に、首輪の反応が消えた時点で生きていたとしても、あそこには自分達を躊躇無く撃ってきた人間がいるのだ。生存は絶望的であった。

 それがわかっているのに、ゆにゅんは行くといって聞かなかった。行かなければならなかった。

「ゆにゅんさん!どうして!どうしてわからないんですか!今行ったら、あなたまで殺されてしまうかも知れないんですよ!」

「僕の命なんてどうでもいいんだ!それよりさくらさん達を!」

 乾いた音が響いた。珊瑚が、ゆにゅんの頬をはたいていた。

「どうして!どうしてあなたはそんなこと言うのですか!みんなで生きて帰ろうって言ったのは嘘だったのですか!

 JJJさんが私に何て言ったかわかりますか!あいつは自分の首輪を外す気がない、自ら死を選ぶ気だ、だから……私にあなたを救ってやってくれって……

 あなたがそのつもりなら、私にだって考えがあります!」

 そう言うと、珊瑚は懐から自らのPDAを取り出し、床に叩きつけた。ゆにゅんが止める間もなかった。PDAは嫌な音を出した後、その機能を完全に止めた。

「……な、なんてことを……」

「これであなたは首輪を外すしか無くなった!勝手に死ぬなんて許されません!私のためにも、首輪を外す方法を見つけて下さい!もう私達を自分が死ぬ言い訳にしないで下さい!」

「珊瑚さん……」

 ゆにゅんは俯いた。珊瑚が涙を流してこちらを見ている。

「……珊瑚さん、少し話聞いてもらえないかな」

 しばしの時間が経った後、ゆにゅんは珊瑚に話し始める。夢の中のあの少女のことを。

 自分には恋人がいた。ハゲの自分のことを愛してくれる、優しい女性だった。その人が、つい先日死んだ。見知らぬ男に強姦された末に、殺されたのである。

 ゆにゅんは悲しんだ。彼女は、握力が強い以外に何も取り得のない自分を認めてくれる唯一の存在だった。彼女がいなくなれば、自分の存在価値など無いものに等しい。

 だからこのゲームに無理矢理に連れてこられた時、彼は内心喜んでいた。これで彼女のもとに行くことができる。それも、誰かを守って死ぬという、その人の心に自らの存在が刻み付けられる死に方でだ。

「だってそうすることでしか、僕の存在は認められることはないんだ……。例え生きていたとしても、ハゲの僕のことを認めて、愛してくれる人なんて現れる訳がないんだ……」

 そう言ったゆにゅんの唇が、唐突に何かで塞がれた。珊瑚が自らの唇をゆにゅんに押し当てていた。

「珊瑚さん……」

「私は……ゆにゅんさん、あなたを愛します。例えハゲでも、あなたは私にとって大事な人です……」

「……本当に、本当に、ハゲの僕を愛してくれるの……?」

「はい……」

 そう言って、珊瑚はもう一度ゆにゅんにキスをする。ゆにゅんも、今度は自ら積極的に動いた。珊瑚の舌がゆにゅんの口の中に入ってくる。ゆにゅんもそれに答える。二人は貪欲にお互いを求めた。

「ゆにゅんさん……はしたない女でごめんなさい……」

「いいよ、珊瑚さん、やろう……」

 幸い、PDAを見たところ、近くに首輪の反応はない。それでも万が一を考えて、あまり激しいものはできないが。

 ゆにゅんは服の上から珊瑚の胸を揉みしごく。

「ぁ、ゆ、ゆにゅんさん……ちょっと痛い……」

ゆにゅんは、亡くなった恋人も同じように言っていたことを思い出す。

「弱めようか?」

「……いいです……もっとやって下さい……」

 ゆにゅんは珊瑚のブラの中に手を入れ、直接揉みしごいた。珊瑚は痛さと性感の入り混じった感覚に、身をよじった。自然と、自らの下腹部に手がいく。ゆにゅんも珊瑚の下腹部に手を伸ばした。びちゃびちゃに濡れていた。下着の中に徐々に撫で回す力を強くしていった後、軽く指を抜き差ししてみる。初めてじゃないな、とゆにゅんは思った。

「……はしたない女で……本当にごめんなさい……」

「いいよ、そんなこと言ったら、僕だって初めてじゃないしね。

 ……挿れるよ」

 珊瑚は頷いて下半身を差し出した。ゆにゅんは自らのモノを取り出すと、彼女の下着を少しだけ下ろし、挿入した。

 思ったよりも簡単に挿入った。それでも、恋人が死んで以来オナニーすらしていなかったゆにゅんには、十分に快感だった。動くよ、と一言断ってから、ゆにゅんは腰を振る。すぐに珊瑚も一緒になって腰を動かしてきた。その動かし方が絶妙だった。左右に、上下に、縦横に。予想外の気持ち良さだった。まるで自分のモノが珊瑚の秘所に弄ばれているような感覚であった。

 ゆにゅんは一層激しく腰を振った。

「珊瑚!珊瑚!愛してる!」

「わ、私もです!ゆにゅんさん!中に、中に出して下さい!」

「珊瑚!珊瑚!」

 ゆにゅんの欲望が、珊瑚の中にぶちまけられる。しばらくの間、二人の荒い息が部屋の中に響いていた。

「中に出しちゃったけど……良かったの?」

「責任、とってくれるんでしょう?」

「……もちろんだよ。必ず、二人で、生きて帰ろう!」

「はい!」

 ゆにゅんと珊瑚はもう一度キスをした。

 珊瑚さん……本当にありがとう……。ゆにゅんは心の中でそう呟きながら、初めて、自らもこのゲームから生きて帰るのだと誓った。愛する珊瑚のためにも。



3日目



 ゆにゅん達はついに6階へと到達していた。現在PDAに反応している首輪は5つ。それも全て6階である。自分達のものが2つ、そして独立して動く光点が1つ、そこから大きく離れて反対側、進入禁止エリアを挟んだところにも、もう1つの首輪が存在していた。

 そのうち、自分達と同じエリアにあった2つの光点が、接触した。片方はいぬいのものであることを、ゆにゅん達はJJJの持っていたPDA探査ソフトから知っていた。そして、RSTの首輪を爆発させていたことから、そのマークが「10」、首輪を5つ爆発させるのが条件であることも想像がついていた。

 このいぬいと接触したということは、少なくともどちらかの光点は消える。そう思っていたゆにゅん達であったが、いつまで経っても二つの光点は消えることなく一緒の場所にいる。共闘したとでも言うのか。それならばこちらに交渉の余地はあるのか、無いのか。

 そんなことを考えながら、ゆにゅん達は二つの光点がある場所まで近づいていった。その場所まであと少しとなったところで、唐突に一つ光点が消えた。消えていない方の光点は、その場でじっと動かずにいる。ゆにゅんは意を決して、曲がり角からその光点の映る場所を見てみた。

「……いぬい……?」

 そこには、全裸で倒れるいぬいの姿があった。そそり立つ男性器と、それとは対照的に苦痛に歪んだ顔がゆにゅんの目に止まった。彼は何かを言いたそうに、ぱくぱくと口を動かしていた。その折であった。

「ゆにゅんさん!消えていた光点が出てきました!その通路の先です!」

 ゆにゅんは視線を上げ、通路の奥をみた。30m程先で、全裸の幼女が立っているのが見えた。手には何か機械を持っていた。

 ゆにゅんはぼんやりとだが、彼女が笑ったのを見た。

 幼女の姿が曲がり角に消える。

「珊瑚さん!危ない!」

 ゆにゅんは咄嗟に珊瑚の身体に覆い被さりつつ倒れこんだ。

 いぬいの体が、爆発した。




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最終更新:2008年09月13日 17:51